祝新春コラボレート企画

幻の長岡鉄男「外盤A級セレクション」続編 第4.5.巻
2005年1月1日開始

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FMfan別冊1983年 冬号 No.40    
40−1

ベートーベン/交響曲 第三番「英雄」

ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーンフィル

独デッカ 6.41517

「録音データ不明。1958年頃か。この時代にはショルティの指環や、リヒターのマタイ受難曲など、歴史に残る録音が多いが、この英雄も歴史に残るほどではないにしても、なかなかいい録音だ。演奏もいい。どうも昔の方が本気で音楽をやっていたような気がする。最近のオケはマルチマイクの悪影響か、目の前にマイクがないとサボる楽員が居ると聞いた。この録音は個々の楽器ではなく、音楽全体をまるごといただきという感じ。情報量は多く、ひとつひとつの楽器も聴き分け不可能ではないが、ヒステリックに突っ張る目立ちたがり屋は居ない。バランスの良さはスペアナでも判る。多少の歪み感はあるが厚みがあり、豊かに堂々と鳴るいい録音だ。」


*注「1959年5月6〜13日、ウィーン、ゾフェインザールでの録音。初版は英デッカSXL2165。全く同じレコード番号でジャケット・デザインの異なる版もある。日本ではゲオルグ・ショルティと呼称しているが、アメリカではジョージ・ソルティである。この録音の時だと思うが、プレイバックをウィーンフィルの古参の楽員が聴いて”ショルティの首を絞めてやりたい”と思わず洩らしたという有名なエピソードがある。これは即物的なショルティの解釈にウンザリしたとも、古き伝統をブチ壊しウィーンフィルを屈服させたショルティの辣腕ぶりを示す物ともとれ両極端に解釈される。」
      
40−2

シベリウス 管弦楽全集 第3巻/シベリウス /交響曲 第3番、組曲クリスチャン2世

ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ交響楽団

スェーデン BIS LP-228          

「1983年1月、エーテボリ・コンサートホールでのデジタル録音。ノイマンKM−83 四本+同SM−69(MS方式ワンポイントマイク)、ソニーPCM-1使用。テープはベータのL−500HG。前号で第1,2巻を紹介したが、1,2はPCM−100を使用。3では25万円のポータブルプロセッサーPCM−F1とグレードダウン?デッキもSL−1だろう。ところが、音はむしろこっちの方が綺麗なくらいだ。オフマイクで全体像をとらえるスケールの大きな、しかも緻密な録音。音に力と伸びがあり、弦も管もナチュラルで切れが良く、内声部の動きがよく分かる。デジタル臭皆無の自然で柔らかく、奥行きのある雄大な音と音場はみごとだ。」

40−3

R・シュトラウス/交響詩:死と変容,ドン・ファン,ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら

ベルナルト・ハィテインク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

蘭フィリップス 6514 228

「重苦しい曲と陽気な音の組み合わせ。もう一曲ドンファンが入っている。これは(ドンファンのことと想われる。)最新録音にしては演奏も録音もいい。メリハリの効いたきびきびとした演奏はやはり現代を感じさせるもの。録音はデジタルの良さを生かして、fレンジ、Dレンジとも広く透明度が高く、ほこりっぽさが全くない。音は一音一音よく磨き上げたように輝いている。低域はよく伸びて飽くまでも力強く、高域は花火のように炸裂して散乱する。ホールエコーがきめ細かく入っている。このエコーまでもが磨かれた輝きを持っている。多少人工的ではあるが音場感もよく、ソロパートの音像が拡大する傾向にはあるが前後感はちゃんと出ている。」

*注「”続々レコード漫談”128頁には、このレコードの、死と変容、にたいして”デジタルのマイナスの面が出ており、死と変容の重さがもうひとつ”とある。国内盤、輸入メタル原盤プレスは日本フィリップス 28PC−87。」
 
      
40−4

パーセル/歌劇「ディドとエアネス」

Ms:アン・マレー、S:ラケル・ヤカール、ニコラス・アルノンクール指揮ウィーン・コンツェントス・ムジクス、他

独 TELDEC 6.42919

「デジタル録音、DMM。この曲のレコードは他にも5枚持っているが、今回のものは正にデジタル時代の新録音という感じで冒頭の序曲からして驚かされた。決して歪みっぽくないし、ヒステリックでもないのだが、とにかく鮮烈で透明で輝かしくエネルギッシュに切れ込んで全力投球で張り出してくる感じで、聴いている方がたじたじとなる。ボーカルも力と艶と輝きがあり、全体に実に綺麗な音だが、明るくメリハリがありすぎて、和食を洋食器で食べているような感じがしないでもない。トータルでは優れた録音には違いない。」


*注「”レコード漫談”23頁、参照。」
                          
40−5

アルネ・ノルドハイム/コロラツィオーネ、コンクレートと電子音のためのソリアテ、アコーディオンとエレキギターと打楽器のためのシグナルス

蘭フィリップス 854.005AY

「このレコードは大音量で再生してください、と書いてある。コロラツィオーネはハモンドオルガンX−66、打楽器、フィルターとリングモジュレーターのための曲。演奏者は(曲ごとに)全部ちがうので紹介のスペースもないし、まるで知らない名前ばかりだ。曲も演奏もちょっと表現しにくい。壮絶無比のサウンドともいえるし、やかましくて逃げ出したくなるともいえる。スペアナでも判るように猛烈録音である。大音量で再生したらえらいことになる。録音の質はシグナルスが良い。ゲテモノマニア向き。」


*注「”続々レコード漫談”71頁参照。」
 
           
40−6

シュトックハウゼン/イノリ、フォルメル

シュトックハウゼン指揮バーデンバーデン南西ドイツ放送交響楽団

独グラモフォン 2707 111

「2枚組で、イノリは1978年9月、フォルメルは1978年2月の録音。イノリは73分の大曲。一人か二人のソリストとオーケストラのための崇拝というサブタイトルつき。ホール中央に三方に梯子つきの高さ2.5メートルの台を設け、その上にソリストのひとりシュザンヌ・シュテフェンスが乗って、ヤパニッシュ・リン(仏壇の鐘)を叩く。8本のマイク。四隅に大型スピーカーを配置。シュトックハウゼン好みの東洋趣味と三次元立体音場を強く押し出した作品だ。録音はダイナミックで情報量大、打楽器も、チューバ、コントラファゴットも迫力十分。しかもピニッシモで16個の鈴がシャラシャラと鳴る音もいい。台の上でリンがなんとなく上の方から聞こえてくる。」
*注「バーデンバーデン南西ドイツ放送交響楽団は音楽監督だった指揮者のハンス・ロスバウト以来、現代曲の演奏に定評がある。エルネスト・ブール、ミヒャエル・ギーレンが後を継いだ。」
        
40−7

J・S・バッハ/無伴奏チェロ組曲第3番、コダーイ/無伴奏チェロ・ソナタ

Vc:フランス・ヘルメルセン

スェーデン BIS−LP25

「1975年6月、スェーデンのヴィク城での録音。チェロは1820年ナポリのロレンゾ・ヴェンタパネ製。ヘルメルセンはスェーデンでは一流のチェリストらしいが、何年生まれか不明、40歳ぐらいかな(*1983年当時)。曲は無伴奏チェロの双璧。演奏もなかなかいい。演奏はバッハ、録音はコダーイの方がやや上回るか。ノン・ドルビー録音なので、テープヒスが少し気になるが、そんなものはすぐ忘れさせてしまうだけの内容は持っている。バッハの低域が多少甘くなるところはあるが、中高域は非常にしっかりしており、音像もリアル。ホールエコーたっぷりで雰囲気がいい。


*注「デッキはルボックスA77、マイク ゼンハイザーMKH−105.2本、テープはスコッチ206。ノン・ドルビー録音。」
 
40−8

ダンドリュー、ダカン、ルベーグ/オルガンのためのノエル

オルガン独奏:トン・コープマン

蘭フィリップス 9502 076

「ハープシコードのコープマン、オルガンのレコードも出していた。フランス、オウダンのサンジャック=サンクリフトフ教会のオルガンを使用。ルイ=アレクサンドル・クリコの製作になるもの。あまり大型のオルガンではなく、超低音の迫力といったものはないが、極めて鮮明で透明な音色は特筆に値する。オルガンは管楽器なのだということを思い出させてくれるような明るく切れの良い音。妙なことだが、定位が実に良く、パイプが並んでいるのが見えてくる。管楽器アンサンブルを聴いているような錯覚さえ起こす。奥行き感がよく出て、低音がブワーッと広がる中から中高音のパイプが一本一本浮かび上がってくる感じは珍しい。通人向き。」


*注「コープマンは今ではバロック大家で指揮者としても有名だが、当時は無名。初来日は1980年、ICU国際基督教大学の招きによる。」
 
40−9

マショー/泉のレー、慰めのレー

ピーター&ティモシー・デービス指揮ロンドン中世アンサンブル

英オワゾリール DSDL−705

「製作1983年。デジタル録音。レーというのは中世吟遊詩人の音楽から出てきた形式の一つ。マショー(1300〜1377)は音楽史上の人物だがレコードは結構出ている。どっちのレーも12曲から成り、歌詞のついた12頁の解説書付き。音楽史研究用のレコードというところ。テナーが3人、古楽器が3人、ハープ、フィードル、レベック(2種ともバイオリンの原型)、リュート、ギテルン(ギターの原型)、サルタリー(チターの原型)。非常に透明度の高い、やや細身のシャープな音で、余韻が美しく、ホールエコーは少なめだが、綺麗に入っている。楽器と比べるとボーカルの音像やや大。心洗われる感じの曲と演奏で、カッティングレベルは低いがSN比は良い。」
 
40−10

ノルウェーのバロック音楽:ベルトゥーフ/独唱と合唱と管弦楽のためのカンタータ

トルステン・グリーテ指揮オスロ管弦楽団のメンバー

ノルウェーNFK 300 52

「制作1983年。オスロ、タレント・スタジオでの録音。NFKについては、外セレ.1巻48参照。演奏者は、まるで知らん人たちばかり。ベルトゥーフは1668年西独フランクフルトに生まれ、1743年ノルウェーのクリスチャニアで死んだ作曲家。曲はいかにもバロック調だが、バッハ、ヘンデルとは明らかにちがってエキゾチック?妙な違和感があるが言葉のせいか。弦は細身でシャープで、ややメタリック、コーラスはわりといいが、バリトンのソロはハイエンドでシリつく。なかなか面白い音だがノイズがひっかかっているような感じもある。」
 
   
40−11

カール・オルフ/歌劇「アンティゴネ」

インゲ・ボルク、エルンスト・ヘフリガー、キム・ボルイ、キース・ヘンゲン
フェルディナント・ライトナー指揮バイエルン放送管弦楽団、合唱団

独グラモフォン 2740 226  3枚組

「ソフォクレスの悲劇からヘルダーリンが翻訳したものを台本にした5幕の舞台音楽。ふつうのオケとは編成が全く違い6台のピアノ、大小11台のシロホンとマリンバ、石琴、6台の巨大なジャワ風ゴング、4台のハープ、6台のグロッケンシュピール、4台のシンバル、2台の大太鼓など、まさにサウンド・マニア好みの強力な編成。実に厚みとエネルギーのあるサウンド。音場も広く深く、大太鼓は遠くからブッ飛んでくるし、シンバルは宙を飛び交う。男声コーラスは厚く力強く、ふてぶてしく、さあ!どうだと凄みをきかせた録音。これが1961年(録音時)とは....」


*注「”続々レコード漫談”192頁参照。長岡氏の言及したレコードは再販。初盤は独グラモフォン 138 717/19。初盤にはモノラルもあるので買う際に要注意。いわゆるギリシャ悲劇、カール・オルフ(1895〜1982)は、この記事の前年の87歳で死去。この曲はショルティがバイエルン・オペラで初演した。」
 
       
FMfan別冊1984年 春号 No.41     
41−1

チヤイコフスキー/チェロと管弦楽のための音楽:ロココ風の主題による変奏曲、6つの小品より2曲、アンダンテ・カンタビーレ、他

Vc:ラファエル・ウォルフィッシ、G・サイモン指揮イギリス室内管弦楽団

英CHANDOS ABRD−1080

「1983年2月23.4日、ロンドン、フィンチレイのセント・バルナバス教会でのデジタル録音、DMM。マイクはショップスとノイマン。ソニーPCM−1610使用。140gの高品質ビニールによるプレス。チェロはセンターわずか左寄りに定位。力まかせではなく、良い意味の甘さがよく出た演奏と録音。オケもよく分解して力もあるが、とげとげしさはなく、すべての面でバランスのとれた大人のサウンド。ホールエコーが綺麗で、音場も広い方。」


*注「”続々レコード漫談”214頁、参照。」
  
41−2

オーストリアの村つばめ:ヨハン&ヨーゼフ・シュトラウス/アンネン・ポルカ、トリッチ・トラッチ・ポルカ、ウィーンの森の物語、他

アルトゥール・クリング指揮アルト・ウィーナー・シュトラウス・アンサンブル

独INTERCORD INT 160 848

「1983年4月、ルートヴィスブルグのカルルスヘーエ教会でのデジタル録音、DMM。A面30分19秒、B面30分50秒。およそデジタル臭さ皆無のウォームでエレガントでマイルドなサウンド。fレンジ、Dレンジとも広くないが、耳を刺すような鋭い音が全く出ず、弦の音は、そよ風が吹き抜けるような爽やかさを持っている。ホールエコーも綺麗に入り、奥行き感もある。最近としては珍しいくらい素直で平凡な良さを持った録音だ。」

*注「LPの収録時間は普通両面で45分くらい。このLPは長時間収録だ。プリエコーのないDMMカッティングだから可能だったのかもしれない。このオーケストラは常設のものではなく録音用の臨時編成だろう。指揮者も余り耳にしない名だ。」

   
41−3

ティボール・ド・ナヴァル

グレゴリオ・パニアグワ指揮アトリウム・ムジケー・ド・マドリード

仏HARMONIA MUNDI HM−1016

「ティボール・ド・ナヴァル(1201〜1252)はティボー・ド・シャンパーニュとも呼ばれ、ナヴァラの国王であり、トルヴェール(中世のシンガー・ソングライター)の王ともいわれた。作品もかなり残っている。その中から30数曲をパニアグワ独特のアレンジで器楽曲として面白おかしく聴かせる。パニアグワの手にかかると、元は何であろうと、すべてパニアグワ・サウンドになってしまう感じもある。ブーブー、ズーズー、ピーヨピーヨ、ビリャーン、チュリーンと不思議な音の展覧会。レンジは広く、特にハイエンドは凄い。一般水準としては優秀録音だが、パニアグワとしてはベストとはいえない。エネルギー感と、音場感がもうひとつ。」


*注「”続レコード漫談”18頁、参照。録音は1978年6月、エンジニアはアルベール・ポーリン。場所は不明。おそらく古代ギリシャと同じホールによる同条件の録音と推測。それでも同レベルの超リアル・サウンドにならないところが録音の難しいところである。気象条件や演奏者の体調などでホールの響きや楽器の鳴りが微妙に変わるのだ。炯眼の長岡氏からすると、パニアグワとしてはイマイチの音なのだろうが、超がつくほど鮮明な音である。」

41−4

2台のピアノ:チック・コリアとニコラス・エコノム /組曲、バルトーク/ミクロ・コスモスより6曲

インヴェンション  

独Gramophon 410 637−1

「1982年6月24日、ミュンヘンの”ピアノ・サマー”でのライブ・デジタル録音。(外セレ1巻96の)コリアとグルダの録音より1ヶ月早い。A面は即興演奏の組曲。プレリュード、トッカータ、フーガと抽象的なタイトルで、第9曲はインサイド・ザ・ピアノ、二人で(ピアノの)弦を直に引っ掻く。ステージの奥から2台のピアノを通して向こうの客席を見るという音場構成や、客席の雰囲気はグルダ盤と全く同じだが、音質、音像、音場とも少しずつ落ちる。客席のひとりひとりの定位、音場の広がり、奥行きはかなり落ちる。とはいえ優秀録音。グルダ盤(外セレ1巻96)が良すぎるのだ。」

   
41−5

バルトーク/「ミクロコスモス」より7曲、2台のピアノと打楽器のためのソナタ<

Pf:カール=ヘルマン・ロンゴヴィウス&ベゴーニャ・ウリアルテ.他

独WERGO WER−60091

「1981年6月、ミュンヘン音楽学校でのデジタル録音。マイクは8本ぐらい使っているようだ。カッティングレベルは低いし、アッと驚かせるような凄い音は出てこないが、バランスの良い綺麗な音である。スケールは小ぶりだが、細部まで目の行き届いた、たとえばよくできたミニチュア、ベテランの仕立てた盆栽といった感じのする録音だ。音像は小さく、定位は明確、音場はそう広くないようだ。全体に切れが良く、透明で鮮明で、歪み感極小。グランカッサもティンパニーも締まりがよく、シロホンもカチッと定位、音の動きがよく分かる。シンバル、トライアングルも実にエレガントでクールで、鈴虫のように瑞々しい。」

41−6

トランペットとオルガン/バッハ、ヘンデル、アルビノーニ、パーセル.他の作品

Tp:ルートビッヒ・ギュトラー、Org:F・キルハイス

独CAPRICCIO CD−27 1003

「1981年8月エルフルトの伝道教会でのデジタル録音。CAPRICCIOのレコードではギュトラーは大物らしく、やたらに顔を出す。このレコードでもオルガンは伴奏で、名前もずっと小さくなっている。ジャケットは安っぽいが、選曲、演奏、録音とも悪くはない。トランペットは鋭く輝きのある音で、音像も小さく鮮明、いい気分で吹いている感じ。ホールエコーも綺麗だ。オルガンは派手ではないが、低音に芯があり、ぼけた感じがない。オルガンだけ少しほこりっぽいが、教会堂の空気そのものかも。」

   
41−7

A面:スクリャービン/ピアノ・ソナタ第3番、B面:シマノフスキー/マスク

Pf:ヨゼフ・ブルヴァ

独ORFEO S−084831A

「1983年7月、ミュンヘンのアトリエ・ブルヴァ(ピアニストの自宅か?)でのデジタル録音。ブルヴァは1943年チェコのブルノ生まれ、9歳から同地の音楽学校でピアノを学び、ブルノ音楽院、ブラスチラヴァ芸大と進んでソリストとして売り出す。1971年、事故で1年近く入院。退院するとミュンヘンに亡命、ルクセンブルグに落ち着いて西欧での音楽活動に入る。1976年以降は自宅のスタジオでテクニックを磨く。スクリャービンは、巨大なピアノをダイナミックに叩きつけながら、繊細感もだし、余韻も活かすというデジタル向きの音作り。シマノフスキーは余韻を大事にしたppの導入部からぐんぐん盛り上げていく。なかなか良い録音だ。」

   
41−8

フランスの民間伝承 Vol.1 オーベルニュ

仏Ocora  558520

「1976年3月、ルイス・レイシェル夫人宅で録音。OCORAは、いわゆる民族音楽のほかに、フランスの山村に伝わる古謡の類も、こつこつと収集している。このレコードは民間伝承シリーズ第1巻で、オーベルニュ地方に伝わる古い歌を土地の古老、ここでは老夫人、に自宅で歌わせて録音した物。おそろしくデッドな部屋で、無伴奏で、淡々と、しかし力強く歌っていく。カントルーブのオーベルニュの歌の原点がここにある。不気味なほどの鮮度、生々しさ、奥の方で時に聞こえる笑い声、ヤカンの音(がリアルに再現される)。不思議なレコードだ。」


