翻訳へもどる 進行ガンに対処する   Coping with Advanced Cancer
目次
1.この小冊子について ・・・・・・1
2.治療の選択をする ・・・・・・3
3.医療チームと話し合う ・・・・・13
4.症状を和らげるために ・・・・・17
5.自分の気持ちに対応する ・・・・・29
6.事前の計画 ・・・・・47
7.大切な人と話し合う ・・・・・53
8.意義を見出す ・・・・・61
9.終わりに ・・・・・65
10.資料 ・・・・・66
11.用語集 ・・・・・70
12.個人備忘録 ・・・・・74

(もどる) 第1章 この小冊子について

 「わたしたちの後ろに何があろうと、前に何があろうと、今のわたしたちの状況にくらべたら、ほんの些細なことです。」
                                   −ラルフ・ワルド・エマーソン−

 あなたはガンと診断されたこと、その治療、そして場合によればガンの再発と戦ってきたことでしょう。今、あなたは医師からガンが進行してしまっていると告げられたのでしょう。さらに、医師から、あなたのガンが治療に反応せず、もはや長い期間の症状の安定は望めないとか、標準治療の選択肢はすべて尽きてしまったと言われたかもしれません。どんなに情報を集めても、それはあなたや、あなたの愛する人たちにとって心が打ちのめされるものであり、初めはそれを信じたり受け入れたりすることができないことでしょう。

 「私にとっていい日もあれば、悪い日もありました。でも、悪い日よりは、もっとよい日になるように気持ちを切り替え、人生で私がかかわれるいろいろなことに集中するようにしました。家族や友人と楽しみ、生活の中のほんの些細なことでも、自分が出来るいちばんいいと思うことをやっています。」
                                              − ルイーズ−

 進行ガンにかかると、人生の不安や先行きが分からなくなってしまうことがあります。しかし、進行ガンの患者でも予想よりもずっと長生きしている人たちもいます。そして、あなたは自らの選択と行動が主体的にできるということを忘れてはいけません。進行した病気になることは、その人にとって人間的に成長する機会ともなります。二度目の機会と言ってもいいでしょう。治療にもかかわらずガンが進行してしまったことがわかったとき、人生を新たに見つめなおすことをはじめたと、多くの人は言っています。そういう人たちは、毎日を精一杯生きてゆくことの大切さに気がつくのです。

  この小冊子で強調されていることは4点あります。

・あなた自身でできる方法を知ることで、あなたの不安がいくつか解消すかもしれません。
・あなたの治療が変更されるかもしれませんが、いつでもあなたは医療チームの良質な
 医療を受ける権利があり、介護支援を求める権利があります。
・あなたが感じている不安やイライラ、問題点について話すこと、そして他の人たちに支えて
 もらうことが大切です。 実際にそれはあなたのために一番大切なことです。
・あなたの治療が変更されても、あなたにはまだ多くの選択肢があります。あなたは毎日の
 生活をどのように送りたいかを自分で選ぶことができます。
                                                    P−1

 このパンフレットを読むにあたって

 「私にはまだやりたいことがたくさんありますが、予定どおりには出来ないかもしれないということを知っています。でも、だからといってあきらめずに、別のやり方でそれを成し遂げたいと思っています。」                                   − ミリー−


(もどる)


         
 人はそれぞれ違います。このパンフレットには、あなたにあてはまる章も、あてはまらない章もあるでしょう。また、後になって役に立つ章もあるかもしれません。この小冊子を読むときは、あなたにあった部分を選んでください。この小冊子を家族や愛する人たちと一緒に読んでください。きっとあなたの大切な人たちは、この小冊子をあなたと一緒に読むことがとても有益だと思うことでしょう。この小冊子は、進行ガンの患者であるあなたと、あなたのそばにいる人たちのために書かれたものです。小児や若いガン患者の保護者への情報は、別のNCI小冊子「小児のガン」(Young People With Cancer)を参照してください。あなたの友人や家族のための、NCI小冊子「愛する人が進行ガンになったとき」(When Someone You Love Has Advanced Cancer.)もあります。
 なにより、あなたの人生があなた自身のものであることを忘れてはいけません。あなたが現在向き合っているさまざまなことの中で、自分自身の気持ちを決めてゆくことはつらいことかもしれません。自分の感情の対処に困ることも、たまにはあるでしょう。また、思いもしなかった方向に進んでしまった自分の人生を嘆いているかもしれません。ときには悲観することも自然なことです。人生にはさまざまな出来事が起こります。私たちはこの小冊子が、あなたの役に立って欲しいと願っています。この小冊子は、あなたができるだけうまく自己管理でき、これからの人生が充実し、満足のいくものになるように手助けをするために書かれています。この先何に立ち向かってゆくにしろ、人生の希望と喜びは、つねにあなたとともにあるのです。
                                                    P−2

第2章 治療の選択

快適に過ごすためのケア
あなたの選択
臨床試験
緩和のための放射線療法、化学療法、手術
ホスピス
在宅医療


 「癌と闘い続け、臨床試験に参加したいと望む自分と、もう癌と戦うのはやめたいと思っている自分がいます。私はなにもかもに疲れてしまいました。それでも私は、他に選択肢があるのかどうか求めずにはおれません。」                      − ジョン −

 進行ガンに対処するときの目的にはさまざまなものがあります。そして、あなたのケアの目的も変わってゆくでしょう。おそらく、これまであなたは病状の安定を望んできたことでしょう。しかし、今後は、あなたは癌が広がったり成長したりするのを抑えることに重点をおいて考えていく必要があります。治療を選ぶことは、とても個人的な問題になります。あなたは、あなたの愛する人たちや医療関係者に助けてもらいたいと思うかもしれませんが、どうするべきかは、あなた自身で決断するしかありません。後で後悔しないために、治療のよいところと、悪いところを比べてみるべきでしょう。

 あなたは次のような疑問を持つかもしれません:

・再度の治療を試みることにより、期待できる最良の結果はどのようなものか。そしてその
 目的はどのようなことなのか。
・この治療計画は副作用を抑えるためのものか、癌が進行するのを遅らせるためのものか
 。それとも、その両方か。
・従来からある治療を受けている途中に、新しい治療法が発見されることがあるか。
・この治療を試みた場合の結果はどうなることが多いか。
・どのような副作用が起こる可能性があるか。またこの治療でのマイナス面は何か。それは
 どのくらい起こりうるのか。
・リスク以上の見返りが期待できるのか。

 将来どんなことが予想されるかを、あなたの医療チームのひとたちに聞いておくことは大切なことです。また、あなたが医療チームの人たちから、どの程度の情報を知りたいのかをはっきりさせておくことも大切でしょう。
                                                    P−3

 快適に過ごすためのケア

 あなたは、治療期間中でも治療後でも快適に過ごすためのケアを受けることができます。この種のケアは緩和ケアと呼ばれています。これには、ガンの症状や、ガンの治療に起因する副作用に対する治療や予防も含まれています。緩和ケアにはガンの治療中や治療後の情緒的、精神的な問題に対する手助けを受けることも意味します。しかし、このようなことについては医者に話しをせず、ガンの治療に専念したいという人もいますが、緩和ケアによって、生活の質の向上を図ることができます。
 緩和ケアが終末期の癌患者の症状をやわらげる方法であると思われれていた時期もありましたが、現在では、癌と診断された時から、医師は、進行の度合いに関わらず、すべての人に緩和ケアを提供します。治療中、治療後や進行期などすべてに、緩和ケアを受けた方がよいでしょう。腫瘍医であるあなたの主治医も対応してくれますが、このような問題に最も適切に対処してくれるのは緩和ケアの専門家です。専門家がいるかどうか医師または看護師に尋ねてみてください。

 あなたの選択

 「自分が 4期のガンだからといって明日死ぬと決まっているわけじゃないということはよく分かっています。私の友人は進行ガンだったけど、長い間生き続けることができたのですから。」                                              − リー −

 ケアには、たくさんの選択肢があります。何を選ぶかは、あなたのガンの種類や、あなたがケアに何を望んでいるかによります。あなたの医療チームは可能な手段や方法、治療に関して、そのリスクと恩恵などのすべてを教えてくれるはずです。そのような選択肢には次のようなものもあります:

・臨床試験
・症状緩和を目的とする放射線、化学療法、手術
・ホスピスケア
・在宅医療

 複数の選択肢を選んでケアをうける人はたくさんいます。疑問に思うことは全部質問してみましょう。
                                                    P−5
 生きるということや死ぬということ、ガンの治療の良い点や悪い点などについては、あなた自身の感覚を基準にして考えましょう。たとえ、あなたが、積極的なガン治療をもう受けたくないと決めたとしても、急に悪くなったり、すぐ死んでしまったりするということではありません。また、緩和ケアを止められてしまうわけでもありません。医療チームはあなたに他の選択肢の提案や、アドバイスしてくれます。あなたはご家族や親しい人たちと、そういった選択肢について相談してみようと思うかもしれません。


 臨床試験

 より効果的なガンの治療法を見つけ出すための研究を治療の臨床試験といいます。日々、臨床試験からさまざまな治療法についての新しい情報が得られています。臨床試験には、次のような段階があります:

・第1相臨床試験:安全な投与方法、投与間隔、投与量を調査するもので、ふつうは、ごく少数の患者で行われます。
・第2相臨床試験:新薬にガンがどれくらい反応するかを見るものです。第1相臨床試験よりは多くの患者で行われます。
・第3相臨床試験:認可されているガン治療(標準治療)と研究者が標準治療よりも効果的だと考えている新療法を比較するものです。多くの治療センターと多くの患者の参加により行われます。

 もし臨床試験に参加しようと思った場合、参加できる臨床試験はあなたのガンの種類によって決まります。また、今まであなたが受けてきた治療によっても違います。臨床試験には、それぞれ参加できる患者についての年齢や健康状態や、ガンの種類といった条件があります。臨床試験にはリスクもありますが恩恵もあります。あなたが決断する前に、主治医と臨床研究医が、臨床試験での良い点、悪い点について説明してくれます。
                                                    P−7
 臨床試験に参加することは、あなた自身にとって有益となるだけでなく、将来ガンになる人たちを救うことにもなります。しかし、医療保険や管理ケアプランが臨床試験の費用を必ずしも負担してくれるとは限りません。あなたのガンの種類に対しての臨床試験について、保険が負担してくれる範囲について医療チームの人たちとよく相談してください。
 臨床試験についての詳細は、NCIの小冊子 「臨床試験に参加する:ガン患者が知っておくべきこと」(Taking Part in Clinical Trials: What Cancer Patients Need to Know)を参照してください。またはNCIのガン情報サービス1-800-4-CANCER)に連絡をしてください。


 緩和のための放射線療法、化学療法、手術

 緩和化学療法や緩和放射線療法によって痛みや他の症状が軽減できることがあります。緩和が目的の治療では癌の進行を食い止めることはできないかもしれませんが、あなたの毎日の生活を送りやすくすることができます。この治療でも、ガンを取り除いたり、小さくしたりすることもできますし、腫瘍が広がるのを遅らせることができることもあります。痛みや他の問題を軽減するために緩和の手術が行われる場合もあります。

