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『地上より永遠に』(From Here to Eternity)['53] | |||||
監督 フレッド・ジンネマン
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高校時分の新聞部のOBサイトに寄稿した、齢九十二で講じてくださった特別授業が印象深い亡き師の八年前の告別式にて、喪主の孫息子氏が挨拶のなかで「祖母は前もって終活をおこなっていて、自分は二つのことを頼まれていました。一つは喪主を務めること、もう一つは葬儀に際して『地上<ここ>より永遠<とわ>に』でモンゴメリー・クリフトが奏した葬送のトランペットを吹くこと、でした」と話していたのを伺って、反戦映画の傑作として名高い本作は、戦争未亡人として戦後を生きた先生にとって特別な思いのある映画だったのだろうと感慨深かった作品だ。 今ごろになってようやく観たわけだが、日米開戦前夜の米軍パールハーバーの様子を描いた作品で、反戦映画などではなく、明確に反軍隊映画だったことに驚くとともに、亡き師の想いの強さをまた新たにした。孫息子に言づけていた件の葬送トランペットは、戦死した兵士を追悼したものではなく、軍隊内での虐待によって殺されたと言うべき、反骨心に富んだ若者の死を悼むものだった。気の好いマッジオ(フランク・シナトラ)の見せていた反骨心は、恣意的な人事に異議を申し立てて伍長から二等兵に降格されたプルーイット(モンゴメリー・クリフト)のプロボクサー歴を買ってスカウトしてきた、昇進欲に駆られた横暴な権力者たる中隊長のホームズ大尉(フィリップ・オーバー)の求めを拒んだことで、権力者に追従する士官・下士官連中から露骨なパワハラに晒されながらも、屈することなく己が意思を貫くプルーイットの姿に触発されたものに違いなく、そのことが身に染みるからこそプルーイットは、滂沱の涙を流しながら隊内に向けて鳴り響かせるわけで、それを聴く兵士たちを捉えたショットが印象深い。 この葬送曲の演奏を孫息子に求めた亡き師が僕たち会葬者に伝えたかった想いの深さを若き日に戦争で奪われた夫への悼みと反戦メッセージ以上には受け取り得ていなかったことに今ごろになって気づかされた思いがした。反戦ではなく、反軍隊であり、権力者に媚びて虐待に勤しむ卑怯者を憎む亡き師の遺志に対して、お亡くなりになる五年前にしてくださった特別授業を聴講した際に「本当に幾つになっても、いつまでも、新たなことをタイムリーに教えてくださる得がたい先生だと改めて思った」と記したことを思い出した。 兵士であることに囚われ、愛憎悲喜こもごも軍隊から離れられない男どもに対する無力さにひしがれているようでもあったカレン(デボラ・カー)とロリーン(ドナ・リード)が、恋するウォーデン曹長(バート・ランカスター)や日本軍の奇襲に浮足立った友軍に射殺されたプルーイット元伍長の任地であるハワイを離れる船のなかで会話を交わすラストシーンが利いている。おそらく亡き師は、'53年の公開時に三十路半ばで本作を観て、ラストシーンのカレンとロリーンことアルマに涙を誘われて仕方がなかったことだろう。 なにも二組もの恋愛事情を描かずともと思ったりしていたが、軍隊の阿漕を描きつつ刹那的にも映る恋愛譚の詳述にて軍隊生活を炙り出しているのかと思いきや、マッジオが死に至り、プルーイットによる葬送ラッパの場面あたりから俄然、色合いが変わってきた気がして吃驚した。そのうえで最後の場面を観て、男どもに対する女たちという構図を提示するためには、一組のカップルでは足りないことに納得した。なかなか気骨のある映画だったように思う。'53年といえば、アメリカが戦勝国を誇り、ゴールデンエイジに輝いていた時期だから、尚のこと感心させられる。 | |||||
by ヤマ '25. 4.15. NHKBSプレミアムシネマ録画 | |||||
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