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日本刀の出来るまで


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日本刀の材料は、主にたたら製鉄によって得られる玉鋼(たまはがね)です。これに卸し鉄(おろしがね)と呼ばれる、古鉄など様々な和鉄を刀に適した炭素量にしたものを混ぜたりします。しかし現在の作刀法は新刀期以降の作刀法であり、残念ながら古刀時代の材料や作刀法ははっきりとは分かっていないのです。
流派や個人によっても作刀方法などは変わってきますが、ここでは共通する一般的な作り方を紹介します。なお、玉鋼については「日本刀の材料」をご覧下さい。

《 目  次 》

  1. ■ 卸し鉄(おろしがね)
  2. ■ 水挫し(水減し/みずへし)
  3. ■ 小割り(こわり)
  4. ■ テコ棒とテコ台を作る
  5. ■ 積み重ね
  6. ■ 積み沸かし(つみわかし)
  7. ■ 鍛錬(たんれん)
    1. ▼ 下鍛え
    2. ▼ 上げ鍛え(あげきたえ)
  8. ■ 芯鉄を鍛える
  9. ■ 造り込み
  10. ■ 素延べ(すのべ)
  11. ■ 火造り
  12. ■ 切先つくり
  13. ■ 焼き入れ
  14. ■ 合い取り
  15. ■ 鍛冶研ぎ
  16. ■ 茎仕立てと銘切り
 

■ 卸し鉄(おろしがね)

卸し鉄(おろしがね)とは、和鉄(わてつ)で作られた様々な古い鉄製品を、日本刀に適した炭素量に調整することを言います。例えば、たたらで得られたズク(銑鉄/せんてつ)は炭素量が多いため炭素を抜き(脱炭)、包丁鉄などの錬鉄では炭素量が少ないため炭素量を増やします(吸炭)。なお、銑鉄や錬鉄など鉄については日本刀の材料をご覧下さい。
古刀期の材料などははっきりとは分かってはいませんが、古刀期のたたらでは銑鉄が作られていたと考えられています。銑鉄は炭素量が多いため、そのままでは日本刀の材料としては使えません。従って炭素量を減らして左下鉄(さげがね)と呼ばれる不純物を多く含んだ鋼(はがね)にしたり、もっと炭素量を減らして包丁鉄と呼ばれる錬鉄にし、それに吸炭させてほど良い炭素量にして日本刀を作っていたのであろうと考えられています。つまり古刀期の刀工達は、たたらで得られた銑鉄や古い鉄製品、輸入鉄など様々な鉄を卸して無駄なく使用していたと考えられているのです(日本刀の材料参照)。
しかし、江戸時代になって不純物をほとんど含まない良質な玉鋼が量産されるようになると、卸し鉄といった手間をかけなくても日本刀に適した炭素量を持つ材料が手に入ったため、卸し鉄は次第に行われなくなりました。このため古刀のような変化に富んだ地刃ではない刀となりました。これが新刀です。新刀期の刀工達の中には、それでも卸し鉄を行って玉鋼に混ぜて使用していた刀工もいましたが、平和な時代が続いて日本刀は単なるアクセサリーと化しました。こんな中、もういちど古刀期の作刀法に戻るべきであると唱えたのが新々刀期の水心子正秀(すいしんし まさひで)です。玉鋼だけで日本刀を作っても古名刀のような地刃は生まれないとし、多くの新々刀鍛冶が共感し、実行しました。こうした作刀法が伝承され今日に至っています。
卸し鉄は、刀工が火床(ほど/刀工が使う小さい炉)と、小炭(鍛冶用の木炭)を使って行います。座った刀工が左手で取っ手を押したり引いたりして「コぉー コォー」と独特な音を立てて風を送って炉内の火を調整している所をテレビなどで見たことがないでしょうか。左手で取っ手を押したり引いたりしているのが送風装置である吹差吹子(ふきさしふいご)で、刀工が対座している、火が上がっている炉が火床です。
火床は耐火粘土製で、奥行きが五尺(約150糎)ほど、幅が一尺(約30糎)ほどのもので、刀身全体を熱するので奥行きが長くなっています。また吹差吹子から伸びた送風管は、火床の下から約30糎ほど上にある羽口(はぐち/空気取り入れ口)につながっています。火床内には木炭を投入しますが、羽口よりも30糎くらい上まで積み、木炭全体に火が回ったら木炭の上に材料を投入します。そして材料が溶けて木炭の間をすり抜けて火床の底に落ちていく間に脱炭、吸炭されていくのです。
卸し鉄では材料によって脱炭・吸炭させますが、それは木炭を積む高さや材料を置く位置などによって調整します。脱炭させる場合は火床内に空気を多く送り込んで、酸素と炭素を反応させて脱炭させれば良いのですが、空気を多く送り込むと火床内の温度が上がり、逆に炭素を吸収してしまうのです。火床内では羽口のあたりが一番温度が高くなります。そこで羽口から少し離れた所に材料を投入し、また積む木炭の高さを低くして、溶けた材料が速く火床の底へ落ちるようにしたり、あるいは火床に水を打って火床内の温度が上がり過ぎないように工夫します。
逆に吸炭させる場合は、火床内を空気不足の状態にします。つまり不完全燃焼の状態(還元雰囲気/かんげんふんいき)にします。すると鉄は炭素を吸収するのですが、この状態では火床内の温度が低くなってしまい、吸炭が進みません。そこで羽口の上にまで高く木炭を積んでおき、羽口近くに材料を置けば、そこは温度が高く、また高く木炭を積んであるため溶けた材料が木炭の間をすり抜けて火床の底に落ちるまでに時間がかかり、その間に吸炭が進むのです。
このようにして火床の底に溜まった鉄が卸し鉄です。こうして書けば簡単なように思えますが、成功させるにはかなりの経験が必要な作業です。加減を間違えば吸炭し過ぎて銑鉄にしてしまったりするからです。刀工達は、今も昔も鉄を無駄にせず、手間をかけて日本刀の材料として用いているのです。

