「だめだ 出ねえ」




「あきらのもか・・・んじゃ 今度は俺が掛けてみっか」




遠く離れた日本で ――――――――――




あいつらが そんな会話をしていることなど知る由もない俺は




突然目の前現れた女に




ただただ激しい嫌悪感を抱いていた














あかい糸
act.8















「また・・・あんたか・・・」




掴んだままの 誰からも応答のない受話器を置いて 女の目を見据える




俺の鋭い視線に まるで怯えた様子を見せない女




ある意味 ―――――― 根性が据わってやがる




後ろから 慌てて飛び込んできた中村が バツが悪そうに頭を下げて言った




「天王寺様。申し訳ありませんが、突然の来客はご遠慮いただいたおります」




深々と頭を下げる中村に対し




「私は・・・・客になるのかしら?」




不敵な笑みを浮かべながらも 女の視線は俺から逸れることは無い




「中村。さがってろ」




「しかし・・・・」




戸惑う中村を部屋から出し 溜息を吐く




「何の用だ」




「用がなくては来てはいけませんか?」




自信たっぷりと言った様子で 女が答える




「これでも仕事中なんでね。用がないならお引取りを」




あくまでもビジネスの姿勢を崩さない




「まあ 随分と他人行儀な言い方なさるのね。私はあなたの婚約者になる女なのよ?」




目の前の女が




節目がちに 遠慮がちに




だが ――――――――――




ハッキリとした口調でそう言った。




「またそれか。俺は ―――― 認めたわけじゃねえ」




「酷いわ まだそんな事を・・・
 私になさったことを お忘れですか? あなたは私を ――――― 」




―――― RRRRR RRRRR




女が言いかけたところで




再度 俺の携帯が音ともに振動を始める




今度は・・・・・誰だ? また牧野・・・・・か?




デスクに放り出された携帯に視線を移す




「どうぞ? 電話に出られたほうがよろしいんではなくて?」




「いや・・・・・いいんだ
 それより 俺はあの日のことは何も覚えちゃ ――――― 」




「その電話・・・・牧野さんからじゃないかしら」




―――――――――― !!!! ――――――――――




女がデスクの前まで歩み寄り 書類の上で震える携帯に手を伸ばした




――――――――――パシッ




女の手を掴み 力いっぱい握り締める




「てめえが・・・なんで牧野のことを知ってる!」




「いっ痛い! 離して下さい・・・」




歪む顔




それでも視線だけは逸らさない




女の手を振り払うように離し 鳴り続ける携帯を手に取った




ディスプレイに表示された名前は




―――――――――― 総二郎・・・




普段 殆ど鳴らないこの携帯




この短時間に 牧野・類・あきら・総二郎からの電話・・・・




牧野に ―――――――――― 何かあったのか?




体の中の細胞がザワザワとざわつき始める




・・・・・・・・・・・・・




「おい・・・ 牧野に何をした?!」




俺の横で 手首を押さえ青ざめている女に詰め寄る




「わっ私は何も・・・」




「何をしたんだ!! 言え!!」




「わ・・・わっ私はただ! あなたの婚約者ですと挨拶に行っただけです!」




――――――――――!!




俺の・・・・婚約者? 牧野に挨拶?




何を言ってるんだ・・・この女は




「たった今 日本から戻りましたの。
 でもご安心下さい。 あなたのなさった事は伏せておきましたわ
 このことが世間に知れたら あなたの名前にキズが ――――――― きゃっ 」




女の胸ぐらを掴み 引き寄せる




例え女だろうと




牧野を傷つけるやつは 許さねえ




「牧野に挨拶だと? あいつに会ったのか?!」




「・・・・お会いしましたわ。あなたの婚約者として。
 牧野さんにも 司さんのことは諦めていただきたいとお願いして参りました」




「っんだと?」




「あなたは!! 私になさった事の責任を取る義務があります!!
 私はあなたに・・・・・あなたに ――――――――――」




「違うっ!」




手を離し 応接用のソファに腰を下ろす




「違くはありませんわ。あの夜 ――――
 私はあなたの部屋へ行き そして・・・・・あなたに抱かれました。
 あなたは酷く酔っておられたようですけど・・・・・」




止めろっ!! 違う!!




俺は・・・・・




俺は ―――――――














牧野・・・・




俺はおまえを ――――――――――




裏切ったのか?・・・・・・














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