2012年1〜3月の話題
★ 山本直純 没後10年 「直純さんがやって来た」大音楽会
2012年3月24日 サントリーホール
「大きいことはいいことだ」のチョコレートCM、映画『男はつらいよ』のテーマ曲「俺がいたんじゃお嫁にゆけぬ、わかっちゃいるんだ妹よ……今日も涙の日が落ちる、日が落ちる」をご記憶の方は多いことでしょう。
純クラシックからこうした大衆名歌まで幅広く手がけた作曲家&指揮者の山本直純さんが亡くなって、今年で早くも10年。3月24日にサントホールで、その音楽と人柄を偲ぶ大音楽会が開催されました。
第1部「ユニークな作曲家・直純さん」では、ご次男の山本祐ノ介さんが亡き父上を彷彿させる赤い上着姿で指揮台に立ち、CMソング、TV・ラジオ番組音楽メドレー、『1年生になったら』『さあ、太陽を呼んでこい』他の児童合唱メドレーを指揮。
続いて、ものまね芸の大家、江戸家猫八さんをソリストとする、みみくり協奏曲『動物の四季』から『ほととぎすのワルツ』と『虫のセレナーデ』を指揮して会場を沸かせました。「みみくり」とは、動物や自然現象の模倣のこと。寡聞にして、その芸をソリストとする協奏曲があったことを知らなかったわたくしは、猫八さんの至芸に息をのみました。
このあと、金洪才さんの指揮で、天才ピアニスト&作曲家の藤井一興さんをソリストとする、ピアノ狂騒曲『ヘンペラー』が演奏されました。これは、あのベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番『エンペラー』を骨格としつつ、その合間にお馴染みのクラシック名曲がめまぐるしく顔を出す上質の冗談音楽。直純さんの頭のなかには、つねに、これらの曲の断片が次々と浮かんできたのだそうです。
第2部は「直純さんをおやじと慕ったさだまさしコーナー」です。直純さんと深い親交のあったさだまさしさんが『おやじの一番長い日』『空色の子守歌』『防人の歌』の3曲を、秋山和慶さんのタクトで熱唱しました。
第3部は「後世に伝えたい直純さんの名曲」。金洪才さんの指揮で、『交響譚詩シンフォニック・バラード』、秋山和慶さん指揮の合唱組曲『田園・わが愛』のシリアスな2曲が演奏されました。本当に、どんなジャンルにも才能を発揮された方であったことがよくわかりました。この一大イベントを成功させた実行委員会代表、小尾旭ミリオン・コンサート協会代表取締役に心より感謝いたします。
(左写真)お父様にめっきり似てこられた、山本祐ノ介さん
(右写真)猫八さんと祐ノ介さん
(左写真) 藤井一興さんと、さだまさしさん
(右写真) 直純さんの色紙を持つ、ご令妹のオルガニスト、湯浅照子さんと、ミリオン・コンサートの高原加代子さん
去年(こぞ)よりは 雛と慰霊の弥生なり
2012年3月7日
ついつい更新を怠けておりますうちに、辰年も、はや弥生を迎えました。
原稿の量が激増したわけではないのですが、最近、一字一句に逡巡して言葉がみつからないことや、あるいは次から次へと疑問が湧いて脇道の奥深くに分け入ってしまうことも多く、そうこうするうちに締切りが重なってお約束を果たすだけで手いっぱいとなり、更新の元気も出ないまま日々が矢の如くに過ぎておりました。
そうしたなかで、2月にモストリー・クラシック誌から依頼された『日本人ヴァイオリニストの歴史』は身震いするほど執筆意欲をそそられるテーマであると同時に、手をつけるのが辛いテーマでもありました。というのも、じつはこれに近いテーマで研究精査、取材を重ね、10年近く苦吟して近年ようやく一編の長編を完成させたのですが、現在そこで厳しい壁に突き当たっているからなのです。
しかし、いつまでも悩んでもいられず、心に鞭打って書き始め、なんとか脱稿して編集部に送りました。スロー・スターターでしたが、次第に夢中になり、愛着のある1本に仕上がりました。