 詳細については、NCIの小冊子、「化学療法とあなた」と「放射線治療とあなた」
(Chemotherapy and You、Radiation Therapy and You)を参照してください。
                                                    P−8

 ホスピス

 もし、あなたが、癌治療を受けることがもう自分のためにはならないと感じるなら、ホスピスケアもひとつの選択肢となります。ホスピスケアを選んだからといって、それはあきらめてしまうという意味ではありません。
 治療の目的が異なっているだけです。ホスピスケアは望みを捨てるものではなく、むしろあなたが望むものを変えてゆくという意味合いがあります。ただし、あなたが利用しようとしているホスピスではどんな治療やサービスが受けられるのかを確かめておきましょう。あなたの加入している保険会社にも確認しましょう。
 症状を抑え、快適に過ごすことで、患者が毎日の生活を満足して送れるように支えることがホスピスの目的です。ホスピスの医師、看護師、精神的支えとなる指導者、ソーシャルワーカー、そしてボランティアの人たちは十分な経験を積んでいます。彼らは患者の医学的な症状に対処するだけでなく、患者や家族を感情的、社会的、そして精神的に支えることに力を注いでくれます。
 ガンの種類と進行度からみて、平均して6ヵ月以上は生きながらえられないという意見書に患者の主治医が署名することで、ホスピスのサービスを受ける資格を得られるのが通例です。多くの人たちは、何ヶ月間もホスピスサービスを受けられるとは思っていません。実際にホスピスケアを経験して、もっと早くからホスピスケアをうけていたらよかったと言う人はたくさんいます。そのような人たちは、自分たちが受けた熟練したケアと理解に驚かされたのです。もちろん、症状を抑えることで、よりよい毎日の生活が送れるようになるだけではなく、それによって、より長く生きられることにもつながるのです。あなたはホスピスケアが、あなたにとってまだ適しているかどうかについて定期的に審査されるでしょう。


 ホスピスのサービスには以下のようなものがあります:

・医師の診療を受けること(主治医を持ち続けることも出来ます)
・看護師のケアをうけること
・医療機器や機材
・ガンによる症状や痛みの処置のための医薬品
                                   P−9
・短期入院治療
・家事代行サービスや在宅医療援助サービス
・介護者のための一時中断(休息)サービス。これはしばらくの間、他の誰かが介護をする
 ことで介護者が休息できるようにするためのものです。
・カウンセリング
・社会福祉サービス
・精神的な苦悩に対するケア
・悲嘆についてのカウンセリング(グリーフ・カウンセリング)やサポート
・ボランティアサービス


 ホスピスケアに何を期待したらよいのでしょうか

 あなたは在宅や、特殊な施設、病院、そして養護施設などでもホスピスケアを受けることができます。そこには介護を指導するための専門家がいます。ホスピスの看護師は、あなたがアドバイスを受けたい場合に備えて24時間体制で電話対応します。そしてホスピスには、愛する家族や友人を介護する人たちを助けてくれる、たくさんのボランテアがいます。また、在宅で緩和化学療法を行っているホスピスもあります。ホスピスではガンの治療はしませんが、必要であれば短期の入院で改善可能な症状については治療します。たとえば、肺炎や膀胱感染症などです。メディケアやメディケイド(米国の公的医療保険)、そしてほとんどの民間の医療保険会社はホスピスサービスの支払いをします。こういうホスピスケアに対して保険での支払いが無い場合や、支払いが困難な場合に無料でケアの提供をするホスピスもたくさんあります。ホスピスケアに関するその他の情報は国立ホスピス・緩和ケア機構へ連絡をしてください。またはウエブサイトhttp://www.nhpco.org を参照してください。またウエブサイトでは、地域のホスピスを探すこともできます。
                                                  P−10

ホスピスや在宅医療の利点

 ホスピスケアや在宅医療の専門家は、感情面での困難な問題についてあなたやあなたの家族の手助けをします。ソーシャルワーカーは感情面でのサポートを提供し、ホスピスケアもしくは在宅医療の予定を組む手助けをし、ホスピスと在宅医療を行き来しやすくします。自分自身の家で、家族に囲まれ、友人や親戚がそばにいる安らぎのほうを選ぶ人はたくさんいます。在宅医療を選択することで親戚や友人、そして近所の人たちがあなたとともに過ごしたり、あなたのケアを手伝ったりする機会を作ることにもなります。


(もどる)



 在宅医療

 在宅医療介護は病院にいるよりもむしろ家にいる人たちのためのものです。在宅医療介護には以下のようなものがあります:

・ケアが適切に行われているかどうか確認する
・症状に対する処置
・医療機器の提供
・理学療法やその他の治療

 在宅医療にかかる費用は、あなた自身の負担となるでしょう。あなたが加入している保険会社に確認しましょう。メディケアやメディケイド(米国の公的医療保険)、そして個人加入の医療保険は主治医が必要と認めた在宅医療介護に関して支払いがなされる場合もあります。しかし、規約に掻かれているものですから、詳しくは、あなたのソーシャルワーカーやあなたの医療チームの人たちと話合ってください。

                                                   P−11


第3章 医療チームと話し合う

 「はじめての診察のとき、私は医師にどんなことでも正直に伝えて欲しい。それでなければ、私はあなたに治療してほしくないと言いました。そしたら、彼は私に対して正直であることを約束し、実際にそうしてくれました。彼は私に『あなたは4期の肺癌です。あなたの余命は3ヵ月から、うまくいったとしても2年まででしょう。』と言ってくれました。私はすべてのことを知っておきたかったのです。」
                                               − パトリス−

 病気が進行するにつれて、主治医に経過を伝えることはいつでも大切なことです。それは、あなたにとって何が作用しているかを主治医が理解する唯一の方法なのですから。多くの人たちは、一緒に病気に向き合ってくれる医療機関のチームを持っています。このチームには、医師、看護師、腫瘍学ソーシャルワーカー、栄養士、そしてそれ以外にも専門家が加わっています。彼らは治療期間中から最期の日まで、あなたの望むことすべてを知っておく必要がありますので、あなたが不安に感じていることのすべてを話しましょう。あなたには、精神の尊厳と平安のなかで、残された日々を送る権利があります。ですから、あなたを支えてくれる彼らと心を通わせ、理解しあうことが大切なのです。


 あなたが主治医や他の医療チームと話し合う話題をあげてみます。

・痛みや他の症状
 あなたがどう感じているかを正直に、率直に伝えましょう。もし痛みがあるなら、どこが痛むかも話しましょう。そしてどんな方法で痛みを和らげて欲しいと思っているのかを伝えましょう。(痛みや他の症状についての詳細については、「あなたの症状を和らげるために」(Getting Help for Your Symptoms)を参照してください。)

・コミュニケーション
 自分のケアについて詳しく知りたいと思う人もいますし、できるだけ知りたくないと思っている人もいます。なかには意思決定のほとんどを家族に任せたいという人たちもいます。あなたはどうでしょうか。何が知りたいか、どこまで知りたいかをきめ、そしてもう十分だと思ったときはそのことをはっきり言いましょう。あなたが満足できるものを選び、それを主治医と家族に伝えましょう。主治医や家族があなたの希望に従ってくれるように頼んでおきましょう。
                                  P−13
・家族の希望
 癌というものにかかわりたくない家族もいるかもしれません。そんな人たちは癌がどれだけ進行しているか、あるいは、あなたにどれだけの時間が残されているかということを知りたがりません。家族がどの程度のことまで知りたいと思っているのかを聞き出して、その意向を医療チームに伝えておきましょう。これは、できるだけ早いうちにしてください。そうすることで、あなたの愛する人同士の仲たがいや、苦悩をさけることが出来るでしょう。(あなたが愛している人たちに話すことについての詳細は。「愛する人たちと話し合う。」(Talking With the Special People)を参照してください。)

 こういった事の多くについて答えを出せるのはあなた自身と、あなたのいちばん身近な人たちしかいないということを忘れないで下さい。
 あなたの質問に答えてもらうことで、現在、そして将来何がおこるかを、あなたが理解する手助けにもなります。

 「私の主治医は『癌は両肺に広がっています。』と言いました。その瞬間から先生の話は一言も耳には入りませんでした。先生は私の選択肢について話しはじめました。ただ、唇が動いているのを眺めているだけでした。私は完全にショックをうけていました。」                                                      −タイロン−
                                                  P−14


医療チームと話し合うときのヒント

・毎回の診察の前に、質問したいことを書き出しておきましょう。
・医療施設には家族や、信頼できる友人と一緒に行きましょう。一緒についてきてくれた人
 が医師や看護師の言ったことを覚えておいてくれて、どんな話がされたかを、後であなた
 に話してくれるでしょう。
・疑問に思うことは、なんでも全部聞いてください。もし答えが理解できないならば、納得でき
 るまで質問を続けましょう。『馬鹿げた質問』などというものはありません。
・メモをとりましょう。自分でメモをとってもいいですし、家族や友人にメモをとってもらうように
 頼んでもいいです。会話をテープにとってもよいか医師に尋ねてみるのもいいでしょう。
・分からないことを後で聞きなおしたりするために、質問できる人の電話番号を教えてもらい
 ましょう。
・主治医から渡された書類や検査結果は、全部ファイルに閉じておくか、ノートに書いて残し
 ておきましょう。診察のときには、そのファイルを持って行って下さい。また、診察の際の
 ことはすべて日記などに記録しておいてください。今まで投与された薬や検査を記録して
 おきましょう。
・あなたに起きた、症状の変化や副作用はすべて記録しておきましょう。いつ、どこで起きた
 ことかもメモしておきましょう。それを診察時に持っていきましょう。
・緊急時に何をしたらいいか調べておきましょう。誰を呼べばいいか、どうやって連絡するか
 、そしてどこへ行けばいいかといったことなどです。
                                                   P−15

(もどる)

未来が見える人は誰もいません
 いつまで生きていられるのかを知りたいと望むのは人間であれば普通のことです。この先に待ち受けていることに備えておきたいと願うのも自然なことです。何かを準備したり計画したりするだけでなく、心の準備もしたいとも思っているのかもしれません。
 しかし、誰でも正確にいつまで生き続けていられるかをあらかじめ知る事はできません。主治医はあなたの余命を推定値として伝えることは出来ても、それはあくまでも推測でしかないことを忘れてはいけません。主治医は、あなたの癌の種類、治療法、既往症、そして他の要因を考えに入れるのですから、一人ひとりで違ってきます。
 医師が最初に予測した期間より長く生きる患者もいますし、短くしか生きられない患者もいます。感染症や他の合併症が起こって、予測と違ってくる場合もあります。主治医はあなたの病状を一番欲知ってはいますが、それでも確かな答えが分からない場合すらあります。また、医師もあなたの予後について答えるのがつらいと感じる場合もあります。
 実際のところ、いつ自分が死ぬかなんて分かっている人は誰もいません。不慮の事故なんかは毎日起こっています。いちばん大切なことは、今日一日、一生懸命生きてゆこうとすることです。
第4章 あなたの症状を和らげるために

