『バービー』(Barbie)
監督 グレタ・ガーウィグ


ヤマの【Facebook タイムライン】 2023年08月17日09:22

 標準モデルのバービーを演じたマーゴット・ロビーは流石だと感心したが、思った以上に驚くほどに響いて来なくてかなり倦んでしまった。

 思えば、2001年:宇宙の旅を模したオープニングを観て、人形界における画期的な作品としてのバービー人形ということかと思って観ていたら、人形とはいえ、少女たちが赤ん坊を地面に叩きつけ頭を砕いたりする図に、何だか嫌なものを見せられた気がして嫌な予感がしたのだが、以後も、標準モデルのケン(ライアン・ゴズリング)の気色の悪い盛り方をした胸板とか、僕的には何とも趣味の悪い画面と展開が続き、さっぱりだった。モノリスの如く聳え立って現れたマーゴット・ロビーは、格好よかったんだけどなぁ。

 物語的には、言うなれば、人魚姫のような話で、様々な苦と制約を引き受けてでも人間になりたいと願う動機が、王子への恋心から、種々の感情を伴った自身の生を試みたいという自身への目覚めに変わっていたわけだ。それが、最早使い古された「自分探し」などという能書きとして語られていない点には好感を覚えたが、生の実感を求めて人間界に来て、先ず赴くのが婦人科ってことになるのかねと、その身も蓋もない即物感に、些かげんなりした。まぁ、股間ツルツルのバービーランドを出た証として対照させたギャグのつもりかもしれないが、赤ちゃん人形の頭砕きと同様の趣味の合わなさを感じた。


*コメント
2023年08月17日 09:53~ 08月18日 10:51

(ケイケイさん)
 冒頭の人形の件、私もびっくりしたんですが、玩具は今も男の子向け、女の子向けとありますよね。幼い時から母性を強いられていた事に気付き、目覚めた挙げ句の暴挙ですかね? 過激なので、諸手を挙げて賛同はし難いですが、理解は出来ます。

(マルさん)
 私は冒頭の人形ぶっ壊しもラストも愉快に感じました。変に大人しくて澄まし顔の映画のほうが、私には合わないです。

(ケイケイさん)
 マルさん。 男子がマチズモの幻想から覚醒して、GIジョーを叩き壊しても、多分違和感は抱かれないですよね。母性は尊いけど、女性は「それだけ」では、ありません。
 ヤマさん。 日誌に綴られる予定がなければ、後でこのままコメントしますね。予定があれば、後日😃

ヤマ(管理人)
 日誌を綴るつもりは今のところ、ないですね。談義が面白く展開していけば、採録はするかもしれないけど(あは)。
 人形破壊の件は、少女ではなく少年が叩き割ろうが、大人が叩き割ろうが、モノが赤ん坊だとやはり嫌なものを見せられた気になったように思うなぁ。孫持ちになると幼な子に対して余計にそうだし、近年やたらと幼児虐待の報道にTVが熱心でうんざりしているということも作用しているかも。
 毒のある表現それ自体は嫌いではないどころか、むしろ好むところではあるけれど、趣味の合う毒、合わない毒というのは、やはりあるなぁ。ハッチング -孵化-とか、なかなか刺激的で面白かったですよ。

(マルさん)
 ケイケイさん。 そうなんです。人形を壊すというのは乱暴に見えるかも知れませんが、それは「永く役割を押し付けられてきた者」のギリギリの怒りの表現なので、私はあのシーンには内心快哉を叫んでました。

ヤマ(管理人)
 マルさん。 作品と波長が合って刺激を受け、いろいろ触発が得られると愉しいですよね。やっぱり映画がえいがねぇ!」への投稿記事を読みましたが、敬意をキーワードにお書きの件や、製作者の意図を超え、今の日本人そのままの姿以下のくだり、非常に興味深かったです。
 うまく波長が合って触発された際の愉しみについては、僕も常日ごろ馴染みのある部分なので、今回は響いて来なくて残念でしたが、代わって提示いただいたものがとても面白かったです(礼)。

(マルさん)
 ヤマさん。 私が感じた「あの部分」は完全に作り手の意図を超えたモノなんで、まあ私の思い込みでもあるんですが、観ていてそう感じずにはいられませんでした。
 「易きに流される」ことへの危機感は間違いなくグレタ・ガーウィグをはじめとする製作陣が共有しているものだったでしょうね。これは国の東西を問わないですから。

ヤマ(管理人)
 マルさん。 最近のNHK衛星放送での「BS世界のドキュメンタリー」を観ていてもひしひしと感じますよ。何につけ、乗じて利権を漁る勢力に煽られる人々の流され方が悲しいですね。

(ケイケイさん)
 ケンの造形は、結局可愛いけど、何も考えていなさそうなバービーに合わせて作っているんですよね。私はケンの僕の気持ちが解ったか!は、とても響きましたけどね。彼は添え物人生しか知らないでしょ?だから、現実では女性と同化している部分を感じました。
 それと人間界に来てのお股の件ですが(笑)、バービーは、自分は人形との認識はあるわけです。無遠慮な自分への男性の視線に危険を感じて、ラブドールではありませんと、性器は無いのと言ったのじゃないかと。若い女性は常に性の危機に晒されていると言っても過言じゃないです。そこを突いていると思いました。ラストは、私も就活だと思っていたので、肩透かしでしたけど、まぁいいかな?

