『ホワイトハンター ブラックハート』(White Hunter Black Heart)['90]
『ルーキー』(The Rookie)['90]
監督 クリント・イーストウッド

 約三十年ぶりに再見したバードの次の作『ホワイトハンター ブラックハート』は、序盤に♪サテン・ドール♪が演奏される業界もので初見となる作品だ。業界と言っても、こちらは映画業界。ジョン・ヒューストン監督の『アフリカの女王』['51]にまつわるエピソードを元に創作したもので、映画監督の名前もジョン・ウィルソン(クリント・イーストウッド)になっている。

 映画製作と象撃ちの話でありながら、1時間52分の作中、結局、両方ともに1ショットも行われずに終わるところが趣向のような作品だったが、ジョンが何ゆえ象撃ちに執着するのかが今一つピンと来ず、仮にそれがヒューストン監督における実際のエピソードだったとしても、映画作品としては了解しにくくて、何だか苦肉の策のように死期迫る感じを匂わせていたように思われる部分が、どこか取って付けたものに終っているように感じられた。'90年の製作当時だと、アフリカロケを見せることでの訴求力など最早ないにも等しく、やはりドラマ部分や人物造形がしっかりしていないと物足りない。

 劇中でジョンが唯一の理解者だと言ってアフリカに連れて来ていた友人の脚本家ピート・ヴェリル(ジェフ・フェイヒー)ですら無責任な利己主義者と断じていた牙象撃ちへの執着が、ジョンの言っていた正しいと思ったときは闘えに繋がってこない、ただの身勝手にしか映らなくなっていたような気がする。そうなってくると、なかなか悪くない場面だった、ユダヤ人差別を公言するマグレガー夫人をやり込める場面や、黒人差別を露わにしていたホテルの支配人ハリー・ロンソンと殴り合って倒されつつ負けても闘えばすっきりすると言っていた場面が生きてこなくなると感じた。

 ジョンがピートに向ける言葉や、ピートがジョンに返す言葉や対応、ピートが現地マネージャーのラルフ・ロックハート(アラン・アームストロング)を叱責する姿にしても、ジョンの物語を通じてやたらとピートのいいとこを見せようとしているように感じられて、なんだかなぁとの思いが湧いてくるような映画だった。字幕で白人ハンター、悪魔の心と訳されていた、作品タイトルにもしている意味合いの言葉は、現地人から実際に向けられたものだったのだろうか。映画に描かれた顛末からすると、案内人だった現地人ギブの死については、ジョンが全面的に責を負う経過で生じてはいなかったように思う。随行していた白人ベテランハンターのオグルビーが言った中止意見に抗して、ギブが決行を促した部分は、どういう思惑で添えられていたのだろう。標題のわりには、姑息な配慮が働いている脚本のような気がしてならなかった。


 続いて観た『ルーキー』は、高級車窃盗団の首領ストロム(ラウル・ジュリア)の愛人である危ない女リースル(ソニア・ブラガ)が、囚われの身となったニック巡査部長(クリント・イーストウッド)に役に立たなかったら遠慮なく切って捨てるわよなどと言い出したりしてから後の展開が、場面を見せるためだけのものになって、何だか滅茶苦茶だったけれども、映画自体は思いのほか面白く観た。

 やはりルーキー刑事デヴィッド・アッカーマンを演じたチャーリー・シーンが、なかなか魅力的だったからだろう。若き日のトム・クルーズの役どころを思わせる純な直情、愛嬌と若気が好もしかった。『メジャーリーグ』['89]の翌年の映画で、彼が最も乗っていた時期の作品のような気がした。本宮ひろ志の漫画『俺の空・刑事編』の安田一平を思わせるデヴィッド刑事の設定が妙に可笑しく、彼と同棲している大学法学部在学中の恋人サラを演じているのが『ツイン・ピークス』で覚えのあるララ・フリン・ボイルだったことも目を惹いた。チャーリー・シーンともども最も好い時期だった気がする。蜘蛛女のキス['85]で記憶したソニアは、すっかり怪演女優になっていて、なかなか嵌っていたように思う。

 序盤で相棒刑事パウエルの殉職により新たな相棒デヴィッドを上司の警部補から充てがわれた場面をそっくりなぞる形で、今度はデヴィッドが、昇進して上司となったニックから新人の女性刑事ヘザー・トレスを充てがわれていた最後の場面の洒落をニンマリしながら観た。『ホワイトハンター ブラックハート』でジョンが気にしていた、いかにもな“ハリウッド・スタイル”だと思うけれども、これはこれで気が利いていて、やはりいいものだ。ヘザーを演じたロバータ・ヴァスケスがちょっと好い感じだったのだが、端役の本作の後、どのような映画に出たのだろう。観てみたい気がした。
by ヤマ

'23. 4.20. DVD観賞
'23. 4.21. DVD観賞



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