■ 水挫し(水減し/みずへし)


水挫しの図玉鋼にも良い部分とそうでない部分があり、選別しなければなりません。その作業が水挫しです。玉鋼を熱して薄く打ち延ばしていきます。簡単なように思いますが、難しい作業です。玉鋼を高温で熱し、いきなり強く打つとバラバラになってしまいます。低温で熱し、軽く打って鋼がなじんできた頃に温度を上げ、強く打っていきますが、これが経験と勘を必要とします。5粍くらいに打ち伸ばしたら、水に入れて急冷(焼き入れ)します。炭素量の多い部分はこの時自然に砕けて落ちます。炭素量が多いともろくなるからです。砕け落ちなかった部分は次の作業に回します。もう一つこの作業で難しい点は、玉鋼を打つときに置く置き方です。刀作りにふさわしくない部分もいくらか含まれているので、それを混ぜてしまったら良質の材料になりません。それを取り除くように位置を考えて打っていかないといけないのです。

卸した材料も作業中に不純物などが混じる場合がありますので、沸かし(わかし)にかけます。沸かしとは、材料に粘土を泥状にしたものをかけて藁灰(わらばい)をかけて、火床に入れ、熱して沸かすことです。水が沸くのと同じように、鉄もある温度に達するとブツブツと微妙な音とともに芯から沸いたという手応えがあるそうで、そこで取り出して鎚(つち)でたたいて不純物を絞り出すようにしてまとめていきます。材料が溶けてしまわない程度に芯から沸かすというのは非常に難しい作業です。刀工は芯から沸いたということが、火の色や火花の状態などから分かるのです。そして四角くまとめた後は、玉鋼と同じように5粍ほどの厚さに打ち伸ばし、焼きを入れます。

■ 小割り(こわり)

小割りの図水減しした材料を2,3p角に小割りにします。炭素量の適当な部分はきれいに割れますが、炭素量の少ない粘りのある部分はきれいには割れず、破断面を見て不純物が無いきれいに割れた部分を皮鉄(かわがね)用として集めます。そしてきれいに割れなかった粘りがある部分は芯鉄(しんがね)用として集めておきます。

