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調理実演過去ログ:ホワイトエンサイン1/350巡洋戦艦フッドを作る
その15:結詞
2001/08/18


製作の補足など

 舷梯はキットのエッチングパーツに一部手を加えて仕上げ、右舷側を展開状態、左舷側は収容状態としています。左舷側中央部の舷梯はブルワークの内側に置いていますが、収容位置に関しては特に確証はありません。艦尾側の舷梯の収容状態に関しては、艦尾甲板上に置いてある写真も存在する(MONOGRAFIE MORSKIE HOOD p20下)のですが、この時期は海が比較的穏やかな状態でも艦尾甲板は常時波が洗う状態だったと言われ、とても装備品を置ける状態ではなかっただろうと判断し、模型は停泊状態を想定していますが、左舷側艦尾の収容状態の舷梯はあえて置きませんでした。右舷側の舷梯の周辺にある背の低いダビッドは舷梯を操作するもので、田宮 1/700多摩のボートダビッドの部品を流用しています。これは舷梯と対になっているものなので、左舷側には付けていません。また、艦首甲板の舷縁に1組と艦尾に3組付いている少し背の高いダビッドは雑役用のもので、これは 1/700WLの大型艦ディテールアップパーツのダビッドを流用しています。なお、これらのダビッドは航行中は全て取り外されていたようです。

 艦尾の端には係船桁が3本突き出しています。これは竣工当時から有ったもので、1940年頃に撮影された写真にも確認でき、最終時まで残っていたのではないかと考えています。模型では極細の真鍮パイプと真鍮線で作り、艦尾の端に突き出したものには「はしご」を付けています。なお、これも航行中は全て取り外されていたようです。

 旗は田宮の 1/350プリンス・オブ・ウェールズのデカールを流用していますが、デカールのままでは経年変化で崩れてしまうため、セロファンを台紙として、その両側に貼り付ける方法を取っています。後部マストの下側のガフに軍艦旗、上側のガフに中将旗を掲げています。

展開状態の舷梯
右が中央部、左が艦尾側のものです。
左舷側中央部舷梯の収納状態 艦尾の係船桁


飾り台について

 大きなキットの場合、完成後にむき出しで置いておくとすぐに埃が溜まってしまいますし、船はそれを払うのも大変な作業になります。また、ケースを作ればまた見栄えが違ってきます。よって、埃除けも兼ねた飾り台は模型を作るのと同じ位重要な工程だと私は考えています。欧米の艦船(帆船)模型の解説書の最後には、必ずといって良いほど飾り台の作り方が述べられています。

 飾り台は市販品もありますが、サイズやデザインが固定される上に価格も高いため、自作した方が楽だと思います。台の作り方は色々ありますが、今回はほぞ入りの角材を使って作る事にしました。
 まずDIY店に行って木材を買いますが、その際に下板を台のサイズに合わせてカットしてもらいます。下板にはアルカタ集成材を用います。これは家具の引き出し等に用いられる柔らかくて軽い合板で、加工が楽な代わりに下地処理が大変な素材です。しかし、この飾り台の場合は側面に檜の角材を付け、上面には壁紙を貼るため下地処理は不要になります。

 下板に中心線を引いて台座用の穴を開け、側面に幅10mm×高さ17mmの檜の角材を貼り、上面に壁紙を貼ります。その後、1面にほぞ入りの角材(12mm四方)を貼りますが、四隅の部分は角材の分だけ空けておきます。そして角材の外側に20mm径の1/4角の丸棒を飾り板として貼って台座を仕上げます。
 ケースの側面の4本の棒は2面にほぞ入りの角材をそのまま使います。上面は、まず12mm四方の1面ほぞ入りの角材で枠を作ります。その際に四隅の部分は角材の高さの半分を削り落とし、ここに側面の棒を差し込めるようにします。枠の内側の四隅に小型の金具を取り付けて補強したあと、外側に高さ15mm幅3mmの板を、枠の下側に合わせて接着します。

 製作が終わったあと水性ニスを塗って仕上げますが、目止めを行わなかったために表面が泡立ち、あまり思ったような色調には仕上がりませんでした。水性ニスは油性に比べて取り扱いが容易で危険性も低い事から、初心者向けと思われがちですが、実際はかつての「レペ」を思わせるほど難しいものです。塗装の表面が泡立ってサメ肌のようになったら、思い切って1500番程度の水ペーパーを水を付けないで表面を「ならして」ゆき、その後で薄く再塗装する事によって若干改善することはできます。

