行政のNPO活動支援について思うこと
機関紙「ぱん・ふぉーかす」第121号('00. 5.10.)掲載
[発行:高知映画鑑賞会]

 政府系公益法人の財団法人地域創造が、公共ホールや自治体で芸術文化領域に関わる実務担当者に、この分野への理解を深めてもらおうと作成した「保存版−公共ホール職員のためのジャンル別 制作基礎知識」というハンドブックがある。 '97年から同財団のニューズレター紙上で連載してきたものをまとめたものであるが、コンテンツとして取り上げられた芸術ジャンルは四つで、音楽・演劇・美術と並んで映画という項目がきちんと明記されている。文中にある西村隆氏の「…これまで日本では、映画といえば娯楽や趣味として消費するものと考えられてきたため、映画業界もマスコミも行政も映画を文化として根づかせるという観点での取り組みを怠ってきたところがある。これが、欧米と比較して、日本における映画文化の社会的位置の低さを招く原因となってきた。」という状況が、映画百年を契機として少しづつ変わってきていることを示す小冊子でもあるわけだ。
 本県の文化行政の分野では、以前から映画に対する扱いは他県に比べると破格のものがあり、高知市の文化祭でも県の芸術祭でも主要項目の一つとされてきたし、県立美術館でも映画上映は主要事業の一つである。どちらが鶏でどちらが卵かはともかく、それとあいまって高知は映画王国と言われたりした時期もあったようだし、オフシアターの活発さという点では、今尚その伝統を引き継いでいるとも言える。これを先見性と評価するか、細木氏が残してくれた言葉に示唆されるような辺境性ゆえのものと観るかはともかく、他県の映画愛好者からは驚きと羨望の眼差しで見られることではあった。

 しかし、今、先に引用した“日本における映画文化の社会的位置の低さ”の問題に通じるような懸念が、昨今脚光を浴びているNPO活動に対する認識において感じられるような気がしている。
 特定非営利活動促進法が限定列挙十二項目として特定した非営利活動分野は、@保健・医療又は福祉、A社会教育、Bまちづくり、C文化・芸術・スポーツ、D環境保全、E災害救援、F地域安全、G人権又は平和、H国際協力、I男女共同参画社会の形成、J子供の健全育成、KNPO支援、であって、そこに序列はないはずなのだが、どうも教育・福祉・人権・子供といった弱者救済的な側面のある活動に比べて、まちづくりや文化・芸術・スポーツといった活動は、一段低く見られていて、付加価値的に国際交流や環境問題などを含んでいないと、例えば、助成金などの交付に際しては後回しにされてしまうような気がする。
 まして、自主上映のように文化・芸術の分野においても社会的位置が低いとされる映画文化に関わる活動ならば、さらに劣位に置かれてしまいがちだ。
 しかし、特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)が列挙した活動に、序列をつけずに眺めたときに浮かび上がるキーワードは何であろうか。私は、それはアメニティではないかと考える。社会のアメニティつまりは快適さを実現する活動ということである。そもそも、人間が生きていくうえで絶対に必要不可欠なものを保証するのは行政の役割であって、NPOの協力や連携を求めることはあっても、NPO活動を支援するといった形で臨むべきものではない。しかしながら、NPO支援にあたる行政などの場での現実は「単にアメニティの向上だけではねぇ。」と言われてしまいそうな按配だ。

 ここに至って、最大の懸念は、行政にはよく起こりがちなことなのだが、所轄部署が一つに限らない状況になると、互いに手を引き始めるという悪しき慣行である。NPO担当部署では序列をつけられて後回しにされ、文化振興担当部署では民間非営利活動についてはNPO支援システムができたのだから、文化活動でもNPO的なものはあちらのほうでというふうにされだしたら、行き場がなくなってしまうのだ。もちろん、まだそんな事態にはなっていないのだが、だからこそ、この先そのような本末転倒を招かないことを願っている。
 NPO法の施行というものが、芸術文化振興の分野においても、状況の改善に役立つ方向で運用されることを期待して止まないのである。
by ヤマ

'00. 5.10. 高知映画鑑賞会機関紙「ぱん・ふぉーかす」第121号



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