もとより月刊誌の一記事。限られた文字数のなかで、明治初年以来こんにちまでの日本のヴァイオリン受容の歴史をたどり、いくつかの傾向にも目を向けながら、主なヴァイオリニストの師弟系譜もあきらかになるよう、可能な限りの情報を盛り込ませていただきました。
モストリー・クラシック誌3月20日発売の4月号に掲載予定です。ご興味のあられる方は、どうぞご笑覧くださいませ。心の弱い話ですが、これを書き上げたのでようやく更新にとりかかれました。
では、この間のおもな出来事をご報告させていただきます。
★ 室井摩耶子邸訪問
2012年3月3日
雛祭りの日に90歳の現役ピアニスト、室井摩耶子先生のお宅に遊びにうかがいました。2010年暮れに完成したばかりのピカピカのご新居。
サロン・コンサートも開催できる、南向きのゆったりとしたピアノ部屋に広々ダイニング、見晴らしのよい寝室に衣裳部屋、夫婦喧嘩をしたお友だちでも歓迎できる和室、車椅子トイレにホーム・エレベーターまでそなえたすばらしいバリア・フリー御殿です。
(左)ピアノをお弾きになりながら、最近の「発見」を説明してくださる摩耶子先生。
(右)先生お手作りのおいしい粽をご馳走になりました。
★ 文京アカデミア講座『クラシック名曲物語』
2012年1月〜2月 文京シビック
1月から2月にかけて、後楽園駅前の文京シビックで、文京アカデミア講座『クラシック名曲物語』を4回にわたって開催させていただきました。
定員を超える申し込みがあり受講は抽選となったそうで、わたくしとしても全員にお越しいただきたく、本当に残念でした。
みなさまとてもご熱心で、クイズにもよくご反応くださり、毎回終了後に感想の言葉をかけてくださる方も多く、たいへん充実した時間を過ごさせていただきました。
★ 講座タイトル
2012年1月26日 本当は伴奏があった、バッハ『無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ』
2012年2月 2日 ベートーヴェン『運命』の徹底解剖
2012年2月 9日 ショパンのピアノ協奏曲は秘密兵器
2012年2月23日 『悲愴』交響曲初演の9日後に世を去ったチャイコフスキー
最終日にようやく、役員の方、アカデミア・スタッフの平野さんとこの写真を撮りました。
★ 志鳥栄八郎先生 没後10年メモリアル・パーティー
2012年2月16日 アルカディア市ヶ谷
亡き志鳥先生を偲んで、多くのお客様がおみえくださいました。
なかでも、志鳥先生在りし日に毎月先生宅に足を運んでくださったレコード各社のプロデューサー、ディレクターの方々は、こんなにも多数顔を揃えてくださいました。本当に嬉しく思いました。
★ 新型ピアノの発表会記念パーティー
2012年1月26日 カワイ表参道 コンサート・サロン パウゼにて
写真は、左より、ピアニストの吉武雅子さん、同江崎昌子さん、萩谷由喜子、ピアニストの近藤嘉宏さん。
★ 都民芸術フェスティバル 上野優子さん、チャイコフスキーのピアノ協奏曲を独奏
2012年1月24日 東京文化会館大ホール
12日に、田村響くんの弾いたチャイコフスキーを今度は上野優子さんが立派に独奏なさいました。
優子さん曰く「あの日、響くんを聴きにいってよかった。とても勉強になりました。」
楽屋には、恩師の有賀和子先生が駆けつけられました。有賀先生とは、教え子さまたちのコンサート会場でいつもお会いします。温かい、温かい先生なのです。本当にありがたいですね。
右写真の優子さんを囲むおじさま方は、ピアノ・メーカーY社のみなさま。
★ 熊本マリさん インタビュー
2012年1月20日 日本コロムビア本社にて
