『シャラコ』(Shalako)['68]
『西部に賭ける女』(Heller in Pink Tights)['60]
監督 エドワード・ドミトリク
監督 ジョージ・キューカー

 ブリジット・バルドーの西部劇なら『ビバ!マリア』を十代の時分にTV視聴した覚えがあるけれども、ジェームズ・ボンドのスーツ姿の伊達男イメージが強いショーン・コネリーにも西部劇があるのかと思って『シャラコ』を観てみたら、早々に登場したバルドーのいで立ちに、既視感満載。引き続き現れる自重で槍が突き刺さる残酷な処刑にも見覚えがあったから、どうやら、本作も幼い時分にTV視聴しているようだ。

 開拓農民でもカウボーイでもガンマンでもなく、アメリカ西部に狩猟をしに来た欧州貴族を設えた西部劇などというのは、異色中の異色だと思った。バルドー演じる伯爵夫人イリナ・ラザールがどう観たって貴族には見えないのは愛嬌だが、新大陸への移民ですら見下していると思しき欧州貴族が、アメリカ先住民を見下すのは、然もあらんとの有様で、彼らとの約束など守るほうがどうかしていると言わんばかりの態度だった。それが、とんだしっぺ返しを食らってあたふたしているなかにあって、世間知らずを恥じ、己が未熟と非力を思い知った姿を見せていたフレデリック・フォン・ハルスタット伯爵(ペーター・ファン・アイク)の姿が印象深かった。見下しさえしなければ、貴族的紳士である部分をダゲット卿(ジャック・ホーキンス)にしても、ヘンリー・クラーク議員(アレクサンダー・ノックス)にしても、同様に覗かせていたような気がする。

 アパッチ族の襲撃にいち早く抜け駆け略奪を企てたうえに、ダゲット卿の妻ジュリア(オナー・ブラックマン)を誘惑し、連れ出しながら、見殺しにしていたうえに、一人生き残った後おめおめとフレデリック伯爵の元に戻って来るボスキー・フルトン(スティーヴン・ボイド)などよりは、よほど上等に思える、ろくでなし欧州貴族たちだった。ハリウッド・テンに名を連ねた服役後に転向表明をして十五年余りを経たドミトリク監督の複雑さが反映されている人物造形のように感じた。

 それにしても、シャラコことモーゼ・ゼビュロン・カーリン(ショーン・コネリー)とアパッチ族戦士チャトー(ウディ・ストロード)の一騎打ちで決着を付けられる闘いだったのならば、バッファロー(ドナルド・バリー)やマコ(エリック・サイクス)、ダゲット卿などは、なんのために死んでいったのかとの哀れが誘われたように思う。同時にそれは、戦死なるものの無益な甲斐のなさをシンボリックに表しているようでもあった気がする。ときはベトナム戦争が泥沼化していた時期のアメリカ映画だ。

 また、先住民たちとの約束など守る必要ないと公言していた欧州貴族と違って、戦士が一騎打ちに敗れた後は、戦闘を停止するばかりか、馬も与えて引き上げる先住民たちの“約束を守る律儀な姿”という対照が利いていたような気がする。もう少し運びが上手ければ、秀作になったはずのところが勿体なく感じられた。


 二日後に観たのが『西部に賭ける女』だ。フランス女優のブリジット・バルドーが貴族夫人を演じた西部劇の次は、イタリア女優のソフィア・ローレンが旅回りのヒーリー劇団で“ピンクタイツの小悪魔”と称するトップ女優アンジェラ・ロッシニに扮した西部劇だった。

 座長のトム・ヒーリーを演じているのがアンソニー・クインだから、ついつい『道』['54]を想起してしまったが、ザンパノとはまるで対照的な、争いごと嫌いで芝居一筋の教養人だった。カネに窮した貧乏人であることだけは同じで、破産して衣装代を踏み倒し、ワイオミングからネブラスカに逃げた後、追手の保安官から逃れるために再び夜逃げを企てるなか、目的地を同じくするガンマンのメイブリー(スティーブ・フォレスト)と道中を共にしていた。その過程におけるアンジェラを挟んだ恋の鞘当ての行方を見せる作品だったわけだが、キャラクターは立っているのに展開がこなれておらず、アンジェラの小悪魔も、脇に配されていた若手女優デラ・サウスビー(マーガレット・オブライエン)も、充分に活かされていない気がして勿体なかった。

 劇場主の意向で『トロイのヘレン』から『マゼッパ』に変更になったそれぞれの舞台の衣装と装置は、なかなかのもので思いのほか目を惹いた。とりわけ『マゼッパ』での、馬の背に結わえ付けられたアンジェラが劇場内を一周した後、舞台で疾走する馬の背で激しく揺れていた場面には感心した。当時、二十代半ばのソフィアは溌溂としていて、なかなか魅力的だ。ならず者と見せて実はそうではなかったメイブリーを演じたスティーブ・フォレストも悪くない味を見せていたように思う。
by ヤマ

'23.12.21. DVD観賞
'23.12.23. DVD観賞



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