日々のエッセイ


 雨の降る日に読みたい絵本として、真っ先に思い浮かぶのは、
 そのタイトルもズバリ『かさ』(絵・太田大八・文研出版)です。
               
 モノクロの風景の中、駅におとうさんを迎えに行く女の子の傘だけが、
 目の覚めるような赤。静かな住宅街から、にぎやかな駅前までの
 道のりや、一人で歩く女の子の気持ちを、文字をまったく使わずに、
 饒舌に語っています。知らない町なのに、一度歩いたことのあるような
 錯覚にとらわれる、懐かしい感じの絵本。1975年初版ですが、
 今の子どもたちが読んでも、知ってる町と思える身近さが漂っています。

 雨で連想するのは、かさ、長ぐつ、レインコート、てるてる坊主・・・、
 そして、あまがえる。小さくて緑色のあまがえるは、愛らしいですね。
 谷中(東京都・文京区)に、ケロリン堂というオリジナル・カエルグッズの
 お店があり、その看板のカエルに会いに、小雨の中、日暮里駅を
 降りてみました。
               
  いたいた、このとぼけた顔のカエルです。でも、お店は生憎、定休日。
  以前来た時は、このカエルが主人公の四コマ漫画と、カエルの友だちの
  空色をしたオタマジャクシの人形を買いましたっけ。
  その時は、谷中の町全体がイベントをやっていて、『ふくふく』という
  幸せそうな名前の、この町でだけ使える紙幣を持っていきました。
  抽象的なきれいな絵柄のお札で、本当に物が買えちゃうのが不思議
  でした。
  谷中は、熟年層の散歩道として、注目を集めているそうですね。歩く
  のにちょうど良い狭さと、和のテイストにあふれた商店街、
  “夕焼けだんだん”といった昭和時代的な通りの名前も、大人に
  好まれる理由でしょうね。
      
           
                   
                       
 商店街の看板が、いちいち可愛かったので、写真にとって回りました。
 うちの近所には大型ショッピングセンターはあるけれど、こういう
 昔ながらの商店街が無いので、ときどき他の町に出掛けては、小さな
 店の棚の奥でそっと待っている、珍しい商品に出会いに行きます。
 
  酒屋さんに貼ってあるビールのポスター。昔の推理小説や怪奇小説の
  挿絵みたいで、かえって新鮮。そういえば最近、少年少女向けに復刻
  されている江戸川乱歩の探偵本なんかは、こういう画風の昔のまま
  の絵が使われていますね。ムードが高まるからでしょう。
  これは靴屋さんの外装。  
    アンティークショップの店番犬。
  本物なのに飾り物みたいに、ショーウィンドウに澄まして座っています。
  それに対して、こちら、屋根の上の
  白猫は、本物みたいだけれど、作り物。前足やしっぽの具合といい、
  表情といい、今にも動き出しそう。
  町歩きを楽しんでいると、雨のうっとうしさも忘れてしまいます。
  6月の雨に濡れてみるのも悪くないですよ。
                                    2010年6月
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