*注「この号で初めてOCORAを紹介、他に外セレ1巻.91:フランスの民間伝承 Vol.4 ベアルヌ、同92のカメルーンのオペラが最大級の賛辞で紹介されている。」
   
41−9

13世紀・詩歌集/バラ物語の時代のシャンソン・ド・トワレ

無伴奏独唱:エステル・ラマンディエ    

仏Alienor AL−11

「製作1983年。パリのノートルダム・デュ・リバン教会での録音だ。シヤンソン・ド・トワルとは”麻の歌”とでもいうのか、中世吟遊詩人の作品の中では風変わりなものだそうだ。バラ物語は13世紀の物語詩で、教訓や世相批判的な内容も持っている。歌はそれとは直接に関係はない。”美しきヨランド”、”美しきイサボオ”など計6曲。すべて無伴奏。ラマンディエの声は柔らかいがよく通り、教会堂のエコーが遠く深く波打って消えていく感じが実にいい。音像はセンターに小さくまとまるが、顔が見えるところまではいかない。マイクはやや高い位置で、椅子に腰掛けているラマンディエを見下ろす感じだが、本当はどうなのか。音楽は、楽器無しで変化がないので飽きる。」


*注「録音はジョルジュ・キスロフ、カリオペのエンジニアであるからワンポイントマイク録音であろう。プロデューサーにラマンディエ自身の名がある。1986年グラモフォン誌のレコード賞、C・クロス・アカデミーのグランプリ・ディスクを受賞している世評に高い名盤である。」
41−10

バロック・ヴェネチアの記録:ハッセの採集した舟歌

S:ミランダ、T:ガイファ

スイス jecklin 5003

「1978年ヴェニスのファンゾロのヴィラ・エモで録音。壮麗な石造りの別荘である。ドイツで生まれヴェニスで死んだヨハン・アドルフ・ハッセ(1699〜1783)が採集した舟歌である。コルレ博物館蔵の写本から選んだ20曲、やはり舟歌らしく軽快な曲が多く、くつろいで聴ける。たとえばA面8曲目の、恋人よ我に帰れ、と歌う”アラ・ニコロッタ”など、八方破れの妙に威勢のいい歌い方が面白い。ハープシコードが左右に分かれる傾向はあるが、歌手は自然なサイズでセンターに定位する。なぜか、ソプラノがメゾ・ソプラノに近く、テノールがバリトンに近く聴こえる。朗々として力強く厚みがあり、全体としてはやや硬質だが、いい録音である。歌はテノールの方が上手い
。」

*注「イェックリン・ディスクはバイエルン放送協会のイェックリン氏が製作、録音のレーベル。無指向性マイク2本の間に円形の閾を設けたイェックリン方式のワンポイントマイクでアナログ録音している。」

http://www.core-sound.com/jecklin/1.php
41−11

M・シャルパンティエ/クリスマス・オラトリオ

ウィリー・クリスティー指揮レザール・フロリッサン  

仏HARMONIA MUNDI HM−5130

「1983年8月の録音。演奏はソプラノ、3人。メゾ・ソプラノ、1人。カウンターテナー、2人。テノール、2人。バス、3人。弦12人、リコーダー2人。テオルボ(K・ユングヘーネル)、ギター、オルガン兼ハープシコード各一人。弦が綺麗で、低弦(ヴィオローネとガンバ)の動きも明瞭。パーカッション(タンバリン、ベル)がオフマイクだが、引き締まった音像で、音も美しい。声も綺麗だが、肉声より少し明るく、クリスタルガラス的な響きを持つ。特にソプラノは明快で、エコーは綺麗だ。シャープで繊細で力強く、ホールエコーが綺麗で奥行きのよく出る優秀録音だが、クールで、淡泊で、ASTREEのような脂っこさはない。」

41−12

ストラビンスキー/歌劇「エディプス王」

語り手:ミシェル・ピッコリ、エディプス王:トマス・モーザー(T)、イオカステ:ジェシー・ノーマン(Ms)、クレオン&使者:S・ニムスゲルン(Br)、コリン・デービス指揮バイエルン放送管、合唱団.他

独ORFEO S−071831A

「1983年1月27.8日、6月27日、ミュンヘンのヘラクレス・ザールでのデジタル録音.DMM。A面23分40秒、B面25分33秒。演奏は腰の据わった感じで、なかなか良い。冒頭のナレーションはセンター定位でしっかりしているが、サ行がきつく、やや硬質。ホールエコーもモノラル的。演奏に入るとパッと広がる。ステレオのデモレコード風。肌理が細かく、厚みと力強さもあり、低弦も締まって音程明確。音場の奥行きも深いが、ホールエコーは奥に向かって三角形の頂点に集まる感じ。いい録音だが、スケール感がイマイチ。」

*注「ギリシャ悲劇で有名なソフォクレスの作品をジャン・コクトーが脚色。語りのピッコリはフランス映画の名優、ジュリエット・グレコの夫君でもあった。一般的には名演奏である。表紙の絵はマックス・エルンスト作−エディプス王。この作品に春の祭典のようなスケール感を求めるのは無理。私的には十分な音の規模を再現していると思える。」
41−13

グスターブ・ホルスト/歌劇「サーヴィトリー」、ドリーム・シティ

S:パトリシティ・クヴェラ、リチャード・ヒコックス指揮シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア.他

英HYPERION A−66099

「1983年6月9.10日、デジタル録音、DMM。A面31分20秒、B面21分10秒。サーヴィトリーは古代インドの叙情詩マハーバーラタによりホルスト自身が作詞した室内オペラである。貞婦サーヴィトリー(F・パーマー)、サタヤヴァーン(D・ラングリッジ)、死(S・ヴァーゴォ)の三人三様のコントラストの妙が聴き所。先ず死が姿を見せずに声だけ聴かせる。まるで地の底か、ガレージの奥から呼びかけてくるような声だ。続いて囁くようなサーヴィトリーの声。やや歪み感はあるが不気味な雰囲気を持った曲と演奏と録音だ。(併録の)ドリーム・シティはP・クヴェラの独唱で綺麗な音。トータルでは、繊細なマイルド・サウンド。」

*注「ホルストは惑星で有名だが、こうした曲も作っていた。英HYPERIONは私が知る限りDMMの独テルデッカ・プレスでしかLPをだしてなかったようだ。因みにHyperionとはギリシャ神話の神(ヒュペリオン)、土星の第7衛星ハイペリオン。カリオペ、テラークなど欧米のレーベルはギリシャ神話や星座、星から名づけたものか多い。 」
*番外/参考:1980年代に入ると新譜の多くはデジタル録音になってくる。ピュア・アナログ派の小生としては、デジタル・マスターによるLPは興味が薄く、手元にあるレコードも少ない。デジタル物はCDで十分とも思っている。長岡氏によると、デジタル録音でもLPの方がCDより音がよいことがあるそうだ。実際、外盤セレクションに取り上げられたLPには、けっこうデジタル録音が多い。長岡氏が優秀録音と文句なしに評したモノはデジタルでも本欄に取り上げざるを得ないが、部分的な欠点を指摘したうえで条件付きで良い録音としたものもけっこうあり、曲の良さと演奏者の質を考えると音楽鑑賞用として捨てがたいモノも多い。長岡氏の評価は厳しく、難あり瑕瑾ありとしたものでも一般的水準からすると優秀録音である。それらのデジタル録音は番外として以下に簡単に紹介。これらは、入手のし易いCDで聴く方がいいかもしれない。
   
41D1

シューベルト/交響曲第10番

P・バーソロミュー指揮リェージュフィル

ベルギーRICERCAR RIC−023

「1983年6月27.8の録音。残されている草稿からバーソロミューが補筆完成したもの。演奏は淡泊で軽快。録音は繊細で切れもよく、奥行き感があるが、どこか細身で、ふくらみと艶がイマイチ。」

41D2

サン=サーンス/動物の謝肉祭.ラベル/マ・メール・ロワルイ・ド・フロマン指揮ルクセンブルグ放送交響楽団

仏FORLANE UM−6512

「1982年1月のデジタル録音。ジャケットは8頁のデラックスな絵本の体裁を取っており、一見の価値あり。このレコードで一番金がかかっているのはジャケットかもしれない。ナレーション入りの動物の謝肉祭、台詞は全部絵本に書き込まれている。演奏は明るく華麗で表面的。可もなく不可もなし。録音は情報量が多く、繊細で、多少の鋭さとホコリっぽさはあるが、絵本と仏会話と、音楽で3倍楽しめるレコード?」

   
41D3

ニールセン/交響曲 第2番、アラディン組曲

チョン・ミュンフン指揮エーテボリ交響楽団

スェーデンBIS LP−247

「1983年3月、8月.デジタル録音、DMM。BISも日の出の勢い、しかし売れ始めると個性が消えて、一般受けを狙った平凡な音になるのが世の常。BISにもその兆候が出てきた。録音はBISらしい奥行きと雰囲気のあるもの。細かい音をよく拾い、ホールエコーもたっぷり入っているが、交響曲は少し歪みっぽさがあり、時にヒステリック。アラディンの方が透明で繊細で音に伸びがある。」


*注「”続レコード漫談”91頁、参照。ミュンフンChung Myung-Wung/鄭明勲(1953〜)は韓国人指揮者、バイオリニスト、チョン・キョンファ/鄭京和の実弟。当初ピアニストとしてデビューしたが指揮者に転向、この後、1989年、パリ・オペラ座の音楽監督に抜擢され頭角を現すようになる。http://www21.ocn.ne.jp/~chung-mw/

 
41D4

チャイコフスキー/弦楽セレナード 作品48.ドボルザーク/弦楽セレナード 作品22

パーボ・ベルグルンド指揮ニュー・ストックホルム室内管弦楽団

スェーデン BIS LP−243

「1983年7月14/5日、デジタル録音。マイクと楽器の位置関係が明るく表面的だが、時に繊細に分解して奥行きを出す部分がある。ドボルザークの方がややオフの感じで、繊細感と奥行きが出るし、くつろいで楽しめる。平均的には良い録音だが、BISとしてはベストではない。」


*注「”続レコード漫談”91頁、参照。P・ベルグルンド(1929〜)はフィンランドの名指揮者、シベリウスを得意としていて交響曲全集を3度も録音している。サウスポーで左手に指揮棒を持って演奏する。」
       
FMfan別冊1984年 夏号 No.42         
42−1

サン=サーンス/動物の謝肉祭.ドビッシー/前奏曲集1.2巻、「子供の領分」から5曲、サティ/ジムノペディ第1番、シャブリエ/ブルレ・ファンタスク(いずれもブラスとパーカッション・アンサンブル編曲版)

フイリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル

独デッカ 6.42936

「1982年10月、1983年2月、ロンドンのキングスウェイ・ホールでのデジタル録音。DMM。A面22分18秒、B面20分20秒。いずれもブラスとパーカッション・アンサンブル編曲版。動物の謝肉祭なんて、と思いながら聴いてみてビックリした。まるで別の曲を聴くみたいに新鮮でカラフルでエネルギッシュな演奏と録音。一音一音が鮮明で力強く、透明度大。音像は小さく、遠近感も良く出ている。チューバのゴツゴツとしたふてぶてしい音も見事。ホールエコーもたっぷり入っているが、これは人工的だ。」
   
     
42−2

孤独の楽しみ/コレットとボワモルティエのバスーンとコンティヌオのためのソナタ集

Bss:ダニー・ボンド、Vc:リヒト・ヴァン・デル・メール、Cemb:ロベルト・コーネン

ベルギー ACCENT ACC−8331

「1983年6月、ブリュッセルのプロテスタント教会、王の礼拝堂での録音。コレット(1709~1795)のソナタ3曲、ボワモルティエ(1691〜1755)のソナタ4曲。演奏は、いずれもオリジナル楽器使用。アクサンの初期の録音はわりと薄手の硬質なものが多かったが、次第にハルモニア・ムンディ系の豊かさが出てきて、今回の物は更に厚く、アストレに似てきた。演奏、録音とも優秀。バスーンもチェロも厚く逞しい鳴り方で、チェンバロは少しチンチンするが厚み十分。音像の輪郭は必ずしも鮮明ではないが、自然な形で立体的に定位する。」
 
42−3

モーッアルト/クラリネット5重奏曲 K.581,クラリネット,3重奏曲 K.498

Cl:ミシェル・ポルタル,レ・ミュジシャンス(Vn:レジス・パスキエ、R・ドガレイユ、Vla:ブルーノ・パスキエ、Vc:R・ピドゥー、Pf:J・C・ペネティエ)

仏HARMONIA MUNDI HM1118

「1983年3月の録音。A面24分30秒、B面30分31秒。レ・ミュジシャンス(音楽家たち)のメンバーは6人。(仏HMに)ポピュラー名曲、特に五重奏曲の方はレコードを数え切れないほど出ている。軽快で、しかも品の良いサロン的な演奏で、録音もエレガントでマイルド。くつろいで聴ける響きの柔らかい綺麗な音で、特にクラリネットが良い。バイオリンは時にわずかにヒステリックになるが、全体としてはバランスの良い滑らかなサウンドで、綺麗にハモって雰囲気がよく出る。装置が悪いとダルな音になりそう。」


*注「再販で同じレコード番号の独プレスでDMMもある。DMMより国内版ビクタープレスの方が音が良さそう。」
*注「1980年2月の録音。エンジニアはJean-Francois Pontefract。
 
42−4

ブラームス/ハイドン主題による変奏曲、ワルツ集 作品39

ピアノ連弾:ブラーチャ・イーデン、アレクサンダー・タミール

英crd CRD−1113

「1983年3月27.30日、エルサレム・ミュージック・センターでの録音。A面19分39秒、B面20分。ハイドン主題が2台のピアノ、ワルツ集はピアノは1台、4手である。イーデンとタミールはエルサレム音楽学校で出会ってコンビを組むようになって30年。ジャケット裏の写真を見ると、エルサレム・ミュージック・センターというのは風車などもある古風だが落ち着いた石造りの平屋。演奏は一人で弾いているみたいに息が合っており、肩肘張らぬ淡々とした演奏。録音も刺激の少ない、しかし、決してボケているわけではないナチュラルサウンドで、強烈音ばかり聴いている人には食い足りなさもあると思うが、これはこれで良い録音である。」

   
42−5

オスカル・メリカント/フィンランドの縮図

Pf:エーロ・ヘイノネン

フィンランド SIGNUM SIG−005−00

「製作1983年。A面19分32秒、B面21分15秒。メリカント(1868〜1924)はフィンランドの作曲家。”単純明快で、魂のこもった音楽への復帰”を目指していたそうである。ヘイノネンは1950年生まれのフィンランドのピアニスト。”カンガサラの或る夏の日”、”古きノアク”といった誰も知らないが、親しみやすい曲が入っている。B面、2曲目は”ショパン風ワルツ”これはいかにもショパンそのもので笑っちゃいます。録音もオフマイクの、響きを大事にした録り方で、コンサート・グランドを力まかせにたたきつけるといった強烈サウンドではなく、サロンで聴くごく普通のピアノのという音。それがかえって珍しく新鮮なほどだ。」

   
42−6

マルティヌー/ピアノ・ソナタ第1番.エチュードとポルカ第1−3番

Pf:ラドスラフ・クヴァピール      

スェーデン BIS LP−234

「1983年4月10.11日、デュルスホルムのBISスタジオでの録音。マイクはノイマンU−89が4本、ミキサーはノイマンSAM82、デッキはスチューダーA80、ドルビーなし。テープはアグファPEM−468。DMM。ピアノはベーゼンドルファー275。A面31分1秒、B面20分53秒。クヴァピールは1934年チェコのブルノ生まれ。マルティヌー(1890〜1959)もチェコ生まれの作曲家。曲は前衛的でも古典的でもなく、20世紀末、あるいは21世紀のBGMといった趣かあり、なかなかいい。録音はダイナミックだが刺激的なところはなく、柔らかく厚く豊かなサウンド。音場はスタジオのままだが、響きは悪くない。全体としてややネクラな曲と演奏。これもチェコらしさか。」

*注「”続レコード漫談”91頁、参照。」
 
42−7

LIVING IN DESPARATE TIMES

オリヴィア・ニュートン・ジョン

米MCA 13987

「A面6分36秒。B面5分18秒。映画”トゥー・オブ・ア・カインド”のサントラ盤。MCA16127から2曲選んで33回転30pシングル盤にカッティングしたもの。B面は余白があるが、A面は内周部まで切って6分36秒とゆとりを持ったカッティング。それは音に出ていて、とにかく凄いエネルギーだ。散弾銃と機関銃と大砲を一緒にブッ放したように音が飛び出してくる。人工的ではあるが切れは良く、透明度もあり、明るく散乱して情報量は多い。オリヴィアの声はむしろオフ気味で、装置が悪いと伴奏の中に埋もれてしまう。時間で割ると割高だが、こういうのも一枚持っていていい。」

   
42−8

ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの聖歌

S:エンマ・カークビー、C・ペイジ指揮ゴシック・ヴォイセズ

英HYPERION A−66039

「1981年9月14日、ロンドン、ハムステッドの”丘の上の聖ユダ教会”でのデジタル録音、DMM。A面22分28秒、B面20分31秒。ヒルデガルト(1098〜1179)はドイツの詩人、作曲家でアベ(司祭)でもある。タイトルには”神の吐息に舞う羽”とあるが、うなずける内容だ。中世の聖歌というと、すぐグレゴリオ聖歌を考えるが、このレコードは違う。ゴシック・ヴォイセズは、ソプラノ3人、コントラルト1人、テノール3人、シンフォニア(バグパイプの一種)、リードドローン(同)各1人。それにカークビーがゲスト出演という形で、重々しさは全くなく、軽く明るく、ホールエコーたっぷりの素晴らしく響きの良い録音で、気軽に楽しく聴けるレコードだ。」
 
42−9

アイスランド合唱音楽選/14.6世紀の作曲者不明の聖歌、現代アイスランド作曲家の作品(スヴェンビヨルン・スヴェンビヨルソン、ヘルガ・ヘルガソンなど)14曲

ヨン・ステファンソン指揮ラングホルツ教会合唱団

スェーデン BIS LP−239

「1983年4月21.3日、アイスランド、スカルホルト教会での録音、DMM。BISの社長ロベルト・バール自身の録音・編集である。ソニーPCM−F1使用、マイクはノイマンU−89が3本、ゼンハイザーMKH−105が2本。A面25分56秒、B面23分40秒。合唱団は45人。まるで知らない作曲家ばかりだが、わりと親しみ易い曲だ。ややオフマイクの厚みと豊かさを感じさせる録音で、コーラスにありがちな歪み感が全く無く、音場も左右はSP(の間隔)どまりだが、奥行きと上下はわりと出る。」

*注「”続レコード漫談”91頁と”続々レコード漫談”179頁、参照。続レコード漫談では、こんな綺麗なコーラスは珍しいと、絶賛されている。」
 

42−10

J・S・バッハ/コーヒー・カンターター、農民カンタータ

S:R・ホフマン、Br:G・ラインハルト、T:グイ・ド・マイ、リンデ・コンソート

独EMI 1467431

「1983年5月7.8日、スイス−バーゼル近郊フリューの福音教会での録音。演奏者は馴染みが薄いが、演奏も録音もなかなか良い。大理石の床に煉瓦積みの壁という部屋での録音らしいが、非常に透明で鮮明、中性洗剤で洗い上げたように音がピカピカに光っている。綺麗すぎるくらい綺麗な音で、特にホフマンの声が良い。ホールエコーも透明で輝かしく、ガラスの宮殿で演奏しているといったイメージを受ける。バリトンはもう少し厚みが欲しい。音場もベストとは言えないが、最近のデジタル録音としては良い方だ。」
 
