高原の春

                                     絵と文:都筑信介

                  (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称はすべて仮名であり、実在しません。)

大型連休、つい最近までは、ゴールデンウイークとか、昭和生まれの人は「飛び石連休」なんて、呼んでたころもありましたね。
章夫さんはというと、自分の住んでいる町の桜は、開花はわりとゆっくりだったものの、あっと言う間に開花したかと思ったら、急に天候が乱れ、強風と大雨が町で吹き荒れ、せっかくの咲いた桜を、散らしてしまいました。「あれあれ、ゆっくり鑑賞しようか、と思っていたら、もう散ってしまった」
と、なんとも言えない不可解な春ですね。
 電話で、ベーカリーの敦子さんに電話をしたら、
「そうなのよ、私も、今年は桜を一度もみないうちに、散ってしまったわ。。。」と
「それなら、山のほうにいけば、春はゆっくりだろうから、まだ桜が楽しめるかなあ~?」
「たぶん、高原のほうでは、これから桜の季節よ、」
「じゃあ、大型連休中に、道路は混むかもしれないけれど、久しぶりにドライブしてみるか~?」
というわけで、ひさしぶりに、アンナを乗せて●●高原まで、出発進行。



 高原は、予想通り、「桜本番」でした。
いろんなところから、多数の人たちが、花見にきていたけれど、めずらしく着物を着た女の子がいました。
こちらをみて、微笑んでいます。そこで、敦子さんは、声をかけてみました。
「Hi, how are you today?(こんにちは、ごきげんいかが?」
「fine (最高よ)」
「きょうは、どこからか、ドライブしてきたの?」
「ううん、あまりにも、地上の花がきれいだから、天から降りてきたの?」
「え?天から?」少し驚いて、あっけにとられていると、どこからあらわれたか?女の子の横に、これまた、レトロな着物に身をつつんだ男の人が一人。



「こんにちは、いいお天気ですね。地上では、「春爛漫」で、あまりにもきれいだから、つい、娘と天から降りてきてしまいました。」
章夫さんが、不思議そうに、二人を眺めていると、
「私、高野辰之(たかのたつゆき)と申します。もう、みなさん方には、忘れさられてしまいそうですが、じつは、文部省唱歌、朧月夜(おぼろつきよ)の作者です。」
敦子さんは、「そうですか?では、あなたは、明治時代のお方?」
「そうなんですよ、でも、今の世の中は、あまりにも、私たちには受け入れがたいデジタル社会になちゃって、なんせ、お札まで、電気信号ですからね。」
「でも、桜の花や、みんなの心だけは、昔のままなんですね。ありがたいことです。」
そんな、お話に盛り上がっていたら、あっと言う間に夕方になってきました。
「おぼろちゃん、そろそる、帰らないとね?」
と言っていたら、「おぼろちゃん、」という声、、、


みると、夕月の端がびよーんと伸びてきて、地上におりてきて、お母さんという方が迎えにきました。
「あ、おかあさん」
「みんなとお話しできたの?よかったわね。」
「こんにちは、わたし、おぼろの母の、「月代」と申します。
敦子さんは、「まあ、若いおかあさんね、、こんなきれいなお母さんなんて、うらやましい」
「昔は、みんな、こんな感じですよ。スマートフォンのなにもありませんから、目の前に見えるものだけが、大切で、愛しいもの」
「では、また」そういって、みんな天にかえって行きました。
敦子さんは、「ずっと、昔にあって、なくなってしまったものに触れたような気がするわ~とてもよかった」と。


 どうでしたか?みなさんも、こんな出会いがあったら、ふと、今の自分を思い直すかもしれませんね。電気信号だけの世の中になっていくと、、、、

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