「では司さん 今日はこれで失礼致します」
・・・・・・・・・・
女がドアノブに手を掛け 部屋から出て行く
俺はその後ろ姿を
ただ見送ることしか出来なかった・・・・
あかい糸
act.9
携帯を握り締め もう一度 着信履歴を確認する
―――――――――― 牧野 ――――――――――
俺は・・・・どうしたらいい?
あの女と
―――――― 俺は 本当に寝たのか?
・・・・・・・・・・・
嘘だっ!!
俺が牧野以外の女を抱くはずがねえ!!
あいつ以外・・・・ あいつ以外 俺にはありえないんだ!
・・・・・・・・・・・・・・
だが あの日 ――――――――――
目覚めた俺の隣りには あの女がいた
俺の部屋で
俺のベッドで
俺のバスローブを着た女 ―――――
ベッドの下に脱ぎ捨てられた衣服
――――――――― そして
シーツに染み付いた血痕・・・・
・・・・・・・・・
ブンブンと頭を振り 携帯の電源をオフにする
パーティーがあったあの夜
確かに俺は あの女をエスコートした
天王寺グループの社長から どうしてもと頼み込まれ
ビジネス上 断り切れなかったのは事実
不機嫌全開の俺の腕に手を絡め エスコートの最中に
「今日は・・・父が無理を言いまして 本当に申し訳ありません」
お嬢様には珍しく 低姿勢でそう言われた
その意外な態度に 機嫌が少し持ち直したのも事実
ウエイターが運んできたグラスを手に取り 2人で乾杯もした
だが どれもビジネス上のことだ
あの女に興味なんて これっぽっちもねえ
それなのに
――――― 俺は あの女を抱いたのか?
パーティーの日 用意されていた俺の部屋
少し飲みすぎたと言って パーティーを抜け出した
普段なら あの程度の酒で酔うはずがない
ただ あの時はいろいろと忙しく ろくに寝ていなかったせいもあったんだろう
酔いが激しく そうそうにベッドに倒れこんだのは覚えている
その後
牧野の・・・・・ 夢を見たんだ
部屋をノックする音
扉をあけると 目の前にはあいつがいて ――――――――――
俺は あいつを・・・・・・抱いた
―――――― 夢の中で
そして目覚めた俺の横には あの女・・・
あれは・・・・・夢じゃなかった?
俺は
牧野と・・・・・ あの女を間違えたってのか?
そんなはずはねえ!!
俺が牧野を間違えるなんてありえない
それでも ―――――
目の前に突きつけられた現実に 俺は混乱の渦へと飲み込まれていく
そして女が目覚め 事の次第は明かされた
「具合が悪いようでしたので 様子を伺いに行ったんです。
ノックをしたら あなたが出てこられて 強引に ――――――――――
私・・・後悔はしていません。
でも一夜限りの関係で終わらされるのは嫌です」
頬を赤らめながらも キッパリと言い切った女は
呆然とする俺をよそに 身支度を整え部屋から出て行った
数日後 ―――――――――
ババァから掛かってきた1本の電話
――― 『天王寺グループのお嬢さんと 縁談の話があります』 ―――
そのひと言で 両グループ間でどんな会話がなされたのか
俺は瞬時に読み取らざるを得なかった・・・・・・
――――――――――コンコンッ
ドアをノックする音に ビクッ と体が反応する
「なんだ」
ドアが開き ”そろそろ外出のお時間です” と中村が仕度を始めた
準備された上着に袖を通し 部屋を出ようとした俺を
「司様 お忘れ物でございます」
そう言って中村が呼び止める
そして手渡されたのは
俺の ―――― 携帯電話
それを掴み 唇を噛み締める
掴んだ指の隙間から垂れる赤いリボン
その鮮やかであるはずのリボンさえ
今の俺には
まるで 枯れ落ちた花びらのように
色褪せて見えた
なあ 牧野・・・・・・
こんな俺を おまえはどう思う?
自分の記憶に ハッキリとした自信が持てず
折り返しの電話すら掛けられない俺を ――――――
おまえは どう思うんだ?・・・・・
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