42−11

ラブ・イズ・メニー・スプレンディド・シング:ホセ・カレーラス ポピュラー曲を歌う、バーンスタイン/「ウェスト・サイド・ストーリー」からトゥナイト、M・スタイナー/「風と共に去りぬ」から、映画「ラ・マンチャの男」から「かなわぬ夢」

T:ホセ・カレーラス、ロバート・ファーノンとオーケストラ

蘭PHILIPS 412 270−1

「製作1984年。A面6曲20分51秒、B面6曲22分24秒。最近のPHILIPSのジャケットは頭にえび茶の鉢巻きをしめているが、これは珍しく普通のジャケット。カレーラスの声は少し硬質で粗さはあるが、実にのびのびと歌っており”アヴェ・マリア”(蘭PHILIPS 411 138−1)のカレーラスよりずっと良い。オケものびのびと堂々と演奏しており、ポップスだからという気楽さが出た演奏のようだ。」


*注「後に三大テノールとして絶大な人気の出たオペラ歌手カレーラスがミュージカルや映画のポピュラー曲を歌ったレコード。」
 
   
42−12

シャルパンティエ/テ・デウム、モテット「主を讃えよ」詩編116番、マニフィカート第三番

B:クルト・ヴィドマー、ルイ・デヴォー指揮ヘント・マドリガルコール、カンタービレ・ヘント、ムジカ・ポリフォニカ

仏 ERATO NUM−75100

「1983年4月、ブリュッセルのサン・クレマン教会でのデジタル録音。ヨーロッパ・コンピューター・システム協会(ECS)の協力で実現した録音とあるが、コンピューターの役割がよく分からない。オケはオフマイクで、ソフトで、ハイ落ちだが、実に綺麗で歪み感ゼロ、コーラスも同じように綺麗なオフマイク録音。ソロ・ボーカルだけが、ごくわずかに歪み感があり、オフマイクなのにやせる感じがあるのが妙。トータルではなかなか良い録音だ。」


*注「”続レコード漫談”215頁、参照。」
 
番外.参考
42D1

リムスキー=コルサコフ/シェラザード、スペイン奇想曲

シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団

英DECCA 410 253−1

「1983年5月、9月、セント・ユスターシュ教会での録音。このレコードA面とB面の印象が違う。A面3楽章まではガラスを引っ掻くような鋭さがあり、ダイナミックではあっても、どこか薄い感じが残り、濁りもある。B面の4楽章は鮮烈でシャープに切れ込むが、透明で歪み感は無く、情報量大、fレンジ、Dレンジ大。低弦のゴツい感じもいいが、ソロのppも綺麗だ。ただ第4楽章の最後はなぜかワウっているように聴こえる。音場は左右SPの間、奥行きはイマイチ。全体としては力強いが表面的。」


*注「両面で1時間を超える、LPとしては過剰収録気味。殊にA面が苦しい。ふつうLPには演奏時間45分くらいのシェラザード1曲のみのことが多い。デュトワ/モントリオールは、この頃からデッカにフランス物を中心にデッカに録音し頭角を現してきた。」
 
   
42D2

オルガンの花火/20世紀のオルガン曲集

独奏:クリストファー・ヘンリック  

英HYPERION A−66121

「1984年1月、ウェストミンスター寺院のオルガンによる演奏、デジタル録音、DMM。演奏はなかなか達者で、録音も低域のエネルギーがかなりのもので締まりも良いが、音場はあまり広がらない。」


   
          
      
43−1

マルメ・ブラス・アンサンブル

スェーデン BIS LP−59

「1974年6月。スエーデンのティエルシェ教会での録音。マルメ交響楽団のメンバー9人で構成、Tp(トランペット):3人,Tub(チューバ):1人、Hr(ホルン):1人、Tb(トロンボーン):3人、バス・チューバ:1人、16〜17世紀の作品と現代曲に二分されている。体力があるせいか、楽器に振り回される感じが全く無く、自由自在に使いこなして、楽々と高らかに吹き鳴らしているので気持ちがいい。くせがなくて残響時間の長いホールだと思うが、ブリテンの”ファンファーレ”など、ホールエコーが濃い朝もやのように漂い、その中から朝日に輝くブラスがひょいひょい顔を出す感じはほかでは聴けない。ペアマイク録音の定位の良さ、音場感は抜群。」

43−2

パストラル・ダイアローグ/ダウランド、ロバート・ジョンソン、ディンディアの歌曲集

S:エンマ・カークビー、B:D・トーマス、リュート:A・リューリー

英  L`OISEAU−LYRE(オワゾリール) DSLO−575

「製作1980年。17世紀前半の二重唱曲を集めた物。宗教曲はなく、牧歌的な曲が中心なので表記のタイトルとなった。いかにも可愛らしいカークビーと、力強いが柔らかさと深みのあるトーマスのコントラストが絶妙。どちらかというとppがいい。A面1曲目の静かな曲”何処へ走って行くの私の恋人”が特にいい。テストにも使える。A面7曲目の”シャロン、オー、シャロン”になると、かなり力強く硬質だが、それでもA級。ホールエコーも綺麗だが、音場感はイマイチ。ボーカルの定位はいいが、音像がハッキリしない。」


*注「このコンビでオワゾリールに名盤として名高い、アモルファス・ダイアローグ:恋人たちの二重唱。同じく、この取り合わせで英HYPERIONにもデュエットのLPがあり、いずれも優秀録音。」

43−3

ギドン・クレーメル.ロッケンハウス1982:ハイドン/弦楽四重奏曲第1番、シューベルト/弦楽五重奏曲、

ウェーベルン/チェロとピアノのための2つの小品、クルシェネック/「音楽による小さな花輪」.他


演奏者:Vn:G・クレーメル、ハーゲン弦楽四重奏団、Vc:M・マイスキー、Pf:アンドラーシュ・シフ、Ob:H・ホリガー、他

蘭 PHILIPS 411 062−1

「1982年、第2回ロッケンハウス室内楽フェスティバルのライブ録音。ロッケンハウスはハンガリーとの国境に近いオーストリアの山村で、ここに音楽狂の牧師(ヨゼフ・ヘロヴィッチ司祭)がいてアイデアマン。(バイオリニストの)クレーメルとの偶然の出会いから、フェスティバルが生まれた。城と教会と公立学校の三カ所にコンサートホールを設け、シーズン中に百曲以上の室内楽を演奏するが、バッハからキーゼヴェッテル(1945〜)まで13曲を2枚に収めたのが、このレコードだ。演奏は錚々たるメンバー53人。岩崎淑・洸ら日本人も4人いる。第4面は冗談音楽会でピアノと自転車ポンプによるグノーのアベマリア、トッホの合唱曲?”地理のフーガ”は必聴。録音も全体に優秀な方である。」

 
43−4

ユダヤの歌2

A:オクサナ・ソヴィアク、G:アントン・スティングル

仏HARMONIA MUNDI 065−99 677

「製作1977年。第1集は持っていない。第2集だけが偶然手に入ったものである。ソヴィアク(Oksana Sowiak)はウクライナ生まれ、アメリカで育ち、アメリカとドイツで学んだというコントラルト歌手。レパートリーは東欧諸国の歌で、ユダヤもそのひとつ。ギタリストで作曲家でもあるスティングルとの共同作業で、ユダヤの古い歌を発掘、アレンジしてレコードにしたもの。現実には、この歌を歌うユダヤ人は居ないそうだ。14曲入っているが、いずれも不思議な匂いを持っている。A面、1曲目の”デア・レーベ・タンット”という歌が面白い。”シャッ、シュティル”と歌い出す、鋭く、しかも極めて自然なサ行の音はテストにも好適。ソヴィアクの太いが、艶のある不思議な声も実に魅力的。」

43−5

the name is Mokowicz

Pf;アダム・マコービッチ、Sax:フィル・ウッズ.他

米 Sheffield lab  LAB 21

「1983年4月25〜29日、カリフォルニア、MGA/UA シェフィールド・ラボ・スタジオでのダイレクト・カッティング。シェフィールドのクラシックはワンポイントステレオ・マイクによる録音が基本だが、ポピュラー(jazz)でのワンポイント録音は此が初めて。1940年チェコに生まれたジャズ・ピアニスト、アダム・マコービッチを中心にしたクインテットの演奏。A面16分9秒、B面16分38秒。ジャズのダイレクト・カットは萎縮した演奏が多いのだが、このレコードはオフマイクのワンポイントであるためか、実にのびのびとした小気味の良い演奏。ワイドでダイナミックで繊細で美しく、透明度、厚み、エネルギー感、音像、全て文句なし。サックスの浸透力は驚異的だ。」


*注「Sheffield labが設計、製作した管球式の機材で録音。」
 
43−6

プロコフィエフ/交響組曲「3つのオレンジの恋」「放蕩息子」、「ヘブライの主題による序曲」

ローレンス・フォスター指揮モンテカルロ管弦楽団

仏 ERATO NUM−75123

「1983年6月、モンテカルロ、パレ・デ・コングレ(会議宮殿)でのデジタル録音。B&Kの測定用マイクを使用している。3つのオレンジの恋は華やかさで有名な曲。同じERATOということで、演奏は違うのに音は似ている。やはり、鮮烈、絢爛豪華、シャープに切れ込んで花火のように散乱、ffではドカン、ズジャンと大爆発だが、気分爽快。情報量が多く歪み感少なく、全体としてはシャブリエより、ややオフマイクの感じで、繊細感が出て、グランカッサが詰まるような所もない。スペアナで見てもローエンドの伸びが違う。」

*注「”続レコード漫談”183頁、参照。」

43−7

ザ・フォワード・ルック

レッド・ノーヴォ・クインテット

米 REFERENCE RECORDING RR−8

「REFERENCE RECORDINGはA Prof Johnson Recordingというサブタイトルつきで、音質優先のレコード。これは古い録音からの掘り出し物。1957年12月当時の最新鋭の3chデッキと3本のマイクを使って、ジョンソン本人が録音。そのまま埋もれていたのを、ふと思い出してのカッティング。ノーヴォ(Vib)のほかG、Bs、Ds、リード。マコーヴィッチと比較すると古さを感じるが、これだけ聴くと、1957年の録音とは思えない。ワイドでダイナミックで厚みがある。ライブなので拍手が入るが、オフなのでやかましくない。ナチュラルサウンド、ナチュラル定位で、雰囲気が見事。熱気が肌で感じられる録音。」


*注「Prof Johnson Recordingは手製のデッキと録音アンプによるアナログ録音。色々バリエーションがあるようで、テクニクス RS−1500UのようなUループ走行のデッキだったり、バイアス周波数が極端に高い、3.5Mヘルツでフォーカス・ギャップの特注録音ヘッドを使用していたりする。」
43−8

カッチーニ/新しい音楽

バーゼル・スコラ・カントルム

独  HARMONIA MUNDI

「1983年1月27〜29日、ベルンのアムゾルディンゲン教会でのデジタル録音、DMM。B面3曲目に有名な”アマリリうるわし”が入っているが、他は”甘い溜息”、”東方の門”より、”美しい赤いバラ”と実は筆者もよく知らない。歌も演奏も良い。透明で伸び伸びとした明るい声だが、痩せず、メタリックにならず、厚みと豊かさと色気があり、ホールエコーも実にたっぷり。SN比もよい。ガンバ、キタローネの伴奏も力がある。アナログ的サウンド。」


*注「原文にレコード番号を表記するのを失念していた。バロック当時の古楽器の演奏である。」
 
43−9

シャブリエ/管弦楽集.「スペイン狂詩曲」「田園組曲」「楽しい行進曲」、喜歌劇「いやいやながらの王様」より行進曲、「楽しい行進曲」、歌劇「グヴァンドリーヌ」序曲、「気まぐれなブーレ」

アルミン・ジョルダン指揮フランス国立管弦楽団

仏 ERATO NUM−75079

「1982年9月、ラジオ・フランス 103スタジオでのデジタル録音。演奏も録音もシャブリエの華やかさを出来る限り強調したような絢爛豪華な録音。ワイドでダイナミック、鮮烈、壮絶、シャープに切れ込んで、花火のように散乱する。エコーもたっぷりではないが確かに入っている。小さく定位するトライアングルもいい。ややハイ上がりの典型的なハイファイ録音だが、グランカッサに僅かに詰まった感じがある。スペイン狂詩曲より”いやいやながらの王様”の方がいい。

 
43−10

ナポリのルネッサンスの音楽

エスペリオン]]

独 EMI 1436291

「1983年6月、クロスター・シユタインフェルドの大聖堂でのデジタル録音、DMM。エスペリオン]]はアストレのAS37では16人居たが、このレコードでは10人、S:フィゲス以下もちろんオリジナル楽器>1442〜1556のナポリ宮廷音楽を集めたもので、オケゲム、カベソン、オルティス、ゴンベール、そのほか作者不明も含めて色々。小刻みにハイテンポで打つ太鼓やタンブリンが実にいい。楽器の音色がリアルで美しく、情報量、解像力大。ホールエコーたっぷり。楽器の音像は小さく鮮明で三次元的に定位する。惜しいのはボーカルで、人工的な硬質な声、音像も拡大して平面的だ。」


*注「エスペリオン]]は、ガンバ、リュート奏者のホルディ・サヴァール.をリーダーとする古楽合奏団。アストレに録音が多い。」
 
43−11

ニコラス・モウ/イタリア・ルネッサンスの詩による歌曲集 愛の声,ラ・ヴィタ・ヌオヴァ

Ms:サラ・ウォーカー,S:ナン・クリスティー,P:ロジャー・ビグノルズ,ナッシュ・アンサンブル

英CHADOS ABR1037

「制作と録音はブライアンとラルフ、カーゾン兄弟。1981年3月25日、ブルームズベリの殉教者セント・ジョージ教会、1980年12月12日ロスリン・ヒル教会での録音。モウは1935年イギリス生まれ、レノックス・バークリーに師事、オペラや声楽曲が多い。”愛の声”はピアノ伴奏の連作歌曲、” ラ・ヴィタ・ヌオヴァ(新生命)”はイタリア・ルネッサンスの詩からの歌曲集で、10人の室内オケの伴奏。曲は正直あまり面白いとは思わないが、録音がいい。声もソロもバイオリンも鮮烈でスカッと抜けきっており、ピアノもキンコンと透明で快い響き。ホールエコーも美しい。弦の合奏は意外と柔らかさも持っている。」

*注「CHANDOS SUPER-ANALOG RECORDINGの表示あり。つまりショップスとノイマンのマイクに、State of the Artの特製ミキサーにノイズ・リダクションもコンプレッサーを通さずスチューダA80,2トラ76p録音し更に入念にカッティングして高品位で140グラムにプレスしたレコード。」
 
 
43−12

ムジカ・インティマ〜宗教音楽、世俗音楽ほか

S:ソルヴェーグ・ファリンゲル

スェーデン BIS LP−2

「1974年1月ヴィク城での録音。マイクはゼンハイザーMKH−105.2本、ルボックスA−77使用。カッティングもプレスもスェーデン。伴奏はペルーソンが、ピッコロからA、T、B、Cbの5種類のブロック・フレーテとバイオリン。レルビーがギターと6弦と10弦のリュート。ノートルダム・オルガナからマショー、デュファイ、セルトンまでの中世音楽と現代曲。タイトルにBARNVISORとあるのが意味不明。子供の歌だろうか。判らないので、ほか、としておいた。サ行に硬さはあるが、艶と伸びがありホールエコーが美しい。A面2曲目の太鼓、タンバリンがいいが、誰が演奏しているのだろう。」


 
      
FMfan別冊1984年.冬号 No.44       
44−1

フランスのリュート音楽

独奏:ヤコブ・リンドベリ     

スェーデン BIS LP−260

「リンドベリは1952年生まれのリュート奏者だが、ギター、キタローネ、ガンバなども手がける。17世紀前半に活躍したバラール、ヴァレ、E・ゴーティエ、ガロと、あまり聞いたことのない人たちの作品5曲を演奏する。なかなかの力演。音像は拡大気味で、巨大なリュートを横抱きにしているような音像になるが、音は素晴らしく豊かで分厚く、深みがあり、エコーもたっぷり、実に響きのいい音だ。」


*注「1983年、12月21.3日、スェーデン、ウプサラのヴィク城での録音。ルボックス A−77.2トラ38をノードルビーで使用。マイクはノイマン、U−89を4本。外セレ.1巻7のBISと同じ演奏者」
   
44−2

独唱、女声合唱とオルガンのための宗教曲:フォーレ/小ミサ、恵み深き聖母マリア、プーランク/黒い聖母像への連祷、他、カプレの作品

Org:マリ=クレール・アラン、ジャン・スリセ指揮オーディト・ノヴァ合唱団

「1982年10月、サンジェルマン、アン・レイ教会での録音。スペアナではレンジの狭いエネルギー不足の録音のように見えるが、実際にはかなり力のある録音だ。オルガンは重低音は出てないのだが、中低音が厚く、図太く、華やかに喚き立てるオルガンではないが、ボーカルを支える強固な土台として堂々と鳴っている。コーラスは前後の重なり具合が見える。ホールエコーたっぷりで音場は広く深い。声が少しかすれる時もあるが、演奏が素晴らしいので、少々のことは気にならない。」
 
   
44−3

古いドイツのクリスマス歌曲

ベーレン・ゲスリン(歌、打楽器:イザベラ・エルンスト。リュート、ブロックフレーテ、ゲムスホルン、歌、ゴシックハープ、ウッドブロック:ヨハンネス。ハイムラト。歌、リュート、フィドル:ミヒャエル・コルト。フィドル、ガンバ、ブロックフレーテ、ゲムスホルン:クリスティーネ・シモン)

独  HARMONIA MUNDI 199979 1

「ブレジンゲン福音協会でのデジタル録音、DMM。古楽演奏グループ、ベーレン・ゲスリンは此の頁では確か3度目の登場。13〜16世紀のクリスマス・ソングを歌い演奏する。耳慣れない歌ばかりだが、録音は此のグループのレコードに共通の繊細で鋭く研ぎ澄まされた、クールで鋭角的なエッチング的な、クリスタル・グラス的なサウンドと音像で、異色だが優秀」

*注「ベーレン・ゲスリン合奏団のメンバー構成は下記の四人で、それぞれが歌と複数の楽器を担当。歌、打楽器:イザベラ・エルンスト。リュート、ブロックフレーテ、ゲムスホルン、歌、ゴシックハープ、ウッドブロック:ヨハンネス。ハイムラト。歌、リュート、フィドル:ミヒャエル・コルト。フィドル、ガンバ、ブロックフレーテ、ゲムスホルン:クリスティーネ・シモン」
 
   
    
44−4

モーッアルト/クラリネット四重奏曲 作品79.第1.2.3番

Cl:ディーター・クレッカー、エーデル弦楽四重奏団

独 TELDEC 6.43046

「1984年制作、デジタル録音、DMM。世界初録音を謳っている。非常に珍しい曲なのかというとそうでもない。実は、それぞれバイオリン・ソナタ第34.36番と、ピアノ三重奏曲第三番のクラリネット・バージョンなのである。モーッアルトは管楽器バージョンが好きで、オペラの管楽器アンサンブル用バージョンも作っている。この三曲は弦楽四重奏団から第1バイオリンが抜けてクラリネットが入った形の四重奏に置き直したもの。よく聴き慣れた楽しいメロディー、弾むような演奏、録音もなかなか良い。よく伸びて浸透力のあるクラリネット、弦は明るく繊細で、バイオリンのエネルギー感も十分だが、全体としては、わずかにメタリックになるところもある。ホールエコーもたっぷり入っている。」


