甘く蕩ける夜


 

「や……ああっっ」
突き抜けた鋭い快感に、細い身体が跳ね上がる。無意識に逃げを打つ青年を背後から羽交い締め、マイクロトフは低く笑った。
「……どうした? もっと声を出せよ、カミュー」
熱い息が耳を擽る。柔らかく耳朶を甘噛みされて、逞しい腕の中でカミューは身悶えた。男の舌先がゆっくりと首筋を伝い、肩口のあたりを行き来する。格別に弱いところを執拗に攻め立てられて、耐えられない甘い喘ぎが立て続けに零れ出た。
男の片手は先程から緩やかに彼の胸を撫でていた。時折、桜色の突起を指に挟んで軽く捻る。それが刺激に色づいていくのを、マイクロトフは背後から堪能するのだった。
そしてもう一方の手は、しっとり湿ったカミューの内股を這っている。核心には触れようとせず、周辺だけを徹底的に攻めつける快楽に、すでにカミューは十分過ぎるほど狂わされていた。
「マ、マイクロトフ……っ、もう…………」
「もう……何だ?」
相変わらず緩慢な愛撫が続く下肢とは逆に、肩から背中へと与えられる刺激は強い。軽く歯を立てられ、這い回る舌に汗が舐め取られると、カミューの意識は霞んでくる。
「何を……どうして欲しい?」
「マイクロトフ…………」
切ない吐息を洩らしながらも、カミューは望むことを口に出来ない。焦らす男を恨むような視線を一瞬漂わせ、朦朧としながら自らの手を伸ばし始めた。
「待てよ、そう慌てるな」
マイクロトフは笑いながら自身を握り込んだカミューの手を剥がした。耐え切れない疼きが先端から涙となって溢れている。覗き込んでそれを確かめたマイクロトフは、片手で彼の頬を撫でた。
「もう、こんなになって…………可愛いぞ、カミュー」
「マイクロトフ…………ッ」
「自分の手などで満足できるのか……?」
揶揄するように言われ、カミューは唇を噛んだ。頬は涙に濡れている。抑え切れない快楽に噎び泣く彼は、たとえようもなく美しかった。
「た、頼む…………」
次第に懇願が混じる。ようやく本音を吐き始めた唇に、顎を掴んで無理矢理こちらを向かせるようにして男はくちづけた。舌先で唇を割ると同時に、貪りつくようにカミューは応えた。
「んっ…………ん……っ」
絡み合った舌が激しく互いを吸い上げ、口腔を荒らし回る。我を忘れたようにくちづけに酔いながらも、カミューの手は何とか自身を慰めようとし、それを阻止するマイクロトフの手と空しい争いを続けていた。
「はっ…………」
ようやく激しいくちづけから解放されたカミューの唇から、含み切れなかった唾液が一筋、伝い落ちて顎を滑った。やや虚ろになった眼差しは、苦痛に似た快感に潤んでいる。その扇情的な表情に、マイクロトフはきつく彼を抱き込んだ。
「ああ……おまえは綺麗だよ、カミュー…………」
「マイクロトフ、ああ…………頼むから……」
「頼むから……何だ……?」
「わ、たしを…………っ」
なまめかしく腰を揺らして、己の手首を拘束したマイクロトフの手に自身を擦りつける。すでにカミューは正常な思考を欠いていた。いつもなら決して出来ない浅ましい痴態を演じていることさえ、彼の意識にはない。
焦らされ続けて、しとどに涙を流している屹立に、ようやくマイクロトフは微かな憐憫を感じた。
「……して欲しいか?」
優しく問うと、カミューは幼げに幾度も頷いた。
「触って欲しいのか…………?」
「は、早く…………ああ…………」
身を捩ってねだるカミューに、マイクロトフは応え始めた。始めは緩やかに、次第にリズミカルに擦り上げ、恋人の性感をたっぷりと掻き回してやった。
「あっ……ああっ…………」
