最後の王 extra/2-1


「ここ……なのか?」
気遣うように向けられた声が、束の間の自失に陥っていたカミューを掬い上げた。
眼前には長い稜線が横たわっている。緩やかな弧を描いて聳える山々、その峰の形の幾つかに覚えがあった。
ゆっくりと愛馬の向きを変えながら、辺りの景色を一望する。
乾いた風が吹き抜ける碧の海、遠くに浮かぶ地平線。石造りの街から見上げる空も澄んで美しかったけれど、故郷で目にするそれは更にいっそう深い青味で、目に染みた。
そうして再び視線を戻せば、鬱蒼とした山の裾根に、細い線のような土肌が見え隠れしている。その一点を指しながら、カミューは静かに言った。
「開かれた山の名残りだ。あそこから村へ下りてきて……そして戻っていった」
声に引かれて馬を寄せた男が、窺う眼差しでカミューを見詰める。
「……大丈夫か?」
心からの慰撫と沈痛、そして遣る瀬ない怒りを秘めた声音である。初めて惨劇の跡に立った男は、カミューの心持を慮るその一方で、同胞がはたらいた無体を忌んで、カミュー以上に複雑な胸中に陥っているようだった。
そんな男の面差しに気付いて、弱く笑み掛ける。
「大丈夫だよ、……自分でも少し驚いているけれど」
馬を下りると、男もすぐに倣った。互いの愛馬に挟まれるようにして、改めて草の原に見入る。
石造りの苔むした井戸の縁、ところどころ草の間から覗く建物の土台跡。そうした僅かな残骸でしか、そこに村が在った証を見出せぬ寂寛とした荒れ地。そんな光景を前にして、けれどカミューの目には、かつての情景がはっきりと蘇っていた。
朝まだき、鶏の鳴き声で開き始める家々の窓。
食事を終えて、畑仕事に向かう者、狩りに出る者とが行き交う小路。
夕餉の時間を迎えて家々から立ち昇り始める細い煙。
帰宅を促す声と、子らの返事が交錯する、のどかで優しい草原の日暮れ───二度と戻らぬ、遠き日々。
「……ここに戻ったのはあの日以来だ」
そんなふうにカミューは切り出した。
「成すべき役目を果たし終えて初めて、戻る資格が得られると思っていた。そしてそれは、生きて叶えられるものではないとも分かっていた。それで良かったんだ。たった独りで墓を守って生きる強さなど、わたしにはなかったから」
手向けの花ひとつ備えに戻ろうとせず、そんな自らの不義理から目を背けて、ただ一心に報復へと突き進んだ。眼には死した村の姿が焼き付いていた。何処で何をしていても、それは片時も離れずカミューを苦しめ、同時に、支える力にもなっていたのだ。
「カミュー……」
案じる気配が強くなる。凝視してきた男に、カミューは小さく首を振った。
「どれだけ理由を付けたところで、ごまかしだな……。足が向かなかったのは、怖かったからだ。失くした世界を直視して、あの日と同じ痛みに見舞われるのが怖かった。だから復讐を言い訳にして逃げ続けてきたんだ」
でも、と唇を上げる。男の目には泣き顔に映るだろうと自覚しつつ、それでも微笑みを浮かべようとした。声は掠れ、弱く震えた。
「驚いているんだ、……自分自身に。ここに立てば、怒りや悲しみが蘇って、とても平静ではいられないだろうと思っていた。無惨な亡骸や焼けた家々ばかりが思い出されるだろうと……。なのに、どうしてなのかな……、楽しかった頃の記憶しか浮かんでこない。それほど自分本意な人間ではなかったつもりなのに」
最後の一節に自嘲が滲んだ。すると、どうしたものかと迷う素振りを見せた後、男がカミューの肩に手を乗せた。
「幸せな昔を思い出して、それで心苦しく感じているなら、だとしたらカミュー……おまえは考え違いをしている」
言葉を探そうとしてか、いつもにも増して口調は重々しい。
「おまえの胸に浮かんでいるそれは、村の方々がおまえに覚えていて欲しい記憶なのだと、おれは思う」
「覚えていて欲しい記憶……?」
「そうだ。グラスランドでは、人は亡くなった後に精霊となるのではなかったか? 巧くは言えないが、おまえが暮らした村、守りたいと望んでいた世界を忘れないでいて欲しいと、精霊となった方々がおまえの心に映し出しているのではないだろうか」
男には似合わぬ、詩的な言いようだ。カミューは瞬いて、幼げに呟いた。
「そうなのかな」
すると彼は、自信たっぷりに胸を張った。
「信じろ。そう的外れなことは言っていない筈だから」
「……「筈」? こういうときは言い切った方が説得力があるんじゃないかな、皇王様」
肩から伝わる温もりが染み入るように胸に溶け込む。やや力を増した手に引き寄せられて、カミューは男の広い肩に額を預けた。
彼が言うなら、信じて良いのかもしれない───カミューは努めてそう考えた。
この男によって今がある。彼が居たから、妄執の鎖から解き放たれた。人と心を繋ぐ幸福を思い出せたのだ。
彼の温かさは、かつて幼い自分を包んでくれた村人のそれを思わせる。この男の傍でなら、大切だった人々の笑顔を胸に宿し続けていられるかもしれない。

