DANNY GRISSETT
GRISSETTのオリジナルは観念的で、美しさとか艶っぽさがない
"ENCOUNTERS"
DANNY GRISSETT(p), VINCENTE ARCHER(b), KENDRICK SCOTT(ds)
2007年4月 スタジオ録音 (CRISS CROSS : CRISS 1299 CD)

このアルバムの注文を出したのが2月の16日。その後、何回かの入荷遅れの連絡があり、最終的に手元に届いたのが3月の末日。当初の発売予定が2月25日と書いてあったから、待つこと1ヶ月以上。このレコード業界というのは本当に納期遅れが多い。1ヶ月待たせるのはざらだし、ひどいものは数ヶ月なんてことがある。部品点数、数千点の家電製品がきちっと納期を守れるのに、部品がディスクとケース、ライナーノーツとパッケージ・フィルムの4点しかないCDにそれが出来ないのは、業界の未熟さがそのまま表わされているようなものだ。
今もBRAD MEHLDAU"LIVE"が1週間単位で遅れ、当初の発売予定を20日ほど過ぎようとしている。やっと、本日、出荷準備の知らせがあったところだ。やれやれ・・・。

話は横道にそれてしまったが、本題に移ろう。GRISSETTのアルバムは既に2枚ほど紹介している。1枚が"PROMISE"(JAZZ批評 403.)で、もう1枚が北川潔がリーダーの"I'M STILL HERE"(JAZZ批評 448.)だ。特に、後者のアルバムは若手のGRISSETTが加わることにより緊迫感と躍動感が横溢していた。その2ヵ月後にGRISSETTのオリジナル・トリオで2007年4月に吹き込まれたのがこのアルバムだ。
@ABCEHがGRISSETTのオリジナルだ。

@"HOPSCOTCH" テーマとは関係なし(?)に、アドリブからは躍動感のある4ビートを刻む。このアドリブはいけてるね。KENNDRICK SCOTTの切れのあるドラミングもグッドだ。
A"WALTZ FOR BILLY" 
B"A NEW BEGINNING" 
C"ENCOUNTERS" フリー・テンポのアブストラクト紛いの演奏もやるんだ!
D"TOY TUNE" W. SHORTERのオリジナル。
E"SUNRISE" 
F"IT COULD HAPPEN TO YOU" テーマ良し、アドリブ良しでこのアルバムの白眉。2ビートから徐々に4ビートに移行して気持ちの良い4ビートを刻みだす。小気味の良いKENDRICKのドラミングが良く歌っている。
G"NEVER LET ME GO" これもいいテーマで安心して聴いていられるし、こういうピアノが弾けるのだから、オリジナルのテーマさえ良ければなあと思ってしまう。
H"GIT ! " 

先に紹介した"I'M STILL HERE"と聞き比べてみたときに決定的に違う点があるとすれば、それは楽曲の面白さの差だ。GRISSETTの書いたオリジナルは端的に言って面白くない。これが北川潔のアルバムと決定的に違うところだ。
僕はいつも、「いいテーマに、いいアドリブあり」と思っているので、テーマが面白くないとアドリブとて面白いはずがないと思うのだ。実際、@のようにアドリブがテーマとは関係なしに面白いというのは不思議な現象だと思っている。
GRISSETTのオリジナルは観念的で、美しさとか艶っぽさがない。まあ、未だ若いしそういうところまで気が回ってないのかも知れない。僕の評価のポイントは「躍動感、緊密感、美しさ」であるからこういうアルバムはどうしても点が辛くならざるを得ない。
サイドメンを比べてもベースの北川潔、ドラムスのBRYAN BRADEの強靭サポートには及ばないだろう。それともう1点。GRISSETTの左手がもっと表現力豊かになったら、これは本当に楽しみだと思う。表現力豊かな右手に比べて、左手は一本調子なのが残念だ。   (2008.04.10)



独断的JAZZ批評 477.