ヤマ(管理人)
 要は、“MeToo”運動以降のトレンディドラマという以上の新味と興趣を僕が感じられなくて、あまり触発されるところがなかったんだけど、お書きの部分は分かりますよ。ラストは、作り手的には、そういうことよりも、ちょっと外して「そう来るか!」という笑いを取りに来たんだろうという気がしてならないけど(たは)。
 あと、ちょっと可笑しかったのが、たまたま前日に観ていた十八年前の『奥さまは魔女』['05]の役どころとウィル・フェレルの役回りが一緒で、ただ老けてCEOになってたとこかな(あは)。

(ケイケイさん)
 私はMeTooは全然想起しませんでした。MeTooには、可愛いだけじゃダメかしら?の自問は無いですよ。男性に要求するばっかりじゃなくて、内省を説いているわけで。これすごく重要だけどな。これをファンタジーコメディとして、ローティーンにも解るように啓蒙している点でも、画期的です。
 フェレルのバービーランドだけでも、(夢を)実現させてあげたいんだ!も深かったです。悪い人でないというより、寧ろ良い人だと思いますよ。それでも反抗すればクソアマと呼び、己の保身のためには、バービーの自由を奪う。バービーの心に全く寄り添う気はないのよね。だいたい、女ばっかり社会的地位の高い世界なんか、こっちは誰も願ってないです。そんな普通の男性が持っている、無自覚な女性への見下しを、上手く描いていました。

ヤマ(管理人)
 “MeToo”運動に限った話ではありませんが、運動と呼ばれる「行動」には自問や内省がつきものだと僕は思うけどなぁ。「可愛いだけじゃダメかしら?」ではなくて「黙っていていいのかしら?」という自問・内省は、むしろ出発点のように感じます。
 また、「あげる」っていう立ち位置の慢心というのは、男性にも女性にもよくありがちなもので、頼んでもいないことを一方的に良かれと思って「くれても」有難迷惑な場合すらあるのは、男性でも女性でも同様だと思いますよ。昔から「悪女の深情け」という言葉もあるように、こういうことは性差よりも、一人合点の思い込みや自己満足に向かうか、きちんと相手を見詰めたうえでのことか、という相手への向かい方の問題だと思うもの。
 確かに本作においては、フェレルは男だし、CEOだったけれど、同タイプの女性はいくらでもいるような気がしますもん。使う手段がカネや社会的地位ではない場合が女性には多い気がしますが、自分の意に沿わねば、可愛さ余って憎さ百倍みたいな出方をするのは同じで、相手の心に全く寄り添う気はないのよねは同じだったりするのではないかな。見下しと思い上がりって表裏一体ですよね。何様感覚の人がどちらに多いかは、測定値を持ち合わせないので、何とも言い難いけれど、どちらかに偏在しているものではないような気がするなぁ。
 そういう部分よりも、僕は、本作の良さは、バービーの目覚めが「自分探し」などという能書きとして語られていない点だったように思いますよ。

(ケイケイさん)
 フェレルと同タイプの女性はいる、とのご指摘は同意。権力持つと、どうして人格が変わってしまうのか、謎です。権力を持つと、様々の欲望が覚醒しちゃうんでしょうね。
 私は「本作のテーマは、フェミニズムの意味って何?を、男女共に観て感じて、考えて貰いたい、だ」と思っています。マルさんへのお返事にも書きましたが、最近、とある40代女性とお話する機会があって、周囲の男性は優しいし、日本には女性差別はないと仰る(笑)。他にも人もいて、初対面だったので、私も聞いているだけでしたが。でも、問題点ないと思っている事が問題なんだと、この作品はあちこちに気付きをばら蒔いています。これが小ネタに見えると、響き方が違うんだろうなと、思いますね。

ヤマ(管理人)
 本作のテーマは、フェミニズムの意味って何?を、男女共に観て感じて、考えて貰いたい、だというのは、そのとおりでしょうね。僕自身の受け止めは、マルさんがお書きのフェミニズムがどうとか、なんてのも関係なし。自分の足で立って自分を見つめ、他者への想像力を持て。これが本作の根幹という意見に近いのですが、作り手の意図は、ケイケイさんがお書きのところにあるように思います。
 で、そのフェミニズムの意味って何?という観点からは、ケイケイさんが裁判官のバービーが、「添え物ってサイコー!」と言ってましたっけ(笑)。無い物ねだりではなく、役割を分け与える感覚かな?とお書きの感受と、マルさんがこれまで大統領や最高裁判事などの要職に就いていた彼女らが「もう何も考えなくていいんだから楽じゃ~ん」と男たちに嬉々として隷属する姿はどうでしょうとお書きの感受の対照が、とても面白く、興味深かったですね、映画作品以上に。
 またあちこちに気付きをばら蒔いていますとの意見にも異存はありません。ただ、そこに“MeToo”運動以降のトレンディドラマという以上の新味と興趣を僕が感じられなくて、あまり触発されるところがなかった点が大きく作用しているようですね。結果的にこれが小ネタに見えると、響き方が違うという、互いの差異に繋がってきているのだろうと思います。




推薦テクスト:「ケイケイの映画通信」より
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1985713224&owner_id=1095496
推薦テクスト1推薦テクスト2:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
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編集採録 by ヤマ

'23. 8.16. TOHOシネマズ3



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