■ テコ棒とテコ台を作る

テコ棒次の作業で必要な材料を乗せて沸かすためのテコ台と握り手であるテコ棒を作ります。台は刀身の一部になるので、良質な玉鋼で作りこの台に棒を付けます。棒は刀身にはならないのでそんなに良質の材料でなくても良いです。

■ 積み重ね

積み重ねの図小割りにして選別した鋼を五百・六百匁(もんめ/1.9-2.2s)テコ台の上にすき間無く積み重ねていきます。形は様々ですから多少すき間は空きますが、パズルのように組み合わせ、すき間にはかけらを入れたりして無駄なく使います。こうすることで熱が満遍なく伝わるようになります。

■ 積み沸かし(つみわかし)

テコ台に積み重ねた鋼を、水で濡らした和紙でテコ台ごと包み、ワラ灰をまぶし、泥汁を満遍なくかけ、火床へ入れます。和紙でくるむのは積んだ鋼を崩さないように、泥汁をかけるのは芯まで沸かす(わかす)ため、ワラ灰は鋼と空気を遮断して、鋼が燃えないようにするのに使います。玉鋼の段階では完全には精錬されておらず、沸かしから鍛錬を経て精錬されていきますので、この沸かしの作業は重要で、沸かしに失敗するといくら鍛錬しても良い地鉄にはなりません。
芯から沸いた鋼を火床から取り出し、叩いて鋼を固めていきます。これには向こう鎚(むこうづち)が必要です。向こう鎚には一番腕が立つ弟子が2、3人で務めます。刀工は芯から沸いたと判断した鋼を火床から取り出し、金床(かなどこ/材料を鎚でたたく際に使う台)に乗せ、平面を打たせ、次に手首を返して側面を上に向け、側面を打たせます。こうしてゆっくりとたたき固めていきますが、力加減を間違うとまとまらなくなってしまいますので、弟子の中でも腕が立つ者が務めるのです。

■ 鍛錬(たんれん)

これからは折り返し鍛錬を行う工程です。鍛錬の目的は、鋼を何度も折り返して鍛えることにより、粘りをもたせて強度を増し、不純物を叩き出し、炭素量を平均化させることです。刀匠だけでは出来ない作業なので、向こう鎚とともに作業を行います。向こう鎚は刀匠の合図に合わせて叩いていきますが、合図に従って打つことを「相槌(あいづち)を打つ」といいます。相手の話に合わせて何か反応を見せることを「相槌を打つ」というのはここからきています。
この向こう鎚がとても重要で、誰でも出来るというものではありません。彼らが持つ鎚で一番重い物は三貫(約11s)もあり、また沸いた鋼(はがね)の状態を見て、強く打つのか軽く打つのかを見極めて打たねばなりません。これを見極めるには、自分も刀工としてかなりの修業を積まなければできません。また、叩く力、場所によって後々悪影響が出てしまうので、腕の立つ弟子が勤めるのです。

