微細構造定数の真実

トップページ (2電子原子も含む正確な新ボーア模型)
シュレデインガー方程式は ボーア・ゾンマーフェルト模型の 一部。
微細構造=スピン軌道相互作用は 間違い。(14/8/17)

目次

ボーア・ゾンマーフェルト理論は ”自然に”微細構造定数をだせる。

ボーア・ゾンマーフェルト模型では、軌道の長さが ド・ブロイ波長の 整数倍 である。
驚くことに、そのシュレディンガー方程式においても 軌道の長さが ド・ブロイ波長の整数倍になるのである。
シュレディンガーの水素原子は このページ に示すように ドブロイ波長の名前を変える ことによって 非常に不合理な "不確定性原理" という概念を導入した。
これが シュレディンガー方程式が ボーア・ゾンマーフェルト模型と同じエネルギー準位を与える理由である。
このページで このことを”数学的に”証明した。

(Fig.1) ディラックの水素原子=ボーア・ゾンマーフェルト模型。

多くの教科書では、水素原子の微細構造は 2p1/2 と 2p3/2 の間のエネルギーの違いを意味しており、これは 相対論的な ディラック方程式 によって導出できると書いてある。
驚くべきことに、このページ に示したように、このディラック方程式の解は何と ”相対論的な”ボーア・ゾンマーフェルト模型の解と完全一致している
比較のために、この詳細な計算方法を知ることが必要である。
しかし、残念なことに 多くの教科書では ボーア・ゾンマーフェルト模型についてほとんど触れられていない。

2,3の教科書、例えば ディラック著 "The Principles of Quantum Mechanics (fourth edition)" の 272ページには、"this formula gives the discrete energy-levels of the hydrogen spectrum and first obtained by Sommerfeld working with Bohr's orbit theory." と、ディラック方程式による水素原子解の導出の後に、ゾンマーフェルトと同じ解であることを触れている。
また、朝永著 「スピンはめぐる」 には、ゾンマーフェルトの微細構造の解釈スピン軌道相互作用に変えられた経緯を詳細に述べている。

ボーア・ゾンマーフェルト理論が 歴史的には 最初に 微細構造定数 (= 1/137.036..) をだしたのである。
このことは重要である。
ところで、ボーア・ゾンマーフェルト模型においては 微細構造定数の ”物理的な”意味 はいったい何なのだろうか?
このセクションでは 実際に 相対論的なボーア・ゾンマーフェルト模型を解いてみて、微細構造定数の 本来の意味とその導出について説明することにする。

(Fig.2) 実在のド・ブロイ波 (= "エーテル" )による ゾンマーフェルト模型。

実際は、”相対論的な”ゾンマーフェルト模型は 後で説明するが、”エーテル”理論を使って自然に表すことができる。"エーテル"による説明 も参照のこと。
正確には ボーア・ゾンマーフェルト模型は 特殊相対論そのものを 用いていない。
その 古典的極限を使用している。
もし "地球のエーテル" を認めれば、致命的な 直角レバーのパラドックス を生じさせずに 相対論的な質量変化を エーテル内の最高伝達速度で説明可能である。

[ 相対論的な場の量子論 = 超光速のタキオン。 ]

ボーア・ゾンマーフェルト模型と 相対論的な場の量子論との 最も大きな違いは 超光速の "タキオン" の存在である。

( Fig.A-1 ) ボーア・ゾンマーフェルト模型。

ボーア・ゾンマーフェルト模型では、ドブロイ波は もちろん 光速よりも遅いスピード "v" で進んでいく ( v < c )。
ドブロイ波長 λ は h/p に等しい。 h はプランク定数、 p は 最高伝達速度を含めた運動量である。

( Fig.A-2 ) 相対論的な場の量子論。

クライン・ゴルドンやディラック方程式などの 相対論的な場の量子論は このページに示したように、アインシュタインのエネルギー・運動量の関係式に起因している。
もちろん、相対論的な場の量子論においても、ドブロイの関係式は使用されている。
問題は それらの波動関数の振動数が 質量エネルギーのため大きすぎるということである。
この非現実的に巨大な振動数が 超光速のタキオンを生じさせてしまう。