*注「1983年12月18〜22日 ウイーン、テルデッカ・スタジオでの録音。レコードには演奏者クレッカー自身が曲の解説を書いている。」
 
   
44−5

リヒャルト・シュトラウス/16の管楽器のためのシンフォニー(管楽器のためのソナチネ第2番(交響曲)変ホ長調「楽しい仕事場(Frohluche Werkstatt*)」AV.143)

ウォルフガング・シュレーダー指揮ミュンヘンフィル・ゾリステン

独 CALIG CAL−30820

「1981年4月1日、ミュンヘンのキュヴィリエ劇場でのライブ(アナログ)録音。ウォルフガング・シュレーダーのほかにフルート、オーボエ、クラリネット(CおよびBを含む)、バセット・ホルン、ホルン、ファゴット、コントラ・ファゴット、計16人。曲は”楽しい仕事場”というサブタイトルつき。モーッアルトの霊に捧げられている。R・シュトラウスの明るく軽快な面が出た曲で、モーッアルト風のメロディーが聴かれるが、構成は複雑で、16の管楽器がそれぞれ独自に動いているように聴こえる部分もある。音も音像も輪郭鮮明で力強く響き、しっかりと定位、音場の奥行きが広い。たまに客席の咳が入ったりするが、全体としては、ずいぶん静かな客席で、最後の拍手で、ライブだったけと気がつく。」


*注「録音エンジニアは Karl Grobholz。」
 
   
44−6

モーッアルト/セレナード第11番,グリーグ/4つの叙情小品

シカゴ交響楽団管楽アンサンブル

米 SHEFFIELD Lab22

「1983年9月8、9、10日、カリフォルニア−カルバーシティMGA/UAのシェーフィールド・ラボ・スタジオでのダイレクト・カッティング。ワンポイント・マイク使用、オール管球式。演奏はレイ・スティルをはじめ、シカゴ交響楽団の管楽器奏者8人。セレナードはオーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット、各2。叙情小曲は第10集まで計66曲あるが、トロルトハウゲンの婚礼の日、等よく知られた曲四曲。イングリッシュホルンが入る。演奏はぐりーぐの方がいい。リズミカルで、陽気で、張りがある。録音はさすがだ。誇張感のないナチュラル・サウンド。音の重さも軽さも自然そのもの。ベールをかぶるとか、ほこりっぽい感じは皆無だが、ヒステリックさ、メタリックさも皆無。音の厚み、音場の奥行きも申し分ない。」
 
   
44−7

シューベルト/歌曲集「冬の旅」

B:マルッティ・タルヴェラ,Pf:ラルフ・ゴトーニ,

スェーデン BIS LP−253/4 2枚組

「1983年9月25.6日、BISスタジオでのデジタル録音、DMM。ソニーPCM−F1使用、マイクはノイマン U−89 4本。冬の旅はずいぶん出ているが、これはひと味違う。樽部らは1935年フィンランド生まれ、ワーグナー、ベルディ、モーッアルトなどのオペラ歌手として国内盤にも度々登場している。ジャケット裏の写真を見ると、ひげだらけの熊のような、しかもすらりとした感じの大男。このレコードはシューベルトの冬の旅というより、ワグナー歌手タルベラの冬の旅といってよく、彼の実に朗々とした厚みと力のある声に圧倒される。スケールの大きな北欧の冬の旅だ。ピアノもオフマイクでまろやかだが芯があり、バランス良く歌を支えている。」


*注「バス歌手マルッティ・タルヴェラ Martti Talvela (1935-1989)は 自宅で行われていた娘の結婚式の途中で倒れ、そのまま息をひきとった。シューベルト歌曲集「冬の旅」は、バリトン:D・フィッシャー=ディスカゥ伴奏P:ダニエル・バレンボイム(2枚箱  独グラモフォン 2707 118)のオーソドックスな名演盤も”続レコード漫談”を録音を高評価されていた。」
 
44−8

スメタナ/弦楽四重奏曲 第1番「我が生涯より」,同第2番

ターリッヒ弦楽四重奏団           

仏 CALIOPE   CAL1690

「1984年6月ウルスカンプ寺院での録音。(カリオペの)今までの録音とは方式が変わったらしく、マークの下にReal phase stereo Super analogueと書いてある。もともとワンポイント・マイクで録音していたのだから、間隔を広げたペアマイクか、あるいはマルチ・マイクになったのだろうか。曲は、お馴染みのもので、演奏は住めたなと同じチェコ生まれのターリッヒ弦楽四重奏団だから文句なし。問題は録音だが、従来のカリオペは柔らかくしなやかなサウンドに、ホコリっぽさがまつわりつくという感じがあったが、このレコードではホコリっぽさが減り艶と切れ込みと力が出てきた。それでいて漂うような雰囲気もある。音像の輪郭は鮮明ではないが、ごく自然な定位だ。」

*注「プロデューサーはジャック・ル・カルベ、録音はジョルジュ・キスロフ。ビオラのヤン・ターリッヒは名指揮者ヴァーッラフ・ターリッヒの甥。」
 
   
44−9

Bach meets the Beatles

Pf:ジョン・ベイレス(John Bayless)

米 PROARTE PAD−211

「1984年5月、フランクフルトのフェステブルク教会でのデジタル録音、DMM。ベイレスはテキサス生まれのテキサス育ち。1980年にジュリアード音楽院を卒業したから未だ20代だろう(当時)。ガーシュイン、コール・ポーター、リチャード・ロジヤースに私淑。即興演奏を得意とし、ハッピー。バースディをバッハ、モーッアルト、ベートーベン、ショパンらのスタイルで即興演奏したレコードもある。このレコードは、ビートルズの名曲14曲をバッハ目スタイルで即興演奏したもので、正直言って曲は、バッハそのものという感じ。パッと聴いて、すぐ原曲が判る人は少ないじやないか。原曲当てクイズに使うと面白い。録音は優秀。鋭すぎず、柔らか過ぎず、ホールエコーも綺麗。」


*注「”続々レコード漫談”161頁、参照。ジャケット写真はLPが手に入らないので、CDで代用。同じデザインである。」

 
 
44−10

ジェームス・ニュートン・ハワード&フレンズ

シンセサイザー:ジェームス・ニュートン・ハワード

米 SHEFFIELD LAB−23

「1983年9月16〜19日、シェフィールド・ラボでのダイレクト・カッテイング。シンセサイザー中心で、ドラムスとパーカッションが加わる。フレンズは、デビット・ペイチ、スティーヴ・ポーカロ、ジェフ・ポーカロ、ジョー・ポーカロ、ウェンディ・スミス・ハワードと、TOTOのメンバーが3人はいっている。シンセはヤマハDX−7、DX−9、GS−1使用。シンセはオーバーダビングが常識なので生演奏ダイレクト・カットのシンセは珍しい。録音は流石である。実に綺麗。綺麗すぎるくらいのシンセだ。これを聴くと、他の全てのシンセの音がいかに汚れているかよく判る。曲は単調。演奏もダイレクトを意識して、ちょっと自己抑制を効かせた感じだ。」
 
44−11

シャルパンティエ/歌劇「メデア」

S:.ジル・フェルドマン、B:ジャック・ボナ、S:アグネス・メロン、ウィリー・クリスティー指揮レザール・フロリッサン声楽,器楽アンサンブル.他  

仏 HARMONIA MUNDI HMC 1139.41 3枚組.箱入り

「1984年4月、ヴェルサイユのテアトル・デュ・シャトーでの(アナログ)録音。ギリシャ神話のコルキスの王女メデアの子殺しの悲劇に基づく5幕のオペラ。コルネイユの劇からのオペラ化である。世界初録音ということで話題になっているそうだ。同じ作者のダヴィデとヨナタンが、コルボの指揮でエラートから出ているが、比較して演奏、録音ともメデアの方が上だ。ややはい上がりで時に鋭さが出るが、全体としては伸び伸びとした熱演で、艶があり、ホールの響きも良い。オケはハープシコードが目立って明るくシャープ。ボーカルは(主役メデアの)フェルドマンが特にいい。」

*注「プロデューサーはMichel Bernard、エンジニアはJean-Francois Pontefract。1枚のレコードにまとめられたハイライト盤もあった。”続レコード漫談”214頁、参照。ギリシャ神話を題材にしたレイ・ハリーハウゼンのSFX映画の古典的名作”アルゴ探検隊”の後日談になるのが、このオペラ。この頃、1984年、になると新譜の大半はデジタル・マスターとなるが、ハルモニ・ムンディは最後までアナログ録音に固執していた。最近でも、レコードを出せという要請があるなら応える旨をプロデューサーがインタビューで発言していた。」
 
44−12

ベートーベン/弦楽四重奏曲 第13番、大フーガ

フェルメール弦楽四重奏団

独 TELDEC 6.42982

「第13番は6楽章41分28秒、もともと、この曲の終楽章だったものを独立させたものが大フーガで16分43秒。第13番の終楽章は、大フーガを外した後で書き加えられたもので11分11秒ある。隙のない理知的な演奏だが、それでいて音楽性も高い。録音は超A級、今回の室内楽の白眉。fレンジ、Dレンジとも広く、目の前で演奏しているような実在感のある音と音場。鮮明で力強いが決してノコギリの目立てにならない。息遣いも一人ずつ明確に分かるほどだから不自然さはない。弓と弦の極めてかすかな触れ合い、奥へ消えていくホールエコーといった微笑信号も余さずキャッチされている。」


*注「デジタル録音、DMM。1時間近い長時間収録レコードで、音が不鮮明にならないのは、DMMの効果だろう。ここで初めて”超A級”という献辞を使用。以後、超・優秀録音に対する決まり文句となった。」
   
44−13

シベリウス 管弦楽全集 第4巻/交響曲 第6番、ペレアスとメリザンド

ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ交響楽団

スェーデン BIS LP-237

「1983年5月6.7日、エーテボリ・コンサート・ホールでのデジタル録音、DMM。ソニーPCM−F1使用、テープは? L−500AG。マイクはノイマンKM−83 4本、SM−69 1本。ペレアスはメーテルリンクの劇に付けた音楽で11曲から成る。コンサートでは、これを9曲の組曲にまとめられたものが演奏される。BISのシベリウス全集は、PCM−100(当時の価格で150万円)を使ったものと、PCM−F1(25万円)を使ったものとがある。音の差が少ないのが面白い。むしろF1で録った方が良いくらいだ。この録音も多少のホコリっぽさはあるが、シルキータッチで細かく、高分解能で、各楽器の音も分かるが、ホール全体が鳴っている感じもよく出た好録音。」
 
   
44−14

クリスマスの天体の響き

グラスハーモニカ演奏:ブルーノ・ホフマン、テオ・ラス指揮テオ・ラス青少年合唱団、ハンス・シュリムゲン指揮 管楽アンサンブル

独 FSM 53 219EB

「1981年録音。グラスハーモニカはシュニトゥットガルト、その他はフィアーゼンでスタジオ録音。グラスハーモニカ、ソロ14曲、コーラス8曲、管楽器3曲、その他1曲の計26曲。聖夜、オー・タンネバウムなどのポピュラー曲、民謡、古謡に、フレトリウス、ハスラーらの曲を取り混ぜた三色アイスクリーム構成。グラスハーモニカは指でブランデーグラスの縁をこする繊細微妙で激しく鋭い独特のサウンドがよくとらえられており、バックに小鳥の声が明瞭に入っている。木管とコーラスはホールエコーの奥行きが深くて音場感が良いが、声は少しチリチリする。」
 
44−15

ラベル/弦楽四重奏曲ヘ長調,ドビッシー/弦楽四重奏曲ト短調

ターリッヒ弦楽四重奏団

仏 CALIOPE   CAL1893

「1984年6月ウルスカンプ寺院での録音。日付までは分からないが、月は44−6、CAL−1690と同じである。やはり、Real phase stereo Super analogue。演奏、録音とも似ているが、こっちが、ちょっぴり上か。2曲とも弦楽四重奏としてはユニークなものだが、特にラベルが面白い。第2楽章ののピチカートの力強さ、ヴィブラートの弦と弓がすれすれで触れあう微妙な感じがよくとらえられており、ジャケットに見る配置で定位する。カチッとして、力があるが、決してメタリックにならない弦の録音は貴重だ。A面のラベルの後だけに拍手が入るのが妙。この拍手の音場は左右のスピーカー中心、センターに引っ込む不自然なものだ。」
 
      
FMfan別冊1985年.春号 No.45.       
「アメリカの実力」と題して、今回の記事冒頭に以下の説明がありました。
「今月はアメリカ盤が大活躍。改めて大国の実力を見せつけられた感じである。なんといっても、宇宙開発、軍事開発、各種基礎技術はアメリカが世界一、日本はまだまだである。日本が世界一なのは実用面、と思っていたらアメリカのマイナー・レーベルが急に進出して来た。実力のある国だから、いざとなったら恐い。」
これは20年経った今でも状況は、さほど変わらないのではなかろうか。
     
45−1

セイシェル諸島.1

仏 OCORA 558 534

「初版1978年、再販1982年という形になっている。1977年1月マニ島のアンス・ボアローとラ・ディーグでの録音。セイシェル諸島2の方は、まさに原始そのものだったが、こちらは西欧文明とのクロスオーバー。フランス宮廷のコントルダンスからのバージョンで、セミプロ級の演奏者、バイオリン二人、ギター二人、バンジョー、パーカッション、トライアングル兼指揮の七人で演奏し歌う。本来はアコーディオンとマンドリンが入るのだが、島にないため、それぞれバイオリンとギターで代用。フランス風というよりはラテンミュージック風の独特の音楽、バスドラのバフッと来る風圧、弦や金属打楽器のリアルな音像は流石オコラである。」

  
45−2

パルス/パーカッションと弦のための作品:ジョン・ケージ/第三コンストラクション、ヘンリー・カウエル/7つのパラグラフ、パルス、ルース・クロウフォード・シーガー/組曲 第3番、ルウ・ハリスン/弦楽三重奏曲

ザ・ニュー・ミュージック・コンソート 

米 NEW WORLD RECORDS NW319

「制作1984年。ニューヨークRCAスタジオでの(アナログ)録音。NEW WORLDレーベルはスタジオ録音もわりと多いが、メジャー・レーベルのスタジオ録音とは全く異質の音で、むしろ教会やサロンでの録音に近い。全体に優秀録音だが、打楽器の入るA面最初のケージ/第三コンストラクションとB面のカウエル/パルスが特に良い。全域にわたってエネルギーがもの凄く、超低域の空気感から、シンバルの炸裂、拍子木、マラカス、ベルの定位と移動、三次元的に広大な音場感と、文句なしの出来。」


*注「P:Elizabeth Ostrow、E:Antony Salvatore。」

  
45−3

街頭の音楽−機械仕掛けの大道芸

英 SAYDISC SDL−340

「SAYDISCはSLの音、スピーチ、機械楽器の音楽といった特殊なジャンルだけを扱っているマイナーレーベルである。このレコードはブリストルのロイ・ミックルバラというコレクターの所蔵品の中から10台を選んでミックルバラ自身が演奏したもの。録音は1965〜1979年とある。楽器はストリート・ピアノ、シリンダーピアノ、ペーパーロールオルガンなど。45〜55鍵、ハンドルを回すとメカニズムが作動して演奏する半自動楽器、大型の車輪がついており、本来は街頭演奏用だが、展示室の演奏。かなりSNの悪いオルガンもあるが、概してピアノは切れが良くキリギリスの声のようなトレモロ・ストリートピアノが面白い。」


*注「”ディスク漫談”215頁、参照。」
   
      
45−4

ドボルザーク/ピアノ三重奏曲 第四番「ドゥムキー」

フランチェスコ・トリオ(Vn:デビット・アーベル、Vc:ボニー・ハンプトン、Pf:ナタン・シュヴァルツ)

米 WILSON AUDIOPHILE W−8416

「制作1984年、録音も同年か、残響時間0.85秒という室内楽向きのヘルマン・ホールをほ使用。マイクはショップスの無指向性マイク2本、管球アンプ。フランセスコ・トリオは1965年サンフランシスコでデビュー。アメリカでの評価は高いらしい。曲はドボルザークの傑作なので解説無用。オーディオ・マニア向けのレコードということでやや高いが、それだけのことはある。演奏、録音とも優秀。マイルドで伸びと艶のある美しいバイオリン、やはりマイルドだが芯のあるチェロ、軽やかに響く重量感のあるピアノ。音像は実物大で、さりげなく3次元的に定位。実にいい雰囲気だ。」

*注「P:Sheryl Lee Wilson。E:David A.Wilson。使用楽器は、バイオリンが1719年製グァルネリウス、チェロがアマティ(ニコロ・アマティ?)、ピアノがハンブルグ・スタンウェイといずれも逸品。このLPは当時、秋葉原の石丸電気で3280円で売られていたと記憶する。NEW WORLDとWILSON AUDIOPHILEのLPはノンサッチに代表される粗悪なアメリカ・プレスと全く異なり盤質も良くプレスも厚くて重い。おそらく独テルデッカのプレスではなかろうか。それが高値の要因かもしれない。WILSON AUDIOについてはhttp://www.wilsonaudio.com/」

   
45−5

テレマン/ブロックフレーテと通奏低音のための12のソナタ

ブロックフレーテ:マリケ・ミーセン、Cemb:グレン・ウィルソン、Vc:ウォテル・メラー.他

蘭 ETCETRA ETC−2004

「制作1984年。2枚組。テレマンはブロックフレーテのファンだったが、当時この学期の人気は下火で、フルートに取って代わられつつあった。それでもテレマンはブロックフレーテのために作曲した。12のソナタのオリジナルはバイオリンまたはフルートのために作曲されたもので、そのブロックフレーテ版の録音は此が最初という。演奏はオリジナル古楽器使用。貴族のサロン向きの繊細で典雅な演奏と録音、聴感上はfレンジ、Dレンジ、音場とも狭く音像は極めて小さくモノラル的だが、逆にそれが魅力ともいえる。」

  
45−6

ドナルド・マーティノ/幻想曲と即興曲、R・セッションズ/ピアノ・ソナタ 第2番

Pf:ランドール・ホジキンスン

米 NEW WORLD RECORDS NW−320

「製作1984年。ニューヨークのRCAスタジオでの録音。ホジキンスンは1981年の国際アメリカ音楽コンペのピアノ部門での優勝者で目下売り出し中。マーティーノ(1931〜2005)の曲は41分40秒。3つの幻想曲で、6つの即興曲でサンドイッチ。メロディアスで親しみやすい現代曲だ。セッジョンズのソナタは12分22秒。切れ目無しの3楽章、12音的な、やや不気味な感じの現代曲で、これも面白い。演奏はテクニシャンらしく、右手の指が実によく動く。デッドなスタジオでのオフマイク録音で、ピアノ自体の響き、余韻が余すところなくキャッチされている。Dレンジ大。伸び伸びと力強く鳴って厚みがあり、酔わせるような音色を持ったピアノだ。」