掠れた喘ぎと共に、再び意識のない涙が溢れ出る。触れる前から十分に張り詰めていたそれは、長く持たずに弾け飛んだ。
「…………っっ!」
「……何だ、もう達ってしまったのか?」
掌を濡らした迸りを見せつけるように目前に曝すマイクロトフに、カミューは恥じ入って項垂れた。そんな悄然とした様子にマイクロトフは笑った。
「いいさ、何度でも達かせてやるとも。さあ、カミュー……今度はおれの番だ」
「な、何を……」
微かに怯えたようにカミューが戦慄く。
「これで満足したわけではないだろう? 欲しいものは、まだあるんじゃないか……?」
彼は濡れた指で、秘められたカミューの入り口を撫でた。途端にびくりと竦んだカミューに頷いてみせ、彼の身体の向きを変えた。
「ここに……欲しいだろう? だったらおれを、その気にさせてくれ」
戸惑った表情に、彼は眉を寄せた。
「……わからないか? このままでは痛い思いをするのはおまえだ……濡らすんだよ、おまえのここで」
するりと唇を撫でられて、ようやく男の意図を察すると、カミューはさっと紅潮した。
「そ、そんな…………」
「いいのか、このまま入れても? おれはそれでも構わないが……」
「マイクロトフ……」
「…………そんな顔をするな」
マイクロトフは優しく微笑んだ。
「おまえを傷つけたくはないだけだ。何も、おまえの口で終わらせようとは思っていない。おれだって、おまえの中で達く方がいいからな」
それでも躊躇っているカミューに焦れたように、マイクロトフは彼の髪を掴んで押し付けた。すでに半勃ちになっている逞しい欲望に、カミューはもう一度不安げな顔をさ迷わせ、相手が意思を変える気配がないのを見て取ると、諦めて目を閉じた。
「カミュー……、体勢を変えろよ」
「え?」
「……おまえも気持ち良くしてやるから」
言うなり、彼はカミューの片脚を取った。力任せに引き摺られ、マイクロトフの顔を跨ぐように強いられているのを悟ると、今度こそカミューは狼狽した。
「ま、待ってくれ、マイクロトフ! そんな、あっ」
力では到底敵わない。抵抗も空しく、互いの核心を目前にする体勢となり、カミューの羞恥は頂点に達した。己の下腹で無防備に泣きじゃくるカミューに、マイクロトフは愛しさで一杯になった。
「馬鹿だな……泣くことはないだろう? 恥ずかしがることなど、何もない」
「だ、だが…………」
濡れた声で言い返そうとするカミューだったが、唐突に自身をマイクロトフに含まれて、声を失った。
「ひ…………ああ……っ」
情熱的な愛撫が施され、カミューは目眩を覚えた。
「カミュー、おまえも…………」
低く命じられ、彼は躊躇しながらも男を含んだ。途端に喉を突く欲望に苦しげに眉を寄せ、それでも必死に舌を這わせる。自分の下腹から聞こえてくる淫らな音に、恥辱混じりの疼きが駆け巡った。
マイクロトフは殊更に音を立てて舌を使った。清廉なだけにカミューがそれをひどく嫌がり、同時に激しく感じてしまうことを知っているからである。
「やっ……いや……だ、マイクロトフ……っ」
拒絶の言葉とは裏腹に、マイクロトフの口中でひときわ大きな反応が起きる。無意識ながらに腰が揺らめいた。
マイクロトフは執拗にカミューの弱みを攻め立てながら、両手で白い双丘を割った。総毛だったように震え上がる恋人を宥めるように、なめらかな曲線を軽く撫でてから一気に指を突き刺した。
「ひ、あっ……!」
先程、戯れのように施されたぬめりによって難なく導かれた男の指に、カミューは掠れた悲鳴を上げた。そこにあるのは苦痛ばかりではない。温かな男の口腔で、彼は激しく脈打っている。
「……っ、マイクロトフ、抜いてくれ……っ」
