『落日の決闘』(The Virginian)['46]
監督 スチュアート・ギルモア

 さすが '40年代作品だけあって長閑というか、最後の決闘場面においても、敵役のトランパス(ブライアン・ドンレヴィ)は、手下の加勢を求めることはなく、牧童頭のヴァージニアン(ジョエル・マクリー)と一対一で勝負していた。日没までに町を去れとの通告に抗った決闘だったから、この邦題なのだろうが、原題よりも出来映えがいいのではないかと思った。

 対決の前にヴァージニアンが自分の拳銃からスティーヴ(ソニー・タフツ)の遺品の銃に差し替えて決闘に向かったのは、落ちぶれた末期に際して嘗ての親友が自分に拳銃を託し遺した想いを汲み取ったからであり、そういう意味では、落日というのは、既に死んでいたスティーヴのことをも偲ばせるところがあるように思う。

 生真面目で腕は立つけれど、無作法で不愛想なヴァージニアンと、調子がよくて口も口笛も巧みなスティーヴは、対照的な性格でありながら、久しぶりの再会に対するヴァージニアンの喜びようからすると、かつてのスティーヴは、芯のある誇り高き男だったのに違いない。それが矜持を失って、欲に目の眩むさもしい男になっていたことが無念でならないから、紆余曲折を経て射止めたモリー(バーバラ・ブリトン)との結婚を控え、決闘など止めるよう彼女から求められても、応えられなかったのだろう。

 トランパスによる牛泥棒の件を保安官に訴えても証拠がないと取り合ってはもらえず、スティーヴたちが全責任を負わされていたことに対しては、彼が盗んだ子牛にトランパスの焼き印を押していたことを目撃した件を持ち出せば、充分対抗できたはずなのに、それをしなかったところに、彼の亡き友に対する配慮があることが窺えるとともに、スティーヴを堕落させて遂には自分に彼を処刑させるに至ったトランパスに対する怒りが滲み出ていた気がする。

 牧童頭でしかないのに、旧友を縛り首に掛けたり、自分との結婚よりも黒幕との決闘を優先してしまうことに対して理解の及ばない、東部のお嬢さん育ちのモリーに、このケジメだけは付けなければならないことを訴えるヴァージニアンの姿が、古典的なウエスタン・ヒーローというものを映し出していたように思う。まさに任侠映画の世界だという気がした。そして、DVDパッケージの裏面に記されていた1929年のゲイリー・クーパー版の『ヴァージニアン』(監督 ヴィクター・フレミング)を観てみたくなった。
by ヤマ

'23.10.19. DVD観賞



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