▼ 下鍛え

下鍛え(したぎたえ)は、鍛錬の前半の工程です。積み沸かしでまとめた鋼を火床(ほど)で熱し、金床(かなどこ)に乗せて打ち伸ばし、真ん中に鏨(たがね)を入れて2つに折り返し、向こう鎚に合図を出しながら打たせます。この時、折り返した面がくっつかずに空気が入ると、破れて傷になるので注意して打たなければなりません。
折り返し方には、横(テコ棒に対して垂直方向)に鏨を入れて縦に折り返す一文字鍛え(いちもんじぎたえ)、一文字鍛えの後に今度は縦(テコ棒に対して平行方向)に鏨を入れて横に折り返す十文字鍛え(じゅうもんじきたえ)、一文字鍛えの後に側面であった部分を上にして金床に置き、また横に鏨を入れて縦に折り返す四方柾(しほうまさ)などがあります。日本刀の見所の1つである地肌(じはだ)はこれによって生まれます。板目肌や木目肌を出す場合は十文字鍛え、柾目を出すには一文字鍛えまたは四方柾で鍛えます。
折り返し鍛錬 
折り返しの図 
折り返す方法は刀工の流派によって異なりますが、ほとんどの刀工は一文字鍛えか十文字鍛えです。また折り返し鍛錬を行う回数は一定ではありません。折り返し鍛錬を行っている際に火花が飛びますが、これは不純物が火花となって飛び散っているのです。そして折り返し鍛錬を重ねるほど不純物が少なく、含まれる炭素が均質な鋼(はがね)となりますが、それにともない炭素量も減っていきます。従って回数が多すぎると炭素量が減って柔らかな地鉄となってしまいます。「鍛え殺し」という言葉があるくらいで、回数が多ければ良いということではなく、刀として仕上がった際に最も適した炭素量となるよう、経験から得た感覚で回数を定めるのですが、例えば10回折り返すと1,024枚もの層ができ、これが強靱さを生むのです。なお、下鍛えでは15回ほど折り返し鍛錬するのが一般的です。
折り返し鍛錬が終わったらテコ棒を切り離し、厚さ三分(約9粍)、幅四分(約1.2糎)の細長い形に伸ばし、長さ二寸五分(約7.5糎)に切りそろえます。これを拍子木鍛え(ひょうしぎきたえ)と呼びます。拍子木とは四角い細長い棒を左右の手に持って打ち合わせて音を出す道具で、これに形が似ていることからこう呼ばれます。卸した(おろした)材料も同じように鍛錬し拍子木形にそろえておきます。ここまでで下鍛えは終了です。
 下鍛えでは、拍子木形の他に短冊形(たんざくがた)などにする方法もあります。

▼ 上げ鍛え(あげきたえ)

上げ鍛え(あげきたえ)は鍛錬の後半の作業です。下鍛えが終了した玉鋼や卸し鉄(おろしがね)など、生まれや炭素量などが異なる材料を組み合わせて皮鉄(かわがね)としてまとめていく工程です。皮鉄は日本刀の外側をくるむ硬い鉄の部分のことです。
テコ棒に新しいテコ台を取り付け、下鍛えで切りそろえた拍子木形のそれぞれの材料を交互に組み合わせて積みます。それに藁灰をかけて泥水をかけ、火床(ほど)に入れて熱します。鉄の沸き具合を見極めて取り出し、間髪を入れずに向こう鎚に打たせます。「鉄は熱いうちに打て」とはまさにこのことです。ここでも折り返し鍛錬を行いますが、下鍛えと同様に折り返し回数が多ければ良いというものではなく、多くやり過ぎると完全にそれぞれの材料が混じってしまい、地肌が出なくなってしまいます。また逆に少な過ぎると荒い肌となってしまいますので、ここでも経験によって自分が目指す肌になるよう回数を定めます。
鉄に焼きを入れるには炭素が適度に含まれている必要がありますが、炭素を含む鉄は焼きが入ると化学変化を起こして(日本刀の科学参照)硬くなります。これが目で見える粒となったものが沸(にえ)で、沸が黒っぽく見えて連なって地に現れると地景(ちけい)、刃中に現れると金筋(きんすじ)と呼びます。これらの日本刀の見所の1つである働きや地肌は、鍛錬の時点で既に決まってしまうのです。沸かしや鍛錬がうまくいかないと後で修正するといったことは出来ないのです。
上げ鍛えでは7、8回折り返し鍛錬が行われ、これで刀身の外側にあたる皮鉄(かわがね)が出来上がったことになります。