 

「……おまえが居て良かったよ、マイクロトフ」
くぐもった声で囁くと、男は誇るような調子で返した。
「執務の調整には苦労したが、そう言って貰えると、同行した甲斐があったというものだ」
───そういう意味ではないのだが。
カミューは相手に見えぬように笑みを零した。
一国の王ともあろう者が、友の「里帰り」に同行するため、国を空ける。しかも、その行き先が、現時点では決して友好的とは言えぬ地とあって、王の希望は即座には受け入れられなかった。騎士団側の要人は、主君の心情を重んじてか、比較的早いうちに了承を示したが、宰相グランマイヤーをはじめとする議員連は、マイクロトフが抗議の断食を開始しかねない段になって、渋々とこれを認めたのである。
大事になる前に、一人で城を抜け出せれば良かったのだが、そうもいかなかった。マイクロトフ、そして一部の騎士たちには、いちど行方を眩ました事実が相当に尾を引いていたようで、カミューの身辺には、常に精神的な負担にならない程度の絶妙な監視態勢が敷かれていたからだ。
城下の散策を望めば、すぐさま随行志願者──上から命じられていたのか、大抵は、あの親愛丸出しの若い赤騎士だった──が飛んできたし、かつて脱出の際に使った城壁の古扉の鍵も二重にされるという念の入れよう。これでは、たとえ置き手紙を残して首尾良く城を出たにせよ、「ならば供を」と騎士に追われるのは必定、とても決行する気にはなれない。
こうした訳で、困惑しつつ退城の許可を待っていたカミューは、あるとき客間の机に嬉々とした顔で地図を広げた男を前に、やれやれと肩を落とすしかなかったのだった。
さて、執念でグラスランド行きを勝ち取った皇王には、条件が二つ課せられていた。
一つは、騎士団の判断に応じて、グラスランド領民を刺激しないギリギリの範囲内にまで、警護の騎士を同行させること。そして今ひとつは、向こう数週──つまり、城を空けると予想される期間──の執務で、前倒しが可能なものをすべて片付けていくことだ。
前者にはマイクロトフも特に異論は述べなかった。皇王の安全を第一とする臣下の忠義は軽んじられない。内心では「二人きりの方が」と考えているのが明白だったが、はっきり口にするほど迂闊ではなかったようだ。
問題は後者である。
高々と積まれた書類の隙間から懇願されて、渋々手を貸した日々を思い返すと、ささやかな皮肉の一つも向けずにはいられない。カミューは男から身を離して、さらりと言った。
「執務の調整、ね。だったらわたしも苦労した覚えがあるけれど?」
けれど男は神妙に、かつ感嘆の色まで漂わせながら頷いてみせる。
「まったくだ。本当におまえには驚かされてばかりだな。グランマイヤーも、「剣の腕ばかりか、政治家としての才も秀でている」と褒めちぎっていたし」
「……手伝っているところに踏み込まれたときは、どれだけ怒られるだろうと肝を冷やしたけれどね……」
この男には、皮肉もそうとは伝わらないらしい。我が事のように誇らしげに賞賛されて、カミューは脱力した。
「まあね、王様の仕事なんて、手伝いたくてもなかなか手伝えるものじゃない。貴重な経験をさせて貰ったよ」
「この先も、おれが退位するまで、幾らでも経験させてやれるぞ?」
おまえね、と呆れてカミューは男を睨み付けた。
「自分を「皇王制廃止までの繋ぎ」くらいに考えていないか? あの作業で、どれだけわたしにマチルダの情報を与えたと思う? これでわたしが敵対国……例えばハイランドあたりにでも駆け込んだら、即座にマチルダは危機に晒される」