( Fig.A-3 ) 波動関数の振動数と運動量。

Fig.A-2 の式を満たす波動関数は Fig.A-3 になる。
ご存じのとおり、波の速度は 振動数 f ×;波長 λ ( v = fλ ) で与えられる。
そのため この波動関数の速度は
( Fig.A-4 )

このスピードは 超光速である。
この理不尽な波動関数は 式のローレンツ変換不変性の要請から生じたものである。
皮肉にも 相対論的な制限が 想像上の粒子 "タキオン" を生じさせてしまったのである。

ディラック方程式で 正と負のエネルギー解を融合させれば、タキオンは消えると 彼らは主張しているが、電子と陽電子のそれぞれは 超光速であることに変わりはない。
( タキオン様の 仮想光子 も 相対論的なマクスウェル方程式から生じる。)

”相対論的な” ボーア・ゾンマーフェルト模型の計算。

( ボーア・ゾンマーフェルト模型。 )

以下の説明は ゾンマーフェルトの論文 ( Annalen der Physik [4] 51, 1-167, A. 1916 ) を基にしたものである。
特殊相対論に関しては、このページ も参照のこと。

中心力をベースとした水素様原子においては、角運動量は一定である。
そのため、角運動量 (= "p" ) は次のようにあらわせる。
(Eq.1)

ここでは m0 は 電子の 静止質量 で、 m相対論的な質量 である。
もし 速度 (= v) が 光速 (=c) に等しいとき、この相対論的な質量は 無限大になる。
このページに示したように、相対論的な質量は "直角レバーのパラドックス" を引き起こしてしまう。
つまり 相対論的質量は エーテルにおける最高伝達速度に起因すると考えるのが自然である。

次のように直交座標を極座標に変換する。
(Eq.2)

原子核が原点にあるとき、電子の運動方程式は クーロン力により 次のようになる。
(Eq.3)

ここで Z は原子番号である。
ここではまた次のように定義してある。
(Eq.4)

座標 r は φ の関数である。そのため t (= 時間) による微分を次のように表すことができる。(Eq.1 を使って。)
(Eq.5)

ここでは 次のように定義する。
(Eq.6)

Eq.2 と Eq.5 を使って、各運動量は次のように表せる。
(Eq.7)

また、Eq.3, Eq.5, Eq.7 を使って、運動方程式は次のようになる。
(Eq.8)

Eq.8 より、次のような 共通の 結果が得られる。
(Eq.10)

この β は 時間とともに変化しているため この β は別のものに置きかえる必要がある。

水素様原子では、ボーア・ゾンマーフェルト模型の 全エネルギー W (= T+V = 相対論的エネルギー (E) - m0c2) は 次のようになる。
(Eq.11)

ここでは W は 運動エネルギーと位置エネルギーの和であり これは定数である。

正確に言えば、このページに示したように Eq.11 は 相対論的なエネルギーを表していない。
いわゆる 古典的極限の一種である。
また このページに示したように、相対論の E と p の2乗形は 奇妙な "仮想光子" を生じてしまう。
Eq.11 の W は それとは異なり、特殊相対論とは本質的に等価ではない。

Eq.11 からは Eq.6 の置き換えにより 次の式が得られる。
(Eq.12)

Eq.10 と Eq.12 から、
(Eq.13)

Eq.13 の σ の解は 次のように表せる。
(Eq.14)

Eq.14 を Eq.13 に代入すると、 γ と C は 次のようになる。
(Eq.15)

Eq.14 は r (= 1/σ) は 2π/γ ( 2π でなく) の角度 進むと 元に戻ることを示している。
そのため、”相対論的な”ボーア・ゾンマーフェルト模型の水素原子の軌道は、少し”歳差運動”していることになる。
例えば、1回転後、軌道の 近位点 は 次の角度進む。
(Eq.16)

ここで 近位点の最初の位置を φ = 0 とする。
すると、 Eq.14 の B は 次のように ゼロになる。
(Eq.17)

