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『X エックス』(X) | |||||
監督・脚本 タイ・ウェスト
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手元にあるチラシのトップには「『ミッドサマー』のA24が仕掛ける真夏のエクストリームライド・ホラー」とあって、ホラー系はあまり好みでないものの、どうしたものかと思い、この方面に明るい映友女性に検証依頼をしたところ、すぐさま観てきてくれて「めちゃんこ良かったです!エログロ使って、時には格調高く時には品なく、老いと若さ、性の深淵を描いておりましてよ。」と返ってきたもので、早速に観てきたのだった。 完全に '70年代B級ホラー&ポルノを模した、なかなか凝った造りに大いに感心した。七年前に観た『ピッチパーフェクト』['12]でクロエを演じていたブリタニー・スノウが、自主製作のしょぼくれたポルノ映画に出演する女優ボビー・リンを演じて、今どきすっかり珍しくなった'70年代的な惜しみない脱ぎっぷりを披露していたことに吃驚。『ラヴレース』['13]にも登場していた当時のポルノスター、ハリー・リームスを思わせる股間のシルエットを覗かせて『流浪の月』['22]の佐伯文と対照的だったジャクソン(スコット・メスカディ)の持ち物も、文を演じた松坂桃李と同じく実物ではないのだろうが、思いのほか繊細でディーセントな人物像には、文に通じるものがあるように感じた。 続いて現れた、齢八十を越していると思しき老女パールの驚嘆すべき“尽きせぬ性欲”と“若さへの憎悪に近い妬み”の底知れない深さには呆気にとられたが、エンドロールを観ていたら、スターになることへの執着に囚われていたマキシーンを演じたミア・ゴスの二役だとクレジットされて、また吃驚。 更には、彼女が若き日のパールを演じる第二部の予告が始まり、またまた吃驚。本作の舞台となった1979年から六十一年遡る1918年が舞台となるようだ。パールの強烈なキャラクターからして、彼女の若き日のほうが更に面白そうな気がした。 また、警察も怖気づいてしまうような惨劇の繰り広げられた現場の遺留品として残されたカメラを提げてきた部下が「何を撮っていたんでしょうか」と言ったことに対して「ろくでもないホラー映画に決まってるだろう」というようなことを言っていたのが、二重の意味で可笑しかった。ウェイン(マーティン・ヘンダーソン)たちが撮っていたポルノをホラーだと思い込む警察的決めつけへの揶揄と、本作の作り手たちが撮っていたのは間違いなくホラーだけれど、ろくでもないとは言い難い部分もあるではないかとの主張の二つというわけだ。 本作を映画日誌にするのは、続編も観てからと思っていたのだが、検分依頼をした映友女性の映画日記に触発されて、次作を待たずに記しておくことにした。なかなか愉快な文章で、先ずは「内容とは反する、心温まる鑑賞前」に噴き出し、「阿鼻叫喚で大量出血ですが、グロもエロもほどほどの描写でやり過ぎ感がなく、そこも品よく」の品よくが大いに気に入った。これを「品よく」と言うかと笑いながら、検証報告に記してあった「エログロ使って、時には格調高く時には品なく、老いと若さ、性の深淵を描いておりましてよ。」の“品なき格調高さ”とは、それだったかと納得した。だから、スプラッター苦手の僕でも愉しく観られたのだろう。 思えば、マキシーンの水浴に迫る鰐の俯瞰ショットには、ブレイク・ライブリーの出演していた『ロスト・バケーション』を想起させるものがあったような気がする。僕としては「これがかの、の『悪魔のいけにえ』」よりも本作のほうが面白かった。映友の記してあった「内容なんてまるでなかった「悪魔のいけにえ」に比べて、今作は登場人物みんながキャラ立ちしています。特に女性陣。」に異存なしと快哉を挙げた。 僕には「…ので、考えてみました」などということは更々なかったのだが、書かれていた“二度の出征”に触発されて思ったのは、いない時期だけで済まない後遺症をもたらしていたのかもしれないということだった。おそらくは出来ないなりに応じていた心優しいハワード(スティーブン・ユール)が、老齢でそれすら適わなくなっているような気がしなくもなく、ますます以て1918年にまで遡る次作が楽しみになってきた。 もしそうだとすれば、本作での老いたパールとハワードの交合場面は、単にハワード命懸けの献身ではなく、思い掛けないポルノ映画撮影による尋常ならざる刺激を受け、これまで専らハワードが後始末的に担ってきた殺人の領域にパールが踏み入れたことで起こった奇跡によって何十年ぶりかの結合を果たしたうえでようやく引導を渡されたという神々しいものだったのかもしれないと思ったりした。まさかだとは思うけれども、次作において若きパールとハワードは、どのように描かれているのだろう。 推薦テクスト:「ケイケイの映画日記」より http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20220718 | |||||
by ヤマ '22. 7.18. TOHOシネマズ1 | |||||
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