独断的JAZZ批評 803.

MANABU OHISHI
「素」の美しさ
"ETERNAL"
大石学(p), JEAN-PHILIPPE VIRET(b),SIMON GOUBERT(ds)
2012年2月 スタジオ録音 (ATELIER SAWANO : AS 131)


大石学の前作"GIFT"(JAZZ批評 760.)は2012年のベスト・アルバムの1枚に選定した。一音一音の美しさ、楽曲の美しさと清々しさ、どれをとっても唯一無二の「大石ワールド」と言えるだろう。
今までに大石学のアルバムは、トリオ・アルバムが先の"GIFT"のほかに"WISH"(JAZZ批評 643.)を、ソロ・アルバムでは"WATER MIRROR"(JAZZ批評 690.)と"REQUIEM"(JAZZ批評 745.)を紹介している。これら4枚すべてのアルバムに僕は5つ星を付けている。
ところで、今度の"ETERNAL"のクレジットをよく見てみると、このアルバムの録音データ(2012年2月3,4,5日録音)が"GIFT"のそれと全く同じなのだ。普通に考えれば、2枚組になって発売されるところを、タイミングをずらして別々のアルバムとしてリリースした真意はどこにあったのだろうか?
ライナー・ノーツによれば"GIFT"はメロディ重視で選曲し、"ETERNAL"はインタープレイに焦点を当てたとあるが・・・。

@"KU" 「空」 またしても「大石ワールド」の再現である。美しくて親しみやすいオリジナル。徐々にテンションが高まっていく様が良い。
A"THE WAY YOU LOOK TONIGHT" 
スタンダードとなったJEROME KERNの曲。心地よい4ビートに乗った楽しげな演奏だ。VIRETの良く歌うベース・ソロとドラムスとの4小節交換を挟んでテーマに戻る。
B"SOMEDAY MY PRINCE WILL COME" 
デュオ。言わずと知れた「いつか王子様が」 イントロがどこかで聞いた曲だがタイトルが思い出せない・・・。遊び心豊かな1曲。
C"E. S." 
「クラシック音楽界の異端児」と言われたERIK SATIEからインスパイアーされたオリジナルというが、僕にはボサノバ・タッチの「大石節」に聴こえる。
D"W. S." 
WAYNE SHORTERからインスパイアーされたオリジナルというが、こちらが"E. S."ではないかと思ったりした。
E"WINTER WALTZ" 
静かに躍動していて、しかも、気品がある。
F"ETERNAL" 
デュオ。ピアノとピアニカも同時録音らしい。どうやって弾いているのだろう?ピアニカの音色を聴くとパリの雰囲気になるから不思議だ。
G"I FALL IN LOVE TOO EASILY" 
JULE STYNEが書いた大好きな楽曲の一つ。まず、タイトルがいいね。演奏はあくまでもしっとりとして、緑葉に乗った雫のようであり、それがキラリと光る。
H"HINATA"
 ピアノ・ソロ。グロッケンシュピール(鉄琴)をオーバーダビング。「ひなたにいる猫の感じ」だそうだ。柔らかい日差しの中で、ゆったりとした気分で、猫がいて、さらにビールでもあれば最高だ。

華飾を施さないあるがままの「素」の美しさこそ大石の真骨頂というべきものだろう。この人のジャズを聴いていると優しい気持ちになってくるから不思議だ。
このアルバムもまた、素晴らしいアルバムであると推奨することに躊躇はない。ただ、"GIFT"と併せて両方持つ必要があるかは微妙なところだ。多少目指すものが違っているとしても同じ録音日、同じメンバーであればどちらか一つでもよいという気もする。
あえてどちらかを選ぶとすれば"GIFT"の方を僕は選ぶ。大石の真骨頂、美しさが際立っているからだ。
勿論、両方のアルバムを併せ持つことにも異論はないということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2013.05.09)

試聴サイト : https://soundcloud.com/atelier_sawano/sets/manabu-ohishi-trio-eternal


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