『恋のいばら』
監督 城定秀夫

 なかなか興味深く、心理的交錯のスリリングさが痛ましくも可笑しな面白い作品だった。桃(松本穂香)と莉子(玉城ティナ)自身の台詞にもあったように、犯罪行為としては女性二人のしでかしたことのほうが明らかに犯罪でありながら、彼女たちがそうしてしまうことを非とも言い難い点が興味深いと同時に、画面に映し出されたフォトジェニックなプライヴェート・フォトを「ポルノ」と断じるのは言い過ぎで、コレクトされた側の不快感は然もあらんけれども、健太朗(渡邊圭祐)を以て倒錯者だとか変質者だとすることには違和感が残る按配の人物造形を彼に施してあるところがなかなか刺激的だった。

 莉子の母親(片岡礼子)が口にしていたような「いい人」というのは、認知症が来始めていると思しき祖母(白川和子)に気遣いを見せたり、露骨なセクハラ行為を働くスポンサー企業の担当者(吉岡睦雄)をカメラマンとして果敢に制してモデル女性(北向珠夕)から感謝されたりする場面で裏付けられていた。それが必ずしも女性攻略のための手管としてのものではない感じを渡邊圭祐がよく演じていて、いかにも邪気のないモテ男ぶりを体現していたように思う。桃が健太朗から別れを告げられた事情には、相応の事由が提示もされていたなかで、本作を観た女性たちが健太朗をどのように評するのか是非とも訊いてみたい気がした。

 桃が涙してしまうほどに素敵に魅力的な寝顔の莉子の写真を挟み込んだ、桃と健太朗を結び付けた絶版写真集のタイトルが「Woman's sadness」という辺りがなかなか意味深長で、桃と莉子の心の揺らめきがとてもデリケートに掬い取られ、描かれていたように思う。

 運び方がなかなか巧みで、十七年前に観た運命じゃない人を想起させるようなところもあった気がする。だが、二か所ほど引っ掛かっている点があって、一つはエレベーター内でなぜ別れることになったのか分からないと言ってる友人がいて…という莉子にそういうとこが理由なんじゃないのと何気なく思惑抜きに答えている健太朗の言葉に動揺している風情の桃の描き方が、実は勝手に合鍵を作っていたという明白な事由があることに見合わない点。もう一つは、桃と初対面のときの莉子の対応が、対面は初めてでも実は既知の人物だったという事実としっくりこないところだった。そういう点では『運命じゃない人』ほどには周到ではない気がした。

 その一方で、心理描写においては『運命じゃない人』以上に深みがあって、男の“親友”の単純な率直さに比べて、女の“親友”のなんとディープなことよ!と何だか可笑しかった。妙に張り合う部分と世話する部分とが、男同士の場合よりも過剰な気のする感じがよく出ていたように思う。女同士というのは、実に面倒臭く油断ならない関係だと改めて思った。玉城ティナが窓辺にてに続き、なかなかいい味を出しており、松本穂香が桃の少々不気味な滑稽さを軽やかに表現していて感心した。
by ヤマ

'22. 1.16. TOHOシネマズ6



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>