『二十歳に還りたい。』
監督 赤羽博

 大川総裁が身罷って隆法映画がどのように変じるのか興味を覚えた作品だ。製作総指揮・原作に名が出て来るものの、娘も息子もスタッフ・キャストに名の出てこない作品になっていて、千眼美子の姿も消え去っていた。脚本に記名がなく、「…プロジェクト」となっていたが、隆法映画に特徴的だった“霊への言及”がなくなり、“邯鄲の夢”のような話に転じていたことが印象深い。そのうえで、チラシ表記に一代で大企業を築き上げ、世間から「経営の神様」として尊敬されていた寺沢一徳とされた、原作者を想起させずにはおかない老人(津嘉山正種)に、家族との営みに失敗した人生への悔恨を語らせていて吃驚した。

 作劇的には、蜷川幸雄を思わせる、劇団女優の山根明香(三浦理香子)の父 心太郎(上杉祥三)に、二十歳にして老賢者の風格と言わせる寺沢一徳(田中宏明)がその後の十年に渡る明香との恋愛模様において、前日に観たアルジャーノンに花束をのシャルル並みの未熟な幼稚さをさらけ出していて唖然とした。また、大人の見る繪本 生れてはみたけれど』を観て綴った九年前の映画日誌僕は、多くの人が口にするような若い時分に戻って人生をやり直したいなどと思ったことがついぞない。友人から“積極杜撰”と冷やかされていた若い頃の行状を繰り返して、今より苦難の少ない人生が待っているとは到底思えない。と記してある僕としては、製作総指揮・原作に大川隆法の名を刻む作品において、チラシにも記された社会的な成功の影で家族運に恵まれなかった人生を描き、二十歳に還りたい。としていたことに感慨を覚えた。市川猿之助や中車を想起させるようなクラブネタも盛っていて、実に俗っぽい造りだった気がする。
by ヤマ

'23.10.22. あたご劇場



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