ワゴンは、路面の凹凸につれ、はげしく振動する。
  手首足首を縛られた後、麻耶と千登勢はワゴンの荷物室に荒っぽく積み込まれた。壁に背中をつけ、体育座りのような格好で隣り合わせに座らされる。向かい側には銃身の2つある猟銃を持った天狗の男が胡座をかいていた。散弾銃というのだっけ、と麻耶は思った。隣の千登勢は、しゃくりあげると天狗が怒鳴るので、声を出さずに泣いていた。
  始め、天狗は「荷物の中身を見たか」としつこく訊いてきた。2人とも無論そんなものは見ていなかったからかぶりをふり続けたが、天狗はなかなか信じようとしない。しまいに、運転席の赤鬼が「放っとけ。どの道同じだ」と言うと、天狗は「そうだな」と納得したらしく、もう訊いてこなくなった。
 「どの道同じだ」というのはどういうことなのだろう―。
  麻耶は天狗の方をちらりと覗った。すると天狗がにやりと笑った―ような気がした。もちろんお面で表情は分からないので、気がしただけだが。

  「歩け」
停まったワゴンから出された2人が入れられたのは、丘の中腹に穿たれた大きな横穴だった。窓のない荷物室に入れられていたので方向感覚がおかしくなっているが、どうやら湖の周辺にある自然洞窟のひとつらしい。足首の縄だけ解かれた2人は、散弾銃を持った天狗に促されながら、穴の奥へと進んでいった。

 「湖の周辺にはたくさんの自然洞窟があり、中にはどこまで続いているのか今でも分からないものがある」―麻耶は、以前理科の阿賀野先生が言っていたことを思い出した。「子供が入ったりすると危険だから、そんなのは全て封鎖してあるけどね」
 奥に進むにつれ、道は下り坂になり、天井は低くなっていった。明かりは、数メートルおきに吊るしてある裸電球だけである。すると、前に鉄製の扉が見えてきた。他のところは真っ赤に錆びているが、錠前だけが新しいものに取り替えられている。どうやら、封鎖されていた洞穴を赤鬼たちがこじ開け、自分たちの根拠地として使っているらしい。

 「入れ。早くしろ」
  鉄扉を空け、2人の背中を天狗が乱暴に押す。中はかなり広く、ドーム天井のある部屋のような形をしていた。洞窟の中なのに、電球のせいかほの明るい。 
  二人を部屋に入れると、天狗は外から鍵を閉めてしまった。
 「待ってろ。おやじにご報告だ。ま、一応な」
  鍵のがちゃつく音と一緒に、赤鬼と天狗のくぐもった笑い声が、外の洞穴を遠ざかっていくのが聞こえた。
 しばらくたって、ワゴンのエンジン音がかすかに聞こえてきた。洞穴の中は、音がよく響く。「おやじ」は、どうやらここから離れた場所にいるらしかった。

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