痛み
痛みを和らげる他の方法
不安
倦怠感
吐き気・嘔吐
便秘
食欲不振と体型の変化
睡眠障害
混乱


 「日中より、夜のほうがずっとつらいです。いろんなことをしばらく忘れていられるような仕事も夜はありません。うまく眠りにつけたとしても、汗まみれになって震えながら真夜中に目を覚ましてしまうのです。」                              − スーザン−

 ガンやその治療による作用は人それぞれ違います。症状のある人もいれば、長い間ずっと症状のない人もいます。前述のように、あなたは疾患がある間ずっと緩和ケアをうける権利があります。
 普通、ガンが進行するにつれ、症状が悪くなってゆくものだと思っていますが、適切な治療と良い介護がなされれば、あなたの症状は必ずうまく抑えることができます。ですから、もし症状があるなら、その症状を控えめに言うようなことはしないでください。主治医や、医療ケアチーム、そしてあなたの愛する人たちに症状を感じたままに伝えることが大切です。もし、とても調子が悪かったり、倦怠感があるならば、主治医は治療をあなたに合うように調整したり、薬を変えてくれます。

以下に、起こりうる症状をあげます。


 痛み
 ガンだからといって必ずしも痛みがあるというわけではありません。しかし、もし痛みがあるのであれば、それを仕方が無いことと思い込んではいけません。ほとんどの痛みは治療できます。主治医はさまざまな薬や治療法であなたの痛みをおさえてくれます。
 疼痛治療管理の専門家との相談を主治医に頼んでみたいと思うこともあるでしょう。たいていの病院には疼痛治療専門の医師がいます。緩和ケア医療の専門家もいる病院もあります。
 痛みがなくなればよく眠れるようになり、食欲もでてくるでしょう。そうすれば、家族や友達ともっと楽しく過ごすことができるようになり、あなたの楽しみなことにもっと目を向けることができます。
                                                   P−17
 痛みを緩和する薬を服用するには以下のさまざまな方法があります。:
 経口薬
 皮膚から(貼り薬を使って)
 注射
 静注もしくは皮下埋め込みポンプ

 どんな薬を用い、どの方法で投与されるかは痛みの種類や原因によります。例えば、持続的な痛みである場合、長期にわたり一定の用量を投与する必要があるでしょう。皮膚に貼る薬剤または持続放出錠(長い時間をかけてゆっくり効果を発揮する経口薬)を使用することもあります。

 下記のようなあらゆる種類の痛みに薬が用いられます。:
 軽度〜中度の痛み
 中度〜重度の痛み
 一時的な激しい痛み
 チクチクする痛みや焼けるような痛み
 腫れによる痛み

 どのような痛みがあるか、痛みの部位などを定期的に担当の医療チームに伝える機会を持ちましょう。闘病期間中、痛みは変化することがあるからです。彼らにどんな痛みがあるのか、どのくらい痛いのか、そしてどこが痛いのかを分かってもらいましょう。
 『疼痛日記』をつけたいと考えるなら、「痛みを緩和する:主治医に伝えること」に書いてあるようなことを書き留めてください。一日のうち痛みを感じるときはいつで、何をしているときなのかも書き留めましょう。痛みの程度は0から10までの10段階で表します。(0は痛みがまったくない状態。10はあなたが感じたことのある一番強い痛みの程度)痛みのことを主治医に話す際に、疼痛日記を使いましょう。
                                                   P−19
 他の医薬品とは違って、多くの鎮痛剤には一般的な適量というものはありません。あなたが処方された量は他の人より多いかもしれませんし、少ないかもしれません。あなたにとっての鎮痛剤の適量とは、あなたの痛みが軽減し、快適に過ごせる量です。


 痛みを和らげる他の方法

 ガンの痛みは通常、薬およびその他の療法で治療しますが、薬を使用しない治療法もあります。それらは補完代替医療(CAM)です。多くの人が下記に挙げた方法は効果があると認めていますが、その方法を試す前に担当の医療チームと相談しましょう。それが安全であり、またガン治療の妨げにならないことを確認してください。

・鍼治療は、小さな針を使って、体の特定の箇所を刺激する漢方の一つです。吐き気および
 痛みの緩和に効果がある場合があります。鍼治療を受ける前に、あなたのガンに安全か
 どうかを担当の医療チームに相談してください。
・イメージ法とは、景色、映像または体験を思い浮かべることにより、気分をより落ち着かせ
 る、または体を癒す手助けをします。
・リラクゼーション法では、深呼吸および体操をして筋肉をほぐします。
・催眠療法は、気分を落ち着かせて意識を集中させた状態にします。特定の感情、考え、
 暗示に精神を集中させます。
・バイオフィードバックは、特殊な機械によって、患者が普段意識していない(心拍など)特定
 の体の機能をどのようにコントロールするかを覚えさせてくれます。
                                                   P−20
・マッサージ療法とは、体や筋肉の様々な部分をやさしく揉むことによって、気分を落ち着か
 せ幸福な気持ちにさせることです。マッサージを試す前に、医師に確認する必要がありま
 す。マッサージをすべきでないガンもあります。

 これら上記の方法は、ストレス緩和にも効果を示すでしょう。たとえ安全に思えても、何か新しい方法を試す場合は、同じように担当の医療チームに相談しましょう。これらの治療がどこで受けられるかなどの情報を担当の医療チームに問い合わせてください。詳細は、NCI小冊子の「補完・代替医療を考えたとき:ガンの患者のためのガイド」(Thinking About Complementary and Alternative Medicine: A Guide for People With Cancer)を参照してください。

 痛みを緩和する:主治医に伝えること
 痛みを医師に説明する際には、できるだけ詳細に説明しましょう。下記に医師からよく尋ねられることをあげておきます。

・痛みを感じる部位は。痛みの部位は変わるか。
・どんな痛みか。-鈍い痛み。鋭い痛み。焼けるような痛み。
・痛みの頻度は。
・痛みはどれくらい続くか。
・1日の特定の時間、午前、午後、夜などに痛みが発生するか。
・どうしたら痛みが緩和されるか。また悪化するか。
                                                  P−21-

 痛みを緩和するために強い薬剤を使用する
 ガンの患者は、多くの場合、痛みが緩和できるよう強力な薬の使用を必要とする場合があります。遠慮せずに痛みを緩和する薬を求めたり、必要であれば、用量を増やしたりすることを要求しましょう。薬はあなたができるかぎり快適でいられるための手助けになります。
 ガンの患者で、これらの薬に対して中毒になる人はほとんどいません。ところが、残念なことに、中毒になるのでないかという恐れから、痛み止めの薬の服用を思いとどまったり、家族が、なるべく薬の用量増加を遅らせたりすることもあります。しかし、痛みがある場合にはきちんとした投薬や治療を受けることで、痛みが最も緩和されます。


 不安

 ガンはあなたの身体や心を損ないます。あなたはこれからさまざまなことに向き合ってゆくことになります。もうどうしたらいいかわからないと感じているかもしれません。痛みや鎮痛剤によっても不安を感じたり、憂鬱に感じたりするようになることもあります。そしてあなたは以前よりもずっと、不安を感じやすくなっているかもしれません。

以下に不安の兆候をいくつかあげます。:

・とても緊張して神経質になっているように感ずる
・心臓の鼓動がはやくなる
・汗がたくさん出る
・ 息がしづらかったり、息をのんだりする
                                                   P−22
・のどや胃がつかえる感じ
・突然恐怖におそわれる

 不安感を持つことは自然なことです。しかし、不安によって日々の生活に支障をきたすようならば、担当の医療チームの誰かに相談してください。あなたが不安に関して話すのにふさわしい人を紹介してくれるでしょう。メンタルヘルスの専門家によるカウンセリングを受けることで、不安に対処することができるようになる人が多いです。主治医は不安感を抑えるために薬を処方する場合もあります。痛みに対しての補完・代替医療も、不安感を抑える場合もあります。(『痛みを和らげる他の方法』を参照)芸術療法や音楽療法などで不安な気持ちに対処することができる場合もあります。


 倦怠感

 倦怠感とは、疲れたという感じよりもう少し強い疲労感をいいます。倦怠感というのは、今まであなたができていたような些細なことさえもできないくらい疲れきった感じをいいます。倦怠感はいろんな原因で起こります。癌や癌の治療だけでなく、不安感やストレス、食生活や睡眠のパターンが変わっても倦怠感を感ずる場合があります。
 そういう場合には次のようなことを行なってみましょう:

・次回の診察のときに医療チームにけん怠感があることを伝えましょう。倦怠感を抑える
 薬が有効な場合があります。
・あなたに必要な栄養について聞いておきましょう。
・ 一日の予定をたてて、本当に必要なことだけやりましょう。
・ あなたの作業を、だれかに代わってもらいましょう。
                                                   P−23
・毎日何度か短時間の休憩して、くつろぐ時間を作りましょう。
・昼寝(15〜30分以内)をしましょう
・倦怠感を感じた場合はとくに、他の人に手伝ってもらいましょう。
・日常的にできるような軽い運動をしてみましょう。


 吐き気や嘔吐

 癌の患者には、吐き気や嘔吐はよくみられます。どちらもあなたにとってひどい疲労感をおぼえる原因ともなります。吐き気や嘔吐はあなた自身でなんとかすることは難しいかもしれません。もし、胃がむかついたり、吐いたりしたら、それを抑える薬はいろいろあります。あなたの吐き気や嘔吐に一番良く効く薬はどれか、医療チームに相談しましょう。

さらにこんなことも試してみるとよいでしょう:

・食事に少し変化をもたせてみましょう。日に5-6回に分けて少量ずつ食べてみてください。
・甘いもの、脂っこいもの、塩辛いもの、スパイスの効いたもの、匂いの強い食べ物は避け
 ましょう。吐き気や嘔吐が強くなる場合があります。 
・水分はできるだけ多めにとりましょう。身体が乾燥(脱水状態)しないようにしましょう。水
 、ブロス(肉・魚・野菜などを煮出したスープ)、ジュース、清涼飲料水、アイスクリーム、
 スイカなどがよいでしょう。
・熱い食べ物よりは冷たい食べ物のほうがよいでしょう。
・鍼治療もよいかもしれません。
                                                   P−24

 便秘

 便秘は、便の水分が少なくなって固くなり、排便しづらくなり、便通があまりない状態です。便通のときにお腹が痛かったり、ふくれたような気持ちのよくない鈍い感じがする場合もあります。抗癌剤や他の薬剤(とくに鎮痛剤など)が便秘を引きおこすことがあります。座ったり横になったりしている時間が長く、あまり動き回らないようなときも便秘になる場合があります。

以下に便秘のときの対処法をいくつかあげます:

・毎日、水分をたくさんとってください。温かい飲み物や、熱い飲み物で便通がよくなる場合
 が多いです。
・活発にしましょう。散歩や、水中エアロビクス、ヨガなどもいいでしょう。もし歩けないならば
 、医師や看護師に、ベッドの上や椅子に座って身体を動かす方法など、運動がないかた
 ずねてみましょう。
・食物繊維をもっと摂ったほうがいいのかどうかを医師や看護師、栄養士に相談してみて
 下さい。ふすまや、全粒小麦粉のパンやシリアル、生野菜や調理した野菜、新鮮な果物や
 ドライフルーツ、ナッツ、ポップコーンや、その他の食物繊維が豊富なものを食べるように
 指示されることもあります。
・もし便通が無いことから痛みを感じたり気持ちが悪かったりするなら、医師や看護師に伝
 えましょう。浣腸や便秘薬、軟下剤などが処方されるかもしれません。自己判断で市販の
 下剤や浣腸などを使う前に、必ず医師や看護師に相談してください。
・鎮痛剤を服用する前に便秘薬の処方について医師に相談してください。軟下剤を鎮痛剤
 と同時に使い始めることで、便秘の予防になる場合があります。
                                                    P−25


