CHICK COREA "NOW HE SINGS,NOW HE SOBS"
CHICK COREA(p),MIROSLAV VITOUS(b),ROY HAYNES(ds) 1968年3月録音
チック・コリアのピアノトリオ・デビュー作 "NOW HE SINGS,NOW HE SOBS"
は僕の30年のジャズ暦の発端になった記念すべきレコードである。あの時、このレコードを聴いていなければ、ここまでJAZZにのめりこむことはなかった。
当時としても、この時のコリアのデビューはJAZZ界に衝撃的をもたらした。32年の歳月を経てなお、斬新で古さを感じさせないことが、その時の衝撃を物語っている。
逆に、それ以降のコリアのレコードは、僕にこれほどの感動を与えてくれていないのが残念。
最初の曲“MATRIX”は自由奔放に弾きまくるコリアの活き活きとしたピアノの響きが印象的である。当時、この曲が12小節のFのブルースであるということ自体が斬新であり、新しい発見であった。
コリアのピアノは音の粒立ちが非常に鮮明で抜群の躍動感に溢れている。
特に、このレコードでは乗りに乗って弾きまくっているコリアの姿が目に浮かぶ。また、オリジナルで固めた選曲が実にユニークで面白い。東洋思想を反映したというが、なるほどという曲作りになっている。
コリアというピアニストはオリジナル曲の方が自己表現のできるピアニストだ。スタンダード・ナンバーを弾かせても、あまり面白くない。この点はキース・ジャレットの方が一枚上だ。
あえてこのレコードの残念な点をあげれば、ベースのミロスラフヴィトスのベース音が多少だぼつき気味だということ。この時代、ベースはエレキベースのように弾くことがもてはやされ、ベース本来のビート感や重厚感は、どちらかというとないがしろにされていた。そういう時代の中で、ヴィトスのクラッシクを基本にしたテクニックは画期的であった。そして、以降、大いにヨーロッパ人のベーシストがもてはやされることになるのだが・・・。
緊張感あふれるコリアとロイ・ヘインズのドラムス中でヴィトスのベースもスイングして唸りを上げているのだが軽いベース音が残念でならない。
しかしながら、トリオとしてのトータルパワーはその欠点を補いつつ、十分おつりのくる演奏となっている。
30年経過した今もって、その曲想、演奏とも斬新なもので、今もなお決して古さを感じない。
後30年経ったとしてもこの斬新さは消えることがないだろう。
僕は、このレコードこそコリアの最高傑作として疑わない。また、1900年代を代表するピアノトリオの大傑作であると思う。
「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。 (2001.05.01)
<2005.02.17 追記>
Solid State盤のオリジナルLPでは以下の5曲が収録されていた。
@"MATRIX"
B"NOW HE BEATS THE DRUM , NOW HE STOPS"
D"NOW HE SINGS , NOW HE SOBS"
E"STEPS , WHAT WAS"
K"THE LAW OF FALLING AND CATCHING UP"
以下の8曲は1976年にBlue Note盤でCDで発売されたときに追加になった曲
A"MY ONE AND ONLY LOVE"
C"BOSSA"
F"FRAGMENTS"
G"WINDOWS"
H"PANNONICA"
I"SAMBA YANTRA"
J"I DON'T KNOW"
L"GEMINI"
願わくば、Slid State盤のオリジナル曲のみを聴くことをお奨めしたい。アナログLPとして採用された曲にはコンセプトの統一感があるし、このレコードを語るにこの5曲があれば充分だ。やむなくCDを購入される方は先の5曲のみをCD-Rに録音編集されて聴くのがいいだろう。もしくは、その5曲のみをチョイスしながら聴くことをお奨めする。 (2005.02.17)
ピアノトリオを中心とした独断的なJAZZ批評。
必ずしも最新作とは限らない。思いつくままに批評し、更新していくつもり。