『旅と日々』['25]
監督・脚本 三宅唱

 つげ義春のファンとはとても言えない僕でも、'70年代に十代を過ごしているから、まるで知らぬわけではないところもあって、何やら非常に凝った造りに感心する一方で、それは少々違うんじゃないかという疑念も湧いたりしながら観た。

 映画化作品としては、つげを思わせる漫画家として登場させがちな人物を敢えて女性にしたうえで脚本家にしているところは、いいアイデアだと思った。李という名にはつげ作品を想起させるものがあるけれども、特に重要な意味が付与されているふうでもないところが好い。

 夏の大雨のなかの海水浴を描く『海辺の叙景』のほうから取ったと思しき話のほうには、ふんだんにつげ作品を意識したように思える構図のカットが出てきていた気がするが、劇中映画として映し出すのなら、『海辺の叙景』のほうはモノクロで描いたほうがよかったのではないかと思ったりした。トンネルを抜けると雪国だった『ほんやら洞のべんさん』のほうから取ったと思しき話も絵柄のよく出来た作品だったような気がする。

 ただ魚沼教授(佐野史郎)の台詞で言わせていた、李さん(シム・ウンギョン)の作品世界に宿る官能性や、べんさん(堤真一)の台詞にしていたユーモアと哀しみなどは、台詞にすべきではないキーワードだったように思う。

 つげ義春の映画化作品で僕が観ているのは『無能の人』『ゲンセンカン主人』『ねじ式』『蒸発旅日記』『雨の中の慾情』なのだが、三十五年前に観たモノクロの最初の映画化作品である『無能の人』が最も面白く、それを越える作品には出会っていないように思う。凝った造りをしていた本作は、かなり興味深くはあったが、高校時分の映画部の部長だった友人が(観ていて)イマジネーションが膨らまなかったと言っていたように、その造りには少々理が勝ちすぎているところがあり、それが想像力を削いだのかもしれない。
by ヤマ

'26. 1.22. キネマM



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