『遠い太鼓』(Distant Drums)['51]
監督 ラオール・ウォルシュ

 1840年のフロリダ開拓史となれば、もはや西部劇ということにはならないのではないかと思ったが、手元にある「完全保存版 西部劇を読む事典」巻末の収録作品リストにもタイトルが出てはくる。だが、いくらオープニングを先住民の太鼓で始めようと、大西洋に面した東海岸南部のフロリダとなれば、どう観ても西部ではない。現に、先住民セミノール族との戦いは出てくるのだけれども、馬がいない。また、セミノール族のほうが砦を擁していて、しかも石造りの堅牢さを誇っていて呆気に取られた。武器も豊富に保有していて、戦力的にはクィンシー・ワイアット大尉(ゲイリー・クーパー)率いるアメリカ軍を上回っていた。

 それにしても、'51年作品とは思えない色鮮やかさに畏れ入った。最近は、旧作がデジタルリマスター版との触れ込みで盛んにリバイバル上映されているが、アメリカのほうでは旧作アーカイヴを精力的にデジタル化していて、その際に補正しているのだろうか。お話は、かなり大味だったような気がするが、鰐の遊泳とか、ワイアット大尉とセミノール族勇士の対決とかの水中撮影は、七十二年も前にどうやって撮ったのだろうと感心したし、エンディングを大尉とのキスで飾るジュディ(マリ・アルドン)の胸の盛りようの迫力にも感心した。谷間すら見せないあたりは実にクラシカルだったが、元娼婦であるらしき素性を令嬢仕立てで飾っていたわけだから、筋は通っているとも言えそうだ。

 タフツ中尉(リチャード・ウェッブ)の独白で、本隊と離れた個人的支配域を構築しているとのワイアット大尉を小舟で訪ねる導入部に地獄の黙示録['79]を想起したのだが、まるで趣が異なる形で進行していき、デイビー・クロケットもどきの斥候モンク(アーサー・ハニカット)が『クロコダイル・ダンディー』['86]のミック(ポール・ホーガン)のように映って来る珍品として、意外と面白く観た。
by ヤマ

'23. 4.17. BSプレミアム録画



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