  
 食欲不振と体の変化

 癌がもっと進行した場合、食事や食欲が変化することがよくあります。癌が進行するにつれて食欲が落ちてくる場合もあります。また、たくさん食べたとしても、あなたの身体が栄養分を吸収できない場合もあります。そうなると、体重や体脂肪、筋肉などが落ちてくることになります。
 こんな時には必要な栄養分という考え方はあまり重要ではなくなってきます。もし家族からもっと食べなさいと言われたとしても、自分の身体と相談して決めるべきです。体重を増やしたり、食事の量を増やすことではなく、身体が楽になったり症状が改善されることが目的なのです。
 看護師や栄養士などの医療ケアチームの人たちは、あなたが出来るだけ健やかにすごすために必要な食事に変更してゆく指導などもしてくれるでしょう。食欲を改善し、吐き気をなくすための新しい薬剤もありますので、医療ケアチームに相談してみてください。
                                                   P−26


 睡眠障害

 病気、痛み、ストレス、薬および入院により睡眠障害が起きる場合があります。睡眠障害には以下が含まれます。

・寝つけない
・少しの間しか眠れない
・夜中に目が覚める
・一度目が覚めると眠れない

睡眠障害に対処するために、次にあげた方法を試してみましょう。

・騒音を抑え、部屋を薄暗くし、部屋を暖かくまたは涼しくし、体を支えるための枕を使用する。
・ゆったりとした柔らかい服を着る。
・寝る前にトイレに行く。
・寝る2時間前に高タンパクの軽食をとる。(例:ピーナッツバター、チーズ、ナッツ類、薄切り
 の鶏肉または七面鳥)
・カフェインを避ける(コーヒー、お茶、コーラ、ホットココア)。
・就寝時間を一定にする。(15分〜30分の昼寝を除く)
・睡眠障害に効果のある薬について担当の医療チームに相談する。こういった薬で短期的
 には効果があるかもしれません。
                                                   P−27


(もどる)


 混乱

 あなたは自分が混乱しているように感じ始めているかもしれません。進行ガン患者のなかには混乱が起こる人もいます。薬のせいで起こる場合もあります。突然混乱状態になったり、一日の間に混乱したりおさまったりする場合もあります。混乱の症状は以下のようなものがあります:

・突然の感情の変化(冷静な感情でいたのに突然怒り出すような)
・注意を払ったり集中することができなくなる(すぐに気が散ってしまうような感じ、質問に
 答えることができなくなる、数学の問題のような論理的な作業が出来にくくなるなど)
・記憶障害や認識障害(自分がどこにいるのか忘れてしまったり、今日が何日か忘れてしま
 ったり、ごく最近の出来事を忘れてしまったりすること)

 もし、こういった兆候に気がついたら、その原因をみつけるために医療ケアチームに相談してください。それまでの間は、混乱をやわらげるために以下にあげるうちの一つ以上をためしてみてください。

一方、混乱を楽にするのを助けるために、以下の一つ以上をためしてください:

・普段見慣れたもののある静かで明るい部屋に行く
・騒音を減らす
・家族や好きな人にそばにいてもらう
・見える場所に時計やカレンダーを置く
・介護する人を変えないようにする
・混乱に効果のある薬について医療ケアチームと相談する

 症状と副作用に関する詳細な情報はNCI小冊子の「食事のヒント」、「化学療法とあなた」、放射線療法とあなた」、「疼痛管理」(Eating Hints、Chemotherapy and You、Radiation Therapy and You、Pain Control: A Guide for People With Cancer and Their Families)を参照してください。
                                                   P−28


(もどる)
第5章  あなたの気持ちへの対応

希望
精神力
悲しみと抑うつ
苦悩
否定
怒り
ストレス
心配と不安
罪悪感と後悔
孤独感
心の支え
あなたの対処方法


 ガンになってから、あなたはさまざまな感情を持ったことでしょう。でも、ガンになる前にも感じていたような感情でも、今は、強く心に突き刺さるかもしれません。
 正しい感情とか間違っている感情というものはありませんし、自分の感情にどう対するかについても正しい方法や間違った方法というものはありません。あなた自身にとって一番心安らぐいい方法で自身の感情と向き合いましょう。
 あなたは以下に書かれてあるような感情を今もっているかもしれませんし、ほとんど感じていないかもしれません。また、あなたはそういった感情を別の時には良い感情として感じるかもしれません。あなたがもっているような感情を他の人たちも同じように感じていると知ることが役に立つかもしれません。『あなたの対処方法』も読んでみて下さい。


 希望

 「毎日を精一杯生きて、親戚や友人に心を開き、愛情にあふれた関係を作ることが私にはとても大切なことに感じます。」                              −ケイト−

 ガンであっても希望を持つことはできます。ただ、あなたにとっての希望するものは時とともに変わってゆくでしょう。もし、病状の寛解が望めないと告げられたとしても、また違ったことを望んでゆけばいいのです。たとえば、安らぎや、平穏、現状を受け入れること、時には喜びなどもあるでしょう。希望があれば、あなたは目標を持つことができます。そういった気持ちそのものが、あなたの気分を高めてくれるでしょう。
 希望を求めるために、日々楽しむために、目標を決めましょう。何かガンのことを忘れてしまうようなことを計画してみましょう。進行してしまった他のガン患者からのアドバイスをいくつかあげて起きます:

・いつものとおり、毎日の計画をしましょう
・自分がガンだからということで自分のやりたい事をあきらめない
・人生にとってほんのささいな、毎日が楽しみになるようなことを見つけてみましょう
                                                   P−29
 楽しみに待てるようなデートの約束や行事を予定するのもいいでしょう。我慢する必要はありません。自分の手の中に希望を持ち続けられる限りは、あなたにとって希望となるものを探してみましょう。他の患者からのアドバイスは、『あなたの対処方法』にもありますから読んでみてください。


 精神力

 「自分が手助けを必要としているということが私にとっては一番の悩みです。私はあまり他の人に助けてほしくないsでし、自分だけでできることをしたいのです。私が何かに取り組まなければならないことに、私が生きている証があるのです。」
                                                − ウィル −

 ガンになった人は思ってもみなかったような精神力を持ちます。最初にあなたが主治医から、あなたのガンが抑えきれないことを聞かされたとき、あなたは打ちのめされたような気分になったことでしょう。そして今、あなたは以前のように、うまくガンに対処することができないかもしれません。しかし、今の無力感は変わってゆきます。あなたは今まで思ってもみなかった肉体的、感情的な余力があることに気がつくことでしょう。内なる強さを呼び起こし、元気を出しましょう。
 過去のことや未来のことではなく、現在のことに目を向けるといいと考える人たちは、以前の日課とは別な新たな日課をもつことをはじめます。将来の計画をたてて目標をもつほうがいいと考える人たちもいます。行く場所やすることがあることで、人生が広がります。そばにいる人たちとの関係を大切にすることを大事に考えている人もいます。精神力は人によって違います。ですから、あなたの生きがいをこれからの人生に作りましょう。あなたの精神力を引き出す方法については、この小冊子の他の章にも書かれています。
                                                   P−31


 悲しみと抑うつ

 悲しみを感ずることは自然なことです。何もする気がなかったり、食欲がなかったりする場合もあるでしょう。泣いてもいいし、他の方法で悲しみを伝えてもかまいません。人前でいつも陽気でなければならないわけでもないですし、元気なフリをする必要もありません。
 悲しいときに元気なふりをしていても気分はよくなりませんし、あなたとあなたの大切な人たちとの間に溝を作ってしまうことにもなりかねません。悲しみを抑え込まないでください。あなたが感じた、ありのままにすればいいのです。
 あなたの人生が悲しみや絶望にうちふさがれたように感じたとき、抑うつ状態になることがあります。下記にあげたいくつかの兆候は、ほんの一時期であるならば普通のこととして起こります。もし、これらの兆候が2週間以上続くようならば主治医と相談しましょう。身体的な問題のために症状がおきている場合もあります。これらの兆候を医療ケアチームと話すことが大切です。

抑うつの兆候
・無力感や絶望感、もしくは生きてゆく意味がないような気持ち
・家族や友人、趣味やその他のあなたが今まで楽しめていたものに興味を失う
・食欲不振
・気が短くなって不機嫌な感じ
・1つのことが頭から離れなくなる
・毎日、長い時間泣いたり、何度も泣く
                                                   P−32
・自分を傷つけたり、自殺を考えたりする
・これまでにない妙な感覚をもったり、頭の中を考えが駆けめぐり、パニックにおそわれるような感覚
・眠れなかったり、悪夢にうなされたり、眠りすぎたりといった睡眠障害

 主治医は抑うつを薬で治療できますし、あなたが自分の気持ちについて話すように促すかもしれません。精神分析医やカウンセラーに自分の気持について話すこともできます。また、サポートグループに参加するのもいいでしょう。


(もどる)
 苦悩

 「わたしは医者の「まことに残念ながら・・・」という言葉を聞いた瞬間から、それから先はなにも耳に入りませんでした。頭の中がぐるぐるまわりつづけ、わたしは独り言をつぶやきつづけました。『まさか。あの先生はきっとなにかまちがったのよ』と。」
                                                − ローザ−

 わたしたちはみな、死や死への恐れにそれぞれ違ったやりかたで対しています。あなたは悲しみや孤独、怒り、恐れ、そして罪の意識を感じるかもしれませんし、ときによってあなたの考え方も変わるかもしれません。たとえば、簡単に混乱したり、喪失感を感じたりするかもしれませんし、なんどもなんども同じ事を繰り返し考えているかもしれません。また、あなたは自分の気力が落ちたと感じ、何かをしたり、人と会ったりしたくないと思っているかもしれません。こういったことはすべて、苦悩がある場合の自然な反応です。
                                                   P−33
 あなたがどんなことに嘆き悲しむかは、あなたがいかに考え、感ずるかと同じようにさまざまです。昔のような身体ではなくなることや、前ならできたことを嘆くかもしれません。また、あなたが残してゆくもの、たとえばあなた自身や、あなたの家族、友達や、あなたの未来といったものを失うことを悲しむこともあるでしょう。こころの奥底を見つめなおす時間をもつことはいいことです。あなたの身近な人たちにそばにいてもらうこともいいでしょう。もしあなたが誰かと話したいなら、ただ、そばに座っていてくれるだけでいいと思っているなら、その気持ちをわかってもらいましょう。正しい悲しみ方とか、間違った悲しみ方などはありはしないのです。
 大きな変化や身近な人の死を経験した人には、しばしば特別な助けを必要とするときがあります。そんなとき、医療ケアチームの人や、あなたの信じている宗教の仲間、メンタルヘルス専門家などと話してみましょう。こういう悲しみをあなたひとりだけで耐えていようとする必要はありません。


