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田宮1/700WL新版 戦艦大和/武蔵について
1998/05/30 本文記述
1998/07/21 一部訂正
1999/03/05 一部訂正
1999/04/25 一部訂正
2007/01/01 一部訂正

 WLシリーズの一環として田宮から大和型戦艦が出たのは1971年、今からちょうど27年前のことでした。船の模型にはあまり関心のない方でも、田宮の 1/700戦艦大和/武蔵を子供の頃に作った方は少なくないと思います。

 キットに関しては、実は肝心の考証が当時のレベルでも明らかに不十分でした。機銃や艦載機など細部の表現は驚異的だった反面、船体形状−特に艦首の錨甲板が幅広過ぎた点が致命的で、また1番主砲前の甲板のレイアウトも大きく異なるものでした(初期の田宮のWLは基本的な考証に問題のあるものが少なくありません)。そのため、より正確な大和型戦艦を作るためには船体形状の(比較的)正確な日模1/700大和/武蔵から船体を流用する必要があり、早くからリニューアルが強く求められていたキットの一つでした。

 大和型戦艦はそれ以降も複数のメーカーから発売されたのですが、1979年に田宮が1/350で出したのを最後にどこからも正確なスケールモデルは出なくなってしまいました。JANUSZ SKULSKI氏のAnatomy of the ship The Battleship YAMATO が1988年に発表され大和型戦艦に関する考証がほぼまとまった後、この本の内容を反映したキットの発売がずっと待たれていました。そして1998年春、JANUSZ SKULSKI氏の著作が「戦艦大和図面集」というタイトルで邦訳化された直後、まさに絶好のタイミングで田宮から全面改訂新版のアナウンスがやってきました。


田宮新版戦艦大和の外箱の仕様です。大きさは390*147*48mmです。
外箱の仕様
リニュアルパーツ封入後のWL大型艦用の箱と同じデザインです。
また、内箱の内側にはWL田宮製品のパッケージ写真等が印刷されています。

 前口上が長くなりました。まずは評価表から。
項 目 名 内      容
ジャンル 近代艦船・旧日本海軍戦艦 
名  称 大和(武蔵)
メーカー 田宮
スケール 1/700
マーキング 艦名・夜間歩行帯・艦載機の日の丸、ほか(旗は紙製)
モールド ★★★★ 甲板の滑り止めの表現に疑問あり。他は良好。
スタイル ★★★★★ 特に問題となる所はないようです。
難 易 度 (現時点では評価不能)
おすすめ度 ★★★★★ これを買わずしていったい何を…
コメント 内容の割に安過ぎる。2隻共作りたいものです(^_^v)。
 キットの状態は大和が1945年4月の最終時、武蔵は1942年8月の竣工時となっています。部品割は以下の通り。
・船体
・艦底板
・バラスト
・デカール
・旗
・ポリキャップ(砲塔・測距儀旋回用)

戦艦大和/武蔵のAパーツの部品表です。

・Bパーツ
 錨甲板/主砲塔/高角砲座/マスト前部/デリック/艦橋防空指揮所/
 15m測距儀 /航空機作業甲板端部+カタパルト支柱/ほか
・Cパーツ(2枚)
 副砲/主砲砲身/探照灯/シールド付高角砲/3連装機銃(シールド有無)
 /シールド無3連装機銃座/副錨/副砲砲座/機銃射撃指揮装置/ほか
・Wパーツ(2枚、WL大型艦用ディテールアップパーツに同じ)
 その中から以下の部品を使用するよう指示されている。
 22号電探/シールド無高角砲/60cm信号灯/菊花紋章/主錨/
 カタパルト/ 零式水上観測機/零式三座水上偵察機/
 9mカッター(台座付)/内火艇
田宮新版戦艦大和の部品一式の写真です。
戦艦大和部品一式。
Aパーツの右側がカットされている事に注意。

 キットはさすがに最新の資料を基にしたというだけあって、旧作で問題とされた錨甲板の幅や1番主砲前の甲板のレイアウトは修正されていますし、大和/武蔵の相違点である艦橋背面の張り出しや階段は別部品になっています。また大変複雑な曲線で成り立っている主砲塔や、改装の際に組み替えられたマスト上部の構造の違いやマスト基部の形、艦橋背面の信号甲板の形、艦尾周辺の形状や甲板のモールドなど、これまでのキットでは資料や金型技術の不足で再現されていなかった部分も全てクリアしています。現時点における大和型戦艦の組立キットの決定版と言って間違いないと思います。

 個人的に嬉しかったのは、シールド付3連装機銃の形がほぼ資料の通りに成形されている事でした。実はWL全てのキットも、ピットロードの武装パーツも、この部品に関しては満足な形のものは一つも無かったので、これは有り難いことでした。また、組立説明書とは別にカラーの塗装図と裏に日英併記の実艦解説が書かれた紙が一枚入っていて、メーカーの力の入れようがわかります(翔鶴型空母とはえらい違いだ ^^;)。

