『その英雄、凶暴につき ビリー・ザ・キッド伝説』
 https://www.nhk.jp/p/darkside/ts/4847XJM6K8/episode/te/92LXNX7NX4/
NHKダークサイドミステリー

 番組のなかで町山智浩が、最も数多く映画になっている西部開拓史上の人物で、二番目が保安官ワイアット・アープだと言っていたが、残念ながら僕は、ビリー・ザ・キッドことウィリアム・ヘンリー・ボニーの映画を、二番目というアープやジェシー・ジェームズの映画ほどには観ていないが、先ごろサム・ペキンパー監督による映画化作品['73]を再見したばかりだったから、たいへん興味深く視聴した。

 アメリカへの移民増による食糧不足対策と1848年からのゴールドラッシュによって始まった西部開拓史のど真ん中ともいうべき1870年代に生まれて、21歳の生涯で21人殺して死んでいった男との伝説を残している人物にまつわる様々な伝説に対する諸説の紹介と見解をゲスト二人と米人研究者それぞれが披露していて、それを聴いていると、ペキンパー監督による映画化作品は思っていた以上に、周到に実録もの的スタンスで製作されていたようで、改めて感心した。

 同時代の記録においては、極悪人の無法者としての記録や記事ばかりだったものが、1881年にビリーを射殺した拳銃が出品された近年のオークションで8億円もの値段をつけるほどの人気を得るアメリカン・ヒーローにもなっていることへの考察が特に興味深かった。

 契機は、死後半世紀近くも経った1926年に、ウォルター・ノーブル・バーンズがシカゴからニューメキシコの現地まで訪ね、生前のビリーを知る人たちの思い出話を聴取して刊行したという『The Saga of Billy the Kid』を原作にしてキング・ヴィダー監督が映画化した『ビリー・ザ・キッド』['30]が、世界恐慌下のアメリカで、格差社会での下層側に立ち、義を貫いて若くして死んだカッコマンとして大人気を博したことによるらしい。そして、僕が観たばかりのペキンパー監督版は、それからまた半世紀近く経過して、ベトナム戦争反対などの反体制的なカウンターカルチャーの隆盛と挫折が、アウトローとして奔放に生き、倒れたビリーへの共感を呼んだというわけだ。

 なんだか我が国の坂本龍馬のような存在なのだなと感じた。もし、龍馬を斬殺したという刀が発見されてオークションに出たら、やはり相当な値が付くのは間違いないのだろう。龍馬もまた死後暫くは忘れられた存在だったものが、当地の土陽新聞に坂崎紫瀾が『汗血千里の駒』を掲載して評判となり、各所から単行本化されて人気を博したことなどによって世に知られるようになり、戦前は軍神とまで持て囃されるようになった人物で、戦後はまた一転して、司馬遼太郎の小説などにより、自由と平等を体現する民主的ヒーロー像を獲得するに至っている。ビリーよりは十年ほど長生きしているが、殺人に関して語られたものに触れたことはないように思うものの、ビリーの早撃ち伝説のごとく、剣の達人とされ、武勇伝には事欠かず、脱獄ならぬ脱藩を行い、ほとんど無防備の状態で襲われ即死した点でも通じている。民衆に愛される歴史上の人物としての共通項なのだろう。

 番組のなかに出てきたキング・ヴィダー監督による1930年作品と、それから九十年後の『スリー・ジャスティス 孤高のアウトロー』['19]を観てみたいものだ。
by ヤマ

'23. 5.25. BSプレミアム録画



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