 否定

 「たとえ、わたしがガンでないと思おうとしても、自分がガンであるこの現実から逃げることはできないでしょう。でも、もしガンでないと思ってしまったら、私の恐れや心配を他の人たちと分かち合うことで得られる安らぎを失ってしまうでしょう。私は、愛し大切にしてきた人たちがいるという幸福感を失いたくないのです。」
                                              − キャリー −

 あなたのガンが広がってしまったとか、もはや症状の安定がのぞめないという話を受け入れることはつらいものです。それを受け入れるまでに少し時間がかかるのは自然なことです。でも、それが数週間もかかるようならば深刻な問題となります。それは、必要な治療を受けることや、治療の選択肢を相談することもできないままということになってしまうかも知れません。時間の経過とともに、心を開いていきましょう。まわりの人たちがあなたの治療に関して助言してくれることに耳を傾けましょう。
                                                   P−34


 怒り

 『ちがう。わたしじゃない。』という気持ちは、次に『なぜわたしが。』とか『次はなに。』といった気持ちになることがあります。今でさえいろいろな事があるのですから、怒りをおぼえることは自然なことですし、当たり前のことです。ぜんぶうまくいっているようなフリをする必要はありません。主治医や家族、近所の人、さらには自分自身さえも怒りを感じるかもしれません。神に怒りを向けたり、信仰心を疑ったりする人もいます。
 初めに言っておきたいことは、怒りは、あなたが行動を起こすきっかけになるということです。もっと違う治療方法について調べてみようと思うかもしれませんし、あなたが受けている治療にもっと専念するようになるかもしれません。しかし、もしあまりに長い間怒りをもち続けたり、他の人に八つ当たりするならば、怒りはあなたのためにはなりません。好むと好まざるとにかかわらず、あなたの怒りのあおりを受けるのは、あなたの身近な人たちであることが多いのですから。
 あなたが何に怒っているのかを考えてみることは良いことかもしれませんが、これはそんなに簡単なことではありません。しばしば怒りは怖れや、パニック、心配や無力感といった言いあらわしにくい感情から生まれることがあるからです。しかし、気持ちを楽にして怒りの感情を見つめてみれば、怒りから自分を解き放てるでしょう。怒りは内なる力のひとつの表れでもあります。運動や体操、芸術などでこのエネルギーを発散するのもいいでしょうし、枕をベッドにたたきつけるのもいいかもしれません。
(「あなたの対処方法」参照)
                                                   P−36

(もどる)
 ストレス

 「私は神を愛していますし、神のみもとに行くことも分かっています。でも、だからといって、私にはストレスがないわけじゃないです。私は何が次に起こるかをいつも気になっています。私は自分でどうにかできることに目を向けるようにしていますが、なかなかそうもできないこともあります。」                                   −デイビッド−

 だれもがストレスを持っています。でも、今はおそらく他の人たちよりも多くのストレスを抱えていることでしょう。なにしろ、あなたはたくさんの変化をしのいできたのですから。ときには、あなたは自分のストレスに気づかないかもしれませんが、あなたの家族や友人は、あなたの変化に気付いていることもあります。自分が心静かになったりリラックスできたりするものならどんなものでも、あなたのストレス発散には良いでしょう。自分が楽しくなるようなことを考えてみましょう。下記のようなものがストレス発散の役に立ちます。:

・運動や散歩
・雑誌に自分の考えや思いを書く
・瞑想や祈り、もしくはリラックスのための運動
・自分のストレスについて誰かに聞いてもらう
                                                   P−36
・ヨガや緩やかなストレッチ
・癒し系の音楽を聴く
・芸術による自己表現

ストレス緩和に関しては「あなたの対処方法」を参照してください。


 心配と不安

 「いつでも誰かがいるとしても、夜中の3時に真っ暗な静かな部屋の中で、たったひとりでうなされて目をさますのは最悪です。その場で誰かよばなくてはならないから。」
                                                −ジャマル−

 今まで知らなかったことに直面することはとてもつらいことです。ときにはあなたの人生が、どうにもならなくなることにおびえるかもしれませんし、他の人々に頼らなければならなくなることを怖れるかもしれません。死を怖れているのかもしれません。
 もし、あなたがこういった怖れに苦しんでいるならば、他の多くの人たちも同じように感じてきたのだということを覚えておきましょう。この先、愛する人たちがどうなっていくのかを心配する人もいますし、お金を心配する人もいます。痛みや吐き気がすることを怖れる人もたくさんいます。こういう怖れは自然なことです。
 患者や家族は、そういった恐れについて話すと、ガンが悪化するのではないか思ったりしますが、それは間違っています。具合が悪くなることや死ぬことについて考えることであなたの健康を損なうことはありません。むしろ、希望を持ち、前向きになるためにはよいことです。自分の中に押さえ込むよりは、あなたの気持ちを表現するほうが、あなたの健康にとってはずっといいことです。
                                                   P−37
以下のようなことが役に立つという人たちもいます:

・今後起こることを知りましょう。自分の病気のことや治療の選択肢についてもっとよく知る
 ために、医療チームの人たちに質問してみましょう。
・あなたの個人事項に関する手続きを更新しましょう。まだしていないならば、遺言や法的な
 文書などがきちんとしているか確認してください。そうすることで、事務手続きにわずらわ
 されることがなくなります。(事前計画の項を参照してください。)
・ あなたの感情を克服するよう試みてみましょう。できれば、誰か信頼できる人と話してみ
 ましょう。

 もし、あなたがこういった怖れに苦しんでいるならば、他の多くの人たちも同じように感じてきたのだということを覚えておきましょう。支えを求めることも良いでしょう。


 罪悪感と後悔

 「私は、ガンの進行を遅らせるために、もっとはやくに病院へ行っていたらよかったのにとか、甘いものを我慢したらよかったのにとか、あれをすればよかった、これをすればよかったと、自分がやればよかったことを考えて続けていたのです。ソーシャルワーカーに相談したら、それは誰の間違いでもないし、ましてや、私の間違いでもないことを納得させてくれました。」                                             −エリカ −

 ガンになった人たちが、ガンなったことに対して何かできたのではないかと考えるのは自然なことです。いままでの生活習慣を自ら責めたり、治療が効かないことに罪悪感を持ったりする人もいます。症状があったのに放っておき、病院に行くのが遅れてしまったことを後悔している人もいます。医師の言うことを守らなかったのではないかと考える人もいます。
 あなたの治療がうまくいかなかったのであって、あなたが治療を誤ったわけではないことを忘れないことが大切です。なぜガンになる人とならない人がいるのかは分かっていません。いずれにせよ、罪悪感は何の救いにもならないだけではなく、必要な治療を受けることすらできなくしてしまいます。ですから、以下にあげたことはあなたにとって大切です:
                                                   P−38
・自分がしたのだと思っていることはすべて忘れるようにしてみてください。
・あなたの時間と労力に値するものに目を向けましょう。
・自分自身を許してあげましょう

 あなたは、こういった感情を愛する人たちと分かち合いたいと思うかもしれません。愛する人たちを動揺させてしまったことで自分自身を責める人もいますし、それが家族の負担になることを気に病む人もいます。もし自分もそうだと思うならば、ほとんどの家族は、愛する人の世話をすることが誇りであり特権でもあると思っていることで、気を楽にしましょう。そして、それが、愛する人とともに過ごし、お互いをもっと理解しあえることになると考えています。しかし、一方では、誰か他の人を介護するのはひどい生活となり、自分たちのことができなくなるという人もいます。
 こういったことを愛する人たちとオープンに話し合えないと感ずるかもしれませんが、そういうときは、カウンセリングや、サポートグループがあなたの力になるかもしれません。あなたが誰かと話したいと思った時には医療チームに相談してみましょう。
                                                   P−39


 孤独感

 「友達が私を理解しようとしてくれていることは分かっています。私が何をいうかではなくて・・・、彼らには分からないだけです。私は友達に、私がどう感じ、何がどうなっているかを説明する気にもなれません。彼らを責めているのではありません。ただ、できないのです。」                                              − ジェニファー −

 あなたの世話をしてくれるひとがまわりにたくさんいたとしても、あなたは孤独を感じるかもしれません。あなたの今の状況を本当に分かってくれる人など誰もいないと感じているかもしれません。ガンが進行するにつれて、家族や友達、同僚などともなかなか会えなくなるでしょう。思ったよりも自分がたったひとりであると感ずることもあるでしょう。あなたのガンと向き合うのがつらくて、あなたと距離を置いてしまう人だっています。こういう時、あなたはつくづく一人きりであることを知るかもしれません。
 いつもよりつらい日々もあるかもしれませんが、あなたはひとりではないことを忘れないでください。あなたができることを、精一杯やってゆきましょう。もし望むなら、ひとりぼっちでいたくないと伝えましょう。みんなが訪ねてくれることを望んでいると伝えましょう。
 きっと、あなたが感じているのと同じ事を、あなたの愛する人たちも感じています。あなたと話せなければ、あなたと切り離されてしまったような気持ちになるでしょう。サポートグループに入ってみるのもいいかもしれません。そこでは、あなたの気持ちを分かち合える人たちと話すことができます。
                                                  P−40


 ユーモアを見出す
 笑いは気分を和らげてくれます。微笑むだけでも、ストレスを発散することができます。もちろん、いつも笑える気分になれるとは限りませんが、以下にあげることが役に立つかもしれません:

・子供たちやペットの愉快な様子を楽しみましょう
・面白い映画やTV番組をみましょう
・ジョーク集を読んだり、インターネットでジョークを楽しんでみましょう。もしコンピュータを持
 っていないなら、近くの図書館のものを使ったり、友達に印刷してもらうのもよいでしょう。
・コメディーの-+テープを聴いてみましょう
・新聞の漫画や、雑誌の漫画やコメントを読んでみましょう
・図書館や書店でコメディーコーナーを探してみましょう。
                                                  P−41
 サポートグループについて
 あなたの住んでいる地域のガン患者のサポートグループについて聞いたことがあるかもしれません。サポートグループの人たちとは直接会ったり、電話で話をしたり、インターネットで会うこともできます。彼らはあなたの現況に対するアドバイスをくれたり、どのようにしたらいいか助言してくれたり、あなたがひとりではないことを教えてくれたりします。
 サポートグループでは、自分たちの感情や経験について話し合ったりして、同じような問題を抱えている他の人にアドバイスしあったり、手助けしたりもします。サポートグループに行って、ただ話しを聞くのが好きな人もいますし、サポートグループには入りたくないと思っている人もいます。また、こういった交流が好きではない人たちもいます。
 このような外部の支援活動に参加してみたいと思っても、あなたの地域にはそんなグループがない場合は、インターネットのサポートグループを探して見ましょう。ウエブサイトのサポートグループに救われたというガン患者もいます。
                                                   P−42