*注「マーティーノについては、このサイトを。http://www.dantalian.com/」

  
45−7

アストール・ピアソラとヌエヴォ・タンゴ5重奏団ライブ・イン・ウィーン

バンド・ネオン:ピアソラ、Pf:パブロ・ジーグラー、Vn:フェルナンド・スアレス・パス、G:オスカル・ロペス・ルイス

独 Messidor 115916

「製作1984年。ヌエヴォ・タンゴ(ニュータンゴ)は1955年にブエノスアイレスで誕生。あらゆる迫害をはねのけて成長してきた、とピアソラはいう。バンド・ネオンの名手だが、オペレッタから交響曲まで書く作曲家でもある。ニュータンゴは、より高度な音楽的構成を持った器楽曲で、多少クラシック的な匂いもあるもの。客席の拍手から入るが、音の鮮度、透明度、音像のリアルさ、音場感の良さは第一級。バンド・ネオンの伸び縮みが目に見えてくる。ギロも鮮やかだ。」

  
       
45−8

プーランク/歌劇「人の声」

S:キャロル・ファーリー、ホセ・セレブリエ指揮アデレード交響楽団

米 RCA RL−70114

「製作1982年。”人の声”は、オーケストラつきのモノドラマ。台本はジャン・コクトーで、棄てられた女が、よりを戻そうとして、ほかのおんなとの結婚を二日後に控えた元の恋人に電話を掛け、絶望的な努力の末、自殺するまでを一幕のドラマに凝縮させたもの。歌(台詞)は電話を掛ける女の声だけで、男の声は入らない。ファーリーは難解なベルク(歌劇「ルル」)をプッチーニででもあるかのように歌うと評された実力派。”人の声”のような曲にはぴったり。緩急自在、徐々に盛り上げていく曲はなかなか良いが、演奏、録音とも優秀。声が透明で発音が明晰で力がある。エコーはやや人工的だが綺麗。オケは出しゃばらず、厚みと力があって土台を支えている。」

*注「デジタル録音。”続レコード漫談”171頁、参照。オーストラリアのオーケストラの録音は珍しい。」

  
45−9

ギターとパーカッション

G:マーティン・クリューガー、Perc:ベルント・クレムリング

独 AUDITE FSM−63403

「1981年3月、ヴェステルハイムのカトリック教会での録音。45回転盤。クリューガーは1972年生まれ(ママ:誤植と思われる)。パーカッションとギターを学ぶ。クレムリングは1950年ヴェルツブルグの生まれ。同地の音楽学校でオーボエとパーカッションを学ぶ。このレコードではクリューガーがギターとマリンバフォン、クレムリングがヴァイブ、マリンバフォンと歴史的打楽器を担当。ロカテルリ、ノイジトラー、ミラン、バッハから、シャロン・スミス、フィンクまで8曲を演奏、計35分6秒、45回転盤と言うことで、fレンジ、Dレンジとも広いはずだが、一聴、極めて平凡な、しかもナチュラルそのものの録音。誇張のないハイファイ録音というべきか。」


45−10

アルヴォ・ペルト/タブラ・ラサ

Vn:ギドン・クレーメル、Pf:キース・ジャレット

独 ECM 1275

「ニューECMシリーズの1枚で、ジャンルとしてはクラシックに入る。オムニバスで4曲収録。バイオリンとピアノのための”フレートル”は1983年バーゼル、オーケストラ曲”ベンジャミン・ブリテン追想曲”は1984年シュトゥットガルト、12人のチェリストのための”フレートル”は1984年ベルリン、2つのバイオリンとプリペアード・ピアノのための”タブラ・ラサ”は1977年ボンでの録音。ペルトはエストニア生まれの作曲家で、風貌も作品も神秘的。このレコードで聴いてもなかなか面白い。録音はクレーメルとキースのフレートルが美しく、タブラ・ラサも繊細でシャープで情報量大、いい録音だが、奥行き感はもうひとつ。ブリテン追想は荒れる。」

45−11

ヘンデル/9つのドイツ語のアリア:「快い茂みの中に」「燃える薔薇、大地の飾り」他

S:エリザベート・シュバイザー、Vn:ヤープ・シュレーダー、Vc:ケーティ・ゴール、Cemb:J・ゾンライトナー

スイス Jecklin−Disco 589

「バーハルト・ハインリッヒ・ブロッケスの詩に基づく9曲のアリア。(演奏はバロック当時の古楽器使用。)シュバイザーの声はやや硬質だが、よく通り、透明度が高く、ホールエコーも美しい。サ行、ツア行がややきつくなるが歪み感は少ない。バロック・バイオリンも独特の鋭く冷たい音が、時にメタリックに感じられる時もあるが、声やチェンバロとのバランスはよい。チェンバロがまた実にシャープで繊細、ふつうのチェンバロより弦が細いんじゃないかと想うくらい。音像も小さく鮮明だが、床が見えないので、宙に浮く音像の感じになる。」

*注「E:Pere Casulleras。ジャケットに、技術:Tritonus Tonaufnahmenとあるが、人の名前ではないようだ。スタジオ名か? ”続々レコード漫談”150頁参照。」


45−12

・S・バッハ/無伴奏パルティータ第2番、テレマン/幻想曲第12番、エネスコ/前奏曲、イザイ/無伴奏ソナタ第2番

Vn:アーロン・ロザンド

米 AUDIOFON 2012

「製作1983年、録音は2トラ76pスピードのアナログテープデッキ(マーク・レビンソン:スチューダA80)。マーク・レビンソンML−5と組み合わせたB&K4133マイク、マーク・レビンソンML−8プリアンプという構成で、各種プロセス一切無しのシンプル録音。fレンジ、Dレンジ大。バイオリンの音は鮮烈で、時に突き刺さるほどだが、歪み感は無く、わりと.近くで聴くバイオリンの音に近いのかも。弓のこすれる音も入っているが、息遣いはあまり聴こえない。オンに過ぎずオフに過ぎずのマイクセッティング、ホールエコーはサラウンドでなく、一ヶ所から返ってくる感じ。」

*注「E:Peter McGrath、P:Julian H.Kreeger.独テルデック−プレス、150グラムの重さがあり、通常のLPより厚い。ローザンド(1927〜)は10歳よりプロ活動している、エフレム・ジンバリスト門下の名バイオリニスト。使用楽器はパガニーニが所有していた”カノン”という渾名があるグァルネリウス・デル・ジュスの名器。彼は録音に際して、音楽の流れと勢いを尊重し、技術的な不満は幾分のこる部分があった事を承知しながら、敢えて部分的なテープ編集で繕うことはしなかったという。」
  
      
FMfan別冊1985年.夏号 No.46        
46−1

ドビュッシー/「ビリティスの三つの歌」「フランスの三つの歌」「華やかな饗宴」第二集、エネスコ/歌曲集「クレマン・マロの七つの歌」、ルーセル/歌曲、作品19.20.35.38より

Ms:サラ・ウォーカー、Pf:R・ヴィグノールス

英 UNICORN−KANCHANA DKP−9035

「1983年12月7〜9日、ロスリン・ヒル・ユニタリアン教会での(デジタル)録音。良き時代のフランスの香気をふんだんに盛り込んだような選曲と演奏と 録音である。演奏の二人は定評のある名コンビだそうだが、ピアノが出しゃばらず、引っ込みすぎず、ややオフの実に綺麗な音で、ホールエコーも豊か。教会の空間が再現される。歌もサ行がややきついが自然な声、ffではかなり強烈なエネルギーが噴き出す感じでDレンジは広い。」

*注「録音場所は外セレ2巻193、ディーリアス歌曲と同じホール。」
 
  
46−2

大地と水と火と空の歌−アメリカ・インディアンの音楽 Vol.1

米 NEW WORLD RECORDS NW−246

「制作1976年。1975年8〜10月、すべて現地録音。マイクはエレクトロボイスRE−15、ベイヤーM88、ナグラWSLポータブル・オープン・デッキ、2トラ38pスピード。ドルビー使用。マスターテープ制作の際、最小限のイコライザーとリミッター使用。一切の人工的音作りを排除するのが、NEW WORLD RECORDSレーベルのポリシーだが、やむを得なかったのだろうということはスペアナを見てもわかる。本物のインディアンの歌と踊り、ちょっと聴くと、平凡な録音のようで実は凄いというタイプだ。屋外での録音なので非常にデッドだが、音場感は確かだ。サン・ファン、プエブロ、セネカ、北部アラパホ、北部平原、クリーク、ユロク、ナヴァホ、チェロキー、南部平原の九部族の部落での録音。」


*注「”続々レコード漫談”150頁参照。ここでは、気味が悪いくらいリアルでインディアンに取り囲まれたような感じになる、と評されている。」
 
 
     
46−3

エドワルト・トゥービン/交響曲第9番、エストニア舞踊組曲、トッカタータ

ネーメ・ヤルビィ指揮 エーテボリ交響楽団    

スェーデン BIS LP−264

「1984年9月4日(交響曲)、1月26日(組曲)、2月2日(トッカタータ)、エーテボリ・コンサート・ホールでのアナログ録音。トゥービン(1905〜82)はエストニア生まれで、1944年にスェーデンに亡命。第9は2楽章、22分22秒と短めの交響曲だが、ニールセン、シベリウスの匂いを感じさせる。日本人好みの曲。ライブで、客席の咳払いなども入る。録音は優秀、情報量大、高分解能だが、マルチモノ的な分解とは違って、渾然一体となった緻密なサウンドだが、聴けば聴くほど肌理が細かいというタイプ。第9のさざ波のような弦、ピアノが入り、ダイナミックなトッカータ、音場は広く深い。最後にごく自然な拍手が入る。」


*注「DMMである。録音機材は、テレフンケンMC5Cテープデッキ、マイク:ノイマンKM83を4本+同SM69(MS方式ワンポイント・ステレオマイク)、スェーデン放送ミキサー、テープはBASF SPR50LH、でドルビーを使用せず。エンジニアはMichael Bergek。編成の大きい交響曲の録音には社長のフォン・バール氏は直接録音に携わらないようだ。裏表紙にトゥービンとネーメ・ヤルビィとのツーショット写真があるが、撮影したのは、現在指揮者として大活躍しているネーメの息子のパーボ・ヤルビィであるのが興味深い。」
                                            
 
46−4

ウィルヘルム・ステンハンマル/交響曲第2番 作品34(1915)

スティグ・ヴェステルベリ指揮ストックホルムフィル

スェーデン CAPRICE CAP−1151

「製作1979年。1978年、8月28〜30日と10月5日、ストックホルム・コンツェルトハウスでの録音。ステンハンマルは1871〜1927のスェーデンの作曲家、曲は4楽章構成ののオーソドックスな交響曲でトータル46分42秒。ヴェステルベリは1918年生まれのスェーデンの指揮者で自国作品の初演では定評がある。曲は19世紀的なイメージで何の抵抗もなく受け入れられるもの。音は明るいが気分は暗いという曲想は日本人好みともいえる。明るくテンポの速い第1楽章、静かな第2楽章、軽快で古典的な第3楽章、ホルンからはいる田園的な終楽章といった構成。シャープで輝かしいが、抑えも効かせた録音で、余韻をよく拾う。定位がよく音場も広いが、暗い大ホールという感じだ。」

*注「技術:スェーデン放送。P:Hakan Elmquist、E:Olle Boalander。スティグ・ヴェステルベリStig Westerberg、スェーデンの指揮者(1918-1999)。レコードはスェーデン・プレスと思われるが、155グラムと重く盤質もよい。」
   
46−5

ラモー/歌劇「ピグマリオン」

S:F・ロット、T:ゴールドソープ、S:ヒルリスミス、ニコラス・マクギーガン指揮イギリス・バッハ音楽祭バロック管弦楽団、合唱団

仏 ERATO STU−71507

「製作1984年。1979年6月、ベルサイユ宮廷オペラ劇場での録音。ギリシャ神話に基づく一幕物の舞踊劇で、彫像の美女に恋するピグマリオン、神への祈りが届いて彫像に血が通い、目を開いた美女が”ここは何処、私は誰?”と叫ぶ。やたらに輝かしく、透明で、鮮烈で、力強いピッカピッカのオーケストラ。ボーカルもシャープで浸透力がある。輪郭鮮明な音像、深い音場。B面、1トラック後半のドラムスはうちわ太鼓の合奏のような不思議なエネルギー感がある。いい録音だが、20Hzに超低域ノイズが入る。このノイズはA面トラック2に始まってA3前半までと、B面トラック1からB2前半までの間に増減はあるがずーっと続いていた。」
 

  
46−6

ラウターバラ/コントラバス協奏曲「夕闇の天使」.メリレイネン/コントラバスと打楽器のための協奏曲

Cb:O・コソーネン.レイフ・セーゲルスタム指揮フィンランド放送交響楽団 

フィンランドFINLADIA FA−339

「ジャケットも作曲者ラウターバラの自筆である。ラウターバラ(1928〜)もメリレイネン(1930〜)もフィンランドの作曲家だ。曲はどちらも楽しめる物で、共に第二楽章のコントラバスのソロがテクニック、録音とも独特の味があってよく、第1,第3楽章はエネルギッシュに炸裂する。全てが明快で力強く、歪み感ゼロ。音像もリアルに定位し、音場は広い。メリレイネンの方が甘さはあるが量感、音場感は上回る。」

*注「ラウターバラの曲は1981年5月、フィンランディア・ホールでの初演のライブ録音、メリレイネンは1973年9月、ヘルシンキ・ラジオ・ハウスでの録音。フィンランド放送の制作。ジャケットの絵はラウターバラ作『夕闇の天使』。ラウターバラの曲は、『オルガ・クーセビツキーの思い出に捧げる』と書かれてある。オルガ・クーセビツキー(1901〜1978)は、名指揮者でコントラバス奏者としても名声のあったセルジュ・クーセビツキー(1874〜1951)の夫人である。」

   
46−7

ヘイキ・サルマント/「スオミ」:8楽章の交響詩

ヘイキ・サルマント指揮ヘルシンキフィル 

フィンランド FINLADIA  FA913

「製作1984年。1983年10.11月、ヘルシンキのMTVスタジオでの録音。演奏はヘルシンキフィルの弦13人と、管、声楽、バス、打楽器、ピアノ(サルマント自身)各1人の計18人。管はフィンランド・ジャズの第一人者ユハニハ・アールトーネンで、ピッコロから各種フルート、各種サックス、計7本を吹き分ける。サルマント(1939〜)はクラシック寄りのジャズ・ミュージシャンで、ニュー・ホープ・ジャズ・ミサで認められた。スオミ(フィンランド)は最新作で、8楽章の交響詩形式をとり、神と自然と祖国への賛美を表現。交響詩とシンフォニック・ジャズの境界線的な音楽だが、録音は優秀で鮮烈、透明、シンバルが実に美しく、ホールエコーも綺麗だ。」


*注「プロデューサーは作曲者のサルマント自身、フィンランディア・レコードのためにとある。E:Harri Sutinen。サルマントのニュー・ホープ・ジャズ・ミサは外セレ.1巻97に掲載されている。」
  
46−8

古いドイツのクリスマス・ソング

T;エルンスト・ヘフリガー、パウル・アンゲラー指揮 コンキリウム・ムジクス

スイス CLAVES D−8048

「1984年7月、ニーダーエスターライヒ、レッツのウンテルナルプ教会での(デジタル)録音。器楽演奏は指揮者も含めて8人で、それぞれ2,3種類の楽器を持ち替えて演奏。ヘフリガーがドイツに古くから伝わるクリスマスソングを歌う。全17曲、14〜16世紀あたりのイージーリスニング風の曲が多いが、プレトリウス、クリューガー、バッハらのメロディーも使われている。ヘフリガーの声がいつも(?)と違うように感じたが、全体として録音は優秀、素晴らしく透明で艶のある甘いビオラの音、哀愁を帯びたオーボエ、実にさりげなく自然なベルの音、シャープでいて厚みと豊かさがあり、ホールエコーたっぷり、時に響きすぎる感じもあるが音場感はいい。」

*注「エルンスト・ヘフリガー(1919〜)、スイスの名テノール歌手。外セレ1巻のリヒター指揮マタイ受難曲での福音史家の取り憑かれたような絶唱が印象に残る。マーラー/大地の歌を、ベイヌム、ワルター、ヨッフムといった大指揮者とともに3回もスタジオ録音している。日本にも頻繁に来日しており、タモリのクイズ番組『音楽は世界だ』にも出演したことがある。」
  
46−9

デュパルク歌曲全集

Br:ブルーノ・ラプラント、Pf:マル・デュラン

仏 CALIOPE CAL−1890

「1982年7月16−17日、モントリオールでの録音。デュパルクの歌曲(全17曲)はLP1枚分なので、全集もあると思ったら、国内版は50年も前の(*1985年当時)パンゼラのモノーラル盤(SPレコード復刻)しかなく、それも12曲である。手持ちの外盤でもファン・デル・メールのエラート盤で13曲があるだけ。このレコードは15曲56分26秒。A1は”旅への誘い”、A8は”悲しき歌”、B1は”フィデレ”と人気のある曲をポイントに配置。貴重な1枚といえるが、”旅への誘い”はかなり強引な歌い方で”団体旅行への勧誘”の感じ。30ヘルツにレベルは低いが、ノイズがあり、オンで硬質の声とオフで自然なピアノ、狭いスタジオの雰囲気は出ているが、透明感と艶はイマイチ。」

*注「ワンポインマイク録音で知られるカリオペは、フランス・ハルモニア・ムンディと比べると、概して鮮明さで劣るが、”透明感と艶はイマイチ”でも、音源が全て デジタル化された現在ではアナログ特有の良さがあり聴き応えはあると思う。」
 
 
     
46−10

エンシオ・コスタ/トールキン「指輪物語」よりミドル・アースの音楽

S:リタ・ベルイマン E・コスタ指揮室内管弦楽団 

フィンランド FINLANDIA FA909 

「製作1983年、1982年10月、ヘルシンキのフォトソニック・スタジオでの録音。コスタはポピュラー系の作曲家で、キャリアも35年という。トールキンの”指環物語”は日本にもファンが多い。言語学者で中世文学の研究家でもあるトールキンが、ゲルマン、ケルトの神話を下敷きにして作り上げた独自の世界での指環(権力の象徴)をめぐる壮大な物語。ジャケットはミドルアース(ミッドガルト)の地図。ベルイマンはトールキン創作のキニアン語で歌う。8曲の組曲で映画音楽風にわかりやすく楽しい音楽。録音もアニメ的だが、目に見えるような音場感が見事。ホールエコーたっぷりで、オケはちょっぴり風邪気味だが、厚く、力強く、艶もある。」


*注「『ディスク漫談』50頁、参照。トールキンの『指環物語』は映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作。この当時、1980年頃アニメでも『指環物語』が製作されていたが、この曲は、いずれとも関わりなく作曲されたものである。」
 
   
46−11

グランド・セレナード

Fl:クライブ・コンウェイ、G;ジセラルド・ガルシア

英 PSYCHE PSY−1

「1984年2月3.6.7日、ロンドンでの録音。コンウェイは1953年生まれの正統的な音楽家、ガルシアは香港生まれでオックスフォードで化学を専攻、独学のギターがジョン・ウィリアムスに認められ1979年にデビューという変り種。ジュリアーニ、サティ、ベートーベン(ディアベリ)、ゴセック、バッハ、ドビュッシー(子供の領分)、フォーレらの計11曲。いずれもピアノ曲、管弦楽曲などからの抜粋編曲。デッドなスタジオでのペアマイク録音といった印象で、力強く、厚く、しかし鋭さの少ない、実在感のあるサウンド、音像は自然な感じだが、音場はあるような、ないような、白いカーテンに囲まれたような空間表現である。」
 