かなり強い口調で言ったのに、男は柔らかく笑むばかりだ。カミューは内心で首を捻りながら、言を重ねた。
「この旅だってそうだよ。国主が、まるで交流のない異邦へ赴く。まして護衛の騎士はティント領内に留まり、その先の供はわたしだけとあっては、今頃ロックアックスでは、案じて胃を痛める要人が続出しているだろうさ」
「おれとおまえ、二人ならば、百の敵に囲まれても切り抜ける───そのように騎士団がお墨付きをくれたから許可された旅だ。それに、赤の副長殿は胃薬作りの名人だそうだからな、配って回ってくださるだろう」
「……いや、だから、そういうことを言っているのではなくてね……」
「分かっているとも」
マイクロトフは明るく言い放った。
「おまえがマチルダの情報を敵国に売る人間ではないことは。そして、そうやっておれを責め立てるくらい、マチルダという国を親身に考えるようになってくれたことも」
虚を衝かれて黙り込む。
「分かっている、カミュー。おれは決して立派な王ではない。机仕事は苦手で遅いし、何かにつけて周囲の者を困らせてばかりいる。ただ……誤解しないで欲しいのだ。この旅だけは、単に我欲を通した訳ではない」
言いながら、彼は大きな掌をカミューの頬に当てた。
「無論、おまえを一人で行かせたくなかったのもある。だが同じ程に、おれにはこの地に足を運ばねばならない理由があった。村の方々の墓前で非を詫びる……今のおれに出来る、精一杯の償いだったから」
今は亡き白騎士団長によって企てられたグラスランド侵攻計画、その儀性となってカミューの村は世から消し去られた。
陰謀は、皇王家とは無縁のところで進んでいた。否、皇王家を潰すことこそが真の狙いで、グラスランドの切り取りは、それに基く二次的な野望だったとも言える。
確かに王は騎士団の上に立つ身だ。知らぬところで臣下が暴挙を行ったにしろ、責任の一端が皆無とは言い切れない。ただ、故人となった父親が負うべき責めを自身が代わるというマイクロトフの考え方は、紆余曲折を経て、漸く「親と子は別個の存在」と思えるようになったカミューには些か奇異に聞こえるものだった。
「……そんなふうに考えなくても良いんだよ。おまえには何の罪もないのだから」
弱く言うと、マイクロトフは目を細めた。
「おれはマチルダの皇王位を継いだ。不出来なりに、つとめは果たす。たった一枚の命令書がもたらした現実を我が目に焼き付け、この先、過ちを犯さぬための戒めとするつもりで、ここへ来た」
───この男は。
カミューは呆然と相手に見入った。
ただの御人好しかと思っていると、時たま足を掬われる。世の多くの人間が、汚れや痛みを本能的に避ける中、彼は恐れず、過中に飛び込もうとする。
自らの目で見て、肌で感じて、それを己の力と変えてゆくために。結果、どれだけ傷つき、血を流しても、変わらず廉潔で在り続けるであろう男、マイクロトフ。
沈黙に焦れたのか、低い声が呼んだ。
「どうかしたか?」
惚れ直していたんだよ───胸のうちでそっと呟き、首を振る。次いでカミューは、ひょいと肩を竦めた。
「不出来なだけの王様ではないと分かって、安心したのさ。ついでに机仕事をもう少し頑張ったら、倍は見直すけれどね」
「それはなあ……今でも充分、頑張っているつもりなのだが……。いや、待てよ。するとやはり、おれが同行するのに反対だったのだな? すると、さっきの「居て良かった」というのは───」