 心の支え

 今までの人生の中でもあったように、いま、さまざまな感情があなたの中に生まれては消えていくことでしょう。それは自分の感情への対処法のヒントになるかもしれません。
 まず、あなたはひとりではないことを分かってください。同じような状況を乗り越えてきた人たちはたくさんいます。家族や友達に打ち明けることを選ぶ人もいますし、サポートグループに入るほうがいいと思う人もいます。同じ困難に立ち向かっている人たちと話し合うこともいいでしょう。家でチャットもできるので、オンラインのサポートグループに参加するほうがいいと思う人もいるでしょう。
もし、サポートグループがあなたあわなくても、ガンのケアの現場には、腫瘍学ソーシャルワーカーや、神経心理学者、カウンセラーなどたくさんの専門家がいます。
 心の支えとして信仰を求める人もいます。信教団体の信者の人に安らぎを求める場合もあります。宗教団体や信仰団体の指導者と話すことが心の支えになる人たちもいます。もし、信頼できる精神的な支えが欲しいのであれば、多くの病院では、あらゆる信仰や宗教の人たちをサポートできる牧師がいます。医療ケアチームは、あなたの住んでいる地域の宗教団体を教えてくれるでしょう。


(もどる)
 あなたの対処法

たとえ以前よりすることが難しくなってきていることがあったとしても、その多くは続ける事ができるでしょう。でも、ほんとうにしたいことのために余力を残しておくことを忘れないでください。一日になんでもかんでもやろうという計画はしないでください。また、一日のあいだでも時間をずらして予定を立ててみてください。
 次のページには、実際の患者が感情を克服するのに役立った方法が書かれています。このような小さなことでも手助けになります。
                                                   P−43


(もどる)






〜 私の対処法 〜

・水彩画クラスを受講しています。私の水彩画はひどいのですが、全く気にしません。
 すべてを忘れさせてくれるからです。
・マニキュアをするのが好きです。
・株式市場の動向を追い始めました。
・姪たちが電話をくれて留守番電話にメッセージや歌を残してくれます。元気になりたいとき
 にはそれを聞きます。
・ 時々空港までドライブにでかけます。そして飛行機を見ます。心が和むからです。
・飛行機モデルの製作
・フラワーアレンジメント
・ウィンドウショッピング
・ショッピング・モールでの人間ウォッチング
・映画鑑賞
・ ボードゲームやトランプをする
・地元でのコンサート鑑賞や観劇
・毎日できる何か新しいことを始める。昔の自分とは違うことを受け入れる。つまり、変化は
 OK。
・友人、家族、信仰する宗教のリーダーと感情について話す。
・ヨガや軽いストレッチなど運動をする。
・孫と巣箱を作る。巣箱作りは楽しかったです。道具の使い方など孫に教えるのは楽しかっ
 たです。
・バードウォッチングが好きです。双眼鏡を持ってポーチに座ります。
・映画をたくさん見ます。
・家の修理するのが好きです。
・写真を撮りました。高価なカメラや機材は買っていません。ただ写真を始めました。
・釣りに行く
・電話をしたり読書など楽しいことをする
・愛する人たちと時を過ごす
・音楽やリラクゼーションテープを聴く
・木彫りをする
・ミステリー小説を読む
・地元の庭園や公園など戸外で時を過ごす
・ボランティアなど助けを求めている人を救う方法を探す
・植物を植える
・教会に行く
・編物、クロチェット、刺繍をする
・クロスワードパズルをする
・瞑想やリラクゼーションのための体操をする
                                               P−44、45

「事前に準備をすることで自分が重病であるように感じる必要はないのです。他の人たちにはなおさら大変であろうと思えることを、自分がやらないままにはしておきたくないと思っているのです。」
                                              − ロナルド −
                                                   P−46


(もどる)


第6章 事前の計画

事前指示書(Advance directives)
その他の法的文書
家族への計画


 この章には、あなたの希望が確実に理解されるようにしておくために必要ないくつかのことについて概略が書かれています。これはあなたの大切な人たちに後で負担をかけないようにすることにもなります。


 事前指示書

 あなたにとってもっとも重要な人たちに、あなたの希望について話しを始めることが大切でしょう。医療ケアチームの人たちにあなたの意思を伝えられなくなる時がやってくるでしょう。最終決定を主治医や家族に任せるほうがいいと考えている人たちもいますが、ガンの患者の中には、自らの願いを伝えることで気が楽になる人も多くいます。
 事前指示書は、あなたが自分で、あなたの愛する人たちや医師に何もいえなくなったときのために、自分がどうしてほしいかを事前に書きしるした法的文書です。この事前指示書には生前の意志表示(living will)や医療に関する永続的委任状も含まれます。あなたの信頼している人に、あなたへの医療についての判断の権利を委ねることについても考えておいてください。これはあなたができる本当に大切なことのひとつです。
                                                   P−47
 生前の意志表示は、あなたが末期(死の間際)にたった際に、どのような医療処置を望むかを他の人たちに知らせるものです。生前の意志表示は、(人工呼吸器や経管栄養など)人工的もしくは救急処置での生命維持についての、あなたの意思を書面で記載したものです。その他の指示もできる州もあります。
 医療に関する永続的委任状は、あなた自身で医療上の判断ができないような場合に、その判断をしてもらう人を指名するものです(あなたがもう意思決定を自分でしたくないと思った時に、代理人を指名できる地区もあります)。指名された人は医療代理人とよばれます。あなたの決断を実行し、あなたの選択にそって行動してくれると信じられる人を選びましょう。あなたの選んだ人と、永続的委任状に関して、とことん話し合うようにしてください。医療代理人はあなたに指名されたことを知っておく必要がありますし、あなたの願いや、あなたの宗教関係の懸念なども理解しておく必要があります。
 事前指示書を準備することは、あきらめるという意味ではありません。今の段階で決断をしておくことで、あなたは冷静さを保てますし、家族のみんなにあなたの意思を知らせることができます。事前指示書を準備しておけば、将来の不安が無く、毎日を精一杯過ごすことができるでしょう。
 このような話題を話し合うのはつらい事ですが、家族は、あなたの望みを知ることで安心する場合が多いですし、家族のほうから、そういった話を持ち出す必要もなくなります。そういう意味でも、あなたは心が休まるでしょうし、事前指示書を準備するということは、愛する人たちがつらい選択をしなければならない羽目におちいらないように、あなた自身がきめておくことなのです。
事前指示書はコピーして、家族や医療ケアチーム、そして病院の診療記録部門に渡しておいてください。そうすれば、あなたの決断は確実に守られます。
                                                   P−48

 その他の法的文書

事前指示書に属さない法的文書についてです。

 ・遺言はあなたの財産をどのようにして相続人に分配するかを示すものです。
 ・信託とは、あなたが指名した人に、信頼に基づき資金の監視、出資、支払いを委託する
  ことです。
 ・ 法律委任状とは、あなたが自分で財産上の判断が出来なくなったときのために、それを
  代行する人を指名するものです。

州法にしたがう
 これらの文書を書くときには必ずしも弁護士が必要なわけではありませんが、公証人は必要かもしれません。州ごとに尊厳死の宣言と永続的委任についての法律があります。これらの法律は重要な部分が細部で異なっている場合があります。ある州での尊厳死の宣言書や永続的委任状が別の州では、効力が無い場合もあります。詳細については弁護士やソーシャルワーカーに相談して下さい。もしくは、あなたの州政府のウエッブサイトで確認してください。(事前指示書のコピーをとる方法についての詳細はこの小冊子の終わりにある資料(Resources)を参照してください)
                                                   P−49


 家族への計画

 きちんとした計画は、あなたが亡くなったあとの家族や友人の金銭的、法的、そして感情的な負担を軽減することができます。そんな問題を持ち出すことはできないと感じる人も多いですが、今のうちに話し合っておけば、後々の問題を避けることができます。
 あなたの愛する人たちに、そんな話題を持ち出すことは、あなたにとっても、あまり気分の良いものではないでしょうし、家族のほうでもそういう話題にふれないでいるだけかもしれません。いずれにしても、医療チームと相談してみましょう。彼らなら家族の理解を得られるかもしれません。

■ 保険関係をきちんとしておきましょう。
  もし新たな治療を受けてみようと思ったり、ホスピスへ行くことを考えたりしているならば、
  あなたの健康保険会社に相談してみてく ださい。ほとんどの民間健康保険はホスピス
  や、短期の訪問看護や週何日かの在宅介護の支払いをカバーしますが、前もって確 
  かめておくことが大切です。そうすることで、後で支払いに関するトラブルを避けることが
  できます。
■ 書類を調えておきましょう。
  家族のために、記録や保険証書、資料、説明書などを整理しておきましょう。これらのこ
  とにきちんとした手続きがなされているか どうかを銀行に電話をかけてみるのもよいで
  しょう。次のページには、あなたの事務手続きを手伝ってくれる人といっしょに確認すべ
  きチェックリストを示してあります。(個人事項覚え書きシートも参照してください)
■ 葬儀の準備。
  あなたの家族があなたの意向にそった形での葬儀や告別式の手配をするように、あな
  たも準備に加わりたいと思うこともあるかも しれません。なかには祝賀会のような告別
  式を望む人たちもいます。あなたの思い出を、どのようにも越してほしいかを家族と話し
  合っておきましょう。
                                                   P−50



(もどる)
 事務手続きを確認するためのチェックリスト

・大切な書類を集めることが体の不自由さでできないならば、家族がわかるように、書類の
 保管場所のリストを作りましょう。
・あなたの大切な書類は耐火金庫にしまうか、弁護士にあずけましょう。
・もし、重要書類を貸金庫に保管するなら、家族または友人が、その貸金庫を開けることが
 出来るようにしておきましょう。
・ 正本は法権限の行使に必要なので、家族にはコピーを渡しておきましょう。

 重要書類や資料についてのシートはP―74にあります。あなたの家族が必要とする書類についての参考になるでしょう。
                                                  P−51

 「弟とグランドキャニオンにでかけました。私は、涙があふれて止まらなくなりました。気がつけば、弟も泣きだしていました。わたしがもうこの世にいなくなってしまうということを受け入れられなかったからです。車の中で、ただ、泣き続けていました。弟は、『いなくなるなんていやだ。死なないで』と言うように。」                     − ウェンディ−
                                                   P−52


第7章 大切な人たちと話し合う

配偶者やパートナー
小さな子供達
10代の子供達
成人した子供達
 あなたの愛する人たちも、あなたの病状の変化を受け入れるには時間がかかります。混乱したり、ショックをうけたり、無力感にさいなまれたり、怒りをおぼえたりといった、自分自身の感情を受け入れる必要があります。あなたには愛する人たちがいるということ、そして彼らがあなたのそばにいてくれるだけで心の安らぎになるのだということをわかってもらいましょう。何でもしてしまうのではなく、必要なときだけしてくれるようにしてもらいましょう。
 みんながそれぞれのやり方で、悪い知らせに対応するのだということがわかれば、あなたやあなたの愛する人たちが自分の感情をうまくコントロールすることができるでしょう。多くの人は、気持ちを分かち合い、自分が何をしたいかを話す時間をもつことで安心したり、気持ちが安らいだりします。
 誰もが、あなたを失うかもしれないという思いをうまく扱えるわけではないし、また何を言ったらいいのか、何をしたらいいのかが分からない人もいるかもしれないことを心にとどめておいてください。そのせいで、お互いの関係が変わってしまうかもしれませんが、それはあなたのせいではなく、むしろ、自分自身の心の痛みに対応することが出来ない人のせいなのです。
 できれば、あなたはいつもと変わらないあなたであることを思い出させてあげ、彼らがあなたに何を聞いても、自分たちがどう感じているかを話してもかまわないということを伝えてあげてください。あなたにとって誰かがそばにいてくれれば十分だということを思い出してもらうだけでいいときもあります。しかし、そんなことを伝える気にならないのなら、それでもいいのです。他の人と話しにくい話題もあります。そんなときは、医療ケアチームに相談するか、専門のカウンセラーに相談するのもいいでしょう。同じような心配を分かち合えるようなサポートグループに参加するのもいいかもしれません。