 ケースの透明部分はガラスを用いるのが一般的ですが、重い上に割れる危険性もあるため、私は透明のアクリル板を用いています。ガラスに比べると高価で環境に依っては長期間の保存で変色する可能性もありますが、強い衝撃を加えても割れない上に、自宅での加工も容易に行う事ができます。またアクリルの飾り台はガラスに比べ非常に軽量に仕上がるため、取り扱いが楽になる利点もあります。
 アクリル板は、台を組み上げた上で改めて透明部分のサイズの実寸を図ったあと、それに従って切り出します。Pカッターで深く傷を付けた上で両側に力を入れれば簡単に割れます。側面は2mm厚の透明アクリル板をはめ込み、上面は1mm厚のものを枠に乗せています。

 ネームプレートは事前に切り文字を用意していたのですが、いざ合わせてみると文字が豪華過ぎて模型が負けてしまうように感じたため、プラ板で作ったプレートの上にMD-2000Jで金文字印刷した紙を貼り、その上から艶消し半透明のクリアラベルシールを貼って地味に仕上げました。また、プレートがある右舷側の台座の左隅に、簡単な要目を記した板を別に貼っています。

台座の構造(正面左端)


上面の枠の構造
(裏側につき、工作塗装手抜きです)

正面のネームプレート

結詞

 メーカーの宣伝文句には「1/350 kit took Best 1/700-1/350 Scale Kit」と書かれていました。広告は決して誇大ではなく、基本的には大変に優れた内容です。エレールの1/400(インジェクション)やアイアンシップライトの1/350(レジン)と写真で比較する限りでは、船体の基本形の捉え方や上部構造物のバランスといった基本的な部分で大きく上回っています。特筆すべきは70cm以上の長大な一発型抜きで誤差1mm以下という驚異的な造形で、これは日本のレジンキットの常識では考えられないものです。

 ただ、艦首の錨部分に付く舷外電路用の左舷側のブルワークの幅の違いや艦橋基部の対潜見張所のモールドの見落とし、後部艦橋の形状など、田宮の1/700と比べると考証不足の部分も有りました。そして艦載艇の架台やシェルター甲板後端の壁面など凝っている部分は凝っているのですが、細部部品や艦橋の表現不足など「全体的に均一な精密度」に欠けていたというのが、作ってみての私の率直な印象でした。また船体の表現力は素晴らしいものでしたが、各部品は一体化にこだわり過ぎた印象がぬぐえず、エッチングパーツも凝ったものではありましたが、錨鎖や後部マストのデリックや4連装機銃の銃架にボートダビッドなど適切とは思えない部品が少なくなかったのも事実です。

 メーカーがキットに対して何を表現すべきかは、特にこのような大型のレジンキットの場合は個性が強く表れるのは当然の事と感じます。しかし、このキットに関しては凝った部分とそうでない部分の落差が大き過ぎ、加えて艦橋の部品の割り方など「作り手の存在を忘れている」という印象も少し感じました。もちろん田宮のように表現と組立易さのバランスを極限まで追求した結果個性が感じられなくなったキットも面白味に欠けます(決して悪い意味ではありません)し、メーカーの解釈を理解した上でなおかつ資料を読み下しながら製作の各段階で自分なりに判断を下せるような人でなければ、このようなキットは価格的にも内容的にも完成まで導くことはできませんから、作り手に配慮する必要は本来は無いのかもしれません。しかしながら、せめて全体的に均一な精密度、特に1/350というスケールにおける誇張と省略のバランスという点はもう少し考えて欲しかった部分でした。「主砲塔に233個のリベット」も宣伝文句に挙げていた言葉(後にアップグレードパーツとして供給された)の一つでしたが、それよりも、より大きな構造物であるところの前後の艦橋の細部の考証や表現方法の検討の方が、はるかに重要な要素のはずです。

 海外の掲示板を見ていて、エッチングパーツへの過度の依存、つまりモールドや外形が劣った古いキットもエッチングさえあれば最新の内容に変身するが如き捉え方をされる人が少なくない事と、メーカーもエッチングさえ付けていればより精密な模型だという姿勢が感じられる点が気になります。もちろんエッチングパーツで一部のモールドを改善する事は可能ですが、全ての部品を置き換えるのは不可能ですし、外形の違いや考証の不備をカバーすることもできません。それはあくまでも「素材の一つ」であって、その取捨選択は他の素材や表現すべき部分との兼ね合いで判断すべきものではないかと私は考えています。何でもかんでもエッチング…では、その思考方法や判断を模型愛好者から奪う結果になるのではないかと、そう思うのです。