ピアニストの熊本マリさんが、奥村一編曲による『日本民謡ピアノ独奏曲集』の全曲初録音を達成されました。そのCDライナー・ノートもすでに執筆させていただき、録音に至る経緯、各曲の解説もそこに詳説いたしましたが、この日は、月刊『ぶらあぼ』からの依頼であらためてマリさんにインタビュー。気配りじょうずなマリさんは、拙著『五線譜の薔薇』にちなみ、真紅の薔薇の花をかたどったキャンドルをプレゼントしてくださいました。感激です。このインタビュー記事は、月刊『ぶらあぼ』3月号に掲載されています。
写真は、左から、コロムビアの国崎ディレクター、『ぶらあぼ』編集部の城間氏、マリさん、真紅の薔薇の花キャンドルを持つ萩谷由喜子。
★ 小山実稚恵 ピアノ・リサイタルのプレ・イベント
2012年1月16日 杉並公会堂
「ロマン派楽聖たちの絆」と題してショパン、シューマン、リストの交友関係、作品献呈関係に焦点を当てた小山実稚恵さんのリサイタルが、2月18日に開催されます。それに先立っておこなわれたこのプレ・イベントで、進行役と小山さんの対談相手を務めさせていただきました。
写真は杉並公会堂のスタッフと。
★ 上原彩子 ピアノ・リサイタル
2012年1月15日 サントリーホール
着々とピアノ街道を歩む上原彩子さん。ベートーヴェンの『悲愴』ソナタ、リストの『詩的で宗教的な調べ』より『孤独のなかの神の祝福』、『リゴレット・パラフレーズ』、ラフマニノフの『音の絵』op.39全曲、という堂々たるプログラム。3作曲家のそれぞれの様式感を弾き分けました。
假屋崎省吾さんとご一緒に楽屋に駆けつけました。
★ アン・アキコ・マイヤース ヴァイオリン・リサイタル
2012年1月13日 紀尾井ホール
きりりとした容姿、切れ味のよい演奏で定評のあるヴァイオリニスト、アン・アキコ・マイヤースさんが、名手、江口玲さんのピアノでリサイタルを開きました。
写真はサイン会でのアンさんと江口さん。
じつはアンさんはもうすぐママになられます。この写真ではわかりませんが、ステージではおなかの天使の存在感大でした。このコンサートの批評は、『音楽の友』3月号に掲載中です。
批評
アン・アキコ・マイヤース ヴァイオリン・リサイタル
高度なテクニックに裏打ちされた非凡な表現がマイヤースの最大の魅力。今回は懐妊中のせいか鋭角的な表現が薄れ、音色に丸みも増した。バッハのアリアではよく透る弱音と、先弓から元弓まで寸分の狂いもない精緻な配分で運ばれるスローな全弓に息を飲んだ。シュニトケの『古い様式による組曲』はピアノの弦に特殊テープを貼り、チェンバロ風の音に改造しての演奏。ならばバロック風かと思いきや、終曲には歯の治療の不快音を模した不協和音も登場する。そのウィットをマイヤースはゆとりをもって表現した。ベートーヴェン『スプリング・ソナタ』では絶妙なテンポの揺らしが効果をあげる。総じてアグレッシヴな表現が目立つが、それでいて気品を失わないところがこの人の身上。バッハ=グノー『アヴェ・マリア』は後半を繊細な弱音で。無伴奏『荒城の月』は彼女自身によるヴィルトゥオジティーにみちた編曲。『春の海』では再びテープが貼られピアノが箏に変身した。ピアノの江口玲もこのプリペイド効果を積極的に楽しむようすをみせる。最後は81年生まれチュピニスキの『海の底のウンブリア号』日本初演。ダイビングが趣味というチュピニスキが、海底で見た沈没船へのオマージュを音にした近作。シンセサイザー・テープとの共演ながらマイヤースの美点も十全に発揮されていた。(『音楽の友』3月号)
★ 下野達也指揮 東京都交響楽団演奏会
2012年1月12日 サントリーホール
若手のホープ田村響さんがチャイコフスキーのピアノ協奏曲を独奏しました。力強い快演でした。休憩時間にホワイエで、上野優子さんにばったり。なんと、優子さんも24日に東京文化会館で同じ協奏曲を弾く予定なのです。勉強家ですね。
写真は、演奏を終えたばかりの響さんと下野マエストロ。
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