   
46−12

スクリャービン/交響曲第4番「法悦の詩」、アミロフ/アゼルバイジヤン・ムガム

レオポルド・ストコフスキー指揮 ヒューストン交響楽団

米 EVEREST SDBR−3032

「これは多分1959年頃の録音と思う。”法悦の詩”については説明の要もないが、アミロフはアゼルバイジャン(旧ソ連)の作曲家、1922年キーロババードの生まれ(1984年没)、”朝鮮ゲリラ兵士の誓い”といった曲があるそうだ。演奏はストコフスキーらしく、スクリャービンも法悦というよりはテレビ演説みたいな賑やかさがあるが、録音は鮮烈で情報量が多く歪みは少なく音像は驚くほど小さく輪郭鮮明、しっかり定位し、音場も広いが、上下は出にくい。アミロフの曲の方が更にワイドでダイナミックだが、少し歪み感が出てくる。」

*注「35mm磁気フィルム録音。ストコフスキー(1882〜1977)、イギリスの大指揮者。録音技術に造詣が深く、録音に際して自らミキサーを弄ったと言われる。1930年頃に世界初のステレオ録音の実験に立ち会っている。1941年製作のディズニーの立体音響?!アニメ”ファンタジァ”に出演したのでも有名。長命で95歳まで現役で指揮活動していた。アミロフ:Amirov, Fikret (1922-1984)」
 
   
46−13

インターフェーセス/クセナキス:コンボイ、マーシュ(1935〜):アナフォレス、ソラル(1927〜):チェンバロとパーカッションのための作品

Cemb:エリザベート・ホイナッカ、Perc:シルビオ・グァルダ

仏エラート NUM−75104

「1983年12月、ラジオ・フランスの103スタジオでの録音。ヒューレッド・パッカードの後援で作られたレコードである。ホイナッカはワルシャワ生まれ、フランスで、ワンダ・ランドフスカに学んだハープシコード奏者で現代曲を得意としている。エラート盤のグァルダの打楽器は定評あり輪郭鮮明だが柔らかく厚く、しかも芯のある恐ろしく力強い音、音場も深みがあり、朗々と響き渡る。ただ、全体として曲も演奏も録音も『良い子』の感じ。」

   
       
   
47−1

チャールズ・アイブス/ピアノ曲集:練習曲2.9.20〜22、ワルツ=ロンド、3ページ・ソナタ、2台のピアノのための3つの4分音作品

Pf:ヘルベルト・ヘンク、デボラ・リチャーズ

独 WERGO WER−60112

「1984年7月、バイエルン放送局第3スタジオでの録音。ヘンクは1978年に、アイブスのコンコード・ソナタも録音しており(外セレ.1巻55)、6年ぶりのアイブスだが、ちょっと表情が違って、筋肉がついてきたような弾き方。アイブスの曲はどこにでもあり、誰かに似ているようでいて、よく聴くと、誰にも似ていない独自の世界を持っている。録音はやや硬調で高音がジンジンするが切れが良く、力のあるサウンド明快、しかし、響き(ハーモニックス)や余韻が美しいピアノだ。音場はほとんど感じられない。」
 
47−2

コルヌミューズ(バグパイプ)

バグパイプ:パトリック・モラード、エレキVn:ジャッキー・モラード、GとエレキG:ダン・アル・ブラス

仏 RS RS−187

「製作1983年。バグパイプも古い楽器だが、まだ各地で現役で活躍している。袋の中に溜めた空気で笛を切れ目なしに演奏することが可能。旋律管の他に持続低音用のドローン管もついており、これが独特の音色を作る。曲は古いメロディーからのアレンジが9曲。17世紀の人、マック・クリモンが名剣と交換したというピーオブラアハト(バグパイプ用の曲)というワケのわからぬものが1曲。ヴィエル・ア・ルー(仏RSのハーディ・ガーディーのレコード)とは違って、鮮烈、透明、音像も確かな優秀録音である。コルヌミューズとエレキ・バイオリン(PA付きのバイオリン?)が、よく合うのも面白い。」
 
  
47−3

マンドリンの芸術;ストラビンスキー/パストラル、ラフマニノフ/ヴォカリーズ、ハチャトリアン/レズギンカ、プロコフィエフ/朝のセレナード.他 全12曲

マンドリン:エマニエル・シェインクマン、G:ヴィンセンツォ・マカルソ、Perc:K・スダリコヴァ

米 NONESUCH 78019

「1982年6月、ロスアンゼルスでの録音。シェインクマンはレニングラード生まれ、9歳の時からドラム(三弦の民族楽器)で練習を始め、バラライカ、マンドリンも研究、超絶テクニックで知られる人。レニングラード・フィルとも共演している。マカルソはアメリカのジャズ系のギタリスト。ほかにクセニア・ズダリコーヴァの打楽器が加わる。演奏は見事。録音も優秀で、音はシャープに切れ込んでナチュラル、歪み感ゼロ。音像、音場もリアルで、気配の感じられる録音だ。A面3曲目の最後で超低域がピンと跳ね上がる。」


*注「P:Shirley Walker、E:Roger Mayer。編曲もシェインクマン自身。シェインクマン氏は、このレコード録音の製作にあたって価値ある助言を頂いた Ara Guzelimianに感謝の意を表すとある。彼はカーネギーホールのスタッフのようだ。」
47−4

ラクシミ・シャンカール/季節と時間

仏 OCCORA 558615/16

「製作1985年。ラジオ・フランス107スタジオでの録音。ラクシミ・シャンカールはインドの代表的なシンガーで、演奏会のほか、映画音楽でも活躍。『ガンジー』(*)でも歌っている。伴奏はザタナント・ナイムパリのタブラ(太鼓)とジョアンナ・フォレスタのタンブール(撥弦楽器)。2枚組でトータル88分41秒。インド音楽は音階、メロディー、リズムを数学的に規定するラーガというものが何十とあり、曲の内容や用途により、カヤール、タラーナ、トウムリ、バジャンといった形式があり、我々が聴くとみんな同じに聴こえるが、大きな違いがあるのだそうだ。録音は鮮明、透明で実に生々しい。我慢して、しばらく聴いているとインド的な気分になれる?」


*注「ここにある映画『ガンジー』は当時、話題になっていたリチャード・アッテンボロー監督、1982年の作品と想われるが、この映画の音楽はラヴィ・シャンカールで長岡氏の勘違いかもしれない。」
 

47−5

ジョン・サーマン/ウィズホールデイング・パターンズ

独 ECM ECM−1295

「1984年12月、オスロのレインボー・スタジオでの録音。サーマンは1944年イギリス生まれ。クラシック、ジャズ、ロックとジャンルを決めつけられないタイプの、要するに音楽家である。強いて分類すれば、クラシックと民族音楽の要素を持ったジャズということになろう。このレコードでは、一人でバリトン・サックス、ソプラノ・サックス、バス・クラリネット、ピアノ、シンセサイザーを演奏。重ね録音が行われている。それでも優秀録音盤である。曲については省略するが、ECM好みの高踏派ジャズ。サックス、バスクラが厚く、力強く、伸び伸びとなり、シンセの低音も酔わせる。独特の広がりと前後感、移動感を見せる音場もいい。」
 
  
47−6

ビゼー/ピアノ独奏曲全集:奇想曲第1番嬰ハ短調、奇想曲第2番嬰ハ長調、演奏会用大ワルツ、夜想曲第1番ヘ長調、3つの音楽スケッチ、幻想的な狩り、ラインの歌、演奏会用半音階的変奏曲、夜想曲第2番ニ長調 、無言歌ハ長調、家族のマガジン

Pf:パル・セトラック

仏 Le Chant du Monde  LDX−78 776/77

「1984年6月28、29日、7月2.3日、パリ、サル・アドルヤでの録音。2枚組(箱入り)でトータル99分42秒。計17曲、組曲の分を細分すると24曲になる。ほとんどが世界初録音のはずだ。曲はポピュラー調で、ごく親しみやすいもの。初めて聴く曲なのに、既知感があるというタイプだ。演奏も良いが、録音も美しい。キンコロ、ババーン、グォーンとよく響いて濁りがなく、ホールエコーは少な目だが、自然で美しい。洒落た応接間の高級BGM。」

 
*注「エンジニアはジョルジュ・キスロフ、彼はカリオペの録音も担当しており、同様にワンポイント・マイク録音ではないだろうか。」
 
47−7

ジヨーン・ラ・バーバラの芸術/太陽風(ソプラノと11人の奏者)、十月の音楽/流星雨とET(ソプラノ)、ヴリシンゲン港(ソプラノと七人の奏者)、モートン・サボトニック:野獣の最後の夢(両生類の二重生活の第二部の後半、2つのバイオリンとシンセサイザー)

S:J・ラ・バーバラ、ステフェン・L.モスコ指揮カリフォルニアE.A.Rのメンバー

米 NONESUCH 78029

「ラ・バーバラは1947年フィラデルフィア生まれ。作曲家、演奏家、メディア・アーチスト、ライター、声(ソプラノ)の芸術家とマルチ人間。録音は優秀。圧巻はラ・バーバラ、特にA面で、溜め息、ささやきから、絶叫、悲鳴まで、あらゆる発声法に、ワーブルトーンのような声、ひとり二重唱、三重唱、呼気、吸気とも声を出すサーキュラシンキセングと高度のテクニックを駆使して聴く者を圧倒する。歌手ではなく声の芸術家だ。」

*注「P:J・ラ・バーバラとM・サボトニック、E:Roger Mayer。『10月の雨』が、1980年9−10月、パリでの録音。他は1984年1月27日と2月10日、ロサンゼルスのキャピタル・レコード(スタジオ?)での録音。ノンサッチの現代曲の録音にしては珍しく、スタッフにテレサ・スターンの名が見えない。」
 
47−8

マルコ・ウッチェルリーニ/協奏交響曲:バロック・バイオリンの音楽

Vn:ヤープ・シュレーダー、バーゼル・スコラ・カントリウム

独 HARMONIA MUNDI 16 9534 1

「1983年9月19〜21日の録音。ウッチェルリーニは1610〜80年のイタリアの作曲家、バイオリニスト。このレコードでも協奏交響曲(といっても小品)3曲のほか、バイオリン中心の小品7曲が収められている。演奏は、バイオリン4、チェロ、ヴィオローネ(コントラバス相当)、ギター、テオルブ、チェンバロ、オルガン、各1。指揮はバイオリンのシュレーダー。曲も録音もA面とB面で少し違う。概してA面は曲が単調だが、せわしなく、音は鋭く刺激的で、バイオリンとチェンバロがメタリックに響く。B面の方は曲も面白いし、録音も歪み感が少なく、響きも美しい。B面はオルガンが入るので重心が低くなり、落ち着きが出てくる。全体としては独ハルモニア・ムンディらしい明るく鮮明な録音だ。」

*注「アナログ録音、DMM。録音場所はバーゼルの音楽アカデミー、大ホール。P:Meinrad Schweizer、E:Pere Casulleras。演奏メンバーにギタリストのホプキンソン・スミスの名がある。ヤープ・シュレーダーの使用しているバイオリンは Willem van der Syde,Amsterdam ca.1690年製。」
 
47−9

ペイジ・ブルック:ページ・ワン、ブックU、パラグラフ21.5/ ドビュッシー:フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ、シランクス、メシアン/黒ツグミ

Fl:ペイジ・ブルック、Pf:D・レヴィン、Hp:G・アゴスティニ、Vla:今井信子

カナダ Mirror Image Pressingo MIP−1005

「製作1983年。ブルックのフルートが主役。ヘージ・ワンはA面、ブックUはB面のことか。パラグラフ21.5はフルートがプラチナ(パラグラフ21.5)製であることを示しているのか。オーディオファイル向き、ハーフ(スピード)カッティングということで力んでいる感じだ。演奏、録音とも意外と良い。SN比はイマイチだが、芯のあるしっかりしたナチュラルサウンド。音も音像も鮮明でリアル。音場も広い。ハープは少しメタリックだが、ピアノはいい。」 
 
  
47−10

タンゴ−カフェ・ヴィクトリア

バンド・ネオン:オスカー・グイデイ、イ・サロニスティ

独 HARMONIA MUNDI 16 95311

「イ・サロニスティはバイオリン−二人、コントラバス、チェロ、ピアノの5人のクラシック演奏者のグループで、サロン音楽を演奏する。グイデイのバンドネオンが加わってのタンゴのレコードは、これが2枚目だ。前回はノスタルヒコ(外セレ.2巻144)だったが、今回はカフェ・ヴィクトリアというサブタイトルがついている。A面24分21秒、B面23分31秒。酔っぱらい、思い出、コラール、ウーノ、パヤドーラ、など11曲。ノスタルヒコ同様、高精度なテクニックで進行するドイツ的なタンゴ。鮮烈、透明、エコーはやや人工的だが、清掃消毒された白亜の病院といった音場が面白い。B面5曲目のピアソラのコントラバヒシモはクラシックとのフュージョンでコントラバスの鮮烈なサウンドが小気味よい。」
 
  
47−11

スペインの旋律/ファリア:七つのスペイン民謡、ロルカ:スペイン古謡集.ロドリーゴ:3つのスペイン歌曲、2つのクリスマスの歌

S:イザベル・ガルシンサス、G:アルベルト・ポンセ 

仏ARION ARN−38757

「1983年3月の録音。ガルシンサスはマドリードの生まれ。五カ国語で歌える歌手。ポンセは1935年マドリード生まれ。父からギターの手ほどきを受け、バルセロナ市立音楽学校、リスボン音大、シエナ大学と研鑽を積んだベテラン。ガルシア=ロルカは詩人として有名だが、ピアニスト、作曲家でもあった。いかにもスペイン風の、愁いを帯びた、けだるさと力強さが交錯するような曲。ギターも悪くないが、ガルシンサスの歌が抜群だ。ソプラノというより、メゾ・ソプラノかアルトのような厚みのある美しい声で、まろやかで生々しい。」


*注「P:Ariane Segal.E:Claude Morel  ジャケットの絵はゴヤ作。ロルカ:フェデリコ・ガルシア・ロルカ(1898〜1936)、詩人としてが一番有名、スペイン内戦のおり処刑された。原文で長岡氏は、ガルシア=ロルカと表記されていたが、一般的にはロルカであろう。」
 

 
   
FMfan別冊1985年.冬号 No.48  
48−1

フルートとギターのための演奏会用音楽

Fl:K.P.リーマー、G:C・キルシュバウム

独 sound star ton SST−0175

「1984年10月、デュッセルドルフのマルコ教会での録音。リーマーは1944年の生まれ。以下経歴があり、最後に住所が書いてあるのは何を考えているのか。キルシュバウムは1956年の生まれ。A面5曲24分15秒、B面11曲22分19秒。ヘンデル、マレイ、ヴィラ=ロボスのほか、あまり知られていない作曲家の作品、リーマー、キルシュバウムの自作も1曲ずつ。A面3曲目はグリーンスリーブスだが、ちょっとメロディーがちがう。面白いのはB面10曲目のゴセックのタンブラーン。ギターが胴を叩いてタンブラーン(太鼓)の音を出す。概して音像は拡散気味で輪郭はハッキリしないが、むしろ自然。ホールエコーも深くゆらめく感じが良い。」
 
48−2

ヘンリー・ローズ/川のほとりに座って−聖歌、エアとダイアローグ

コンソート・オブ・ミュージック

英 HYPERION A−66135

「1984年2月27〜9日、デヴォンのフォード・アベイ(大修道院)での録音。コンソート・オブ・ミュージックは、ソプラノのエンマ・カークビーらのボーカルと、バイオリン2人、オルガン、リュートの総計十人。指揮はリュートのアンソニー・ルーリー。ローズは1596〜1662年のイギリスの作曲家。レコードになったのは、これが初めてだろう。A面7曲27分20秒、B面十曲30分50秒。タイトルの『川のほとりに...』は最後の曲である。エレガントな親しみやすい曲。演奏、録音とも優秀だが、特にカークビーの声が抜群。うるしの輝きのような艶があり、ホールエコーたっぷりで、ホールの広さがよく出る。B(バス?)もいい。エレガントだが鮮明、細身だが脂っこさがある独特の録音は高く買える。」
 
48−3

ルトスワフスキー/弦楽四重奏曲、ペンデレツキ/弦楽四重奏曲第2番,ブルスドビッチ/弦楽四重奏曲 第1番”人生”

ヴァルソビア弦楽四重奏団

ベルギー PAVANE ADW−7149

「1983年10月、ワルシャワでの録音。ヴァルソビア弦楽四重奏団は、1976年、ワルシャワで結成された当時は平均年齢30歳の若手弦楽四重奏団だったが、ヨーロッパ各地でコンサートを開き、好評を博す。ポーランドの現代曲には特に強い。A面ルトスワフスキー23分23秒、B面ペンデレツキとブルスドビッチ26分7秒。3曲とも鋭角的でダイナミックな、しかし、意外とメロディーやハーモニーの美しさも持つ優れた現代曲で、演奏はまさにヴィルトゥオーゾ、超絶技巧で痛快。録音が曲と演奏によくマッチして、恐るべき切れ込みの鋭さを持ちながら、透明で、歪み感ゼロ、情報量大、ホールエコーも美しく、音像、音場とも三次元的にリアルな名盤だ。」


*注「P:Lech Dudzik、E:Barbara Okon、ペンデレツキの曲は7分半と短い。ジャケット写真中央の髭はペンデレツキで左の女性がブルスドビッチ。ブルスドビッチ/弦楽四重奏曲  第1番はブルスドビッチの故国ポーランドの大作曲家シマノフスキーへのオマージュでありヴァルソビア弦楽四重奏団に献呈され彼らが初演した。このレコードはフランスのDIAPASONとイタリア、ベニスの1985年度金獅子賞を得ている名盤である。」
 
48−4

パガニーニ/バイオリンとギターの音楽:バイオリンとギターのためのソナタ 第1.3番、チェネント・デイ・ソナタ(メドレー曲)2、4番ほか、全6曲

Vn:キム・シエグレン、G:ラルス・ハンニバル

デンマーク DANACORD DACO−222

「1983年10月の録音。プレスはスイスである。シエグレンは1977年にデビューしたデンマーク生まれのバイオリニスト。ハンニバルもデンマーク生まれのギタリストだが、佐藤豊彦についてリュートも学んだという人。二人でコンビを組んでの演奏活動も多い。A面18分47秒、B面17分27秒。親しみやすい曲、安心感のある演奏。音像はセンター付近に小さく定位、上下感は出にくいが、楽器の性質からして当然ともいえる。ホールエコーは少な目で、音場感はまあまあだが、透明で、歪み感の少ない美しいサウンドだ。」
 
   
48−5

モーッアルト/ピアノ三重奏曲 第3.5番

ロンドン・フォルテピアノトリオ

英 HYPERION A−66148

「1984年6月25、6日の録音。A面30分8秒、B面20分50秒。演奏者と使用楽器はリンダ・ニコルスン(1797年ウィーン、ヨハン・シャンツ製のフォルテピアノ)、モニカ・ハゲット(ストラディヴァリのコピーで1984年ローランド・ロス製のバイオリン)、ティモシー・メイスン(1690年イタリア、ジョバンニ・グランチコ製のチェロ)・コロコロとかわいらしい音で鳴るフォルテピアノがいい。バイオリンは少し風邪気味の音で息遣いも入る。チェロは少し甘いが厚みがあり、ゆったりと鳴る。音像は小さいが、音場はセンター集中型、エコーもセンターに消える。」
 