■ 芯鉄を鍛える

新刀期以降、良質な玉鋼が日本刀の主材料として使用されるようになります。玉鋼は非常に優れた鋼ですが、焼きを入れると非常に硬度が増し、ヘタをすれば折れてしまう危険がありました。そこで新刀鍛冶達が考え出したのが、炭素量の少なく柔らかい(粘りがある)鉄を芯鉄(しんがね)とし、それを炭素量が少し多くて硬い皮鉄(かわがね)で包むという工夫でした。
この芯鉄には主に包丁鉄(ほうちょうてつ/ズク押し法参照)を使用します。しかし包丁鉄は炭素量が0.1%ほどと非常に少ないので、このままでは柔らか過ぎて強度が落ちますので、包丁鉄と小割りの工程で選別しておいた、きれいに割れなかった玉鋼を混ぜて鍛えます。まず横に鏨(たがね)を入れて縦に折り返す一文字鍛えで6回ほど鍛え、今度は側面であった部分を上側にし、また横に鏨を入れて縦に折り返し、4回ほど鍛えます。つまり四方柾鍛えです。これにより細長い立方体の4つの側面が全て柾目(まさめ)となり、強度が増します。炭素量が0.3%ほどになるよう鍛え、芯鉄は完成です。
刃の部分にあたる刃鉄(はがね)を別途用意する場合は、直接物などに当たる部分ですので強度と粘りが必要となるため、玉鋼とズク卸しを混ぜて15回ほど鍛え、炭素量が0.8%ほどになるようにして六分(1.8糎)角にしておきます。また棟鉄(むねがね)を別途用意する場合は刃鉄に近い品質のものにしておきます。
玉鋼や卸し鉄(おろしがね)の炭素量はおよそ1.4%ほどであったのが、沸かしや下鍛え、上げ鍛えを経て最終的に日本刀になった時の刀身の炭素量は0.7%ほどまで減少し、適度な堅さと粘りを持った鋼に仕上がるのです。また定寸(じょうすん/標準的な日本刀の長さ/二尺三寸五分)の日本刀を作るには、玉鋼や卸し鉄、包丁鉄など計約10sの材料を使用しますが、出来上がる日本刀の重量はおよそ1sとなります。
鍛錬によって不純物はほとんどたたき出され、重量は材料の時点から10分の1にまで減ってしまうのですから、鍛錬がどれほど重労働かが分かります。また、最終的に刀身に含まれる炭素量は0.7%ほどになると書きましたが、刀工は最終的にこれくらいの炭素量になるように各工程で作業を行っているのです。それも機械を使って計っている訳ではなく、炎の色や音、手に伝わる感覚など、経験によって得られた感覚によって炭素量や鉄が沸いたかどうかを判断しているのです。日本刀造りはまさに職人技なのです。

■ 造り込み

日本刀の特徴を表す言葉として「折れず、曲がらず、よく切れる」と言う表現があります。しかしこれには矛盾(むじゅん)があります。つまり「折れない」ということは、ゴムのように粘りがあり柔らかいということで、「曲がらず」ということはまさに鉄のように硬いということだからです。柔らかくもあり硬くもある、そんな矛盾を解決するのが造り込み(つくりこみ)です。これは比較的柔らかい(粘りがある)芯鉄(しんがね)を、硬い皮鉄(かわがね)でくるむというものです。芯には柔らかい鉄が入っているので衝撃を吸収して折れず、外側は硬い鉄でくるまれているので曲がらないという訳です。また直接物に当たる刃の部分は、硬くて粘りがある材料を別途作っておき、これら各パーツごとに最適化された材料を組み合わせ、一振(ひとふり)の刀に仕上げるというのが日本刀の最大のポイントです。そしてこの作業を行う工程が造り込みです。
造り込みの種類 
造り込みの図 
グレーは芯鉄、白は皮鉄、黄色は刃鉄、ブルーは棟鉄
造り込みには上の図のように様々な方法があります。代表的なものは、皮鉄(かわがね)をU字型に折り曲げ、柏餅(かしわもち)のように芯鉄(しんがね)をくるみ、沸かしながら打ち伸ばす甲伏せ(こうぶせ)、芯鉄に沸かした刃鉄(はがね)を取り付け、表裏用に分けた皮鉄を1枚ずつ仮付けして沸かしながら伸ばしていく本三枚(ほんさんまい)、本三枚の鎬地(しのぎじ)から棟(むね)にあたる部分を棟鉄(むねがね)として別途鍛えて取り付ける四方詰め(しほうづめ)の3つです。
テコ棒に芯鉄(しんがね)を取り付け、皮鉄(かわがね)、棟鉄(むねがね)、刃鉄(はがね)など造り込む形によって準備した材料を上記のように組み合わせます。この時、茎(なかご)になる部分の芯鉄をムキ出しにしておきます。組み終えたら藁灰と泥水をかけて沸かしながら細長く打ち伸ばしていきます。各パーツをしっかりと作れていても、造り込みの際の沸かしが不十分であると、各パーツが鍛接せずに傷物となってしまいますので気が抜けません。そしてここでも向こう鎚が活躍します。向こう鎚の鎚が曲がって打たれたりすると、芯鉄が曲がってしまったり表面に出てしまったりしますので気をつけねばなりません。刀身部を打ち伸ばしたらテコ棒を切り離します。そして茎になる部分を沸かして打ち伸ばし、作ろうとする刀の寸法よりも少し短い目にまで打ち伸ばしたら造り込みの工程は終了です。

