『ペリリュー 楽園のゲルニカ』['25]
監督 久慈悟郎

 こんなことは、絶対に二度と繰り返してはいけないとつくづく思う。時宜に適ったとても大切な作品だ。かほどの辛酸を舐めさせるくらいなら、戦わずして敗北するほうが余程ましだ。戦わずして敗北することによって失うものが大きいのは、圧倒的にエスタブリッシュメントたる権力者や富裕者であり、新たな支配者が誰であれ、わざわざ労働力の源たる民を殺戮して稼ぎを減らして回るようなことは考えにくい。年貢の納め先が誰に替わるかの違いでしかない気がする。

 それに引き換え「お国のため」を強いられ、教化された人々の悲劇の凄まじさには、我が身に置き換えてみるまでもなく、想像を絶するものがある。そのような自明の理を「そんなことより」とばかりに軍国化を推し進める輩があからさまに跋扈し始めた昨今だからこそ、時宜に適った作品だと感銘を受けた。

 軍国というのは、なにも侵略戦争を仕掛けようとする国のことを言うのではない。富国強兵を謳い上げる国のことだ。それからすれば、軍事産業育成を経済成長のための手段としようとすることは、もはや直接的に軍国化と言うほかない。高市政権になるや待ってましたとばかりに、武器輸出に係る限定5類型(救難、輸送、警戒、監視、掃海)を撤廃して殺傷兵器をかつての繊維・自動車に替えて世界中にばら撒こうとし始めたようだ。武器輸出三原則に防衛装備移転三原則などという朝三暮四の猿扱いのような言い換えをされ、唖然としたのが十年前、2014年の安倍内閣時代だ。その布石の上に立っているのは間違いない気がする。

 十九年前に観たロード・オブ・ウォー』の日誌人間は、とことん金に対して為す術なく無力な存在であるということにメディアを通じて洗脳されてきているように感じると綴ったことが今更ながらのように蘇る。いったいこの国は、どうなっていくのだろう。

 猟師の異名を取った射撃名人の吉敷上等兵【声:中村倫也】の胆力と慧眼を撃ち抜いて殺した島田少尉【声:天野宏郷】が、奇跡とも思える帰還船の到着にも背を向けて「生きて虜囚の辱めを受けず」とは異なる意味で「おめおめと帰還するわけにはいかない」とばかりに島に居残る断腸の思いを窺わせていた悔恨を、いま軍国化に靡いている人々はするだろうか。今わの際の吉敷上等兵が、いいんだ、島田少尉がいなければ俺たちは全員死んでいたんだからと言っていた通りの知恵と胆力と統率力を備えた人物をも狂わせる軍人訓、軍命の罪深さを思わずにいられない。

 吉敷上等兵と同期である主人公の田丸一等兵【声:板垣李光人】を功績係としているところが重要だ。記録というものの重要さを自ずと知らしめる設定であると同時に、彼の最初の仕事が兵卒の転落死を軍神の如き勇壮な戦死に仕立て上げることとして描いていた。ただ記録に残っているから、当事者の証言だから、と鵜呑みにすることの愚と、つぶさに記録を取ることの価値と重要さを彼の日常的な描画を通じて得た情報と提案によって三十四名の投降を無事に果たせるエピソードで、同時に示していた。なかなか大した作品だった。
by ヤマ

'25.12.17. TOHOシネマズ1



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