Fig.3 水素様原子の ”楕円形”の軌道。

ここでは 原子核が焦点 (F1) に位置しており、離心率 (=ε) は次のように表せる。
(Eq.18)

Eq.14 (B=0) と Eq.18 から、また Fig.3 の 近位点、遠位点を使って 次の関係式をだす。
(Eq.19)

Eq.19, Eq.17 から Eq.14 における σ の A と B は 次のようになる。
(Eq.20)

そのため r と σ は次のようにあらわせる。
(Eq.21)

ここから、水素原子 (Z=1) を扱うことにする。
Z=1 を Eq.15 に代入して、次のように定義する。
(Eq.22)

Eq.22 によれば、電子の角運動量 (p) が p0 のとき、γ は ゼロ になる。
このことは p = p0 のとき、Eq.16 の 歳差運動の速度無限大 になることを意味する。
つまり ボーア・ゾンマーフェルトの水素原子では p0 は 角運動量の下限極限 ということになる。
(もちろん、この場合では "楕円"軌道は 壊れてしまう。)

p0 の ħ に対する比 ( = p0 ) が いわゆる "有名な" 微細構造定数 α である。
(Eq.23)

ここでは ħ ( = h/2π ) は ボーア模型における "量子化された" 最小の角運動量である。

つまり、微細構造定数 α (= 1/137) は ボーア・ゾンマーフェルト模型においては ”相対論的な”電子軌道における 歳差運動の速度 に関係しているのである。

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実は、この微細構造定数 α (= 1/137) は別のシンプルな方法でもだすことができる。( このページも参照のこと。 )
普通のボーア模型の水素原子の満たす式を解く。(遠心力とクーロン力が等しく、また軌道長がド・ブロイ波長の1倍 (n=1)のとき。)
すると、この n=1 のボーア軌道の電子の速度 (v) は 次のようになる。

ボーア模型の水素原子における n=1 軌道の 電子の速度 (=v)。

この電子の速度の 光速 (c) に対する比が 微細構造定数 α になる。

( 別の方法による微細構造定数の導出 = Eq.23. )

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Eq.21 より、φ がゼロのとき、 σ、v、β は次のようになる。
(Eq.24)

近日点では 速度は 接線方向である。

つまり、φ = 0 のとき、Eq.1, Eq.24, Eq.15 (Z=1) を使って 次の関係式が得られる。
(Eq.25)

同様に、Eq.12, Eq.24, Eq.15 (Z=1) から、次の式が得られる。
(Eq.26)

Eq.22 から、次の関係式を得る。
(Eq.27)

Eq.25, Eq.26, Eq.27 より、次のように β を消す。
(Eq.28)

Eq.28 は 次に等しい。
(Eq.29)

ボーア・ゾンマーフェルトの量子化条件では 次の関係式を用いる。
(Eq.32)

ここでは 角運動量 p は定数である。
そのため、 p は ħ の整数倍になる。

Eq.1 を用ると、 動径方向の運動量 pr は次のように表せる。
(Eq.33)

Eq.33、Eq.21 を用いて、Eq.32 の pr を 次のように積分する。
(Eq.34)

ここで 元の積分範囲は 歳差運動のため、0 から 2π/γ になる。
Eq.34 の最後の項では 次の置き換えを用いている。
(Eq.35)

このページの Eq.39 - Eq.48 に示したように、部分積分と 次の複素積分を使用する。
(Eq.39')

次の公式(複素積分)を用いる。
(Eq.40')

よって Eq.34 の結果は、Eq.22 の γ の置き換えを使って、
(Eq.36)

Eq.32 と Eq.22 を用いて、
(Eq.37)

Eq.36 は Eq.37 を用いて、次の式に変わる。
(Eq.38)

Eq.38 を Eq.29 の 赤線の項に代入して、Eq.23 の微細構造定数 α を用いると、
(Eq.39)

Eq.39 より、相対論的エネルギー ( E = W + m0c2 ) は、Z を付加して、
(Eq.40)

Eq.40 の ボーア・ゾンマーフェルトの解は Eq.41 の ディラック と 同じになる。
ディラック方程式の 計算の詳細については このページを参照のこと。
(Eq.41)