■ 素延べ(すのべ)

刀の反り以外の姿と寸法を決めていく工程です。刀の長さや重ね身幅などが出来上がった状態の寸法になるよう鎚(つち)で打って形作っていきます。その際、水で濡らした金床の上に真っ赤に熱した刀を置き、鎚で打つと一瞬で水蒸気が発生し、その威力でこれまでの工程で刀身に付いていたカスなどを吹き飛ばします。これを水打ち(みずうち)と呼びます。こうして素延べが終わった姿は真っ直ぐな四角の長い棒となっていますが、元幅、先幅、重ね、刃長、切先の大きさなど反り以外の寸法は出来上がりと同じ寸法に仕上がっています。

■ 火造り

これまでは向こう鎚の補助がありましたが、ここからは刀工一人で作業を行います。小鎚を使って刃側を薄く打ち出し、棟側も少し薄く打ち出し、鎬筋(しのぎすじ)を立て刀の形を仕上げていきます。日本刀は、棟、鎬筋、刃先の3つの線によって美しい姿が構成されています。刀工はこれらの線を定規を使ったりせず、フリーハンドで打ち出していくのです。また焼き入れを行った際に、自然に二分五厘(7.5粍)ほど反りがつくので、仕上がり時の反りを考えてその差分の反りを付けておきます。

■ 切先つくり

切先造り切先を作るのに先を斜めに切り落とします。ただ、斜めに切った方が刃側になるのではなく、棟側を切り落とします(左の@)。そして小槌でAのように打ち出し、Bで完成です。なぜ普通に考えるのとは逆に棟側を切り落とすかというと、@の図を見てください。右側が刃とすれば、これで切先が出来ているように見えますが、鍛えの肌が真っ直ぐ伸びて先へ抜けてしまっています。これでは切先に焼きが入らず強度がなくなり折れてしまう危険性があります。そこで棟側を切り落として図のように加工すると、鍛え肌が先へ抜けずに先端でUターンするような形になり、ここが鋩子(ぼうし)の返りとなって強度が増すのです。

なお、切先部分は次の工程である焼き入れ時に一番損傷しやすい箇所です。この部分にはふくらと返りの部分に焼きが入ります。つまり刃側と棟側に焼きが入り、両方が同時に膨張しますので割れやすいのです。小さな切先部に大きな力がかかるので、ここを上手くまとめられるかどうかで刀工の技量が分かるとも言われます。
切先ができたらを立てて刃側、棟側の区(まち)を切り、最後に鉄の組織を安定させるために、650℃ほどの低い温度で全体を熱し、そのままゆっくりと時間をかけてさまして焼きなまします。

