『襲われた幌馬車』(The Last Wagon)['56]
『地獄への道』(Jesse James)['39]
監督 デルマー・デイヴィス
監督 ヘンリー・キング

 デルマー・デイヴィス監督の作品は、決断の3時10分['57]を映画日誌にしているが、『襲われた幌馬車』もなかなか面白かった。僕が生まれる二年前の映画だけれども、前々日に観たガンヒルの決斗['59]同様に、先住民女性の妻をレイプ殺人によって亡くした男コマンチ・トッド(リチャード・ウィドマーク)が主人公だった。加えてトッドは、昨秋観た太陽の中の対決['65]のジョン・ラッセル(ポール・ニューマン)同様に、自身が先住民に育てられた経歴を持っていた。更には、ノーマンド大佐の二人の娘が異母姉妹で、妹のジョリー(スーザン・コーナー)の母親がナバホ族の先住民であるばかりか、白人女性である自分の母以上に妹の母親を父が愛していたらしいことに、姉のバリンダ(ステファニー・グリフィン)が強い葛藤を抱えているという設定だった。

 白人による先住民差別どころか支配の問題については、『ガンヒルの決斗』以上に前面に出ていながら、前日に観たばかりの『バファロー大隊』['60]が描いていた黒人差別を浮き彫りにした法廷劇という、いかにも西部劇らしからぬ設えにはならないよう工夫された形を取りつつ、まさに先住民差別を浮き彫りにしていた法廷劇の部分が、強い印象を残す映画になっていたように思う。

 アパッチ族による襲撃がいよいよ迫ったことを覚悟し、この一夜で潰える命なら幌馬車に戻らず空の屋根の下で貴男と過ごしたいと告げてトッドと夜を共にしたジェニー(フェリシア・ファー)が法廷で言った大勢の命を奪ったことで命を奪われる刑を与えられるのなら、奪った命以上にたくさんの命を救ったことに対して“命を与える”こともできるのではないかという訴えが印象深かった。これに対して、裁判長を務めていたハワード将軍がその“命を与える”に感銘を受けたとして下した判決処分が、法廷でトッドの主張した“法(掟)と正義の問題”ともども、心に残った。トッドの主張に、大学に入学したばかりのときの一般教養科目の法学概論で、先ず「法と道徳」についての講義を受けたことを思い出した。規範として拘束力が高いのは法だけれども、上位にあるのは道徳であることを見失うと、法解釈そのものを誤ってしまうという教えだったように思う。

 トッドの胆力を見抜いていたケリー中尉(ジェームズ・ドルーリー)とトッドの関係のなかに、次に観た『地獄への道』でのジェシー・ジェームズ(タイロン・パワー)と連邦保安官ウィル・ライト(ランドルフ・スコット)にも通じる、僕の好きな西部劇というジャンルの映画に脈々と流れている男たちの姿があって、気分がよかった。

 その『地獄への道』では、八十年を超える昔の映画とは思えない色合いの綺麗さに観惚れ、八十年を超える昔の映画とは思えない色褪せない娯楽性を堪能した。

 用地買収というより強奪しようと掛かっているミッドランド鉄道会社代理人の下衆男バーシー(ブライアン・ドンレヴィ)のむかつくこと、むかつくこと。ジェシーに撃たれることで観客をスカッとさせるための役回りで、お見事な巧さだった。そして、その代理人を上回る下衆っぷりを遺憾なく発揮していたのがマッコイ社長(ドナルド・ミーク)で、その狡猾ですらない横暴な卑劣さは、ライト保安官の指摘と批判を待つまでもなく、余りにもあからさまだった。兄フランク(ヘンリー・フォンダ)とともに名うての強盗団を率いたジェームズ兄弟を悲劇のヒーローとして描く作品なのだから、道理と言えば道理なのだが、まったく以て日本の時代劇に登場する悪徳商人そのものの類型だったように思う。

 そして、誰からも好かれ、ジーの愛称で呼ばれる聡明なゼレルダ・コッブ(ナンシー・ケリー)が見通して忠告した通りの行く末になっていったわけだが、それでも最後は、ジーのもとにて新たな道を歩み直そうとしながら凶弾に倒れる形になっていた。実在したジェシーも本作同様に、配下の裏切りによって背後から撃たれて死んだような気がしているから、そこは外していないのだろうが、ボブ(ジョン・キャラダイン)の凶行の運びには、妙に釈然としない取って付けた感が否めなかったのが、少々残念だ。

 いつもジーが願い、けっきょく叶わなかった手作りの「ゴッド・ブレス・アワ・ホーム」の壁飾りと、彼女の叔父である新聞屋(ヘンリー・ハル)による社説の決まり文句西部の地に法と秩序を望むなら、まずすべきことは…が利いていて、その真っ先に出てくるのが強き側にばかり就くライヤーのロイヤーすなわち口のうまい嘘つき弁護士の始末だというのが、世の中を悪くしたのは弁護士だ、十年前は弁護士などいらなかったとの嘆きとともに、八十年を超える昔の映画とは思えない気がして、感心させられた。

 それにしても、昔の映画は、役者がいいと改めて思う。




『襲われた幌馬車』
推薦テクスト:「チャカチャカりきりきの映画(ときどき違うのもあり)日記」より
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by ヤマ

'21. 4. 3. BSプレミアム録画
'21. 4. 5. BSプレミアム録画



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