政務調査費返還請求事件(その1・飲み食い編)
PARTV
第2次訴訟の始まり
第2次訴訟は2004年9月に始まりました。
実は、第1次訴訟と第2次訴訟との間に法改正があり、この種の住民訴訟は、議員本人や議会会派を相手取って起こすのではなく、区の機関(本件の場合は品川区議会事務局長)を被告としなければならないことになりました。
これまでは、議員や議会会派を被告として「区にお金を返せ!」と直接訴えることができたのですが、法改正後は、住民が区の機関を被告にして「区は議員や議会会派にお金の返還請求をしろ!」という訴えをすることになったのです。
つまり、飲み食いをした張本人を訴えることができなくなったわけであり、非常に不思議で不満な法改正なのですが、まあ法律が変わってしまった以上仕方がありません。
こうして第2次訴訟の相手方は、自民党区議団の関係者ではなく、品川区の関係者ということになりました。
被告の答弁
かくして、第2次訴訟の被告は、ムダ使いをした張本人ではなく区の機関になったのですが、区の機関は、もし区のお金がムダ使いをされたのであれば、私たちと一緒に怒ってくれてもよいようなものです。
しかし区の機関の答弁は、
・ 自分には政務調査費の使い道を審査する権能はないから、自分は基本的に政務調査費の使い道について口出しをしなくてもよい
・ 例外的に口出しをして返還請求しなければいけない場合があるとしてもそれは、議員の政務調査活動でないことが一見して明白である場合に限られる
・ しかし自民党区議団の飲食は、政務調査活動でないことが一見して明白とはいえない
…という理屈で、「自分は自民党区議団に返還請求しなくてよいのだ」と言うのです。
どうしてこちらの味方をしないで自民党区議団の味方をするんでしょうかね?
第2次訴訟の進行
こうして被告は、「個々の飲食がいつどういう目的で誰との間でなされたのか。そしてその飲食の席の会合ではどういうことが話されたのか。」などの中身の話には一切入ろうとしませんでした。
これに対して私たちは、オンブズマンのメンバーの人たちがお店をまわったりお店のホームページを調べたりして作った数百ページに及ぶ調査報告書を証拠として裁判所に提出しました。
その報告書は、自民党区議団が「政務調査」をしたというお店がどんなところなのか(まあつまりは「会議」や「研究」とはほど遠い、楽しくておいしそうなお店ばかりなのです)が分かるように、そのお店のホームページなど添付したりして整理をしたもので、これを読めば、お店の場所、店頭・店内の様子、メニュー、主要価格帯、そこで自民党区議団がいついくらを使ったかなどが一目で分かるスグレモノでした。
更に私たちは、中身の議論に入ろうとしない被告に対して、
「被告側は、自民党区議団の飲食について、『政務調査活動でないことが一見して明白ではない』と言っているが、それは、各飲食の中身やその飲食の席での会合の中身を把握したうえで言っているのか?
把握しているというのであれば、各会合の開催時刻・出席者・会合の内容などを明らかにせよ」
と釈明を求めました(このように釈明を求めることを、うちらの業界では「求釈明」と言います。)。
こちらの主張を聞いて裁判所も被告に対して、「原告から求釈明が出ているので、次回までに対応を検討してください。もし求釈明に答えないのなら、その理由も説明して下さい。」と言いました。
裁判所も、被告側の形式論に業を煮やしているような様子でした。
最終弁論期日
そして迎えた2006年2月21日の口頭弁論期日。
被告は結局、こちらからの求釈明には全く答えず、当初からの形式論を繰り返すばかりでした。
すると裁判所は、「それではこのあたりで判断をしようと思います」と言いました。つまり「今日で弁論を終結して、判決を言い渡しますよ」ということです。
これには被告も驚いたでしょうが、こちらもちょっとあせりました。
政務調査費が本来の使われ方をしていない(つまり議員の単なる飲食遊興に過ぎない)という点については、自民党区議団の議員本人を尋問して浪費の実態を法廷で裁判所に直接見せなければならないと思っていたからです。オンブズマンの人たちの労作である数百ページの調査報告書は、浪費の実態を推察するについて非常に説得的なものでしたが、それだけでこちらの請求を認めてくれるかどうかは微妙だと思っていたのです。
そのような証人尋問をしないまま訴訟を終結されて判決ということになると、「政務調査費の使われ方が逸脱しているという点についての立証が足りない」と言われて敗訴してしまうのではないかという懸念がよぎりました。
そこで私たちは「もう1回弁論期日を設けて主張をさせて欲しい。」と言いました。しかし裁判所から「主張したいことがあるなら書面を出して下さい。判決を書く前に見ますので。」と言われ、弁論を終結されてしまいました。
指定された判決言渡期日は、2006年4月14日でした。
判決を待つ身
証人尋問をしないままの判決。
これはこちらにとってよいことなのかどうか…。
私たちは判決を前にドキドキしていました。
少し法律的な話をすると、ポイントは“立証責任”が原告と被告のどちらにあるのか、という問題になります。
政務調査費のムダ使いを訴える場合、原告の方で「議員が逸脱した」ということを立証しなければならないのか、それとも、被告の方で「議員は逸脱していない」ということを立証しなければいけないのか?
もし原告の方で「逸脱した」と立証しなければならないのだとするならば、あの数百ページの報告書で逸脱の立証は足りているのか、という前述の問題になるのです。
他方、被告の方で「議員は逸脱していない」ということを立証しなければいけないというのであれば、被告は何も立証していないのですから、こちらの勝訴になる筈です。
さて裁判所はどう判断してくれるのか?
運命の2006年4月14日を迎えました。