『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(The Florida Project)['17]
監督 ショーン・ベイカー

 原題のフロリダ・プロジェクトというのは、ディズニーによるテーマパーク開発計画に名付けられた呼び名だということだったが、「マジック・キャッスル」や「フューチャー・ランド」といった如何にもな名称の、滞在型でディズニーランドを楽しむ旅行者家族を見込んだカラフルな安モーテルがテーマパーク周辺に林立する辺りまでは折り込み済みだったとしても、そこがトレーラーハウスさえ構えられない低所得者層の住居化する常宿となることまでは、フロリダ・プロジェクトそのものにはなかったはずだから、かなり皮肉の効いた題名だ。最低の話を実に明るく描いた画面の色調がなかなか雄弁で挑発的ですらあり、大したものだと思った。

 相当にどん詰まりのその日暮らしを続けているシングルマザー家族の日々が全く何ら先行きの明るくなりそうにない下降線を辿りつつ、やけに明るく伸び伸びと綴られていくことに対し、邦題に添えられている「真夏の魔法」がどこで訪れるのかと思っていたら、遂には、マジック・キャッスルを追われていくことになっていた。真夏の魔法というのは、その暮らしぶりも振る舞いも最低と言う外ない母子ヘイリーとムーニーの姿を明るく伸びやかに描いて、まるで厭味のない画面のことだったような気がする。

 手元にあるチラシの裏面に最強にキュートなムーニーを演じるのは、天才子役と記されたブルックリン・キンバリー・プリンスは、実に活き活きとしていて見事だったが、僕はむしろ監督がインスタグラムで発掘し、初演技とは思えない存在感を放つと記されているブリア・ヴィネイトに感心させられた。まさにヘイリーそのものだった彼女のキャリアは、その後、どうなったのだろう。

 そして、生活苦から安宿を住居代わりにしている人々から週ごとの宿代を徴収し、さまざまなトラブルに対応する管理人の仕事の大変さに恐れ入った。住居化させないよう定期で宿替えをさせるルールの元に提携する同業者の宿への宿泊料の差額補填までしていたボビー(ウィレム・デフォー)のようなマネージャーは、そうそういるものではないと思うけれども、そこに違和感があまり湧いてこなかったりする点こそが「真夏の魔法」だったのかもしれない。

 最後のジャンシーの居ても立っても居られなくなった駆け出しにグッと来ない人はいない気がする。呆れるほどにタフでポジティヴだったはずのムーニーを号泣させている状況に対する怒りと自分にできることが何もない堪らなさで一杯一杯になったジャンシーの姿に心打たれた。

 暮らしぶりも振る舞いも最低のヘイリーとムーニーなのだが、肝心なのは、何が二人をそうしているのかの部分なのだ。その点でもヘイリーの人物造形がなかなか見事で、きちんとした環境に恵まれ、教育を受けて育っていれば、間違いなく素敵な女性になっているに違いないと思わせるギャップ感を実に見事に体現していたように思う。ボビーが格別の憐憫を寄せていたのが故無しではない納得感を与えていた気がする。




推薦テクスト:「ケイケイの映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20180520
by ヤマ

'23. 6.18. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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