『明日なき追撃』(Posse)['75]
監督 カーク・ダグラス

 さすが七十年代だけあって、純然たる正義なんてどこにもないってなシニカルな風刺が込められている異色の西部劇だった。しかもスタイル的には、アクション重視の簡潔な仕上がりにしているから、カーク・ダグラスなかなかやるなぁと感心した。

 原題の「Posse」というのは、「(保安官が犯人捜索・治安維持などのために召集する)警護団,民兵隊」という意味らしいのだが、上院議員を目指す野心に溢れた連邦保安官ハワード・ナイチンゲール(カーク・ダグラス)が集めた手下にしても、彼に狙われたお尋ね者ジャック・ストロホーン(ブルース・ダーン)が大急ぎで集めた手下にしても、全く頼りにならないことこのうえなく、タイトルロゴの上方に刻まれていたと思しき自由の民よ、投票へが、なかなか皮肉っぽく利いていたように思う。

 ストロホーンが俺の死体を手土産に議会へ行くんだろと指摘していた野心のために裁判抜きの夜陰に乗じた闇討ちによってストロホーン一味を焼き討ちに掛けて撃ち殺すナイチンゲールたちの襲撃から始まった本作では、ストロホーン側の悪行は、何ら描かれず、確かに彼が言っていたように、最初に彼が殺したペンステマンは、一味惨殺の手引きを行った裏切り者に対する報復だし、テソタの保安官を撃ったのも形の上では紛れもなく正当防衛だった。殺し合いは、常にナイチンゲール保安官の側から仕掛けたものによって起こっていた。

 なかなか意味深長だと感心したのが、上院議員を狙う連邦保安官がその野心成就のために鉄道資本の支援を受けようとしていることに異議を申し立てていた片腕一本足の傷痍軍人ジャーナリストだった新聞屋ヘルマン(ジェームズ・ステイシー)の存在だ。鉄道の発展がカウボーイの仕事を奪い、職にあぶれた者がガンマンになっていったことを仄めかしているような気がした。上院議員を目指すナイチンゲールの御題目は当然ながら、テソタの町の発展に鉄道は欠かせないだ。

 当初は、矢鱈と持て囃していたナイチンゲールがストロホーンから形無しの目に合わされると掌を返したように冷ややかになったり、自らは前に立ちたくない言い分として納税を持ち出す住民や、勢い任せで後先を考えてない武装によって命を落とすカフェの主人などを観ていると、町の人々も無法者や野心家と大して変わらぬろくでもなさが印象づけられていたような気がする。そのようななかホテルの女主人ロスの肚の座った落ち着きのある状況対応ぶりを的確に演じていたベス・ブリッケルが目を惹いた。
by ヤマ

'22.12.27. BSプレミアム録画



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