「……耳聡いんだな、言葉の綾だよ」
「そうなのか? 何だ、おれはてっきり……」
一瞬だけカミューを圧倒した覇気をけろりと消して、マイクロトフはぽりぽりと短い黒髪を掻き乱す。次いで、やや表情を引き締めた。
「ところで、カミュー。そのう……、村人の方々はどの辺りに……」
埋葬されたのか、と続けられずに口篭った男の優しさを愛しく思いつつ、だがカミューも眉を寄せた。
「そうなんだよ。わたしも着いたときから妙に思っていたんだ。あのときゲオルグ殿が墓標代わりにと、焼け残った柱を立ててくださったんだが……見当たらない」
「風か何かで倒れてしまったのだろうか?」
「それも考えたが、他にも少し引っ掛かっているんだ」
村を後にしたときの記憶は曖昧だ。だが、最後に見た光景と、いま目の前に広がるそれとは様変わりしているように思えてならない。
この村では、「石の要塞都市」と称されるロックアックスの街とは異なり、建物の殆どが木や土で築かれていた。故にマチルダ騎士が放った炎は──もしかすると、暴発させた火魔法が加勢した可能性もあるが──容赦なく村を蹂躙したのだ。
ただ、完全に無に帰したかと言えば、そうでもない。すべてが終わった後、ゲオルグと二人、焦げ臭さに噎せながら村人の亡骸を集めて回ったが、その際、墨屑のような柱や屋根が小山を作って、幾度も作業を阻まれた覚えがある。
違和感の理由を説くと、マイクロトフは首を傾げた。
「つまり、もう少し家屋が残っていたと……?」
「家屋だったものの材料、と言った方が正しいだろうけれどね。墓標にした柱も無傷とは言い難かったが……今、柱を探そうとして、それが黒焦げの柱であっても、見つけられる気がするかい?」
彼は四方に目を凝らし、やがてポツと答えた。
「……しないな」
「だろう? 確かに、あれから何年も経っている。焼けて脆くなっていたから、風雨で朽ちたものもあるだろう。それでも、ここまで綺麗さっぱり消え失せてしまうのは……」
「するとカミュー、何か人為的な力が加えられたと?」
問われて虚ろに首肯する。言葉にしているうちに、腑に落ちたような気がしたのだ。この村の末路を知っていて、且つ、はたらきかけてくれる者には心当たりがある。カミューは男を振り仰いだ。
「代わりに石が積み上げられている筈だ。探してくれ、マイクロトフ」
切迫感に似たものが伝わったのか、男は力強く拳を握った。
「任せろ。こういうときのため、最新の遠眼鏡を持って来たのだからな」
物見遊山の旅ではない───そう主張しながらも、だがマチルダの王は、準備に余念を欠かさなかった。初めて目にするグラスランドの草原の雄大に、途中、何度も遠眼鏡を覗いては驚嘆の声を上げていたものである。
さっそく旅荷からそれを取り出して目に当てたマイクロトフだが、早々に唸った。
「カミュー……広すぎて、どのあたりを探せば良いのか見当がつかない」
やれやれと息をついて、男に身を寄せる。山々の位置を確かめた後、ひょいと指で遠眼鏡の先端を押した。
「……この方向。手前の方を見てくれ、村の入り手だった筈だから」
暫く呼気を抑えていた男が、大きくそれを吐き出した。
「あったぞ、小石が積まれている。何だ、近かったのだな。周りに草が茂っていて、見えづらくなっていただけのようだ」
言葉が終わるのを待たず、遠眼鏡が指し示していた地に向けて、カミューは歩を踏み出した。背後で慌てたように草を蹴る音がしたが、既に意識は前へ前へと奪われていた。
戻って来ました、そう胸中で呼び掛ける。