 お互いを必要としあっているということを伝え合うことができない家族もいれば、単にお互い仲が悪いという家族もいます。
                                                   P−53
 もし、家族と話をするのは気が重いと感ずるなら、医療ケアチームに相談してみましょう。ソーシャルワーカーや専門家に、家族が集まる機会をつくってもらうように頼むこともできます。こういった場では、家族は安心して、自分の気持ちをあからさまに示せるでしょう。それに、あなたと家族にとっては、問題を解決したり、目標を定めるために、医療ケアチームと話し合う機会ともなるでしょう。
 こういったことを話すことはとても大変かもしれません。しかし、調査によれば、すべての人が心を開き、問題点について話し合うことは、ガン治療がずっと円滑にすすむことが示されています。
 ほかの誰よりも、あなたのいちばん身近な人と話すことが難しい場合もあることでしょう。

以下に、このようなときに愛する人たちと話し合うときのアドバイスをあげます。


(もどる)
 配偶者やパートナー

 ガンの治療を通して、きずなが深まる場合もありますし、弱くなることもあります。 患者とその配偶者にとっては、夫婦として通常よりずっと強いストレスを感じることは普通のことです。以下にあげるようなことでストレスが生じたりします。:

・支えあう方法を知っていること
・あらたにわきあがってくる感情に対処すること
・気持ちを伝え合う方法がわかっていること
・金銭問題があること
・意思決定をすること
・役割がかわること
・社会生活の変化があること
・日々の生活の変化への対応
                                                  P−54
 深刻な問題を話し合うほうが、他の話題より気が休まる人もいます。あなたと、あなたの愛する人だけが、あなたの心の伝え方をしっています。
以下のようなことを考えてみましょう:

■徹底的に話し合いましょう。
  これはふたりにとってはつらいことかもしれません。もしそうなら、カウンセラーやソー
  シャルワーカーにあなたがたが話し合うとき   同席してもらいましょう。
■ 現実的なものをもとめましょう。
  あなたの配偶者やパートナーは、あなたが病気になったことで罪の意識を感じることが
  あります。あなたと一緒に過ごせないとき   はいつも申し訳なく感じているかもしれま
  せん。また、あなたの配偶者やパートナーは、家庭内でこれまでとはちがった役割をに
  なうことにストレスを感ずるときもあります。
■ 少し距離を置いてみましょう。
  あなたのパートナーにも自分の時間が必要です。そんな時間も無くなってしまえば、あな
  たの愛する人は活力を失い、あなたを支  えることもできなくなってしまうかもしれませ
  ん。思い出してみてください。あなたがた二人は、あなたが病気になる前には24時間ず
  っと一緒に過ごしていたわけではなかったということを。
■ 身体の変化や、感情的な問題で性生活が影響をうけることは普通です。
  オープンに正直に話し合うということが鍵となります。もし、性生活などについて話すこと
  が難しければ、専門家に相談するのもいいでしょう。誰かに助言や援助を遠慮なく求め
  ましょう。

「私の妻は、文字通り、わたしにとって一番の力の源です。私はすべてにそうしてきました。私たち二人が時には文字通り朝の4時とか5時までも話しあってきたのです。ふたりで、ここにただ座って、ただ話をしていたり、昔のことを思い出したり、着たり答えたりしているだけです。お互いのためにそこにいるだけなのです。」
                                              バーナード −
                                                  P−55


 小さな子供たち

 「わたしたちは、愛する人たちを常に守りきれるわけではありません。でも、心の準備をさせることはできます。」
                                              −無記名−

 あなたの子供たちや、孫たちの信頼を裏切らないことは、今の段階でも、とても大切なことです。子供たちはいつもと違っていることを読み取ることができます。あなたがガンであることについて出来るだけ隠しだてしないことがいちばんです。子供たちは、自分がしたことであなたがガンになってしまったと思ったりするかもしれませんし、自分たちが面倒を見てもらえなくなるかもしれないと心配するかもしれません。また、子供たちは、あなたが前ほど一緒にいてくれていないと感じているかもしれません。あなたは子供たちをそのような思いから守ることはできなくても、心の準備をさせることはできます。
 片時もそばから離れなくなってしまうような子供もいますし、学校や家庭で面倒を起こしてしまう子供もいます。先生や生活指導員に何があるのかを話しましょう。そして、子供達とは、いつでも話せるようにしておきましょう。
以下のことを試してみてください:

・正直に話しましょう。
・あなたが病気で、お医者さんは一生懸命に治療していることを伝えてあげましょう。
・子供たちが何か言ったからとか、何かしたからガンになってしまったわけではないという
 こと、そして、ガンは他の人からうつるものではないことをきちんと説明しておきましょう。
・子供たちに愛していると伝えましょう。
・混乱したり、怒ったり、怖がったりしてもかまわないことを伝えましょう。なんでも話すことが
 できるようにしてあげましょう。
                                                  P−56
・子供たちは大人のような理解力はありませんから、はっきりと簡潔に話してあげましょう。
 子供たちにわかるような言葉で話しましょう。
・これから先も、子供たちは愛され続け、大切に育ててもらえるのだということをしっかりつた
 えましょう。
・子供たちが何かを尋ねたりしてもかまわないこと、できるだけ正直に答えるつもりであるこ
 とを伝えましょう。実際、病気のことを正しく伝えなければ逆にもっと怯えることもあります。
 子供たちは、自分のまわりが変わってゆくとき、しばしばいろんな想像をして、怖れをもっ
 たりします。


 10代の子供達

 「私はお父さんと心から触れ合うことができるようになりました。私がガンと診断される前とはまったく違う家族になりました。感じていることや、今起こっていること、そして怖れていることなどを話し合うことができるようになりました。」
                                               −ジェイク−

 上記に示したようなことの多くは、10代の子供達の場合にもあてはまります。彼らも病気についてはほんとうのことを聞きたがっています。真実を聞くことで、罪悪感やストレスを持つことから避けられます。ただし、その話題を避けようとするかもしれないことを承知しておいて下さい。真実に向き合うやり方として、怒ったり、癇癪を起こしたり、面倒を起こしたりする場合もありますし、引きこもってしまう場合もあります。こんなことを試してみましょう:

・彼らに時間を与えてください。もし、家族を支えてほしいと思うなら、特に大切なことです。
                                                   P−57
・ひとりきりの時間でも、友達と一緒の時間でもいいですから、彼らに自分の気持ちを整理
 する時間をあげてください。
・彼らは学校にちゃんと行くべきだし、スポーツやその他の好きな活動にも参加すべきだと
 いうことを分かってもらいましょう。

 もし、あなたが自分の病気のことを彼らにうまく伝えることができないならば、誰かに手伝ってもらいましょう。あなたの親友や、親戚、病院の人たちなどに、たずねてみましょう。信頼されているコーチや、先生、青年部の牧師さんなどに相談することもいでしょう。ソーシャルワーカーや医師も、良いカウンセラーを紹介してくれます。


(もどる)



 成人した子供達

 あなたのガンが進行してしまったために、成人した子供達と、あなたとの関係にも変化があるかもしれません。あなたは彼らにもっと違った面で頼らなければならないかもしれません。子供たちに頼らなければならないことは、あなたにとってはつらいことかもしれません。なにしろ、あなたは頼るより、頼られてきたのですから。また、子供たちと疎遠になっていたという場合も、頼るのはつらいかもしれません。
 成人した子供たちには、彼ら自身の心配事もあります。自分自身の死を怖れるようになっているかもしれませんし、親として、子供として、そして労働者としてやらねばならならないことが、あまりに多すぎてできないということにきがとがめている場合もあります。
                                                 P−58
 あなたの病状の進行につれて、こんなことが役に立つかもしれません:

・意思決定を子供たちと一緒にしましょう
・あなたにとって重要な問題に対して子供たちにも加わってもらいましょう。たとえば、治療
 方法の選択や、将来計画、あなたが続けたいと思っている活動などです。

 あなたの子供たちに自分から、あなたの気持ちや、目指すもの、そして希望を分かち合うことで、子供たちがあなたの病気に向き合うことができるようになるでしょう。他の大切な決定が必要になったとき、兄弟同士の不安や対立を減らすことにもなるでしょう。

 「波乱万丈なのは、ちょうどジェットコースターに乗っているみたいなものです。私は家族全員に心の準備をしてもらいました。それが、ガンになったら必要なことなのです。順調かと思えば思い切り悪化するのですから。」                       − デリア −
                                                   P−59


 「わたしはガンになってから、自分自身のことや、内に秘めた力があるということを知りました。わたしの病気のことでいろいろやってくれる子供たちや家族をみながら、みんなのことも今まで以上に理解できるようになりました。私は、あの子たちの母であることを誇りに思っています。わたしは正しい道を歩んできたのだと信じています。」
                                              −マデリン−
                                                   P−60




(もどる)
第8章 意義を見出す

 ガンが進行してしまった人は、それぞれの人生の意味をもっと深く見つめなおすようになります。生きてきた目的や築き上げてきたものを思い起こし、人生で通り過ぎてしまったものを確かめようとします。満ち足りた気持ちになるものを見つけようとしたり、ほかの人たちとの心の絆を探したりする人もいます。自分や他の人たちの、過去の過ちを許そうとする人もいます。宗教や精神的なものを通して答えや、強さを探そうとする人もいます。
 精神的ということは、ひとそれぞれによって意味が異なり、とても個人的な問題です。人はみな、それぞれに人生の意味についての信条があります。宗教や信仰を通して人生の意味を探す人もいますし、教育やボランティア活動を通して人生の意味をみつけようとする人もいます。その他にも、いろいろ違ったやり方があります。ガンになったことで、あなたは自分が信じてきたものについて考えるようになったかもしれません。神や、来世、受け継がれてゆく命などといったことも考えることもあるでしょう。こういうことを考えることで、満ち足りた心になったり、さらなる疑問が出てきたりすることもあるでしょう。
 他の人たちのように、あなたはガンによって自分の価値観が変わったことを感じることでしょう。病気になるということは、あなたにとって一番大切なものは何なのかを知ることでもあります。あなたが所有しているものや、毎日の日課などは、それほど大切には思えなくなるでしょう。愛する人たちとできるだけ一緒にいる時間を持とうとしたり、社会奉仕をしたいと思うかもしれません。屋外での活動をもっとしてみたり、何か新しいことを始めてもいいでしょう。
 あなたは、もうこういったことは十分すぎるほど考えてきたかもしれませんが、あなたにとって意味のあるものを、さらにもっと深く求めることで心の安らぎを得ることができるかもしれません。あなたの身近な人や、宗教団体の人、精神医療の専門家などと話してみるのもいいでしょう。
                                 P−61
 また、あなたは自分のためだけに時間を使いたいと思うかもしれません。あなたの今までの経験や、人々との関係を振り返ってみたいと思うこともあるでしょう。随想を書いたり、読書をしたりするのも、心休まるものであったり忌みを見出したりすることもあります。祈ったり、瞑想したり、他の人たちと話し合ったりすることで、人生の意味を探したりそれに向きあったりできると言う人たちもたくさんいます。