 とはいえ、これほどの巨大なレジンキットを「正確に」まとめ上げたメーカーの技術力が特筆すべきものである事に変わりはありません。日本の模型メーカーがとっくの昔に失ってしまった情熱を感じ取ったのも率直な気持ちです。ホワイトエンサインモデルからは他にも 1/350で魅力的な英国艦艇の発売が予告されていますが、ぜひ日本の艦船模型愛好者が裸足で逃げ出すような凄いキットを今後も出し続けて欲しいものです。


 本業が多忙だった事もありますが、5年余という非常に長い製作になってしまいました。「模型の缶詰」Webが始まってようやく最初の完成品が出た訳ですが、この間見続けて、また叱咤激励を頂きました多くの方々には感謝に堪えません。本当にありがとうございました。
 

「第二煙突背面の探照灯台の形状」の問題は
製作記のその6:で述べましたが、
その後図面やDave Weldon氏の作例に従い、
探照灯台の床面は中央の構造物に接して
ブルワークのみが途中で切れている形状としましたが、
全く自信はありません。
この部分に関してはその6:で一旦製作したように
探照灯台と中央の構造物の間には完全に間隔が開いていた
可能性の方が高いのではないかと考えています。


ANATOMY...HOODの記述に依れば
上部構造物や居住区の床はCorticeneと呼ばれる
リノリウムの一種で覆われていたとあり、
カバーの1931年のカラーイラストでは
艦橋の各甲板は茶褐色となっています。
私は最終時の状況不明としてダークグレーを塗りましたが、
艦橋の床は茶褐色だった可能性が高いと考えています。


・参考資料

"Anatomy of the Ship The Battlecruiser HOOD"
John Roberts著/Conway Maritime Press刊(1982)

"British Battleships of World War II"
Alan Raven and John Roberts共著/NAVAL INSTITUTE PRESS刊(1976)

"Warship Profile 19 HMS HOOD/Battle-Cruiser 1916-1941"
R.G.Robertson著/Profile Publications刊(1972)

"MONOGRAFIE MORSKIE 6 HOOD"
Tadeusz Klimczyk著/AJ PRESS刊(1997)

"Marine-Arsenal BAND 19 H.M.S HOOD"
Siegfried Breyer著/PODZUN PALLAS VERLAG刊(1999)

考証の基本は、上記5冊の掲載図面や写真に依っています。


"man o' war 3 : Battleships RODNEY and NELSON"
Alan Raven and John Roberts共著/Arms and Armor Press刊(1979)

"BATTLESHIPS"
WILLIAM H.GARZKE,JR, ROBERT O.DULIN,JR共著/NAVAL INSTITUTE PRESS 社刊(1980)

"Battlecruisers"
John Roberts著/NAVAL INSTITUTE PRESS刊(1997)

"Hood and Bismarck"
David Mearns, Rob White共著/Channel 4 books刊(2001)

"Advanced Ship Modelling"
Brian King著/NEXUS SPECIAL INTERESTS刊(2000)

「軍艦の模型−基礎から実践まで−」
泉江三編/海文堂刊(1971)

世界の艦船/海人社刊
本誌1975年10月号、1999年6月号
増刊第22集「近代戦艦史」(1987)
増刊第30集「イギリス戦艦史」(1990)
別冊「傑作軍艦写真百選」(2001)

「丸グラフィック・クオータリーNo.22 写真集英国の戦艦」
月刊雑誌「丸」編集部編/潮書房刊(1975)

「戦艦ビスマルク発見」
ロバート・D・バラード著/高橋健次訳/文藝春秋社刊(1993)

モデルアート/モデルアート社刊
本誌1977年2月号
季刊艦艇模型スペシャルNo.4「戦艦長門・陸奥」(2002)

「改訂船体各部名称図」
池田勝著/海文堂刊(1979)

「戦艦ビスマルクの最期」
ルードヴィック・ケネディ著/内藤一郎訳/ハヤカワ文庫NF-82(1982)

「戦艦−マレー沖海戦−」
M・ミドルブルック/P・マーニー共著/内藤一郎訳/早川書房刊(1978)

田宮模型製組立キット
「1/700 巡洋戦艦フッド」
「1/350 戦艦プリンス・オブ・ウェールズ,キングジョージV世」

その他