『彼らは生きていた』(They Shall Not Grow Old)
監督 ピーター・ジャクソン

 凄い作品を観たような気がする。さすがは、ピーター・ジャクソンだと驚いた。半年ほど前に観たばかりの1917 命をかけた伝令』の映画日誌折しも世界中が新型コロナウィルスに大騒ぎしているが、戦場の公衆衛生たるや如何に凄まじいものかを再認識させられたように思う。そして、死屍累々とはこれかという有様に、その場に身を置かざるを得なくなった場合を思ってゾッとさせられるような映画づくりを作り手が企図していることがよく伝わってきた。のっけから大量の蠅が死骸にまとわりつくように飛び回っていたし、やたらと汚水を浴びるし、なかなか凄い画面だったような気がする。と綴ったものを、色付いた記録映像で目の当たりにした驚きもさることながら、その記録映像とシンクロした数々の西部戦線帰還兵の証言音声が語られ、これはいったいどういう代物なのかと、よもやこの題材で『コリン・ マッケンジー/もうひとりのグリフィス』['96]のようなことをしているんじゃないだろうし、と恐れ入った。

 帰宅後、チラシを読むと「BBCが保存していた600時間もの退役軍人のインタビュー音源をナレーションの形で構成し直し映像と音声の合成を行った」のだそうだ。恐るべき編集労力だと驚嘆した。それぞれ別個のものとして保存されていたものを卓抜した技術で加工し、色も動きも語りも、とても1914~18年の戦争の記録とは思えない生々しさだった。

 そして、先ごろ読んだばかりの証言 沖縄スパイ戦史の少年兵たちと変わらぬ年頃で、支給される軍服や軍靴のほうに体を合わせろなどという無茶を言われる、旧日本軍ともさして変わらない軍隊文化が、死屍累々の消耗戦とともに捉えられていた。戦争というものは、軍隊というものは、古今東西こういうものなのだと改めて思う。“日本男児”だけではないということだ。日本軍は特殊だとか言われがちだが、全然そうではないということが証言からも記録映像からも伝わってきて、その普遍性に打たれた。そういう意味でも、凄い映画だった。

 その一方で、捕虜にしたドイツ兵にまつわる話は、双方に互いの言葉を解する者がいたこともあってとのことわりがされていたにしても、敵味方を超えた最前線で苦労している者同士として傷病兵を一緒に運んでいたり、監視役も付けない形で自陣に置いている様子が、証言とともに映し出されていて、びっくりした。無論これが総てではなく、他方で捕虜虐待のようなこともあったのだろうが、こういうことも普通に起きていたりもすることを知るのは、非常に大事なことだと思った。おそらく指揮官によるところが大きいのだろう。




推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
https://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/20090201/
by ヤマ

'20. 8.29. 美術館ホール



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