CLIFF MONEAR
ドラムスをSCOTT KRETZERに固定して、このトリオを熟成していったほうが良いのではないかと思った
"IT'S ABOUT TIME"
CLIFF MONEAR(p), NICK CALANDRO(b), BOB HARSEN(ds:A、B、E) SCOTT KRETZER(ds:@、C、G、I) ENNIX BUCHANAN(ds:D、F、H、J、K)
2006年 リリース (CLIFF MONEAR MUSIC)
アメリカのマイナー・ピアニストの自主制作盤だという。
アメリカの自主制作盤というとMICHAEL KOCOURの作品を思い出す。今までに紹介した2枚のアルバム(JAZZ批評 353.と398.)はいずれも自主制作盤にも拘らず、素晴らしい出来映えのアルバムだった。アメリカには目利きのプロデューサーはいないのか!と思ったものだ。その一方で、アメリカジャズ界の裾野の広さと底力を再認識されるに十分なアルバムであった。
そして、このアルバムであるが、結論から言うと、ことピアニストに関して言えば、このアルバムもアメリカの裾野の広さと底力を感じさせるに十分なアルバムといえるだろう。ベースの出来も良い。ただし、意図的に交代するドラムスの3人は出来に多少のバラつきがある。プレイヤーそのものの出来もさることながら、意図した演奏内容の違いが結果となって表れたという感じ。
それはさておき、MONEAR、その人のピアノは良いと思う。良く動く指使いではあるが、決して、饒舌、多弁の人ではない。緩と急、疎と密の使い分けが上手く出来ている。
@"BERNIE'S TUNE" ころころと良く転がる指使いにスピード感がある。緩と急、疎と密の使い分けが上手い。参考までに、「この曲と言えばこの演奏」というのを紹介しておこう。それはEARL
HINESの"HERE COMES EARL HINES"(JAZZ批評 44.)で若かりし頃のRICHARD DAVISとELVIN JONESの溌剌としたプレイを堪能することが出来る。
A"RED CLAY"
B"TEMPTATION" 少し甘めのバラード。
C"SOLAR" M. DAVISの書いた曲で、過去にも多くのジャズメンが取り上げている。多くの名演があるので、こういう曲をラインナップに加えるのは相当勇気が必要だろう。しかし、MONEARはけれんみのない演奏を繰り広げている。
D"OLD DEVIL MOON" ベースがテンションの高い良い演奏をしているのだが、ドラマーが燃えないしノリが悪い。
E"FREEDOM JAZZ DANCE" この演奏のドラムスはつまらない。この曲はPHIL WOODS(JAZZ批評 52.)の強烈な演奏があるので、僕の意識の中ではこれを越えるのは相当難しいと思うのだ。
F"ALL THE THINGS YOU ARE"
G"BAUBLES BANGLES AND BEADS" 軽快なブラッシュ・ワークに乗って4ビートを刻んでいく。軽すぎず、重すぎず適度なノリで楽しませてくれる。難しい講釈は必要としない。流れ出る音楽に指の先まで浸ればよい。KRETZERの力強いベース・ソロが聴ける。
H"MELANCHOLY SERENADE"
I"BLUE MONK" 言わずと知れたT. MONKの書いたブルース。MONEARはシングル・トーンで歌い上げていく。ピアノのタッチに切れがあって気持ちよい。ベース・ソロも強いビートで良く歌っていてブルージー。
J"MENINA FLOR"
K"A VERY "LADY BIRD"" 4ビートを刻むシンバリングに緊迫感がなくてダレル。
このアルバムでは3人のドラマーが登場する。この意図するところは不明だが、ドラマーごとに演奏のばらつきを感じる。これはドラマーが替わったことによる影響と同時に、ドラマーに合わせて選曲の傾向を変えていったということの影響も強いのではないだろうか?そういう意味では、SCOTT
KRETZERがドラムを叩いた@、GやIが印象に残る。所謂、伝統に即した4ビート演奏を主体にしていて、ノリが一番良いと思うし、緊迫感と一体感がある。それ以外の曲は概して、軽いノリの演奏が多くて心に響かない。
このピアニストも未だ陽の目を見ないプレイヤーの一人かもしれないけど、楽しみな一人だ。ベースのNICK
CALANDROはアコースティックな音色、強いビートと良く歌うベースラインでこれも楽しみなプレイヤーだ。ドラムスをSCOTT
KRETZERに固定して、このトリオを熟成していったほうが良いのではないかと思った。そういう期待を持ちながら次のアルバムを待ちたいと思う。 (2007.08.12)