これはつまり Eq.41 のエネルギー準位は 次のように Eq.40 のと まったく等しくなる。

2p1/2 (n=2, j=1/2) -------- 2s (nr=1, nφ=1)
2p3/2 (n=2, j=3/2) -------- 2p (nr=0, nφ=2)

これは 驚くべき 偶然の一致である。

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[ "エーテル" を使った ボーア・ゾンマーフェルト模型。 ]

Fig.2 に示すように、 もし ド・ブロイ波を伝える媒質 (= "エーテル") を仮定したとしたら、 その媒質の最高伝達速度が存在すると考えるのは自然なことである。
( 電荷を加速させる電場や光の場合は、その最高速度は c である。 )
この媒質では、荷電粒子が光速度cに近づくにつれて その電荷を加速することがだんだん難しくなってくる。
また もちろん 光の波長のように、加速された粒子の運動エネルギー (もしくは運動量)は そのド・ブロイ波長として蓄えられる。そしてその最高速度は c である。
( その運動量が大きくなるにつれて、そのド・ブロイ波長は短くなる。そのことは Eq.32 の量子化に反映されている。)

これらの事実に基づくと、 Fig.2 の式を 粒子の運動量として使用できる。
この場合は、微小時間 dt の間に 粒子を加速させるのに必要なエネルギー (= dT ) は、
(Eq.42)

ここで ux は x 方向の速度、 Fx は 力である。

ここで 次を使った。
(Eq.43)

つまり、粒子を 速度 v まで加速するのに必要な 全運動エネルギーは、
(Eq.44)

ここで 次の置き換えを使う。
(Eq.45)

Eq.44 は、
(Eq.46)

この運動エネルギーは 完全に Eq.11 の最初の項に等しい。

ボーア・ゾンマーフェルト模型は 1次のエネルギー項を使用しており、もとの相対論 (= 2次の項もしくは ディラックのガンマ行列 ) とは異なる。
また もちろん、この模型は "時間の遅れ" のような奇妙な概念は使用していない。

この理論では、電子のスピード v が c に近づくにつれて 加速しにくくなる 運動量 (= p ) として 次を用いている。
( なぜなら ある媒質 (= エーテル) において その最高伝達速度が存在すると考えるのが自然だからである。 )
(Eq.47)

ここで λ は ドブロイ波長である。

Eq.42 と Eq..43 に示すように、 電場が 電子の進行方向 (= ux ) へ 電子を加速するのに 必要な力 Fx は、
(Eq.48)

電場が この電子 ( uy = 0 ) を y 方向へ加速するのに必要な力 Fy は、
(Eq.49)

Eq.48 と Eq.49 に示すように、電場が 電子を 移動方向 (= x ) へ加速させるほうが y 方向へ加速させるよりも 力が必要である。
なぜなら 速度 ux がゼロでないため x 方向へ 場が凝集しているため 抵抗が強くなるからである。
( この場合では 速度 uy はゼロであるため、y 方向へは 場は凝集していない。)

つまり Eq.49 のほうが 場の凝集の効果を考える必要がなく 状況をイメージしやすい。

(Fig.4) 電子は x 方向へ動いている。 この電子を y 方向へ加速させる。

Fig.4 では、 電場は 電子を y 方向へ加速させようとしている。
これをするには、電場が 電子と同じ速度で x 方向へ進みながら 電子を y 方向へ押す (push) ことになる。
電場のスピードは c であるため、"押す" 効率 (= "pushing" efficiency ) は Fig.4 に示すようになる。
( 電子の速度 ux がゼロのとき、 この 押す効率は c/c = "1" となる。)

結果として、Eq.49 の重くなる電子の質量効果を説明することができた。
この効果を一般化すれば、Eq.47 の運動量が得られる。

重要な点は ボーア・ゾンマーフェルト模型は 1次のエネルギー項を用いており、W = 運動エネルギー+位置エネルギー を "定数" として扱っていることである。 ( Eq.25 も参照のこと。)
実は、特殊相対論の 2次のエネルギーの式は 各粒子のエネルギーや運動量の 足し算、引き算が正常に行えないのである。
( このページ の "相対論的な QED が 特殊相対論と矛盾する??" を参照のこと。)
そのため、相対論では "仮想粒子"のような 奇妙な概念を導入せざるを得なかった。