奉仕することを忘れ、必死に懇願する美しい騎士。
絶え間ない喘ぎに息を乱されたまま、彼は男の下腹に突っ伏して、切ない悲鳴を洩らし続けた。
「……何故だ? ここはそう思ってないようだが。おれの指を咥え込んで、こんなに締め付けてくる……」
「い、言わないでくれ!」
「これでは足りないか……?」
差し入れた指が乱暴に蠢くと、カミューは苦痛と快楽に仰け反った。だが、次にマイクロトフの探り当てたポイントに、今度はなまめいた吐息が零れた。
「あ、あ…………!」
「…………ここがいいんだろう?」
くすりと笑ってマイクロトフはそこを重点的に掻き回し始めた。たまらず揺れる腰は、薄明かりに白く浮かび上がり、得も言われぬ淫らさを振り撒いた。
「いや、い……やだ、マイクロトフ、頼むから…………」
ひっきりなしの喘ぎに掠れ果てた声で、とうとうカミューは哀願の言葉を紡ぎ出す。
「頼むから、…………何だ?」
あくまでも意地悪く問い質す声に、長い逡巡の後、途切れ途切れの言葉が返った。
「お……まえが……、欲し…………」
啜り泣きが洩れた。思わずマイクロトフは苛んでいた指を止め、カミューを窺った。表情こそ見えなかったが、薄い肩が弱々しく震えていた。
誰よりも誇り高い、美しき赤騎士団長。
そこにあるのが肉体的な快楽だけならば、彼は死んでも屈したりはしないだろう。マイクロトフへの愛ゆえに、屈辱的な行為に耐え、恥辱さえ甘んじて受け入れる。
弱みを曝け出すことを恥じながら啜り泣く、愛しい恋人。
マイクロトフは温かなもので満たされた。カミューの腰を支えてベッドに倒すと、体勢を入れ替えて彼を真上から覗き込んだ。カミューは両腕で顔を覆う。その手首を掴み、やや強引に腕を外すと、涙に濡れた綺麗な顔が現れた。
「カミュー…………」
くちづけようとしたが、カミューは顔を背けて逃げた。戦慄く唇が小さく呟く。
「み…………見ないでくれ…………」
「カミュー?」
「わたしは…………こんな…………」
欲情と、屈辱感に塗り込められた顔を見せたくないのだろう。シーツに頬を擦り付けるようにして、マイクロトフの視線から逃れようとしている。
「……馬鹿だな」
マイクロトフは苦笑した。
少しばかり、やり過ぎたかもしれない。恋人の困惑や、切ない懇願。普段見られない表情を引き出したいが為に、殊更執拗に嬲ってしまった。
「すまない、カミュー……おれが悪かったよ」
「……ひどい……男だ、おまえは……っ」
未だ止まらぬ涙を啜り上げながら、カミューは男の胸に縋りついた。腕の中で身を震わせる恋人の髪に、マイクロトフはそっと何度もくちづけた。
「だが…………おれを好きだろう?」
カミューの腕は男の首に回された。言葉よりももっと強い答えが触れ合う体温から聞こえてくる。
「償いに…………気が狂うくらい、良くしてやるから……」
耳元に甘く吹き込みながら、マイクロトフは恋人のしなやかな脚を抱え上げた。

 

                                      END.

     


   

うーむ………………、
どうも奥江は「強くて上手い攻め」に
とことん誤った認識があるようです。
何故にオヤヂ入るか、青……(爆笑)
どうも「言葉嬲り」に執着しているし(笑)
エロってマジに難しいです。
また某所で研究してこなきゃ(←……。)
さて、一応エロ第一作はここで寸止め(苦笑)

「青、やっぱり違うような気がする……」
と感じながら、実は続きを書いてます。
ここで二手に分かれてください(笑)

 

    一応エロもどきで満足しておく / このサイトの青はやはり……。