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『扉を閉めた女教師』 『アルプススタンドのはしの方』 | |||||
監督・脚本 城定秀夫 監督 城定秀夫 | |||||
今泉脚本×城定監督の『愛なのに』に続き、城定脚本×今泉監督の『猫は逃げた』も観たことだし、と“L/R15”公開記念の特別番組「城定秀夫と今泉力哉 今泉力哉の場合」という座談番組を観た後、合わせて録画されていた本作を観てみたら、奇しくも信者2世の高校生が主人公で驚いた。 エロティックムービーとしては、凡庸な出来栄えのように感じたが、耳の遠い用務員に体育倉庫の扉を施錠されて、なかに閉じ込められた英語教師(山岸逢花)なのに、なぜタイトルが「扉を閉めた女教師」になるのかと思っていたら、なるほど、「先生とセックスできれば死んでもいい」と願った心霊商法を思わせる怪しげな教団の信者2世(吉田タケシ)の入信の扉を閉めて解放する女教師を描いた性春物語だった。 その念願叶ったりが神の恵みでもあるかのように洩らし始めた男子生徒が、DV夫と別れてシングルになり、水商売に身をやつしている母(佐倉萌)から貰った教団グッズのガラス玉ペンダントを投げ棄てるに至る晴れやかな姿を観ながら、まがい物の神より、女体に宿る観音様の御利益のほうが勝るに決まっていると思わずにいられなかった。夏休みが終わっても学校には来なかったという女教師は、いったい何処に行ったのだろう。自分の板書した「take me somewhere not here」を反芻していた姿が思い起こされた。 それにしても、いかにもな素直さと屈託の同居した心優しいハイティーン男子の人物像だった。酔って帰宅が遅くなる母親のための食事の準備をしていたり、夏休みの体育倉庫に閉じ込められて飢えと渇きに苛まれるなか、筒と針金による手作りの捕捉器で窓から蜜柑の実を採り入れたり、工夫して号砲花火を打ち上げる器用さを見せたりすることと相まって、元首相殺害事件が取り沙汰されているなか、あまりにものタイムリーさに吃驚した。昨秋の公開作らしいが、実に驚いた。 その一週間ほど前に観た脚本作品の『猫は逃げた』は、犬猫映画は好まない僕ながら『愛なのに』に続く今泉×城定による“L/R15”となれば話は別だと赴いた作品だ。いかにも今泉作品らしい緩~い繊細さが漂っているうえに、タフでナイーヴな、ナイーヴでタフな若者四人組に微苦笑を誘われ、大いに愉しんだ。まさしく「“ね”コはかすがい」というオトボケ話だったが、かすがいが夫婦二人に留まらず四人に及んでいるところがいい。それぞれの人物造形がなかなか面白かったなか、週刊誌記者の沢口真実子を演じた手島実優が目を惹いた。 こうなるとやはり、当地でも上映されながら見送らざるを得なかった『アルプススタンドのはしの方』を片付けておきたくなって、スカパー衛星劇場録画を観たら、なかなか面白かった。僕は、四十七年前の高三の夏に何をしていたのだっけとついつい振り返ってみたくなったりした。 十三年前に一度だけ県の高等学校演劇祭の審査をしたことがあるのだが、三日間で15公演を観劇し、ほとんど休みもなく一日6時間近く芝居を観て、演目が終わるごとにステージに立ち並ぶ演劇部員を前にして、運ばれたマイクを手に立って客席からその場でコメントを出したうえで、最終日に総合審査をしてステージで講評を行うのは、予想以上のハードワークだった覚えがある。だが、野球の甲子園に当たる全国大会が翌年度開催だとは知らなかった。しかし、本作の原作は高校演劇の台本なのだから、実際にそうなっているのだろうと驚いた。 プロからも気に掛けられているらしいエース投手の園田が名前だけでちっとも姿を現さない展開に『桐島、部活やめるってよ』を想起したが、アルプススタンドのはしの方で声援も送らず醒めた目で観戦していた演劇部員の安田あすは(小野莉奈)、田宮ひかる(西本まりん)、元野球部の藤野(平井亜門)、ずっと続けていた学年一位から転落したばかりの「友だち、いないといけませんか」の宮下(中村守里)たちの交わす会話の妙を愉しんでいるうちに『セトウツミ』を思い出した。 本作のキーワードのようにも思える「しょうがない」については、あの頃、自分もよく思ったものだった記憶がある。そして、「しようがないことは、しようがないに決まっているが、しようがないで終わっていたら、それこそしようがない。だから俺は、しようがない…けど、で行きたい。“けど付き”にするのが俺の自負だ」などとぶっていたような覚えがある。そのせいか、万年補欠の矢野くんがプロになっている甲子園球場に宮下が誘って四人が観戦に来ていたことを気持ちよく観たが、それ以上に、プロには進めなかった園田が辞めずに社会人野球で続けている顛末のほうを好もしく思った。また、名前と違って、ちっともくすんでいなかった久住(黒木ひかり)の人物造形が、いかにも高校演劇の作品らしくて微笑ましかった。興醒めないようなかなか上手く見せていた気がする。 映友が「難点は本当の甲子園を使えなかったこと」というのは、確かにそうだが、これが甲子園のアルプススタンドのわけないやんと笑わされる緩い感じがなくなる気もすると同時に、そこが見立てを利かせられる舞台と映画の大きな違いだと改めて思った。ただ実際に甲子園ロケが果せたら果たせたで、宮下の立ち位置をどう置くかが難しくなりそうで、シート席でなく、一人離れて立ったまま園田投手を見守っていたポジションと安田たちの距離感をどう映し出すか、難儀しそうにも思った。 また別な映友が「予算的に甲子園を使えないのであれば、設定を県大会の決勝に変えれば良いのに」と言っていたことについては成程そうで、台詞は「決勝でもないのに、一回戦からって」とかいうのを変えなくてはいけなくなるし、最後の矢野選手の打席をどうするかというのも出てくるけれど、それでも、そのほうが映画化作品の理に適っている気がした。 *『アルプススタンドのはしの方』 推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/4660466110719602 | |||||
by ヤマ '22. 7.22. 日本映画専門チャンネル録画 '22. 7.23. スカパー衛星劇場録画 | |||||
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