『必殺仕掛人』['73]
『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』['73]
『必殺仕掛人 春雪仕掛針』['74]
監督 渡邊祐介
監督 渡邊祐介
監督 貞永方久

 このところ緒形拳の出演作を続けて観て、改めて目を惹いたことから録画したものだったが、劇場版の第一作『必殺仕掛人』は、テレビ放映ではできないアダルトテイストを前面に出したオープニングのみならず、藤枝梅安を肝心の緒形拳ではなくて、田宮二郎が演じるということで異彩を放っているものだった。そう言えば、そうだったなと思い出したが、観るのは初めてだ。

 数年後に自殺したことを知っている今観ると、御座松の孫八(川地民夫)に程なく殺される徳次郎(浜田寅彦)と温泉に浸かりながら、梅安が長生きがしたいねぇと洩らす台詞が感慨深く聞こえてきた。マカロニウエスタンを想起させるような音楽が実に似つかわしい風味の時代劇だと改めて思った。梅安・左内を緒形拳と林与一が演じるのではない、田宮二郎と高橋幸治による仕掛人というのもなかなか好い。そして、元締めの音羽屋は、やはり山村聰だと改めて思った。


 前作から更に進んで、いきなり濡れ場から始まる同年第二作の『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』は、梅安が緒形拳に戻り、林与一が左内ではなく小杉十五郎の役で登場して始まった。先ごろ観た「極妻」シリーズの日誌に記した役者の個性と登場人物のキャラクターで見せる作品との印象は、本シリーズのほうがより強いように感じられた。

 前作の田宮二郎がかっこよさの合間に見せていたユーモアに比して、緒形拳には田宮にない愛嬌があって、やはり梅安は緒形拳のものだと思った。高橋幸治の左内には渋みがあって優しくとも甘さが微塵もなかったように思うが、林与一の演じる小杉十五郎には絶妙の甘さがあって、なかなかのものだった。

 第一作の梅安には別れて育った兄妹の因縁、左内には妻子を抱えた生活が設えられていたが、第二作で目についたのは女性の配置だったように思う。それなのに、梅安のおもん(ひろみどり)、左内のお仲(津田京子)、千蔵(津坂匡章)にはおみつ(岩崎和子)、梅安に色目を使うおりん(松尾嘉代)が漏れなく配されていたものの、おりんの艶を除き、総じて魅力が不足していたのが残念だった。一方、敵役を負っていた伊豆屋長兵衛(佐藤慶)にろくでなし弟の山崎宗伯(小池朝雄)への情愛を描き込んでいたことが目を惹いた。

 そして、前作と共通する時代風俗の描出として、当時は混浴の風呂屋場面があり、本作では、床屋も映し出す浮世描写が面白かった。


 第三作『必殺仕掛人 春雪仕掛針』は、アダルトテイストどころか、まるで東映作品のような血生臭く派手なオープニングだと思っていたら、そこに松竹看板女優の岩下志麻が登場してのタイトルクレジットという辺りに、貞永監督に替わった第三作の意気込みのようなものを感じた。しかし、前二作にも共通して登場した混浴風呂の場面もそこそこに、本作は足抜け女郎への折檻場面など、やたらと女体をいたぶる場面が目につき、少々陰惨さが勝ち過ぎていたような気がする。猿塚の千代(岩下志麻)率いる強盗団の畜生働きを印象づけていたことにもよろうが、陽の部分がほとんどなくて、陰ばかりだったような印象だ。

 小杉十五郎(林与一)から仕掛人について言われたことに対してもっと怨みの深い仕事だと返していた梅安(緒形拳)が、妹とは知らずに仕掛けて仕損じの無かった第一作とは違って、浅からぬ因縁の元恋人を殺めることになる話であった。梅安が棄てたりしなければ、千代もあそこまでの悪女にはならなかった気がして、その因果の罪深さに怯む梅安の姿が印象深く、千代とは対照的に強い男なんか嫌いなんですと包み込むおもん(ひろみどり)が印象深い。千代も最後は悪い女というよりも哀れな女として死んでいったような気がする。

 細部はともかく大筋は、盗人稼業VS殺し屋稼業といった様相を呈する運びになっていたように思うが、どちらの稼業も実に因業な生業で、人の心を蝕み荒ませることがよく描かれ、撮影がけっこう意匠を凝らしていて、かっこいい画面が多かったようには思った。
by ヤマ

'24. 2. 6~8. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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