 ただ、問題点が無い訳ではなく、滑り止め甲板のモールドが英国の軍艦に見られる逆ハの字型になっているのは、気になる人には問題かもしれません。 ※注1



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 キットのモールド   実艦のモールド(推定)

 またカタパルトはムクのまま、クレーンはアームが水平状態でモールドされていますがトラスはムクとなっています。まあ、これは気になる人ならエッチングパーツや真鍮線のハンダ付けで作り直すでしょうが。また艦尾の艦名は武蔵の竣工時も大和の最終時も戦時中のため付いていなかったはずです。それと、部品割で示したように大和と武蔵でそれぞれ中央構造物の形が別々になっているため、新造時を作る場合は武蔵が、最終時を作る場合は大和をそれぞれベースとする必要がありそうです(旧作は大和でどちらにも作り分
けができた)。

 ざっと見た限り他に問題点は見当たらないようです。※注2 恐らく誰が作っても最新の戦艦大和/武蔵が組み上がると思います。余る部品には他に転用可能なものも多く、これで2400円なら絶対にお買い得です。2隻共に作って飾りたい所です(^_^)。


田宮旧作、日本模型、田宮新作の戦艦大和の船体形状の比較です。
船体形状の比較
上から田宮1/700WL旧作、日模1/700、田宮1/700WL新作。

 長い文章ですが、今回の発売に関して、もう少し。

 まず、空母「信濃」の発売の可能性について。
 27年前は信濃に関する情報はソ連の軍艦並み、つまり大和型戦艦を改造した航空母艦という以外にほとんど何もわかっていないに等しいものでした。ですからWL信濃のキットは想像に近い内容に留まっています。現在も多くの部分が謎とされていますが、写真や当時の関係者の証言などで外形や武装に関してはかなり判明してきましたし、少なくとも戦艦大和の船体に格納庫を乗せて飛行甲板をかぶせても空母信濃にはならない、という事もわかりつつあります。

 最新の資料を基に信濃を作ろうとするなら、船体を完全に別設計する必要が出てきます。これがリメイクでなければ、田宮の1/350がそうであったように無理してまで出すこともないと思うのですが、WLの中で信濃だけが内容的にとり残されてしまいますし、このキットがある限り旧作大和の船体の金型を維持し続けなければなりません。それで、私自身は空母信濃もリメイクの対象に入っているだろうと見ていますが、いくら田宮でも信濃用に船体を再設計するとは思えないので、船体を共通にして上部構造のみを正確にする程度に留めるのではないかと考えています※注3
(この段落は全て個人的な憶測です。確証は皆無です)。

 次に、今回の新作のアナウンスで一番驚いたのは「価格」でした。これまでの旧フジミ製品のリメイクでは倍前後の価格が付けられていたので、もし大和型戦艦をリメイクするとすれば4000円を切る事はないだろうと考えていたのですが、それが2400円。モールド的にも考証面でも問題の多かった翔鶴級空母よりも更に300円安い事になります。安いことは非常に有り難いことですが、いくらデフレ傾向で物価が下降気味とかミニ四駆で儲かっている?といった理由を考えても、少し引っかかるものがあります。

 これも個人的な憶測に過ぎないのですが、ひょっとしたらこの価格にはピットロードの「ハイモールド高価格」に対するWL陣営の牽制の意味があるのでは、という気がするのです。誰もがみんな知っている日本海軍最大の戦艦が2000円台の前半なら、それより小さい艦艇のインジェクションキットを3000円も4000円も出して誰が買うのか、という事です。また、田宮が大和型戦艦のリメイクを行った事で自社製品のリメイクという「タブー」は無くなったのだから、他のメーカーからも同様のリメイクの可能性は充分に考えられます。

 ピットロードは98年度のラインナップで愛宕型重巡の発売をアナウンスしていますが、もしそれより先、もしくは同時にアオシマが、むらさめ級護衛艦と同程度の内容で1500円前後の価格で発売するような事態にでもなれば、艦船模型ファンにとっては非常に難しい選択になると思います。また、陽炎型駆逐艦や長門型戦艦など、ピットロードの「優れてはいるけれど、高い」キットに対抗して「少しモールドは落ちるけど、外形は正確で、半額以下」でアオシマがキットを連発したら、ピットロードの「モールド最高、価格も最高」という路線にも修正を余儀なくされる可能性が出てくるかもしれません。その意味でも他の2社、特にアオシマの動向に注目したい所です。

1998/05/30 記

※注1
 その後「このモールドは逆ハの字で正しいのではないか?」というメールを頂き、再度資料を広げて考えてみました。大和型戦艦の滑り止め甲板を上図のようにした根拠はAnatomy....YAMATOの図面に依るもので、私自身今までそう思い込んでいました。