■ 焼き入れ

いよいよ刃に焼きを入れる作業に入ります。これまで苦労して鍛え上げてきた地鉄に命を吹き込む時です。焼き入れする場合、刀身に焼刃土(やきばつち)を塗ります。主成分は耐久性のある粘土で、木炭の粉や砥石の粉などを混ぜて作りますが、伝法によって焼き入れの温度が違うため、各自工夫したものを作ります。重要なのは高温に耐えられ、簡単にはげ落ちてしまわないものを作るということです。粘土は熱によって焼き締まるので刀身に貼り付き、砥石の粉は焼刃土のひび割れを防ぎ、木炭の粉は焼き入れの促進と断熱の役割を果たしていると考えられています。
火造りが終わった刀身を藁灰で洗って油分を取り、十分に乾かしてから焼刃土を塗ります。刃になる部分には薄くそれ以外は厚く塗ります。自分が目指す刃文の形に塗り、足(あし)などを入れる場合はヘラの薄い部分に焼刃土を付け、足を入れる部分に置いていきます。ただし、焼刃土を塗った通りに焼きが入って刃文が出来るという訳ではありません。ある刃文を焼くには鍛えの段階でそれに合った鍛えをしておく必要があり、鍛えがまずいと思った焼きが入りません。
※ 焼刃土が焼き入れ時にどのような効果をもたらすのかについては日本刀の科学焼き入れの効果をご覧下さい。
焼きを入れる際に重要なのが水であると言われます。水を入れておくものを湯舟(ゆぶね)と呼びますが、講談などで師匠の焼き入れの際の水の温度が知りたくて、湯舟に手を入れて温度を知ろうとした弟子が師匠にその手を切り落とされたといった話がありますが、水の温度を知っただけで名刀が出来上がるという訳ではありません。根本となる地鉄(じがね)が出来ていて、それに合った火加減・水加減でなければ良い日本刀は出来ません。一般に、備前伝のような匂本位(においほんい)のものは冷水で、相州伝のような沸本位(にえほんい)のものはお湯で焼き入れを行うと言われます。冷水の場合は井戸水が良いようで、湯の場合は人肌程度(36℃前後)が良いと言われますが、最近では開発によって井戸がなくなったり、水質が変わったりと焼き入れ用の水の確保にも苦労があるようです。
また、備前伝などの匂出来(においでき)のものは低い温度で短時間に、相州伝などの沸出来(にえでき)のものは高い温度で焼きを入れます。日本刀は、元幅(もとはば/の上の幅)が広く、先幅(さきはば/横手下の幅)は元幅よりも狭くなっており(踏ん張りがある)、また重ねも元より先の方が薄くなっています。このような厚みや幅が部分によって異なる刀身を均一に赤らめるにはかなりの経験を要します。
この焼き入れによって刀身に自然とおよそ二分五厘(7.5粍)の反りが生じます。それは刃側の鉄組織が膨張するのに対し、棟側は焼刃土を厚く塗っているため膨張せずにいるからです。従って火造りの時点で付けておいた反りプラス焼き入れの際に生じる反りが付くということになります。また、焼刃土を塗らずに焼き入れを行うとどうなるのかと言うと、試してみないと分かりません。造り込みの状態や、重ねや身幅、どのくらいの時間刀身を赤らめたか、水の温度や焼き入れの時間など、様々な要因によって結果は変わりますので一概には言えません。上古刀などに内反りのものが見られるのは、焼刃土を塗らずに焼き入れを行い、これらの要因によって内反りとなったと考えられます。
日本刀には古来5つの伝法があり、伝法によって鍛えや焼く刃文が変わります。これについて詳しくは五箇伝(ごかでん)をご覧下さい。

■ 合い取り

これは一種の焼き戻しで、刀を火から離してゆっくり時間をかけて140〜150度に熱します。こうすると焼き入れの際の急激な温度変化で科学変化しきれなかった部分を、安定化させることができ、粘りが出て腰が強くなり刃こぼれも防げるようになります。

■ 鍛冶研ぎ

無事焼き入れが終わり、反りや曲がりを修正した後、刀匠自らが行う研ぎのことを鍛治研ぎと言います。これまで苦労して造り上げてきた刀の出来映えを確認する時でもあります。最終的には専門の研ぎ師によって研がれるのですが、基本的な研ぎは刀匠が責任を持ってしなければなりません。

■ 茎仕立てと銘切り

最後に茎(なかご)鑢(やすり)をかけ、銘(めい)を切ります。この後、本格的に研ぐために研ぎ師に回されます。また、はばきを作る白銀師(しらがねし/刀装具の金具全てを作る人で、彫金以外の下地を作りますが、最近でははばき師とも呼ばれ金具全てを作れる人は少なくなりました)、鞘を作る鞘師、拵(こしらえ)を作るのであれば柄巻き師など色んな人の手を経て、やっと一振(ひとふり)の刀が出来上がるのです。
研ぎについて拵と白鞘も合わせてご覧下さい。