『マッドゴッド』(Mad God)['21]
監督 フィル・ティペット

 些かおぞましいグロテスクなイメージの連射に、半ば呆れながら感心した。根底にあるのは、汚物と蹂躙だったように思う。

 なかでも強く印象に残っているのは、大勢が並んで腰掛けてひり出した大量の排泄物を集めて強制的に食わされた者が生成する物を原料にして、鋳型のように成形される人型の生き物のイメージと、オープニングで示されたレビ記の引用に先立つ「バベルの塔」のイメージと鮮やかな対照を見せる「ハデスの地下室」とも言うべき四角い螺旋回廊を、未見の『武器人間』['13]のチラシを彷彿させるガスマスク男がナチス風の車に乗ってひたすら降りていくイメージ、生体解剖のなかから血塗れの貴金属や宝飾品とともに言葉を連ねた印刷物が取り出され、打ち棄てられた後に摘出される、赤子の泣き声を発する肉塊の提起するイメージだった。

 早々に印象づけられた汚物と蹂躙の極みとしていずれ“戦争”が出てくるだろうなと湧いた予感は的中したのだが、そこにナチスと核爆弾投下が歴然と加えられるとまでは思っていなくて、意表を突かれた。ダークファンタジーとしての構築からすれば、ナチスと核爆弾という記号の持つ具体性は、幻想色を弱めるような気がするが、それでも、最後に記された 9.11.からすれば、八十年近く前のことだからまだしも、9.11.は、どうなのかなという思いが湧く。

 とはいえ、こういう作品をスクリーン観賞できる機会が得られるのは、実に嬉しいことだ。制作期間30年というチラシの記述からすれば、『武器人間』より遥かに先立つ。こちらは実写映画のようだが、えらく気になって来た。膨大な時間と丹精を掛けて作り込んだストップモーションアニメの世界が、一言の台詞もナレーションもないまま、繰り広げられる画面に圧倒されたが、上映最終日だというのに、観客は他には、何処となくオタク感を漂わせた風情の若い女性が一人きりだった。
by ヤマ

'23. 4.21. あたご劇場



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