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『ブラッド・ワーク』(Blood Work)['02] 『ミスティック・リバー』(Mystic River)['03] 『ミリオンダラー・ベイビー』(Million Dollar Baby)['04] | |||||
監督 クリント・イーストウッド | |||||
イーストウッドが映画監督としての力量を遺憾なく発揮し始めた2000年代初期の作品を続けて三作観た。『スペース・カウボーイ』から二年程経つ『ブラッド・ワーク』を観るのは初めてだったが、ストーカー映画としてなかなかのものじゃないかと思った。 ジャスパー・ヌーンことバディ・ヌーン(ジェフ・ダニエルズ)の相棒キャラがなかなか好い感じだっただけに意表を突かれる展開だったが、さすれば、時給10ドルのアルバイトに携わっている間の愉しさは格別だったことだろうと、かなり念の入った黒い歓びの神髄のようなものを感じて恐れ入った。アランゴ刑事(ポール・ロドリゲス)が「ありきたりのコンビニ強盗」と言っていた事件の裏にすっかり驚かされた。確かに恐るべき“追い波(Following Sea)”であったと言える。波のおかげで生き永らえ、波に追われて死にかけていた。 それにしても、妹の心臓をかたに元FBI分析官テリー・マッケーレブ(クリント・イーストウッド)に迫っていたグラシエラ(ワンダ・デ・ジーザス)の危ない女ぶりには唖然とした。捜査活動で少し動き回れば発熱し、車の運転すら止められていたと思しき、心臓移植手術後二ヶ月余りのテリーの寝室を訪ねて「胸を見せて もっと」と口づけていた。妹グロリアの殺害事件の調査依頼をして危険な目に合わせる以上に、破格にダイレクトな危なっかしさが、何だか妙に可笑しかった。もっとも、難事件の捜査に携わることでテリーは活力を得て、「心臓はもらったが、本当に生き返ってはいなかった」ことを知るわけだし、かの一夜を過ごして得たパワーで最後の廃船での闘いを勝ち抜くのだから、毒と薬は紙一重というわけだ。 製作年次が2002年となっていたので、その頃に観た心臓移植を扱った映画『21グラム』は、いつだったろうと確認すると、本作のほうが一年先行していた。携帯電話は信用できない、線が繋がっているほうが、とのテリーの台詞にニンマリし、ネット検索をするために図書館に出向く姿に二十年の時の経過を感じた。 翌日観た『ミスティック・リバー』は、二十年ぶりの再見。当時の日誌には「時宜に適って興味深かった」として、「イラクに進駐しながら大量破壊兵器を見つけられず、今まさに批判に晒されているブッシュ政権率いるアメリカ」に言及しているが、いま「時宜に適って」となると、ペドフィリアの毒牙に掛かった少年の抱え込む心の闇の深さのほうになってくるわけで、デイブ・ボイル(ティム・ロビンス)の痛ましき人生が何とも堪らなかった。 久しぶりに掲示板談義の編集採録を読み返してみたが、懐かしさとともに、当時の談義の充実ぶりに改めて感慨深いものが湧いてきた。みなさん、どう過ごしているのだろう。 公開時以来の十八年ぶりの再見となった『ミリオンダラー・ベイビー』は、公開当時の日誌に記した「許容しつつも同意できない感じ」について、自己決定権のほうに与する度合いが自分のなかでより高くなっているように感じた。 血肉を分けるという言葉については、生物的意味合いとしての血肉よりも、生き方に対する価値観・美意識という意味合いでの魂の血肉としての“モ・クシュラ”を受け取った。師弟を超えた分身として結びついた父娘ということなのだろう。 *『ブラッド・ワーク』 推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/5703121346454068/ | |||||
by ヤマ '23. 6. 2~4. DVD観賞 | |||||
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