『バニー・レークは行方不明』(Bunny Lake Is Missing)['65]
『パリは霧にぬれて』(La Maison Sous Les Arbres)['71]
『サウンド・オブ・サイレンス』(Don't Say A Word)['01]
監督 オットー・プレミンジャー
監督 ルネ・クレマン
監督 ゲイリー・フレダー

 たまたま三日続けて、子供が誘拐される映画を観た。最も古い作品が、'60年代の『バニー・レークは行方不明』で、精神障害が精神異常と呼ばれていた時代の作品だ。四歳のバニーことフェリシア・レイクの行方不明どころか、不存在をニューハウス警部(ローレンス・オリヴィエ)が疑い始める展開の大胆なまでの見事さに感心した。

 普通は、いなくなった女の子のほうを心配すると思うのに、妹のほうばかり…と言っていたのは、フォード元園長(マーティタ・ハント)だったかと思うが、その指摘は必ずしも当たらないようには思いつつも、四歳児の娘を気遣う割には、ちっとも目を配らない母アン・レイク(キャロル・リンレー)に精神失調の兆しを窺わせる演出が、なかなか手練れていたような気がする。

 そして、妹への接し方に何処か違和感を覚えさせながらも、理路整然としていた兄スティーヴン・レイク(キア・デュリア)が、失念していた人形修理の件をアンが思い出したことで動揺を来し、狂気を露わにし始めた辺りからの運びが圧巻で、スティーヴンを演じたキアが見事だった。

 そのうえで、兄の変調に動揺せず巧みに制御し始めたアンに、単に理性による制御ではなく、彼女自身も確かに精神を病んでいる部分を忍ばせる演技をしていたキャロル・リンレーにも大いに感心した。

 だが、作品的には、捻りのための捻りのような、妙にすっきりしない話だという気もしないではない。


 次は、'70年代の『パリは霧にぬれて』。釈然としないものが根っこに残る作品で、“組織”なるものがあそこまでして執拗に付け狙うフィリップ・ハラード(フランク・ランジェラ)の頭脳というのは、いったい何だったのだろうと思わずにいられなかった。確かに階下のシンシア(バーバラ・パーキンス)の過剰なまでの好意には、何か魂胆があるとしたものなのだろうが、バーバラ・パーキンスの個性によって、巧みに覆われていたような気がする。些かファナティックな芸術家肌のジル・ハラード(フェイ・ダナウェイ)よりも、遥かに魅力的だった。


 今世紀になってからの作品となる『サウンド・オブ・サイレンス』は、『バニー・レークは行方不明』以上に捏ね回したような映画で、観ながら少々倦んでき始めていたのだが、「なんだ?あの凧は?」と思っていたものが成程そういうことだったかという展開に感心した辺りから、この先どう運ぶのかが楽しみになってきて、けっこうスリリングに観ることができて、なかなか愉しかった。

 最後は、いかにも'90年代以降の映画らしく、些かくどい気がしたが、娘の誘拐犯と鎬を削る交渉を重ねる精神科医ネイサン・コンラッド(マイケル・ダグラス)の妻アギーを演じていたファムケ・ヤンセンは、僕と同じように足にギブスをしていても、やはり破格に強かったのが妙に可笑しかった。

 だが、こうして三作品並べてみると、最も古い映画である『バニー・レークは行方不明』が、いちばん洒落ていたような気がする。
by ヤマ

'23. 6.27. DVD観賞
'23. 6.26. BS2アナログ衛星映画劇場録画
'23. 6.28. 衛星放送録画



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