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ここで次のような置き換えをする。
(Eq.50)

Eq.50 を Eq.39 に代入して、Eq.39 のテイラー展開は次のようになる。
(Eq.51)

つまり、全エネルギー W は 次のようになる。
(Eq.52)

微細構造定数 α は 小さい。
そのため、Eq.50 の A を nr+nφ と仮定すると、Eq.52 の最初の項は 非相対論的なボーア・ゾンマーフェルト模型(もしくは シュレディンガー方程式)の解とちょうど同じになる。
このページ も参照のこと。)
(Eq.53)

Eq.50 と 微細構造定数 α を使って、1/A2 は次のように表せる。
(Eq.54)

α は小さいので、近似的に 1/A4 を次のようにする。
(Eq.55)

Eq.53, Eq.54, Eq.55 を使って、Eq.52 の W は次のように表せる。(α4 の近似で。)
(Eq.56)

例えば、Eq.57 を Eq.56 に代入すると、(Eq.23, Eq.53 も使って) ボーア・ゾンマーフェルト模型の 2s と 2p のエネルギーの違い は Eq.58 のようになる。
(Eq.57)

(Eq.58)

ゾンマーフェルト理論によれば、エネルギー準位 n の中の 角運動量量子数が k と k-1 である軌道のエネルギー準位の違いは Eq.59 のようになる。
(朝永著 「スピンはめぐる。」 も参照のこと。)
(Eq.59)

もし、2s と 2p の間のエネルギーの差を知りたいときは、Eq.59 に n=2 と k=2 を代入する。
(2s -- n=2, (k-1)=1,   2p -- n=2, k=2)

ここで aHボーア半径 で、μ0 は 真空の透磁率 である。
そのため、それらは次の関係式であらわせる。
(Eq.60)

Eq.59 は H, He+, Li++, Be+++ などの 様々な原子の微細構造の実験値に よく一致することが分かっている。

ここで、Eq.59 を計算する。( Z=1, n=2, k=2 代入して。)
(Eq.61)

Eq.61 は Eq.58 に ちょうど等しくなる。
これは、Eq.59 と Eq.56 は同じ式であることを意味する。

トーマス歳差因子とパウリの御裁可。

このページに示したように、スピンする電子の角運動量を 1/2 ħ にするには、電子球面の速度が 何と 光速の 100倍 以上に ならなければならない。
そのため、1920 年代に パウリは 電子スピンの存在に対して とても強く反対した

当時は、ゾンマーフェルトの Eq.59 の式が 様々な原子の実験値に合致することが知られていた。
(Eq.59)

電子スピンの存在を証明するには、相対論的な質量変化によってではなく、スピン・軌道相互作用 によって Eq.59 の式に到達する必要があった

ここで 電子が +Ze の原子核の周囲を周回していると仮定する。
すると、動いている電子の視点からすれば かわりに 原子核が電子の周囲を周回していることになる。
原子核の速度は -v、また 原子核の座標は -r である。
そのため、ビオ・サバールの法則によれば、電子の地点に生じる 磁場 (B) は次のようになる。
(Eq.62)

ここで 角運動量量子数 K (K = 1, 2, 3 ....) を導入する。
この K は K ħ = m0r × v の関係式を満たす。
そのため Eq.62 は 次のように表せる。
(Eq.63)

スピンする電子の 磁気モーメントg因子 (ge) × s (=1/2) × ボーア磁子 である。
そのため スピンする電子と 磁場 (B) との間の 相互作用エネルギー は次のようになる。
(Eq.64)

ここで μBボーア磁子, s はスピン角運動量 (=1/2) である。

Eq.63 の B を Eq.64 に代入する。
(Eq.65)

Eq.65 の spin up (+1/2)spin down (-1/2) の間の エネルギー準位の差 は次のようになる。
(+1/2 - (-1/2) = 1)
(Eq.66)

