OLIVIER ANTUNES
超一流のミュージシャンが聞き古されたスタンダード・ナンバーを心を込めて演奏すれば、こうなるという見本をたっぷりと堪能いただきたい
"ALICE IN WONDERLAND"
OLIVIER ANTUNES(p), JESPER BODILSEN(b), MORTEN LUND(ds)
2008年4月 スタジオ録音 (MARSHMALLOW RECORDS : MMEX-122)

OLIVIER ANTUNESのトリオ・アルバムでは2005年録音の"1'st SKETCHES"(JAZZ批評 447.)が思い起こされるが、その時は、ベースに異色のLENNART GINMANが共演していた。その異色の取り合わせが想像もしなかった新しい世界を提供してくれた。
今回のアルバムは、今やヨーロッパを代表する若手サポート陣のBODILSENとLUNDの組み合わせだ。この二人はALEX RIELとJESPER LUNDGAARDの後継者としての評価も高い。

BODILSENとLUNDの組み合わせは今までにいくつかのアルバムを紹介している。STEFANO BOLLANIの"MI RITORNI IN MENTE"(JAZZ批評 210.)や"GLEDA"(JAZZ批評 264.)、KASPER VILLAUME の"ESTATE"(JAZZ批評 268.)などはその代表的アルバムで、どれも瑞々しい歌心に溢れている。

@"NATURE BOY" 
この曲は大好きな曲のひとつ。かつて紹介したアルバムにも印象深い名演がある。ひとつが、緊迫感溢れスリリングなSTEFANO BOLLANI "MI RITORNI IN MENTE"(JAZZ批評 210.)で、もうひとつがBOLLANIとは対照的に無骨で土のにおいのするMARTI VENTURA "PAS DEL TEMPS"(JAZZ批評 287.)における演奏だ。ANTUNESの演奏は非常にナチュラルに洗練されていてアンサンブルの美しさが際立つ。ちょい聴きだと物足りなさが残るかもしれない。しかし、この演奏は何回も噛締めるように聴いて欲しいと思う。次第に充足感が心の隅々まで埋め尽くすだろう。また、録音のよさも特筆に価する。ピアノの音色が素晴らしい。
A"I COULD WRITE A BOOK" 
心地よい4ビートがズンズンと進んでいく。BODILSENの太いウォーキングを聴いているだけで心が躍る。ピアノ・トリオの真髄。この躍動感は半端じゃないね。
B"ALICE IN WONDERLAND"
 ワルツを刻む軽やかなブラッシュが心地よい。テーマに続いてBODILSENのベース・ソロ。アコースティックな木の箱の共鳴のあるいい音色だ。
C"I LOVE YOU" 
ミディアム・テンポのブラッシュがサクサクと心地よい。伸び伸びと歌うピアノもグッドだ。まあまあ、硬いこと言わずに、グラス片手に指でも鳴らしながら楽しんでいただきたい。間違いなく、アルコールをより美味しくする演奏である。
D"THE PEACOCKS" 
しっとりとしたピアノ・ソロ。このピアニスト、この時点ではBODILSENとLUNDに支えられている。まだまだ発展途上だ。ソロが一人前になれば本物だろう。
E"DEAR OLD STOCKHOLM" 
テーマは2ビート。続いてベース・ソロ。BODILSENのベースは妙にテクニックをひらけしたりすることがなくて好感が持てる。前へ前へとグイグイ引っ張るウォーキングが素晴らしい。大好きなベーシストの一人。
F"MY FOOLISH HEART" 
余分なモノが一切ない、研ぎ澄まされた演奏。ピアノの音色が素晴らしい!
G"WHEN LIGHTS ARE LOW" 
さあ、指を鳴らしながら聴きましょう!お代わりもう一杯!
H"STOLEN MOMENT" アドリブではマイナーのブルース形式になるが、4ビートの楽しさが満喫できる。
僕の中では、この曲の名演といえばPHIL WOODSの"ALIVE AND WELL IN PARIS"(JAZZ批評 52.)。併せて、聴いて欲しいアルバムだ。
I"ALL OF YOU" 

耳にたこが出来るほど聞き古されたスタンダード・ナンバーに3人が真摯な態度で取り組んだ。その結果として、アンサンブルの素晴らしさとなって結実したアルバムである。余りモノも、足りないモノもない、丁度良い塩梅だ。超一流のミュージシャンが聞き古されたスタンダード・ナンバーを心を込めて演奏すれば、こうなるという見本をたっぷりと堪能いただきたい。
全曲、スタンダード・ナンバーで、しかも、過去に名演が山ほどある曲を揃えるなんて、手抜きのやっつけ仕事だったら絶対断る仕事だろう。同時に、絶対的な自信がなければ引き受けることはなかったろう。真摯に真正面から取り組んだからこそ成しえることが出来た快作でもある。
最後に、録音のよさを付け加えておこう。この録音の良さあっての「アンサンブルの妙」なのだと。ジャズ初心者からベテランまで幅広い人たちに聴いて欲しいと思う快作だ。多分、プロの評論家はこういうアルバムには、得てして、辛い点を点けるのではないだろうか?人が何と言おうと、「いいものはいい」との信念で、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2008.09.24)



独断的JAZZ批評 504.