|
あの男は、二十世紀の突然変異体なんだ。
フォックス・モルダー
あらすじ:
メリーランド州ボルティモアにて、三件もの殺人事件が、二ヶ月という短期間に、連続発生した。いずれも、密室での犯行であり、被害者は、一様に、肝臓を摘出されていた。
暴力犯罪課の特別捜査官であり、FBIアカデミーの同期生でもある、トム・コルトンの依頼で、スカリーは、モルダーと共に、最新の事件現場を調査する。その結果、新たに、被疑者の指紋が、採取された。モルダーが発見した、その指紋は、なんと、二十五センチにも及ぶものであった。
モルダーは、問題の連続殺人事件について、暴力犯罪課ではなく、自分が担当すべきものと、主張する。X‐ファイルによると、同一手口の殺人事件が、一九〇三年から、三十年周期で、五件ずつ、発生している、と、いうのだ。それが、事実であるのならば、今回の連続殺人事件は、二名の犠牲者を、残している事になる。
File No.02(#1X02)
原題:Squeeze
邦題:スクィーズ
邦題(テレビ朝日版):
恐怖の連続猟奇殺人 スカリー捜査官を襲う突然変異の食人鬼!(『続スクィーズ(File No.20)』と共に、二時間枠の特別版として、放送)
脚本:Glen Morgan & James Wong
(グレン・モーガン&ジェームズ・ウォン)
監督:Harry Longstreet(ハリー・ロングストリート)
備考:
・原題および邦題は、“圧搾”の意。
・ユジーン・トゥームズ役のダグ・ハッチソンは、その後、『ミレニアム』の『始まり、そして終わり(Y2022)』にて、“ポラロイドの男”を演じている。
また、『グリーン・マイル』や、『アイ・アム・サム』などの劇場作品にも、出演している。
・肝臓機能の一つとして、胆汁の分泌が、挙げられる。胆汁とは、アルカリ性を示す、黄褐色の液体で、脂肪の分解と、ヴィタミンの吸収を補助する、消化液の一種である。
分泌された胆汁は、胆嚢を介して、腸内を循環する。この循環が、何らかの理由によって、遅滞すると、血液の凝固に必要な、ヴィタミンKの吸収も、阻害される事となる。その結果、負傷をすると、なかなか、出血が収まらず、最悪の場合、脳出血に至る。
また、脂肪不足のために、大便が、白色に、小便が、茶褐色に、そして、皮膚や眼球が、黄色に変色してしまう。
私見:
伸縮自在の身体能力をもって、密室殺人を繰り返す、ユジーン・トゥームズは、一種の突然変異体である。三十年ごとに、休眠から目覚めては、栄養源として、五人分の肝臓を、調達せんとする。トゥームズにしてみれば、その犯行は、生存本能に駆られた、やむにやまれぬものである。その一方で、犯行現場の再訪や、記念品の収集といった、トゥームズの行動様式には、明らかに、快楽殺人者の特徴が、見受けられる。同様の二面性は、トゥームズが、密室殺人に固執する点にも、窺われる。もちろん、その主目的は、捜査の撹乱によって、逮捕を免れる事であろう。しかしながら、それと同時に、トゥームズは、不可能犯罪の達成によって、生じる興奮をも、味わっているのではなかろうか。
トゥームズが、最後の犠牲者として、スカリーを選択したのは、いかにも、象徴的である。いくら、自らの生態と住処を、看破されたとはいえ、トゥームズには、無関係の第三者から、肝臓を摘出する事も、十分、可能だったはずだ。その上で、追及が及ぶ前に、いずことも知れぬ場所で、休眠に入ればいい。にもかかわらず、トゥームズは、あえて、FBI捜査官を標的とする、危険を冒した。これは、肉体的欲求ばかりでなく、精神的刺激をも、満足させる標的でなければ、トゥームズの食指が、そそられない事の、証左と言えよう。いわば、トゥームズの逮捕は、快楽殺人を追及した果ての、自滅だったわけだ。とはいえ、モルダーの存在がなければ、無事、トゥームズの逮捕に、至ったかどうか、疑わしいところである。
モルダーは、トゥームズによる連続殺人事件が、一般常識の範疇では、解決できない事を知る、唯一の人物だ。にもかかわらず、その事実を、訴えれば訴えるだけ、“変人”として、嘲笑されてしまうのである。あるいは、モルダーが、臆面もなく、奇説を披露するのは、相手の人間性を、観察する目的も、あるのかもしれない。その反応によって、信頼に足る人間かどうか、見極めんとしているのではないだろうか。
これまで、独自捜査を主体としてきた、モルダーとスカリーが、今回は、暴力犯罪課による、正規の捜査活動に、協力する。その捜査協力によって、浮き彫りとなったのは、モルダーの孤独であった。
|