『アリスとテレスのまぼろし工場』
『マイ・エレメント』(Elemental)
監督・脚本・原作 岡田磨里
監督 ピーター・ソーン

 若者の恋を描いた日米の新作アニメーション映画を続けて観たら、思わぬ共通点が目に付き、改めて日米の近親性に驚いた。両作とも恋愛劇を語るうえでの設えの意匠が、実に凝っているうえに、いわゆる“こじらせ女子”のキャラクター設定がされていたように思う。揃って男の子は、実にセンシティヴで心優しく、女子に引っ張られる形で逞しさを獲得していた。


 先に観た『アリスとテレスのまぼろし工場』は、今の日本を覆っている閉塞と停滞の感覚をよく捉えている作品だと思った。そう言えば、未来への希望を語る映画をちっとも見なくなっていたように感じる。その名も「未来の希望」に他ならない“先”ならぬ沙希が神隠しにあって、神機狼と呼ばれる煙の化け物が維持している、まさに蜃気楼のような、季節の流れと人の移動とが止まった世界に迷い込んできたと思しき2005年には、本作のモデル地のような気にさせられる岩手県釜石に何があったのだろうとふと思った。

 敢えて東日本大震災を避けていたことと、主人公の菊入正宗【声:榎木淳弥】が垣間見る未来というか現在の新聞に記されていた「憲法改正に向けて調整」との小見出しが、何を暗示していたのか、気になって仕方がなかったが、僕の腑に落ちてくるものはなかった。

 正宗の恋する佐上睦美【声:上田麗奈】の人物造形が、実に掴みどころ無くミステリアスで、十代女性の厄介さをよく表していたように思うけれども、睦美=六罪としたうえでの五罪=五実【声:久野美咲】の造形には、狼少女に加えて、もう少し工夫が欲しいように感じた。

 それはともかく、菊正宗から取ってきたようにしか思えない主人公名に、原作・脚本・監督を担った岡田磨里の日本酒好きが偲ばれた。


 翌日観た『マイ・エレメント』は、ストーリーラインそのものが数多の語り手によって繰り返されてきた、これ以上ないほどにオーソドックスなものだけに、却って細部のアイデアや見せ方における想像力と創造力の素晴らしさに瞠目させられる作品だったように思う。

 カッとなりやすく感情の強さが燃え上がる炎のようなエンバー【声:川口春奈】と、優しい泣き虫だけれど心の強さと透明感が水のようなウエイド【声:玉森裕太】の火と水ほどにあらゆる面で対照的な二人が惹かれ合い、成長していく過程そのものには、何ら新味はないのに、火と水の属性を最大限活かした場面やエピソードの作り方が見事で、アニメーション作品ならではの画面を堪能できたような気がする。

 恋愛のみならず親子や家族の関係、巣立ちについての普遍的な真理をも描いていて実に清々しい作品だと思った。そのうえで、火のエレメントにおける最高儀礼としての敬礼にムスリムを想起させていたことが目を惹いた。キリスト教文化圏との確執がとりわけ深刻になった今世紀における悲劇を射程に入れていることに感銘を受けた。いい映画だ。

 僕が観た吹替版のエンドロールで流れたスーパーフライのやさしい気持ちでの誂えたような歌詞が響いてきて、心地よかった。この歌は、字幕版でも流れたのだろうか。スーパーフライは、NHK連続テレビ小説『スカーレット』の主題歌フレアを聴いて以来、気に入っている。

 また、本作の前座に据えられていた短篇映画『カールじいさんのデート』(Carl's Date)が、カールじいさんの空飛ぶ家['09]のときの組み合わせとちょうど反対になっていて、なかなか洒落ているじゃないかと感心した。




推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/6121654684600730/
by ヤマ

'23.10. 4. TOHOシネマズ5
'23.10. 5. TOHOシネマズ3



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>