 

───誓いの半分も、この手では果たせなかったけれど、会わずにはいられなくて戻って来ました。

 

マイクロトフが言ったように、それは膝丈ほどの草に囲まれていた。ここに村人たちが眠っている。カミューが愛した草原の「家族」らが。
片膝を折って、草を掻き分けるようにして、積み上げられた小石の山に見入る。

 

───あなた方は、死に遅れたわたしを恨んでなどいない、生きてゆくよう望んでくれる筈だと、あの男はそう言います。彼の言葉を信じたく思うわたしは、愚かで身勝手な人間でしょうか。

 

何時の間にか、男が並んで膝を折っていた。深く頭を垂れて瞑目する横顔からは、限りない真摯が伝わってくる。
彼が何を祈り、どのような誓いを立てているのかを想像しようとして、だがカミューは思い直した。おそらくマイクロトフが見据えるものと、自らの望むそれとは差異がないと信じられたから。
生まれも育ちも遠く隔てられながら、同じ想いを分け持つ半身。カミューにとって、それがマイクロトフという男だったから。

 

───彼はマチルダの王、マチルダ騎士を統べる男。
でも、決して同じではない。わたしが知る彼の国の人々は、この村を攻めた者たちとは断じて違う。
愛しているのです。彼を、そして彼の地で出会った騎士たちを。
共に生きたい、そして取り戻したい。この村で初めて剣を手にしたときの誇りを、庇護の神の名を持つユーライアを与えられた意味を。
そんな願いを、あなた方はどう思われるでしょうか。

 

ふと、草原の心地好い風が頬を撫でた。それは常に感じる乾いた大気の流れではなく、しっとりとした温みを持った柔らかな気配だった。
「あ……?」
知らず呟く。
この感じには覚えがある。遠い日に、頬に触れた村人の手。拾い子だったカミューを、我が子らと分け隔てなく慈しんでくれた人々の優しい温もり。
カミューは慌てて周囲を見遣った。その動きに気付いた男が、怪訝そうに凝視してくる。
「カミュー?」
幼い頃には精霊の存在を信じていたが、畏敬めいた憧れも、いつしか記憶の彼方に埋没した。世の一切を司る力を持ちながら、愛する者を救ってくれなかった───そんな恨みめいた思いがあったからかもしれない。
それがかつて村人たちに教えられた「精霊」と同じであるかは分からない。けれど今、確かにカミューは大いなるものの息吹が自らを掠めていったように思った。
許されたのだろうか。
亡き人たちが認めてくれたのだろうか。
傍らの男が言うように、「想いのままに生きよ」と祝福してくれているのだろうか。
「生けるものの身勝手」といった思考は不思議と浮かんでこなかった。ただ、温かな腕が自らを包み込んでいるような、そんな幸福な錯覚ばかりが胸のうちから生まれ出る。
優しい声が呼んだ。
「カミュー? 泣いているのか……?」
懐かしい人たちを思い起こさせる、慈愛に満ちた響きがカミューを覆い尽くす。横から覗き込むようにして、いよいよ男は焦燥を覚えたようだった。
「お……、おれはどうすれば……」
おろおろとした、独言めいた呻き。抱き締めて癒したい衝動と、「遺族」の墓前でそうする是非とを秤に掛けて、すっかり途方に暮れているらしい。
不器用な男の情愛を全身に浴びて、知らず頬が緩んだ。滲んだ涙を指先で拭うと、カミューは綻ぶ花のように微笑んだ。
「……泣いていないよ、マイクロトフ。わたしも、この人たちには笑顔を覚えていて欲しいからね───」

 

→ NEXT


あ……あれ?
書こうとしてた場面まで
辿り着かなかった……。
てな訳で、続きます。

 

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