独断的JAZZ批評 539.

SHARON MINEMOTO
人に優しいジャズ
"YOU CAN SEE THE OCEAN FROM HERE"
SHARON MINEMOTO(p), PAUL RUSHKA(b), PAUL TOWNSENT(ds), BRAD TURNER(flh: I)
2007年5&10月 スタジオ録音 (PAGETOWN RECORDS : PTCD003)


実は、このCDと前掲の"AFTER THE LAST DANCE"(JAZZ批評 538.)は同時に購入した。勿論、購入前にはネットでチェックして試聴をしている。しかし、このネット上の試聴と実際の購入後の試聴とでは印象が大きく変わることがある。ネット試聴の場合はMP3等の圧縮されたデータが中心で音質面でもうひとつということが多い。音質があまりよくないので大音量で聴くこともない。一方、これがCDディスクだと高音質、しかも大音量で聴けるわけで、シンバリングの微妙なニュアンスやベースのビート感も生々しく感じる。そうすると評価がガラリと変わってしまうことがある。
この2枚のCDをネットで試聴した段階では"AFTER THE LAST DANCE"の方が面白くて評価も高くなるだろうと思っていた。が、結果は逆で、前者が星4つで、後者が星4つ半となった。ネット上の試聴が万能ではないという証左でもあろう。当たり前のことだけど、ジャズは大音量で聴かないとね・・・。

@"YOUNG AT HEART" 
軽やかなシンバリングのワルツで始まる。くっきりとしたピアノの音色も良し。良く歌うベースのソロもグッドだ。清新にして楽しげなプレイヤーの気持ちまで伝わってくる。
A"YOU MAKE ME DIZZY" 
気持ちのよいシンバリングだ。こういう脇役に徹したドラミングというのもこのトリオには欠かせない。
B"MY SHIP" 
日本女性らしい慈愛に満ちた演奏。心安らぐね。最長の8分と51秒。
C"TENDERLY" 
ベースの定型パターンに乗ってテーマを奏でる。ベースとドラムスの両PAULは地味だけど堅実実直なプレイで好感が持てる。MINEMOTOはいいメンバーに恵まれた。
D"GREEN GLASS" 
MINEMOTOのオリジナル。ピアノのタッチがクリア。
E"SUMMER NIGHT" 
ワルツを刻むシンバルが良い音している。ハード・タッチのグルーヴィな演奏がいいね。
F"FOR NATALIE" 
MINEMOTOの書いたオリジナル・バラード。なかなか良い曲だ。ピアノの音色もクリアだけど温かい。RUSHKAのベース・ワークは太くてよく歌うので、このグループには欠かせない。
G"WHO CARES" 
サクサクとしたブラッシュ・ワーク、太いベースのウォーキングにのって心地よく跳ねるピアノ。昔のジャズは皆、こうだった。
H"HAND IN HAND" 
I"YOU CAN SEE THE OCEAN FROM HERE" 
唯一、フリューゲルホンのBRAD TURNERが参加した曲でMINEMOTOのオリジナル。哀しみと優しさを湛えた佳曲。そもそも、彼女は1997年にBRAD TURNERとのクインテットでジャズの道をスタートしたという。

SHARON MINEMOTOは名前からいうと日系のピアニストなのだろう。ジャケットの写真もいかにも日本人だし(正しくはカナダ在住の日系3世らしい)。二人のPAULはカナダ人だろうか?3人のプレイには緊密感も一体感もある。いずれにしても、MINEMOTOは良いメンバーに恵まれた。
このアルバムは古き伝統に根ざしたジャズである。モーダルな演奏よりもコード進行を大切にしたビ・バップに根ざしている。非常にオーソドックスであるが安心感がある。そう、岩崎佳子の"HEART TO HEART"(JAZZ批評 443.)や鈴木良雄の"FOR YOU"(JAZZ批評 416.)などと相通ずるものがある。人に優しいジャズなんだよね。   (2009.02.25)

試聴サイト : http://www.myspace.com/sharonminemoto