ボーアの理論によれば、1/r3 の平均値は 次の関係式を満たす。
(Eq.67)

ここで aH は ボーア半径、 n は エネルギー準位を表す。

Eq.67 を Eq.66 に代入する。
(Eq.68)

ここで Eq.68 の K2 を k(k-1) に変換すると、実験値に よく合うことが知られていた。
(Eq.69)

Eq.69 を Eq.68 に代入する。
(Eq.70)

ここで スピンg因子 (ge) が 1 だとすると、Eq.70 は Eq.59 (= ゾンマーフェルト模型) に ちょうど一致する。
しかし、もし ge が 1 だとすると、電子の磁気モーメント は 1/2 × 1 = 1/2 × ボーア磁子 になってしまう。
つまり、Eq.70 は間違っていることになる。 なぜなら 電子の磁気モーメント (磁気能率) は 1 × ボーア磁子 にならなければならないからである。

この問題を解決するために トーマス (L.H. Thomas) が登場した。
彼は、トーマス因子 1/2 を使うことにより、電子スピンの正当化に成功した。
(しかし、トーマスの方法は 少々複雑で、不自然なものと言わざるをえないが。)
次に この因子について説明することにする。

このページ に示したように 磁場 (B) のもとでの スピンする電子の 歳差運動の角振動数は 次のようになる。
(Eq.71)

ボーアの 対応原理 によれば、ħω = | W1 - W2 | である。
ここで Eq.71 に ħ をかける。
(Eq.72)

Eq.64 に示したように 磁場 (B) のもとでの 相互作用エネルギーは、
(Eq.64)

であり、磁場のもとでの 2つのスピン状態 s = ± 1/2 の間のエネルギー差は、
(Eq.73)

である。Eq.73 は Eq.72 と等しくなる。

トーマスは、電子が"加速度運動" しているとき、電子の"固有の"座標系実験室系に対して 回転していることに気づいた。
彼の計算結果によれば、この座標系の回転角振動数は次のようになる。
(Eq.74)

ここで、a は 電子の 加速度 である。

そのため、実験系における "本当の" 歳差運動の角振動数は 次のように Eq.71 + Eq.74 となる。
(Eq.75)

電子の加速度は 次のような +Ze の原子核のクーロン力によって生じる。
(Eq.76)

ここでは Eq.62 と Eq.60 の μ0 を使う。
(Eq.62)

Eq.76, Eq.62, Eq.60 から、Eq.75 の全角振動数は次のようにあらわせる。
(Eq.77)

Eq.77 を使うと、Eq.64 の 磁場のもとでの 相互作用エネルギーは 次のように変化する。
(Eq.78)

また、Eq.70 は 次のように変化する。
(Eq.79)

ge2 のとき、Eq.79 は ボーア・ゾンマーフェルト模型の Eq.59 とちょうど等しくなった!

Eq.79 = 1/2 × Eq.64.
そのため、この 1/2 を "トーマスの歳差因子" と呼ぶ。

これによって ようやく パウリは トーマスのスピン模型を "しぶしぶ" 受け入れることとなった。
(ようやく、トーマスは 電子スピンに関して パウリの御裁可を得ることができたのだ。)

ところで、トーマスのスピン・軌道相互作用モデルと ボーア・ゾンマーフェルトモデル、はたしてどっちが より自然な微細構造 だと みなさんは思われたことだろうか?
もし、微細構造が スピン・軌道相互作用によって生じるとしたら、このモデルは 相対性 と スピン・軌道相互作用 の ”たくさんの不自然な偶然の一致”を 含まなければならない。 ( 2S1/2=2P1/2, 3S1/2=3P1/2, 3P3/2=3D3/2.........).