48−6

ギルバート&サリバン/歌劇「ミカド」

アルミン・ブルスナー指揮チューリッヒ劇場団員

スイス JECKLIN SZENE SCHWEIZ−1010

「製作1984年。本来は英語のオペラだが、ドイツ語のミュージカルに衣替えした風変わりなレコードである。オケは12人(中山コウイチという人もいる)から成る臨時の小編成のもので、コーラスも12人の臨時編成、解説一人を含む10人の独唱者はいずれも俳優である。宮さん宮さんのメロディの序曲で入り、ゲルト・ハインツ(ジャケットの人物)の状況説明に続いて歌になる。本来のミカドとはずいぶんイメージが違い、ワイルの三文オペラの感じに近い。レンジも狭いし、カッティングレベルも低いが、意外と綺麗な音で、ナレーションも含めて、声が綺麗なのが印象的。オケも軽快で綺麗だが、良い意味での軽薄短小オペラの代表といった演奏という感じ。」

*注「オリジナルの『ミカド』については、『ディスク漫談』192頁、参照。ここではマルコム・サージェント指揮の歴史的名演:英EMI SXDW 3019、のレコードを高く評価されている。」
 
    
48−7

ヘンデル/愛の決闘:「世俗カンタータ」より

S:パトリツィア・クヴェルラ、G・フィッシャー、A:C・デンリー、デニス・ダーロウ指揮ロンドン・ヘンデル管弦楽団

英 HYPERION A−66155

「1984年12月3〜5日、(ロンドン)ノース・フィンチリーの聖バルナバ教会での録音。A面33分46秒、B面36分27秒の超LPである。ヘンデルの『世俗カンタータ』から3曲、『おお、なんと輝かしく、美しく』、『クローリ、私の美しいクローリ』、『うるわしきアマリリ』が入っている。ヘンデルらしい軽さのある曲。超LPのわりにはSN比もよく、音は繊細、透明で、エコーも豊か。特にソロ・ボーカルの声とエコーは美しい。ソプラノもいいが、カウンターテナー風のデンリーのアルトもいい。A面のラスト、トランペットが鳴り響くと音場が広がる感じもいい。」

*注「P:Martin Compton、E:Anthony Howell。HYPERIONのLPは全てDMM、そのせいか長時間収録のものが多い。後に出るCD発売を念頭に置いての構成かもしれない。ジャケットの絵は、Nicolas Poussin(159〜1665)作『ビーナスとマーキュリー』」
 

48−8

マンフレート・ニーハウス/声楽曲集:

ケルン・コレギウム・ヴォーカレ、ロンドン・ヴォイセズ 他

独 AULOS AUL−53579

「ニーハウスは、1933年ケルンの生まれ。作曲家。ケルン放送の音楽監督、教会合唱団の指揮者。A面が、ヴエニ・サンクテ・スビリトゥス、地図U、磨く(産業映画用音楽)、注釈。B面はシスター・メヒティルト(13世紀の神秘詩人)の詩による四つのコラール、といってもたった2分37秒の小曲と、ソロ・バイオリンのためのソナタ、といっても四人のボーカルグループ付き。曲はゲテモノ好きの筆者から見れば、特に前衛的とはいえず、わりと面白く楽しいもの。録音はCDはだしのエネルギッシュなもの。A面のボーカルは意表をつく感じがあるが、やたらサ行がきつく、百万馬力のロボットが歌っている感じ。B面はぐんと柔らかくなり、特にヴィオラは絶品だ。」
 
48−9

グリーグ/交響曲ハ短調

カルステン・アンデルセン指揮ベルゲン交響楽団

ノルウェー NKF 30047

「1981年3月23〜5日。ベルゲンのグリーグホールでの録音。グリーグの交響曲は1曲しかないし、その1曲も二十歳頃の習作であって作品番号はない。グリーグ自身があまり気に入ってなかった作品らしい。同じ原盤の国内盤がロンドンから出ている。曲はどこかで聴いたことのあるような、ごくわかりやすく親しみやすいもの。録音は明るく繊細で、情報量大、厚みもあり、音場は広く、密度が高い。個々の楽器が分離して見えるという録音ではなく、自然に近い音色と音場を再生する。オーソドックスな優秀録音だ。」
 
*注
「イギリスのデッカからも同じ演奏のLPがでている。英DECCA SXDL 7537(写真)。こちらにはデジタル録音の表記があり、グリーグの交響曲の世界初録音と大書されている。ノルウェー NKFとの共同製作とは、どこにも記されておらず、デッカの原盤のようだ。英DECCAのLPの音は各パートが鮮明に分離する高分解能サウンド。」
 
48−10

ザ・グローブ・ユニティ・オーケストラ:インター・ギヤラクティック・ブロウ

独 JAPO 60039

「1982年、パリ、ラジオ・フランス105スタジオでの録音。レーベルはJAPOだが、実質はECMであろう。世界一致オーケストラオーケストラとでもいうか、メンバーは12人でねドイツ人が中心。日本人、アメリカ人も入っている。管が9人に、ピアノ、Bs、ドラムス。曲は銀河間吹奏とでもいうか、A面はクエーサー、フェーズA、フェーズBで計22分19秒。B面は蠍座の月、18分41秒。曲の内容としてはフリージャズの一種であろう。ジャケットにもオールフリー・インプロビゼーション(*全員自由に即興?)とあるが、勝手に吹きまくっているようで、どこかで統一がとれている。録音は鮮烈、透明、音像は小さく、ひとりひとりの動きがわかる感じで、音場感もいい。」
 
48−11

ハープとフルートの音楽:J.S・バッハ/バイオリン・ソナタ(編曲)BWV1020,フルート・ソナタ BWV1031,フォーレ/ペレアスとメリザンドよりシシリエンヌ.バイオリンとピアノのための子守歌、ドビュッシー/夢想、ラベル/ハバネラ

Fl:マクサンス・ラリュー,Hp:スザンヌ・ミルドニアン    

ベルギー PAVANE ADW−7170

「1984年11月2.3日、ペレンベルグのサン・ピエトロ教会での録音。いずれも編曲ものだが、おなじみの曲であり、親しみやすいもの。演奏、録音ともエレガントでマイルド。ハープはやや左に小さく定位、フルートはやや右に大きめに定位、輪郭はそうハッキリしないが、存在感があり、自然な音色、自然なホールエコー、綺麗なヴェールを通してみるパステル画のように心和む一枚である。」


*注「E:ジャン-マリー・アラール。演奏者のラリュー、ミルドニアンは美男美女の組み合わせである。」
 
48−12

バロック・ギター:フランソワ・キャンピオンの新発見のギター曲

G:ミシェル・アモリック

仏 ARION ARN−38750

「1983年7月の録音。ギターは1690年ヴォボーム製のコピーで、1978年リュトフィ・ベッカー製。アモリックは1949年パリ生まれ。パリ・コンセルバトワール(パリ音楽院)、マドリードなどで学び、1974年から2e2mアンサンブル、1976年からラジオ・フランス・フィルのメンバーとして活躍。キャンピオンは1687〜1748年のフランスの作曲家だが、トマス・キャンピオン(英1567〜1620)の子孫ではないかと、確かめにイギリスに渡ったりしている。 A面22分55秒、B面23分52秒、計8曲。曲はBGM的な親しみやすいもの。SN比まあまあだが、音像は小さくセンターに定位、かなりシャープだが、車の音や鳥の声も入り、音場感も良い。」
 

48−13

カスティヨン/ピアノ四重奏曲 作品7.ピアノ三重奏曲 作品4

エリーゼ四重奏団

仏 ARION ARN−38752

「1983年2月録音。カスティヨンは1838〜1873のフランスの作曲家、貴族の家に生まれ、軍人上がりで作品の数は少ない。エリーゼ四重奏団はパリ・コンセルバトワールの女史卒業生4人で結成され、バイオリン、ビオラ、チェロ、ピアノという編成。レパートリーは広く、古典、ロマン派から、現代曲、埋もれた作品まで手がける。この2曲も埋もれていた作品。A面の四重奏曲は、これといって特徴のない、平凡だが、噛みしめると味の出てくる(と断定できないが)曲。B面の3重奏曲(ビオラが抜ける)の方がシンプルでわかりやすいる音像は自然で定位もよいが、ややドライな音色、音場もデッドである。バイオリンが少しきついが、ピアノは響きがよい。」
 
    
48−14

スボトニック/大気中への上昇、翼の羽ばたき

カラーツ20世紀プレイヤーズ

米 NONESUCH 78020−1

「”大気中への上昇”は1982年4月16日、”大気中への羽ばたき”は1983年4月27日、どちらもスタジオ録音。羽ばたきの演奏はジュリアード弦楽四重奏団。スボトニックは1933年のアメリカ生まれで、ブラック・シンセサイザーの開発者のひとり。最近は、アコースティック・サウンドをコンピューター処理するというゴーストエレクトロニクスという手法を用いた作品が多い。表記の二曲は大作『両生類の二重生活』の第1部と第3部に含まれるもの。同時紹介の78029のほか、既に、やはり第1部に含まれる『アホロートル』と第2部のの『野獣』が発売されている(NONESUCH 78020−1)。演奏、録音とも優秀。A面の重低音、B面の鮮烈な立ち上がりが聴き所。音場は人工的だが面白い。」
 
 
   
48−15

ゲンズバッヒャー/四重奏曲、グラニーニャ/六重奏曲、F・X・モーッアルト/六重奏曲

コンソルティウム・クラシウム

独 Schwann VMS−1050

「1984年9月18〜20日、ベルリン、イエス・キリスト教会での録音。A面のゲンズバッヒャーはクラリネット、ビオラ、チェロ、ギターによる演奏。B面1曲目のグラニーニャはフルート、クラリネット、ビオラ、チェロ、ギター二人の六重奏曲、B面2曲目はアマデウスの末子、F・X・モーッアルトの六重奏曲(フルート、クラリネット、ホルン、ビオラ、チェロ、ギター)が入っている。18〜9世紀の変わった組み合わせの室内楽3曲、トータル46分。当時としてもポップス的なものを狙ったのであろう。とっつきやすい曲で演奏もよく、安心して聴ける。同じドイツの曲でも独ハルモニアムンディとシュヴァンでは音作りが対照的。このレコードもオフで、鋭くなく、柔らかすぎず、薄いカーテン1枚隔てたような音場感がいい。B面1曲目の最後に弦が切れたようなカチンという音が入るのは何だろう。」
 
 
   
       
  
49−1

リフレクションズ

Fl:ジム・ウォーカー、Pf:マイク・ガーソン

米 Reference Recording RR−18

「1984年9月、サンタアナの高校のオーディトリアムでの録音。45回転盤。ジムは1984年8月までロサンゼルスフィルの主席フルート奏者だった。クラシックのキャリアが長いのだが、ジャズに惹かれて1981年にフリー・フライトというカルテットを結成した。ガーソンもクラシックとジャズの両刀使い、ジャズはハンコック、エヴァンス、サド・ジョーンズ、エルヴィン・ジョーンズなど大物に師事。1983年5月からフリー・フライトに参加。12曲すべてガーソンの作曲。クラシック風のジャズか、ジャズ風のクラシックか。曲も演奏も録音も淡々として、巧まざるナチュラル・サウンド。鳴っているのを忘れてしまうほどの自然さは凄い。SN比はイマイチ。」

*注「プロデューサーに、Tamblyn Hendersonとともに演奏者二人の名がある。E:キース・O・ジョンソン。このレーベルの録音にはA PRFOF JOHNSON RECORDINGという表示がある。ジョンソンの手製のアンプ+アナログデッキでの録音。」
 
49−2

ス・ワンダフル・ジャズ(S`Wonderful Jazz)

エド・グラハム・トリオ/Ds:エド・グラハム、Pf;J・ジャービス、Cb:G・デジュリオ

米 Wilson Audio W−8418

「制作1984年。ス・ワンダフル、チェロキー、バリハイなど古典7曲。なんで今さらという感じだが、問題は録音だ。ウィルソンはこれまでのジャズ録音とは正反対の画期的な録音と豪語する。カリフォルニア、パーム・デザートのマリオズ・レストランは23m×13m、高さ6mの理想的な広さ。ショップスの無指向性マイクを2本、間隔を開いてセッティング。モンスターケーブルで管球式プリに接続、特注.1/2インチ2トラ76p/sのアナログ・オープンデッキ直結での録音。リスナーによっては遠すぎると感じるかもしれないがとある通りの音だが、確かに音場感は抜群、希有のジャズ録音といえる。B面始め右チャンネルにノイズが入る。」


*注「録音はDavid A.Wilson、このレーベルの創始者のようだ。高品質のヴァージン・ビニールによるプレスで厚く、180グラムの重さ。」
 
49−3

バルトーク/弦楽のためのディヴェルティメント、ブリテン/フランク・ブリッジの主題による変奏曲

イルジ・マクシミゥク指揮ポーランド室内管弦楽団

独 MD+G G−1180

「制作1985年。どちらの曲も傑作とされているが、曲としてはブリテンの方が楽しめる。ブリテンの恩師ブリッジ(1879〜1942)の作品からテーマを選んで、提示、9つの変奏、フーガとフィナーレという構成。演奏は明快でリズム感が良く、録音は鮮明。A1(バルトーク/弦楽のためのディヴェルティメントの1楽章ということか?)はややデジタル臭さはあるが、透明、繊細で力強く、高分解能。甘さや曖昧さが全くないので爽快だが少し疲れる。A2はスローで弱奏の部分だが、静かでいて高分解能、雰囲気がいい。A3は力強く響き渡り、ホールエコーが雲のように湧き上がる。B1は変化に富んでいて面白く、音場はこちらの方が広く深い。弦のピチカートも小気味よい。」

*注「デジタル録音。バルトーク/弦楽のためのディヴェルティメントは、もともと聴き疲れのするような研ぎ澄まれた繊細さのある曲。」
 
  
49−4

ザ・ニューヨーク・ハープ・アンサンブル

指揮とHp:アリステッド・フォン・ヴュルツラー、

ハンガリー HUNGAROTON SLPX 12726

「制作1985年。アンサンブルはハープ奏者、アリステッド・フォン・ヴュルツラーの弟子四人で結成されており、このレコードでもヴュルツラーが指揮をしている。演奏はバーバラ・ニエフスカ、エバ・ヤスラー、ダグマール・プラティロバ、モニカ・ヤレッカの四人。パッヘルベルのカノン、アルビノーニのアダージョを始め、バッハ、スカルラッティ、モーッアルト、ベートーベンらのポピュラーなメロディからのアレンジ。演奏は優雅で王朝風、録音はA面は概して極端なハイ落ちだが、B面は普通、といってもスペアナに見るようにおとなしいもの。四人のうち、二人は左右のSPに定位するが、後の二人はその中間で影が薄くなる。不思議な録音だが面白い。」


*注「P:Michel Naida、E:Stan Tonkel。アリステッド・フォン・ヴュルツラーはハンガリー出身、コダーイに師事していた。」
 
49−5

S・バッハ/ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのたのソナタ

ヴィオラ・ダ・ガンバ:モニカ・シュヴァンベルガー、Cemb:ゴットフリート・バッハ

独 RBM−3082

「制作1985年。ソナタ第1番がAB両面にまたがる形で全3曲を収録。ゴットフリートはフライブルク・バロック・ゾリステンの一員として日本へも来たことがあるそうだ。バッハ一族と関係があるのかどうかは判らない。演奏はやや教科書的だが安心感はある。録音はスタジオなのか、かなりデッドで、マイクもわりと近い。ガンバは研ぎ澄まされた輝くような音、とおもったら、1983年製の新品である。チェンバロも1978年製で切れの良い明るい音、全体に輪郭鮮明で鮮烈、力強く切れ込んで緊張感大、但し、音像はわりとセンターにまとまり、気が散らずに聴ける。」
 
49−6

ヴェーベルン/交響曲 作品21.四重奏曲(Quartett fur Violine, Klarinette, Altsaxhorn und Klavier*)作品22、ブルーノ・マデルナ/セレナード第2番、ヴァーレーズ/オフランド、ストラビンスキー/協奏的舞曲、

ジェルジ・セルメチ指揮ミシュワルコフ・ニューミュージック・ワークショップ

ハンガリー HUNGARTON SLPX−12664

「制作1985年。ミシュワルコフはハンガリー北東部の都市。ワークショップ(新音楽工房)は1976年に作られてシーズン制で活動している。指揮は作曲家ジェルジ・セルメチ。20世紀音楽が中心。A面27分10秒、B面29分26秒。全体にハイ上がりの感じはあるが、繊細感は抜群、音場感も良い。A面のヴェーベルンの曲は典型的な十二音で、音がポツン、ポツンと出てくる。A面のマデルナは曲も良く、録音は繊細で、遠くで鳴るベルの奥行き感もいい。ヴァーレーズのオフランドもやや細身だが優秀録音。」

*注「ブルーノ・マデルナ(Bruno Maderna, 1920年4月21日 - 1973年11月13日)はイタリアの現代音楽の作曲家・指揮者。以前、アルゼンチン在住のマデルナ姓の方からメールが来たので、有名なブルーノ・マデルナの御親戚ですか?と訊ねたら、遠い親戚である、私は17世紀にイタリアから移民してきたマデルナ家の子孫、ごく近い親戚にタンゴ作曲家のマデルナもいると返答があり驚いたことがあります。」
 
   
49−7

ルドルフ・ケルターボルン/汝の鎌で打て,三つの断章、ヴィジョン・ソノール

バーゼル・スコラ・カントルム          

スイス Jecklin−Disco 599

「制作1985年。ケルターボルンは1931年、スイス、バーゼル生まれの作曲家。ジャケットは文字がぎっしり並んでいるが、これが曲のタイトルと演奏者の名前であり、演奏者の方はジャケット裏にこの十倍くらいずらずらと並んでおり、それだけでも此の欄は納まりきれない。A面の『汝の鎌で打て』はアルト、テノール、バリトンのソロとオルガン、打楽器を含む古楽器群の演奏。バーゼル音楽学校大ホールでのライブ録音。B面1曲目『三つの断章』は合唱曲、B面2曲目の『ヴィジョン・ソノール』は打楽器と六人の管楽器と弦楽奏者によるアンサンブル。いずれもオフマイクで奥行き感大、音そのものは鮮烈、透明、A面『汝の鎌で打て』のボーカルはハイエンドは少しヒステリックだが、B面『三つの断章』は響きが美しく、B面2曲目の『ヴィジョン・ソノール』も力強い演奏と録音でいい。」


*注「制作:Radio DRS、録音:Hans Fleiscmann。通常のイェックリンのスタッフではないようだ。」
 
49−8

インカテーション/炎の踊り

独 BEGA 49

「制作1983年。インカテーションとは呪文の意味だが、パンパイプの一種であるシクと一本管の葦笛ケーナを中心としたアンサンブルの名前で、チャランゴ(ギター系)、ボンボ(大太鼓)など12種の楽器を5人で操る。清くは炎の踊り、カナリオス、アタワルプ、ワイヌ、プネノ、ヨタラの祭り、ボキータ、コロラドとインカ風のタイトルだが、全体としては民族音楽を現代音楽風にアレンジしたようなもの。A面1曲目のバックに響く、恐ろしく柔らかくて、しかも恐ろしく力のあるオフマイクのドラムが面白い。シクやケーナは強烈無比、吹き飛ばされそうだ。マルチマイクと思うが、音場感も悪くない。A面4曲目のボーカルは完全なモノ定位で汚れる。B面5曲目の打楽器も変わった音だ。」
 