 手持ちの資料では丸スペシャルNo.54「日本の戦艦」P25、戦艦武蔵の公試の際に艦首から撮影した写真で、錨甲板の滑り止めに関しては(艦橋から見て)逆ハの字に開いているのがはっきりと判ります。また、「戦艦大和図面集」のP22、戦艦大和艦上の伊藤整一中将の写真でも、不鮮明ではありますが少なくとも上の図の右側で示した形ではない事は読みとれます。よって、錨甲板に関してはキットのモールドを否定する根拠はありません。

 錨甲板以外の滑り止めのパターンがどうだったかは、手持ちの資料ではわかりませんが、「戦艦大和図面集」P26上の大和主計科総員の写真で飛行機運搬軌条の旋回板に逆ハの字のパターンが施されているのが判ります。これだけで判断するのは困難ですが、艦尾部分のパターンが逆ハの字であるとするキットの解釈を否定することは現時点ではできません(ただし学習研究社刊太平洋戦記シリーズ11大和型戦艦に掲載されている日本海軍艦艇模型保存会製作の1/100模型では、艦尾に関しては上図右側のパターンとしているようです)
1998/07/21訂正
※注2
  ワタ艦 Webページの掲示板などで、他にも幾つかの問題点が指摘されています。戦艦大和最終時に関しては少なくとも以下の点で修正が必要です。
  1. 突両脇6基の探照灯のうち艦首側の2基(部品No.B7,8に付く)は恐らく組立説明書のミスプリントで、実艦ではここに射撃指揮装置(C13)が付いていたものと考えられています。箱絵とカラーガイドを参照の事。
  2. これに伴い、羅針艦橋両脇後部の探照灯管制装置(C12)も最終時には射撃指揮装置(C14)に取り替えられたものと考えられています。C14は数が足りないので調達or複製の必要があります。
  3. 航空機作業甲板の射撃指揮装置(A24)の両脇の夜間通行帯の上に、移動式の25mm単装機銃が1基づつ計2基装備されていたと考えられています。もし模型製作の基準で単装機銃が省略の範囲に入っていないのなら、部品を調達する必要があります。
  4. 金型の都合で艦首のムアリングパイプ(船外に係船のロープを出す穴)の出口の穴が開いていません。これも気になるようなら資料や箱絵を参考に開ける必要があります。
 …全て見落とした人間に言う資格はありませんが、モデルアート誌1998年10月号の戦艦大和/武蔵特集の内容にはガク然でした。過去のキットと対比させる衣島尚一氏の徹底検証記事は70年代のスタイルで肝心のキットの問題点には触れていませんでしたし、戦艦武蔵の最終時に至っては噴進砲の存在や増設機銃のシールドの有無など、近年の艦艇研究で問題提起されていることがらが何も反映されていなかったのは正直言ってショックでした(間もなく学研の「大和型戦艦2」で最新情報は提示されましたが)。

 インターネットから学生が高価な洋書を取り揃えたり、掲示板で年齢や距離を簡単に飛び越えて情報交換をする時代、特に最近は国内外から旧日本海軍艦艇に関する優れた研究本や情報が盛んに出ている事を思うと、あの特集スタイルは現状には合わないものだったのではないか、というのは酷でしょうか。

 連合艦隊講座があるとはいえ、ずっと特集が無かったツケが確実に回ってきているのかもしれません。衣島氏の年齢や体力面も気がかりですし、モデルアート誌が今後も艦船模型を取り上げる気があるのなら、その仕事の引き継ぎという視野まで見据えた人材の発掘や育成を真剣に考える時期が来ているのではないか、と危惧しています。
1999/03/05訂正
※注3
 1999年4月発売のタミヤニュースと田宮模型のWebページで、空母信濃の発売が正式にアナウンスされました。発売6月、予価2,800円、船体も新規設計の別金型になるそうです。これはキットを入手し次第、詳しく書くことにします。
1999/04/25訂正
※注4
 注2の探照灯の件は、キットが発売された当時は有力な説として考えられていた事ですが、その後の写真解析で探照灯は6基(キット)のまま、射撃指揮装置は缶室吸気口(C18)と増設分の射撃指揮装置(C5+13)の間にサポートを付けて設置されたとする説が有力視されています。この場合も部品が足りないため、サポートを自作した上で指揮装置の部品C13を調達または複製して付ける必要があります。

 また、写真解析で主砲塔や甲板の三連装機銃の台座が円形でなく多角形であること、1・2番砲塔の間の甲板上両舷に土嚢を積んだ単装機銃座が設けられていたこと、海底探査で艦尾の増設銃座(A16)がキットのような丸形ではなく不等辺八角形であることなど、キットが発売されて以降もかなりの部分で新説が発表されています。
2007/01/01訂正