(もどる)




 あなたの生涯を讃えて

 進行ガンは、自らの人生と、成し遂げてきたすべてを振り返るためのよい機会を与えてくれます。人生という舞台で、演じてきたいろいろな役割を思い起こしてみたり、当時の意味合いと今の意味合いとの違いについて考えたりすることでしょう。自分が愛した人たちに残したいと思うようなものを集める人もいますし、愛する人たちと思い出や望みを分かち合いたいと思う人たちもいます。
 このようなことはあなた自身のための『遺産作り』ともいわれます。あなたが望むものであれば、なんでもかまわないのです。ためらわずに、自分で、またはあなたの身近な人といっしょに、このようなあなたの生涯を讃えることをしてみましょう。
以下は参考例です:

・特別な思い出のビデオを作ってみましょう
・家族のアルバムを開いてみたり、写真を並べなおしてみましょう。
・あなたの家族の歴史や家系を図や文字に書き記してみましょう。
・あなたの日々の気持ちや経験したことを日誌に綴ってゆきましょう。
・スクラップブックを作ってみましょう。
・愛する人や子供たちにメモや手紙を書いてみましょう。
・詩を読んだり、書いてみたりしてみましょう。
                                                   P−62
・手工芸品を作ったり、編み物をしたり、装飾品をつくってみましょう。
・愛する人に大切なものや、形見をあげましょう。
・過去の楽しくて意味深い話を書きとめたり、記録してみましょう。
・庭仕事をしてみましょう。
・大好きな曲を集めたテープやCDを作ってみましょう。
・好みの料理のレシピ集を作ってみましょう。

 あなたにとって意味があって、楽しいものなら、何でもよいのです。ガンの患者の中には、法律的な文章ではありませんが、『倫理的遺言状(ethical will)』とよばれるものを作る人もいます。『倫理的遺言状』は、自分の価値観や、想い出、希望などについての自分の考えを書き記して、あなたの大切な人たちと分かち合うものです。人生で学んだ教訓や意味深いことについても書き記すかもしれません。『倫理的遺言状』では、あなたが好きなことを、好きなやり方で書くことができます。

 「ひとそれぞれ、その日によって、また時間によっても、人生は違った意味を持ちます。ですから、大切なのは、一般的な人生の意味よりも、その瞬間での自分の命の意味のほうなのです。」                                −ビクター・フランケル−

 「わたしたち家族の絆は、わたしがガンになってから、もっと強くなりました。『お父さん。それはお父さんがしてきたことなのさ。』と言った息子の言葉が忘れられません。私も彼の言うとおりだと思います。私はつらくなかった。息子は私に詩を書いてくれました。そこには、こう書かれていました。『あなたは逃げずに、死をしっかり受け止めた。』私には、この言葉がたとえようもなく美しく感じました。」                           −ビル−
                                                  P−64




(もどる)
 第9章 終わりに

ガンが進行した状況で生きることは、さまざまな挑戦や苦難をもたらすことでしょう。しかし、満足と喜びのときともいえます。
この小冊子にも書かれていますが、生存率は、単に数でしかないのです。わたしたちひとりひとりにとって本当に意味のある数というのは、全く違ったものです。たとえば、素晴らしかった日の数とか、気持ちよく眠れた夜の数とか、幸せだったり楽しかったりした時間などを数えるものです。あなたの人生をできるだけすばらしいものにするために生きてゆきましょう。そして充実した人生をおくりましょう。

今日のことを考えなさい。明日が来れば、今日になるので、そのときに考えればいいのです。 "Think only of today, and when tomorrow comes, it will be today, and we will think about it." - 聖フランシス・ド・セールス
                                                   P−65



(もどる
第11章 用語集

(もどる
Acupuncture 鍼治療
 身体上の特定の点を刺激する中国の医学治療。健康促進を目的とする。また、疾患の症状や治療の副作用を和らげるのにも用いられる。がん患者に対しては、吐き気や痛みの対処に効果がある。鍼を用いる前に、この方法があなたのガンの種類に対して悪影響がないか医療チームに確認しましょう。

Advance directives 事前指示書
 死期に際してどのような治療を望むかを事前に決定することができる法律文書。主な2種類は、生前の意思表示(Living Will)と医療に関する永続的委任状です。

Advanced cancer 進行ガン
 医師がもはや治療では抑えれれないと判断したガン。「進行期ガン」とか「後期ガン」とも呼ばれる。

Biofeedback 生体バイオフィードバック
特定の生体機能のコントロールをするために監視する方法。たとえば心拍や血圧など。

Breakthrough pain 激痛 
 鎮痛薬でも抑え切れない痛みや、短時間の強い痛み。激痛は日に数回起こることがある。また、鎮痛薬を適切に服用していても起こることがある。

Complementary and alternative medicine (CAM) 補完・代替医療
 標準治療とともに、または代わりに用いられる治療で、鍼やマッサージなどがある。補完・代替治療はガンの症状や副作用を抑える効果がある。しかし、すべての補完・代替治療が安全ではない。標準治療の代わりとなるものではない。

Clinical trials 臨床試験
 疾患のスクリーニング、予防、治療,疾患の診断などの新しい方法を検査するボランテアを被験者とした研究の一種。臨床研究とも呼ばれる

Diagnosis 診断
 疾患や健康状態の名前や状態を判断すること。再発ガンではガンの種類、部位、段階も含む。

Dietitian 栄養士
 栄養に関する特別な知識を持ち、食品の選択などの助言をする人。摂食を容易にする方法のアドバイスもする。

Durable power of attorney for health care 医療に関する永続的委任状
 この事前指示書は人(医療代理人)を指名します。医療代理人は自分で決定ができないときに代わりに医療に関する決定をします。:

Ethical (EH-thuh-kul) will: 倫理的遺言状
 愛する人と共有したい考えや望みを書き記した書類。法的な効力はない。
(もどる
Health psychologist 精神医学者
 疾患を持つ人や家族の治療をする精神医学の専門家

Health care proxy 医療代理人
 事前指示書で指名した、あなたに代って医療の決定をする人。あなたが自分で選択できなくなったときに代わって医療の決定をする

Hospice (HA-spis) care: ホスピス
 患者が毎日を充実して生き、尊厳死を迎えられるような介護をする。疾患の治療ではなく、患者が疾患から解放され、自分を取り戻すことを目的とする。

Hypnosis 催眠
 リラックスし注意を集中するさま。患者は特殊な感覚、考え、暗示などに集中し、治癒を促進する。催眠は医学治療と併用されると、ガンの疼痛緩和に最高の効果をあげる。

Imagery イメージ
 患者の心の中のプラスの概念に意識を集中する方法。身体を癒し心を穏やかにする。

I.V. intravenous  点滴
 静脈を通して薬や栄養を体内に注入する方法。
 
Legal power of attorney 法的代理人
 自分で意思決定できなくなったときに代わりに財政面の決定をする指名を受けた人。:

Living will 尊厳死の遺書
 事前指示書の一種。死期に際してどのような医療を求めるかを述べた法的文書。

Massage therapyマッサージ療法
 体のリラックスや幸福感を得るために、身体の各部をこする療法。

Notary public 公証人
 法的文書に署名をする、裁判所から指名された立会人。

Oncologist 腫瘍医
 ガンの研究や治療の専門医。

Oncology social worker 腫瘍学ソーシャルワーカー
 ガンの患者や家族の援助をするソーシャルワーカ。

Palliative care 緩和医療
 重篤な、また致命的な疾患を持つ患者の生活の質の向上を図る治療。緩和治療の目的はできる限り早期に予防や治療をすること。

 ・疾患の症状
 ・治療の副作用
 ・疾患や治療に関する心理的、社会的、精神的な問題

快適さの療法、支持療法、症状緩和などとも呼ばれる。

Palliative chemotherapy 緩和化学療法
 治療を目的としない、進行ガンの症状の緩和のための化学療法。

Palliative radiation  緩和放射線療法
 治療を目的としない、進行ガンの症状の緩和のための放射線療法。

Palliative surgery 緩和手術
 進行ガンの症状を緩和する手術。
(もどる
Recurrence  再発
 ガンが発見されなかった期間がありその後戻ってきたガン。ガンが元の腫瘍の場所に戻るときと身体内のほかの部位に出現するばあいがあり、いずれも再発ガンと呼ばれる。

Relaxation techniques リラックス法
 深呼吸、筋肉の弛緩などの別の方法で、緊張緩和や痛みの緩和に用いられる。

Remission 寛解
 ガンの徴候や症状が、減少したりなくなったとき。ガンは身体内に残っているが、以前ほどではない状態。

S.C. subcutaneous 皮下注射
 皮膚の下に薬が処方される。ほとんどがこの方法で行われる。

Specialist 専門家
 医学の特定分野の研究や経験を積んだ医師。:

Standard treatment 標準治療
 専門家により承認され、受け入れられている薬や治療法で、広く使用されているもの。医療提供者は患者に標準治療を施す義務がある。治療の標準とか最高の治療とも呼ばれる

Trust 信認状
 この法的文書により金銭や所有物を他の人の所有にする。

Tumor  腫瘍
 組織の異常な塊。

Will 遺書
 この法的文書により相続人に財産を分け与える。




(もどる
第12章 個人事項覚え書きシー

この個人情報シートに記入しておくことで、後に、家族があなたの個人的事項を処理するのに役立ちます。必ず、家族にこのリストのことを伝えておいてください。このシートによって、家族があなたの死亡に際して対応が容易になり、あなたの遺志や希望を確認することができるでしょう。このリストの内容は随時更新し、安全な場所に保管してください。また、信頼のおける人以外には見られることがないようしましょう。


(もどる) 銀行 − 預金とローン
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

生命保険会社
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

健康保険会社
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

障害保険会社
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

住宅所有者及び家主保険会社
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

葬儀保険会社、互助会

連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

労働組合、他組合
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

法律関係者(弁護士、司法書士、法定代理人)
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

税理士

連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

遺言執行者

連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

税務署

連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

社会保険事務所

連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

国民年金および厚生年金
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

《米》復員軍人援護局
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

投資信託会社

連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

住宅金融会社

連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________



信販会社(クレジットカード会社)

連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

返済義務のあるその他の金融機関
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

雇用主
連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

宗教関係者または団体

連絡先
________________________________

________________________________

必要な手続き

________________________________

________________________________

貸し金庫の鍵および貸し金庫の場所

________________________________

________________________________

金庫の鍵番号


________________________________

________________________________

その他の貴重品(宝石など)の保管場所

________________________________

________________________________


(もどる)