また Eq.69 の置き換え ( K2 → k(k-1) ) は Eq.59 のボーア・ゾンマーフェルト模型においては "自然に" 得ることができた。
しかし、スピン・軌道 相互作用模型 においては、Eq.69 の置き換えは 量子力学的な l (l+1) という "数学的技巧" に頼らなければならない。

また、Eq.72 のボーアの対応原理の利用も奇妙である。
1975 年の スピンの2価性の実験によれば、フェルミ粒子は 1回転で元に戻れない。(2回転で元に戻る。)
そのため、電子スピンに関しては、 の角度を 1 振動とみなすべきである。
こうすると、Eq.72 の角振動数は 半分 になることになる。
しかし、Eq.72 が半分になると、せっかくの トーマス因子 1/2 が 無意味 になってしまう。
つまり、この模型は自己矛盾を含んでいることになる。

結論として、スピン・軌道相互作用模型は、ボーア・ゾンマーフェルト模型に比べて、非常に無理強いした 不自然な模型と言わざるを得ない。

ペニング・トラップによる異常磁気能率の測定。

最近では、1つの電子をトラップできる ペニング・トラップ (Penning trap) を用いて [3]、異常磁気能率の測定が行われた。

(Fig.5) ペニング・トラップによる異常磁気能率の測定。

Fig.5 に示すように、ペニング・トラップは 上下の部分に 負電荷に帯電した キャップ (cap) がついている。
また、側面周囲には 正電荷に帯電した リング (ring) がついている。

中心を原点とすると、ペニング・トラップの 電位 は次のようになる。
(Eq.80)

つまり、電子は次の力によって、z方向に 原点のほうへ引き戻されている。
(Eq.81)

ここで ωz は z方向の角振動数である。

また、電子は 正電荷のリングに外側方向へひきつけられる。
そこで、z方向に 磁場 (B0) をかける。
すると、x-y 平面上の 電子の運動方程式は 次のようになる。
(Eq.82)

Eq.82 は 遠心力とローレンツ力を含んでいる。

さらに 次のような 小さな磁場をかける。
(Eq.83)

Eq.83 の磁場勾配のため、電子の磁気モーメントは次の力を受ける。
(Eq.84)

ここで μB は ボーア磁子で、S はスピン角運動量 (± 1/2)、gs は スピンg因子である。
(Eq.85) ボーア磁子。

ペニング・トラップでは、Fig.6 に示すような 様々な運動が混在している。
そのため、電子の運動は とても複雑になっている。
もちろん、電子はとても軽いため、熱雑音の影響もとても大きい。

(Fig.6) ペニング・トラップにおける 軸方向運動、磁場運動、サイクロトロン運動。

様々な量子数のサイクロトロン運動に及ぼす 磁気的な力は 次のようになる。
(Eq.86)

結果的に、z方向の全角振動数は次のようになる。
(Eq.87)

さらに、ここに 弱い振動電位 ( V =K sin ω t ) をかける。
この ω が Eq.87 に等しいとき、それは "共鳴"を起こす。
また この ω は測定できる。

電子のスピンは ランダムに 上下に変化 (flip) している。
(もちろん、様々なサイクロトロン運動もランダムに変化している。)
彼らは、Eq.87 の ± S の間の 角振動数の差 と思われるものをその中から 選びだし、 測定する。
そして、スピンg因子の値を得ることができる [4]。

しかし、Eq.88 に示したように、最小の (= ħ) 軌道運動 によって生じる 磁気モーメントも スピン磁気モーメントと同じである。
(Eq.88)

つまり、”奇妙な”スピンのかわりに、最小の軌道運動を用いると、g因子は 半分になる。
(”解釈”だけが変わるだけである。)

( References )
[1] W.H.Louisell, R.W.Pidd, An Experiment of the Gyomagnetic Ratio of the Free Electron, Phys.Rev.94 (1954) 7-16.
[2] D.T.Wilkinson, H.R.Crane, Precision Measurement of the g Factor of the Free Electron, Phys.Rev.130 (1963) 852-863.
[3] Dehmelt, Experiment with an Individual Atomic Particle at Rest in Free Space, Am.J.Phys.58 (1990) 17-27.
[4] H.Dehmelt, New Continuous Stern-Gerlach Effect and a Hint of the Elementary Particle, Z.Phys.D10 (1988) 127-134.
[5] V.Gerginov, K.Calkins, et.al. Phys.Rev. A 73 (2006) 032504.

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