独断的JAZZ批評　６４０．

"PRAY"
熊谷ヤスマサ(p), 川村竜(b), 小森耕造(ds)
2010年2月　スタジオ録音　(ANTURTLE ANALOG RECORDINGS : ANTX-4009)

いやあ！何と凄いピアニストとベーシストが出てきたものだ！先ずは、このページの一番下にリンクを張ってあるプロモーション・ビデオをご覧頂きたいと思う。この映像を聴き（見）ながら僕はぶっ飛んでしまった。何というピアニストだ！何というベーシストなんだ！と思った。ピアニスト・熊谷ヤスマサも凄いがベースの川村竜も凄い！間違いなく、次世代の日本のジャズを牽引していく逸材だろう。熊谷30歳、川村28歳、小森耕造32歳の3人が成し遂げた快挙。
そして、この録音がまた凄い。上記に書いてあるように、このアルバムはアナログ録音の音源に特化したレーベル"ANTURTLE ANALOG RECORDINGS"から発売されている。素人にはアナログ録音とデジタル録音の理論的な違いは良く分からぬが、この音を聴けば、アナログ録音の凄さに驚嘆するだろう。このベースの音色はここ数年のアルバム中でも最高と思わせるベース音だ。念のために付け加えると、録音のみならず、強靭なピチカートから生み出される川村のベース･ワークの素晴らしさは言うまでもない。

①"BROTHERHOOD"　少々大袈裟なイントロで始まるが、一転してちょっとメランコリーな演奏に変わる。川村のベースがフィーチャされるが、これが本当にいい音色。アコースティック・ベースの音色を隈無く伝えている。川村のビート感のあるピチカートは日本人離れしている。
②"QUE PASA BONITA"　ベースのイントロが唸っている。この音色は凄いねえ。ベースの定型パターンに乗って熊谷のピアノが挑戦的なフレーズを散りばめる。ピアノとベースの定型パターンに乗って小森がキレの良いドラム・ソロを執る。
③"COMFORTABLE TEMPERATURE"　エアコン、29℃設定のジャズだそうだ。アコースティックだけどエレピみたいな演奏。で後半はそのエアコンが止まってしまったらしい。
④"HEALING"　曲の良さと相俟って、川村のベース･ソロが凄い。強いビートと太い音色。アコースティック・ベースの魅力を余すところなく伝えているアナログ録音に最大限の賛辞を贈りたい。
⑤"CHOIR'S GOT FIRED"　まず、ゴスペル・タッチの曲がいいね。
⑥"HOMEBOY feat. DJ PASSO"　エレピとDJ。で、？？？
⑦"YELLOW TAIL"　寿司ネタではハマチのことをこう呼ぶそうだ。活きの良いネタだ。
⑧"NO WEAPON"　
⑨"TORU DODO"　アメリカで活躍する日本人ピアニスト百々徹に捧げた曲。何といってもここでは唸りを上げて爆走する川村のベース・ワークに注目したい。僕はこの演奏を聴いて、1966年録音の"BERNIE'S TUNE"におけるRICHARD DAVISのド迫力のウォーキング（JAZZ批評　４４．）を思い出していた。
⑩"PRAY"　極めつけはこの曲でしょう。下記のリンクにあるプロモーション・ビデオでも演奏されている曲。静かなバラードで始まるが、徐々に昂揚感を増してきてこのアルバム全体のクライマックスともいえる爆発力を見せて終わる。

先日紹介した鹿児島の松本圭使は26歳。この熊谷は30歳。新世代ピアニストの登場である。ベースの川村は28歳。優秀な若手ミュージシャンが輩出してきたなあと感慨を新たにする。松本のファースト・アルバム"THE OTHER SIDE OF IT"（JAZZ批評　６３１．)同様、このアルバムも全ての曲が熊谷のオリジナルだ。ふたりとも作曲においても非凡なものを感じさせる。
将来の日本のジャズを背負っていける逸材ということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。

昨晩、僕はお茶の水「ナル」で熊谷の生ピアノを聴いてきた。ベースに川村竜、ドラムスに大槻カルタ英宣、アルトサックスに太田剣というカルテットだった。満席の6割が女性だった。女性の比率の方が高いジャズ・ライヴは初めてだ。しかも、皆若い。お目当ては太田か？熊谷か？
いずれにしても、多くの若き女性が詰め掛けてくれるとは日本のジャズも捨てたもんじゃない。
後半の部で、遊びで立ち寄ったというケイ赤城が飛び入りで演奏。ここからライヴは大いに盛り上がり白熱の演奏と化していった。プレーヤ全員のテンションがグッと上がった感じ。当然、オーディエンスも多いに盛り上がった。いやあ、ライヴはいいねえ。　　　　(2010.08.01)

試聴サイト　：　http://www.youtube.com/watch?v=bUTWPk2MtgE&feature=player_embedded#!

　