第2の「赤坂署事件」
警視庁銃器対策課不正経理疑惑事件
PARTV
控訴審の審理
控訴審の審理は2000年6月19日に始まりました。
控訴審では、一審判決の当否や法律論について主張の応酬をした後、秋ころには双方の主張が出そろい、証人尋問の段階に入りました。
そしてこちらからは、問題の帳簿に名前が出てくる警視庁職員2名の証人尋問請求をしました。この職員2名は、問題の帳簿の記載上、原告の人たちに謝礼を渡し、原告の人たちから領収書を受け取ったとされている人です。
裁判所はこの尋問請求を採用し、警視庁職員2名の証人尋問が、2001年1月24日に実施されました(これはもともと一審で行なっていなければならなかった尋問です。一審の裁判長の言葉を信じて一審で証人尋問請求をしなかった私たちは要反省です…。)。
警視庁職員の証言
警視庁職員2名の証人尋問は、だいたい予想通りの展開でした。
職員は2人とも、「自分たちは、情報提供者から情報を提供され、その人に謝礼を支払った。その情報提供者が書いた領収書には、原告らの住所氏名が書かれていた。でもその情報提供者は原告たちではない別の人だった。」という内容を繰り返しました。途中から言い出した例の大胆な主張にのっとってストーリーを組み立ててきたのです。
しかし、元々無理のあるストーリーですから、少し都合が悪くなったり角度を変えた質問をされると、
「ちょっと思い出せません。」
「私の立場じゃちょっと分かりません。」
「特にちょっと今は記憶しておりません。」
と言って逃げまわり、それをまたこちら側が、ニワトリを鶏舎に追い込むように周りから攻めていく…という展開でした。
ところでこの尋問の際、被告の東京都側からは警視庁職員に対し、ひとつも尋問がありませんでした。双方の主張が真っ向から対立している訴訟では非常に珍しいことです。
控訴審判決
このような証人尋問を経て、控訴審の最終弁論が2001年3月14日に行なわれました。
こちらは20ページに亘る少し長めの最終弁論をしました。他方、証人尋問でひと言も質問しなかった被告東京都側は、この日の最終弁論もしませんでした。訴訟当事者が、請求を争っているのに最終弁論をしないというのもまた珍しいことといえます。
その後、裁判所から和解の勧めもありましたがこれも7月に決裂し、あとは判決を待つばかりとなりました。
しかし、待てど暮らせど判決が出る気配がありません。2001年が終わり、2002年も終わってしまいました。
あまりの遅さに、「僕らの知らないうちに判決が出ちゃっているんじゃないか?」と思ってしまうほどでした。もちろん、当事者の知らないうちに判決が出されることなどありません。しかしそのような不安がよぎるほど、なかなか判決が出なかったのです。
そして、関係者の尋問からまる2年以上経った後の2003年3月26日、ようやく控訴審の判決が出されました。
結果は、「被控訴人(東京都)は控訴人ら(原告の人たち)に対し、各12万円を支払え。」というもの。
金額は多くはありませんが、私たちの主張を認めた勝訴判決です。
判決(江見弘武裁判長、小島浩・岩田眞裁判官)は、
「領収書は、警視庁生活安全部銃器対策課所属の警察官又は警察職員が作成したと推認する以外にない。」
と断じて警視庁職員による偽造を認めました。
また、この領収書の実態については、
「控訴人らの主張するとおり、実際の金銭の支払のためというよりは、架空の金銭の支払について、裏付けとなる領収書を本物らしく仮装するためのものと考える方が実態に合致しているとの感を強くする。」
と、遠慮がちな表現ながら、領収書が架空の金銭の支払に使われたものであることを指摘しました。
そして、被告側が後から出してきた大胆な主張に対しては、
「控訴人らと同姓同名を名乗る者から情報の提供を受け、これに謝礼を支払ったとする証人らの証言自体、採用し難いというべきである。」
と述べてこれを排斥しました。
訴訟を終えて
翌日の新聞は軒並み、「東京高裁 警視庁の偽造認める」等の見出しでこの判決を大きく報じました。
警察の職員による領収書の偽造を裁判所が判決で認定したのはこれが初めてのケースであり、ビッグニュースだったわけです。
赤坂署事件では判決にたどり着く前に相手方が請求を認諾してしまったために訴訟が“強制終了”になってしまいましたが、この事件ではこちらの希望通りの判決にたどり着くことができました。
しかし翻って考えるに、本件は、赤坂署事件と同様、証拠を素直に見れば、警察が架空のお金の支払いのために他人の名前を勝手に使っていたことが明らかな事件です。
それなのに一審の東京地裁(下田文男コート)は事件に正面から向き合わず、トリッキーなやり方で私たちの請求を棄却しました。
これに対して二審の東京高裁(江見弘武コート)は、私たちの提示した問題点に正面から取り組み、こちらの申請通り警視庁職員2名の証人尋問を採用し、事件記録と格闘して、公費の架空の支払のために領収書が偽造されたという実態を堂々と認定してくれました。
一審の裁判所の奇策に翻弄された私たち弁護団は大いに反省しなければなりませんが、終わりよければすべてよし。私たちの“ポカ”はさておき(笑)、事件に正面から向き合ってくれた東京高裁に敬意を表して本項を終わりたいと思います。
この項おわり