   
49−9

グリンカ/歌劇「皇帝に捧げし命」より

G−H・パンティヨン指揮 ヌシャテル大学高校管弦楽団ほか

スイス GALO 30−449

「1985年3月15日、スイス、ラ・ショードフォン音楽堂での録音。3人の独唱者とオルガンはプロだが、後はアマチュア。コーラスは、ヌシャテルとラ・ショードフォンの高校生。A面32分、B面31分5秒とロングプレイ。B面は23分30秒がA面からの続きで、のこりはチヤイコフスキーとケドロフの小品3曲。ライブ録音で、SN比はイマイチだが、客席の咳払いがリアルで雰囲気満点。音場は独特で、上から見下ろすような感じがある。前後の距離感は少し圧縮されているようだが、定位はしっかりしており、コーラスのひとりひとりが見えてくるような気もする。透明感、歪み感はベストといえないが、大編成にもかかわらず混濁がない。」
 
   
49−10

アンソニー・ミルナー/交響曲第1番,管弦楽のための変奏曲

ライオネル・フレンド指揮BBC交響楽団     

英hyperion A66158

「1984年11月11−12日、ロンドンのマイダ・ヴェイル・スタジオでの録音。ミルナーは1935年ブリストルの生まれ。長年各地の大学で音楽講座を受け持ってきた人で、演奏家としてはバロック中心で、ハープシコードを弾き、カトリックの教会音楽の演奏を指揮するなどしている。A面が変奏曲で、1957−8年の作品、15世紀ドイツのメロディーからテーマをとっている。第1交響曲は1965〜71年の作品。一聴、交響詩風、7部構成で切れ目なし。経歴が示すようにわりと古典的な作風で親しみやすい。概して穏やかで繊細で美しいが、ここぞという時はそれなりの力もあり、情報量分解能極めて大。ppの美しさは格別。音場も広いが奥行きは浅い。」

*注「P:Andrew Keener、E:James Hamilton&Francisco Sancha。小編成の録音の多いhyperionレーベルのいつものスタッフと異なっている。大編成オーケストラ用の録音スタッフか?この演奏のBBC響のコンサート・マスターはモーリス・ブレットと表記されている。このようにオーケストラ録音にはコンマス名も記載して欲しい。ジャケットには作曲者ミルナー自身の詳しい楽曲解説がある。変奏曲は1959年に名指揮者バルビローリとハルレ管により初演、交響曲1番は1973年1月13日に名指揮者プリチャードとBBC響により初演された。」
49−11

ベートーベン/バイオリン・ソナタ 第10番、エネスコ/バイオリン・ソナタ 第3番

Vn:デビット・アーベル、Pf:ジュリー・スタインバーグ

米 Wilson Audio W−8315

「アメリカでも超マイナーの個人レーベル。当たると抜群、外れても普通である。このレコードは当たりと外れの中間。録音はミルス大学コンサートホールでマイクがショップスを間隔を開いて2本、マイクアンプは管球式。演奏はベートーベンは少し硬く、エネスコの方がのっている。曲としても、もともと人気薄のベートーベン第10番よりはエネスコの方が面白い。Vnはやや薄味で、音像もふくらむが、自然な感じは出ている。エネスコの第2楽章のチーチーというネズ鳴きのような奏法が面白い。ピアノはオフで厚み十分、低音の演奏ノイズがリアルで存在感大。A面1曲目(ベートーベン 1楽章?)のペダル奏法も面白い。」
 
49−12

カリオペ・フェスティバル−イタリア・ルネッサンスの饗宴

米 NONESUCH 79069

「1983年5月10〜12日、ブルックリン、フラットブッシュの教会での録音。カリオペはオルフェウスの母で、ミューズのひとり。その名をとった、このグループはルネサンスの音楽と楽器の愛好者4人によって1972年に結成された。このレコードではゲストを交えて5人。打楽器、トレブル&バス・ヴィオル(ビオラとチェロに相当)、ヴィエル(バイオリン相当)、サックバット(トロンボーン相当)、ショウム(オーボエ相当)、クルムホルン(J字型の笛)などを演奏。16世紀の作者不明の曲中心に24曲、バラエティに富んでおり楽しめる。録音はやたら明るく、透明で繊細、音像は小さく、エコーは短めだが音場感はいい。A面は薄味で、B面の方がよい。B面1曲目のタンバリンは見事。」
 
 
 
  
       
FMfan別冊1986年.夏号 No.50    
この号から、CDの録音評も載せるようになってきた。CDの評は、並行してLPが出されてないものは基本的に割愛しました。長岡鉄男氏推薦のCDについては機会があったら纏めて取り上げてみたい。
  
50−1

ガーシュウィン/ピアノ協奏曲、「三つの前奏曲」、ザ・マン・アイ・ラブ、アイメゴット・リズム

フランツ・アイヒベルガー、フランツ・アラーズ指揮ニュルンベルク交響楽団

独 COLOSEUM COL−9005

「制作1985年。表記の曲ほか、ピアノ独奏で『三つの前奏曲』と、歌曲からの編曲三曲、ザ・マン・アイ・ラブ、アイメゴット・リズムほか。A面25分、B面18分、A面の協奏曲の冒頭、ティンパニとグランカッサは、はるか彼方から聴こえてくるのだが、実にパワフルで、芯のある低音でびっくりする。弦も管も軽快で輝かしく、爽快な鳴りっぷりで、ピアノも力強いが、割とオフマイクでナチュラル。B面1曲目は、その3楽章だが、ガシャンと叩きつけるアレグロ・アジタートの迫力は凄い。シロホンやブラスがパッパッと上下左右に定位、シンバル、トライアングル、ベルもナチュラルで、エコーも綺麗だ。ピアノ・ソロも明るくパワフルで芯があり、優秀録音である。」

*注「デジタル録音。指揮者のフランツ・アラーズ(1905〜?)の協奏曲録音は珍しいのでは、オペレッタの録音があるくらい。」
  
50−2

オリー・ウィルソン/シンフォニア、ジョン・ハービソン/交響曲 第1番

小沢征爾指揮 ボストン交響楽団

米 NEW WORLD NW−331

「1984年10月、ボストン・シンフォニーホールでの録音。サウンド・ストリームのデジタル・システム使用。マイクはB&K4006S。A面24分1秒、B面23分16秒、ウィルソンは1937年、ハービソンは1938年生まれのアメリカの作曲家。曲はいずれも世界初録音。曲はアメリカの現代音楽らしく華やかで、どちらも悪くないが、ハービソンの方が変化に富んでいて面白い。全体としてはローエンドを抑え気味にして明るさ、華やかさを前面に打ち出しているが、これは小澤の好みに違いない。NEW WORLD本来の音は、もう少しローエンドの量感があるはずだ。しかし、雄大、強烈、かつ繊細、情報量の極めて多い優秀録音盤であることは確かだ。」
 
50−3

ヘンデル/カンタータ「アポロとダフネ」、オーボエ協奏曲ト短調

S:ユデッタ・ネルソン、B:デビット・トーマス、Ob:ブルース・ハイネス、指揮とチェンバロ:ニコラス・マクギーガン、サンフランシスコ・フィルハーモニア・バロック管弦楽団

米 HARMONIA MUNDI HMC−5157

「1985年2月23〜5日、カリフォルニア州ティバロンの聖ヒラリー教会での録音。A面27分14秒、B面24分51秒、B面後半にオーボエ協奏曲ト短調が入っており、オーボエはブルース・ヘインズ。アポロとダフネはソプラノとバスだけで歌われるカンタータで、オケが実に繊細で美しく、しかも力強さと輝きがあり、雰囲気十分で音場は広い。ホールエコーもたっぷりで、響きがよいが、不思議なことに、ヨーロッパの教会とは違った華やかさを感じさせる響きだ。ネルソンの歌はいいが、なぜかトーマスは、やたらにオンで越えもバカでかく、バランスを崩しているのが残念。」


*注「E:Peter McGrath。アメリカのHARMONIA MUNDIが録音してプレスはフランス、ポリグラムで上質。作曲された当時の18世紀の楽器で演奏。各メンバーの使用楽器がジャケットに書かれてあるが、オーボエのブルースは、1720年製Dennerを模した1982年製T.Hasegawaである。バリトンのトーマスのアンバランスだが、独唱部分では気にならない。ソプラノのネルソンとの重唱となると多少バランスの悪さを感じる程度。調整できなかったのは各歌手に専用のマイクを立てたマルチ収録でなかったからと推定。」
 
50−4

ブリュッセル楽器博物館

演奏:ヘザー・チャールトン

ベルギー PAVANE ADW−7154

「録音1983年6月2.3日。チャールトンはニュージーランドのオークランド市生まれの女流キーボード奏者で、ハープシコード、ピアノ、オルガンの演奏活動のほか、1980年からはブリュッセル王立音楽学校の助教授も務めている。博物館の楽器を使っての演奏で、A面@〜C曲はファーナビー、ブル、ダウランド、バードと、16、7世紀の英国の作曲家の作品を1604年製バージナルで演奏。A面D〜F曲はフレスコバルディの作品を1619年製一段鍵盤の小型のハープシコードで演奏。B面はクープランの第10組曲を1646年製二段鍵盤のハープシコードで演奏。音色の違いがよく分かる録音で、バージナルの図太さも面白いが、B面の繊細でワイドレンジのハープシコードは圧巻。」

*注「P:Antine de Wouters d`Oplinter、E:Michel Dasnoy。楽器の調律と準備はClaude Kelecom。」

50−5

ニコラ・ダライラック/ラマン・スタテュー

マイケル・クック指揮サン=セレ・オーケストラ ほか

仏 ARIANE ARI−131

「1985年8月8日、サン=セのモンタル城でのライブ録音。ダライラック(1753〜1809)は60曲ものオペラ・コミックを作ってナポレオンに気に入られたフランスの作曲家だが、ラマン・スタテュー(恋人の彫像?)もオペラ・コミックのひとつ。世界初録音である。台座に付いているハンドルを回すと動くというキューピット像を中心にコミカルなストーリーが展開する。曲はモーッアルト風の親しみやすいものだが、録音が面白い。ボーカルは声が凄くリアルでナチュラル、オケもややオフでナチュラル。ボーカルの音像は大きめというより実物大で、立体的に動き回り、前後感が良く出るが、音場は極めて狭い。実際にもごく狭いステージのようだ。」
 
   
50−6

シュタットファイファーの音楽

ムジカ・フイアタ

独 HARMONIE DER WELT HMW−622D

「制作1983年。ブランジンゲンの聖ペトルス教会での録音。A面25分10秒、B面23分27秒。シュタットフアイファー(街の笛吹き)は、13世紀以降に登場する職業音楽家で、市に雇われていた。管楽器中心で数人で演奏するものだが、この地位を獲得するのは難しく、5,6年の徒弟修行、数年間の旅回りの後、欠員が出た時に初めて採用される。ムジカ・フィアタは6人で、うち5人がコルネットとトロンボーンを、ひとりが小型のオルガンとレガール(リードオルガン)を担当。16、7世紀の小品14曲を演奏、軽快でさっぱりした演奏と録音。鮮明で透明で少しきつい感じもあるが輪郭鮮明、ホールエコーも綺麗で濁りがない。」
 
50−7

カレンダ・マヤ:1200〜1550年のスペイン、イタリア、フランス、ドイツの歌と踊り

演奏:カレンダ・マヤ

ノルウェー Simax PS−1017

「1984年9月オスロのガムレ・アケル教会での録音。カレンダ・マヤは五月一日の意味で、12世紀のトルバドゥール、ランボー・ド・ヴァラケスの名作。そのカレンダ・マヤを名乗るのがノルウェー生まれの6人の古楽器アンサンブル。ファッションからヘアスタイルまで、中世人になりきっての演奏である。A面8曲20分30秒、B面7曲21分10秒、聖母マリアのカンティガ集からも4曲とられているが、おおかたは馴染みの薄い曲。演奏は優秀、録音も太鼓、ベル、リュート、いずれも力強くリアルなサウンド。エコーも短めだが綺麗。声も強烈だが、歪感がない。ただ、かなりオンマイクで歌手の音像は拡大する。ペアマイク(録音)ではないようだ。」
 
50−8

ビバルディ/オルガン,バイオリンとオーボエの3重協奏曲RV554,3つの2重協奏曲(Vn&Org,Ob&Vn)RV767ほか

Org:ジェニファー・ベート,Ob:サラ・フランシス,Vnと指揮:リチャード・スタウト,テート室内管 

英ユニコーンDKP9050

「1985年3月12,3日、クラーケンウエルのセント・ジェームス教会での(デジタル)録音。テートは指揮者なしで演奏するユニークなグループで、このレコードではオルガンとオーボエが加わるため、グループのリーダーであるバイオリニストのスタットが指揮をしている。A面20分20秒、B面26分30秒。透明、鮮明で、SN比がよく、見通しの良い、さっぱりした音。ハイエンドに多少きつさはあるが、いかにもバロック風のやや細身のさわやかな音は悪くない。ただ、さっぱりし過ぎて、もう少し、もやもやが欲しい気もする。」
 
50−9

スタンダールと音楽

アンサンブル・ムジカ・ド・サロン(Pf:ヴェロニック・グランジュ、Ob:ジャン=ルイ・ブラダル、ナチュラルコルネット:ジル・ランバッハ)

仏 errs PR−8502

「1985年2月オードのバラジャ教会での録音。A面20分40秒、B面21分45秒。スタンダールは『赤と黒』で有名な小説家だが、音楽関係の著書もある。このレコードでは彼が言及しているカリボダのサロン音楽、ロッシーニの前奏曲、主題と変奏、H.v.ヘルツォーゲンベルクのトリオ、ニ長調の三曲を演奏。石積みの部屋で、マイクは複数オフで使用。ピアノもコルネットも力があり、逆にオーボエは弱々しげに響くが、いずれもナチュラルで伸び伸びと鳴る。B面1カ所ひつかかったような音が出るが、いい録音だ。」
 
   
50−10

タンダーズ・ライブ/01)星影のステラ 02)ザ・ロング・ブルース 03)恋に恋して 04)トゥー・ヤング・トゥ・ゴー・ステディ 05)今宵の君は 06)オールド・カントリー

キース・ジャレット・トリオ:キース・ジャレット(p)、ゲーリー・ピーコック(Cb)、ジャック・ディジョネット(ds)

独 ECM 1317

「1985年7月2日パリ、パレ・デ・コングレでの(ライヴ)録音。A面26分40秒、B面22分25秒。A面、キースは例によって、絶えず唸りながら弾いている。客席は大変静かだが、ちゃんと気配が感じられるのが面白い。最後に盛大な拍手。B面はディジョネットのドラム・ソロに客席のざわめきと拍手が起こるが、実に品のよいドラム、品の良い聴衆で、さすがECMと思わせる。B面、最後には拍手のリズムと口笛も入るが、それでも上品である。」
 

50−11

グンナー・デ・フルメリエ/バレエ組曲「聖ヨハネの夜」

スティグ・ウェステルベリ指揮マルメ交響楽団 

スェーデン BIG BEN 601 831−001

「1983年6月マルメ音楽大学コンサートホールでの(アナログ)録音。A面26分32秒、B面26分7秒。150グラムの厚いディスクである。バブテスマのヨハネとサロメの伝説に、スェーデンの真夏の伝説もミックスしたバレエで、ダラーナ(地名)で見た4枚の絵に触発されたというもの。第一の絵、エルサレム教会の前の空き地。第二の絵、奇妙な粉ひき小屋。第三の絵、ヨハネの誘惑。第四の絵、真夏の祭典の四部構成で、1947年の作品。曲は前衛的なものではないが、スケール感のある映画音楽風のもの。厚みと力のある密度の高い録音で、高弦は繊細、低域はボンつくが、ホールのせいだろう。前後感のよく出た録音である。」


*注「P:Henrik Halen、E:Goran Finnberg。ジャケットにThe mirror of true soundと称して、高品位の材質でプレスされたことと、驚異的な高音質のa Finnberg master tape recorderで録音された旨が書かれてあるが、どのようなアナログ・デッキか不明。プロデューサーのハーレンはマルメ響のホルン奏者のようだ。」
 
   
50−12

サーリネン/交響曲第四番、チェロ協奏曲ほか

Vc:アルト・ノラス、オッコ・カム指揮ヘルシンキフィル

フィンランド FINLADIA FAD−346

「1984年5月21〜4日、ヘルシンキのコンサートホールでの(デジタル)録音。A面29分48秒、B面30分5秒、トータル約1時間の徳用盤。アウリス・サーリネンは1935年生まれのフィンランドの作曲家で、このレコードは表記のほか、オーケストラのためのプレリュード『シャドウス』という10分足らずの小曲が入っている。長時間収録のためカッティングレベルは低いが、SN比は決して悪くない。シャドウスはいかにも影のようなメリハリのなさが面白い。協奏曲のチェロのピチカートが自然で心地よい。交響曲にはパーカッションも活躍するが、これもオフのおとなしい音。全体としては渋いが、力のあるナチュラルサウンドである。」
   
   
50−13

F・クープラン/リュリ賛歌、コレルリ賛歌

エスペリオン]]

仏 ASTREE AS−100

「1985年5月、パリ、サン・ジャン・ルーテル派教会での録音。リュリ賛歌13曲、コレルリ賛歌(またはパルナス山)7曲、計約56分。リュリ、コレルリがミューズに導かれてパルナス山に行き、アポロの前で演奏するという趣向の構成で、解説が付く。エスペリオン]]はかなりのメンバーをかかえているアンサンブルだが、このレコードでは、Vn:フゲント、バンキニ、バス・ヴィオル:J・サヴァル、Cemb:コープマン、テオルブ:H・スミスの5人で演奏。B・エルヴェの解説が入る。アストレの百枚目という記念すべき演奏だが、演奏はともかく、録音がアストレとしてはイマイチ。といっても水準には達しているが。」

*注「アストレのLPは100枚目のこれが最後ではなかろうか。」
 
   
下記の演奏はCDとしての評価。同時にLPも出されていたので取り上げました。
  
50CD−1

プロコフィエフ/交響曲第6番、組曲「ワルツ集」Op.110 より3曲

ネーメ・ヤルビィ指揮ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団

英 CHANDOS CHAN−8359(CD)、ABRD(LP)

「1984年8月25、6日グラスゴー・シティ・ホールでの録音。DDDでトータル56分30秒。プロコフィエフの第6は第5ほどポピュラーではないが、メロディーや、エンディングにかけてのスピード感は共通点がある。第1楽章の重苦しさの割には、第3(終)楽章の花火を打ち上げるような浮かれたにぎやかさがアンバランスという。録音は第1楽章の冒頭が秀逸。透明で切れ込み鋭く、力があり、音場も広く深い。エコーも透明だが、減衰していって、途中でふっと消える感じもある。終楽章は壮絶ダイナミック。時に高弦がヒステリックになる。組曲ワルツ集は全6曲のうち、2,5,6番の3曲のみ。これはエレガントで美しい録音だ。」
 
   
50CD−2

ヨーゼフ・バイヤー/バレエ曲「人形の精」

クルト・アイヒホルン指揮ラインランド−ファルツ国立歌劇場管弦楽団

独 EURODISC 203387−425(LP)、610267−231(CD)

「製作1985年。録音は1981年である。バイヤー(1852〜1913)はウィーン生まれのバイオリニスト、作曲家で、21のバレエ曲を残している。人形の精は1幕物のバレエで、序曲と20の小曲から成っているが、全トラック切れ目なしの演奏で42分15秒。台本はコッペリアの影響を受けたというが、クルミ割り人形みたいなところもある。曲は一聴してヨハン・シュトラウス風。中国人、スペイン人、日本人といった表題もあるが、どれがどれなのかよく分からない。黙って聴かせればシュトラウスのワルツ集と思いこむのではないか。それだけに明るく楽しい気楽な音楽で、録音は素晴らしい。実に繊細で綺麗で厚みも力もあるオケだ。」
  

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