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『浅田家!』['19] | |||||
監督 中野量太 | |||||
作中で小野くん(菅田将暉)の始めていた写真返却会のボランティアの話は、そう言えば、数多あった東日本大震災報道のなかの何かで見聞したことがあるような気がしたが、浅田政志(二宮和也)が手伝っていたとは知らなかった。作中の2019年時点で野津町の被災写真は、約八万枚。そのうち六万枚が持ち主に返却されたが、その数字はこれからも変化し続ける。一度乗った船からは最後まで降りない主義の隣町の居酒屋の女将(渡辺真起子)が、八年後の今も続けているからとの旨のナレーションがあったが、写真の力を最もよく伝えているのは、この写真返却会のエピソードだったような気がする。 浅田政志による写真集『浅田家』というのは、僕は知らずにいた。息子の政志に写真を教えたことが一番の自慢だと政志の木村伊兵衛賞授賞式のスピーチで言っていた父(平田満)は、毎年の賀状に二人の息子の写真を添えていたけれども、僕の五歳ほど下の友人は、それこそ「浅田家」もどきのコスプレ家族写真やアイコラを毎年賀状にして送って来ていたことを思い出した。年々の時事ネタや大ヒット映画作品をモチーフにして、十年以上続けられ、毎年、楽しみにしていたものだ。 それにしても、後に政志と結婚した幼馴染の若菜(黒木華)が強引に個展を開かなければ、写真集の出版も木村伊兵衛賞の受賞もなかったことを思えば、一番の功労者は、若菜であるような気がした。折しも前日に『妻二人』を観たばかりだったから、報われた若菜と犯罪に巻き込まれた順子(岡田茉莉子)の違いの大きさに人生のままならなさを思わずにいられなかった。 政志二十二歳時の専門学校卒業制作の写真だけ、エンドロールで本物が映し出されたが、他の「浅田家」写真は劇中キャストによるものだった。もしかすると、それらのなかにあった「極道」という一枚は、彫り物を入れているらしい浅田政志が、写真家になる前に縁のあった組長宅を実際に使わせてもらって撮ったものが写真集に収められていたということなのだろうか、と思ったりした。 | |||||
by ヤマ '23. 6.26. DVD観賞 | |||||
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