独断的JAZZ批評 433.

JAN LUNDGREN
役者が違う!
"A SWINGING RENDEZVOUS"
JAN LUNDGREN(p), JESPER LUNDGAARD(b), ALEX RIEL(ds)
2007年2月 スタジオ録音 (MARSHMALLOW RECORDS : MMEX-114)

同じマシュマロ・レコードから2005年に発売になったLUNDGRENの"IN NEW YORK"(JAZZ批評 336.)はベスト・プレイとは言い難い演奏で期待を裏切るものだった。PETER WASHINGTONとKENNY WASHINGTONとのコンビは「文化が違う!」と言いたいくらいの違和感があった。尤も、LUNDGREN自身の一緒に演奏してみたいというオファーに基づいて企画されたアルバムだったように記憶しているが、「こんな筈ではなかった!」とLUNDGRENが思ったかどうかは知らない。
で、このアルバムであるが、本来の”愛すべき”トリオに戻った。ここには
「役者が違う!」と言いたくなる程の歴然とした違いが表れている。ピアノ・トリオにおけるサポート陣の重要性が如実に表れたアルバムだ。
この手の、スタンダード・ナンバー中心のアルバムは「売れ線狙いの企画モノ」といわれてもしょうがないと思うのだが、どんな風に言われようと内容が良ければ文句を挟む余地はないと僕は思っている。そういう意味で、NEW YORK TRIO/BILL CHARLAPの"THOU SWELL"(JAZZ批評 395.)に良く似ているアルバムである。「売れ線狙い」であろうが、「企画モノ」であろうが、「良いものは良い」ということで十分満足できるのだ。要は、「スイングがなければ意味がない」のである。

@"KEEP IT MOVING" AA'BA'形式の32小節の歌モノ。最初の一音から気持ちよい。これぞピアノ・トリオの真髄でしょう。切れのあるピアノのタッチに一体感と躍動感溢れる演奏。「阿吽の呼吸」というか、「全てを知り尽くした仲」というべきか・・・このトリオの真骨頂。
A"SOUL EYES" MAL WALDRONの書いた名曲。
B"TRICROTIZM" ベーシスト、OSCAR PETTIFORDの書いた曲。なかなか味のある曲で大好きな曲のひとつ。このアルバムのJESPER LUNDGAARDはヨーロッパを代表するベースの名手。流石に、その演奏に狂いはない。皆さんも痺れてください。もうひとつ、PETER BEETSの名演があるので紹介しておこう。"FIRST DATE"(JAZZ批評 182.)がそれで、ベースにはお兄さんのMARIUS BEETSが参加している。
C"BILLY BOY" ウーン、懐かしい!この曲とくれば1958年録音のMILES DAVIS "MILESTONE"におけるRED GARLANDの演奏を思い出す。この曲のみピアノ・トリオ(PAUL CHAMBERS:b, "PHILLY" JOE JONES:ds )で演奏されているが、その演奏を彷彿とさせるLUNDGRENの切れのある演奏も素晴らしい。LUNDGAARDのCHAMBERSを超越したアルコ奏法がおまけ。このアルバムのベスト・プレイ。

D"KELLY BLUE" WYNTON KELLYの書いたブルース。最近ではこういう曲を演るのは専らヨーロッパのプレイヤーたちだ。アメリカのピアニストはどうしちゃったの?
E"TWO LITTLE PEARLS" 日本風に言うと、「こりゃあ、演歌だね」
F"WELL YOU NEEDN'T" T. MONKのひょうきんな曲。重厚なベースのウォーキングに快いシンバリング。気持ちよさそうなピアノ・プレイに納得。
G"BLUES IN THE CLOSET" ブルース。1コーラス、テーマを演って即、アドリブに入る。サクサクトしたブラッシュ、唸るベース。ピアノ・プレイはいたってシンプルだ。でありながら、全体の調和が良い。
H"THIRD WORLD" 
I"LAMENT" こういう曲がさりげなく入っているとアルバムが落ち着くよね。LUNDGRENの右手のシングルトーンがイケテルね。勿論、LUNDGAARDのベース・ソロは良く歌っている。
J"WHIMS OF CHAMBERS" PAUL CHAMBERSの書いた泥臭いブルース。テーマを2コーラス演った後、LUNDGAARのベース・ソロが入る。CHAMBERSというよりもRICHARD DAVIS風の力強いソロが聴ける。さあ、皆さん、アフタービートで指を鳴らしながら、そのついでに、一杯いくと、これが更に美味い!

このアルバム・レビューの直前に紹介した3枚のアルバムはいずれも星、4つだった。これらのアルバムとこのアルバムの絶対的な違いは「躍動感」にある。心躍るような躍動感があるやなしや!
ジャズから躍動感を取ってしまったら、「何も残らない」と僕は常々思っている。まさに「スイングしなければ意味がない!」のだ。4つ星プレイヤーがこの域に達するまでには相当の努力と時間が必要だと痛感するのである。
一方で、これらスタンダード・ナンバー満載のアルバムを商業主義だとか、売れ線狙いだとか言う意見も多かろうが、要は、良いアルバムかどうかということ。
このアルバムの素晴らしさは「調和」だ。3人の役者がそれぞれの個性をぶつけ合いながらもキチンと「調和」をとって素晴らしい作品に仕立て上げたという・・・そういう感じ。
「良いものは良い」という信念を持って、
「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2007.08.26)



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