道具は椅子と時計(ストップウォッチ)だけで実施できます<運動器の機能向上事業における下肢筋力評価に利用可能>
脚が老けると出不精になったり,外出時に自動車やタクシーを使ったり,階段を上らずにエスカレータやエレベータを使うといったことを繰り返します.そうすることで,不活動(ますます使わないこと)による脚の老化が加速し,身体的な老いを感じるようになります.
身体の老けから感じた“心の老け”は,「昔に比べてめっきり弱ったな...」といった気持ちになり,さらに“身体の老け”を加速することになり老化を速めます(からだが少し弱ってきたから,頑張って鍛え直そうという気持ちが重要なんですが).要介護になる時期をすこしでも遅らせることは,本人のみならず介護者となる家族にとっても明るく元気な家庭を長く続けることになり重要なことです.
これまで,下肢筋力は高価な測定機器(レッグプレスやキックフォース)や文部省(現文部科学省)体力テストにあるような「垂直跳び」や「立ち幅跳び」として直接的・間接的に評価されてきました.しかし,現行のテストではフィールド(自宅や屋外)で直接的に下肢筋力を評価するテスト法はありません.天理大学体育学部体力学研究室(中谷敏昭 教授)と大阪教育大学運動生理学研究室(三村寛一 教授)は共同研究で30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30テスト)を用いた下肢筋力評価法を開発しました.
このテストは,アメリカのJonesたちが考案した30-sec Chair stand testを日本人高齢者用にアレンジし,科学的エビデンスをもとにその有用性を研究論文に発表しました.このテストを用いて,天理市や大阪市の健康な高齢者を対象にフィールド調査を実施した結果から,5段階の性別年齢階級別評価表を作成しました.また,このテストは健康な高齢者ばかりでなく,虚弱な高齢者の自立度とも関係することを明らかにしています(論文未発表).
平成18年4月から実施される介護予防事業(特に新予防給付)において、運動器の機能向上トレーニングが行われ、事前・事後のアセスメントに下肢筋力が体力測定項目として推奨されています。下肢筋力は専門の測定機器や徒手筋力計をを用いれば測定できますが、いずれも高価であったり、測定が難しいことが考えられます。CS-30テストでは、テストの妥当基準を等尺性膝伸展力(新予防給付で推奨されている下肢筋力と同一の測定方法)とし、それぞれの関係は高齢男子でr=0.44、高齢女子でr=0.52と有意な相関を示しました(ともにP<0.001)。新予防給付ばかりではなく地域支援事業においても、対象者の下肢筋力を評価することは重要であることから高価な専門機器を用いなくとも簡便に評価できる点が優れています。 椅子から立ち上がるようなテストでは,座面の高さが変わるとその能力に大きく影響します.30秒椅子立ち上がりテストでは,”どこでも”手軽に,”誰でも”測ることができることを目指したため,椅子の高さをその人に合わせないで自宅にある椅子の高さとしました.自分や家族の能力を測るときは,いつも同じ椅子で行なってください.
1.中谷敏昭ほか:30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30テスト)成績の加齢変化と標準値の作成.臨床スポーツ医学20(3):349-355.2003.
2.中谷敏昭ほか:日本人高齢者の下肢筋力を簡便に評価する30秒椅子立ち上がりテストの妥当性.体育学研究47(5):451-461.2002.(本論文は平成15年度日本体育学会学会賞を受賞)
3.中谷敏昭ほか:若年者の下肢筋パワーを簡便に評価する30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30テスト)の有効性.体育の科学52(8):65-69.2002.
★このテストは下記の刊行物に紹介されています★
1.別冊NHKおしゃれ工房「立花龍司のボディー・コンディショニング」NHK出版
2.「健康づくりのための運動指導ガイド(虚弱高齢者及び元気高齢者・中高年者に対する運動指導マニュアル)」宮城県
3.「ターザン450号」2005年9月14日発売で紹介
下肢筋力の低下は外出や活動的な生活を過ごす意欲を低下させることから,脚を若く保つことが必要です.このテストを定期的に行うことで,日頃から自分の脚の能力を知っておくことは”老け”ないためにも重要なことです.
このテストの特徴は:
1. 高価な測定機器を必要とせず自宅の椅子を用いて行うことができる.
2. 膝関節痛がある者でも,膝関節の過屈曲がないため,かなりの者が行える.
3. 30秒という時間内に何回できるかというテストなので,低体力者でも行える.
厳密に行うには(準備するもの)
ストップウォッチ1個
肘掛けのない,高さ40cmの昇降運動用踏台あるいは椅子
記録用紙
テスト法:テストは踵の低い靴か素足で行う
1.椅子の中央部より少し前に座り,少し前屈みになる(体幹が10度くらい前屈)(下図)
2.両膝は握りこぶしひとつ分くらい開く(X脚やO脚にならないように注意する)
3.足裏を床につけ,踵を少し引く(踵を引かないと立ち上がりにくい)
4.両手は胸の前で腕組みして胸に付ける(腕の反動を利用しない)
5.用意,[始め]の合図で両膝が完全に伸展するまで立ち上がり,すばやく,座位姿勢にもどる
6.測定中の座位姿勢では,からだが少し前屈みになった方がやりやすい(立位姿勢では背中をまっすぐ伸ばす)
7.練習を5〜10回行わせ,姿勢を確認した後に30秒間繰り返す
8.測定は1回とする
9.立ち上がった際に膝や腰、背中が伸びていない場合は口頭で注意し、膝関節や腰関節に違和感を訴えたら中止させる
10.測定中は後方にバランスを崩すことがあるので,測定者は注意すること
11.座った姿勢から開始し,立ち上がって1回とカウント,座って再び立ち上がって2回とカウントする.30秒時に少しでも立ち上がり動作が見られれば回数にカウントする.
年齢群 | CS-30回数 | ||||
優れている | やや優れている | ふつう | やや劣っている | 劣っている | |
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | |
男性 | |||||
20〜29 | 38以上 | 37〜33 | 32〜28 | 27〜23 | 22以下 |
30〜39 | 37以上 | 36〜31 | 30〜26 | 25〜21 | 20以下 |
40〜49 | 36以上 | 35〜30 | 29〜25 | 24〜20 | 19以下 |
50〜59 | 32以上 | 31〜28 | 27〜22 | 21〜18 | 17以下 |
60〜64 | 32以上 | 31〜26 | 25〜20 | 19〜14 | 13以下 |
65〜69 | 26以上 | 25〜22 | 21〜18 | 17〜14 | 13以下 |
70〜74 | 25以上 | 24〜21 | 20〜16 | 15〜12 | 11以下 |
75〜79 | 22以上 | 21〜18 | 17〜15 | 14〜11 | 10以下 |
80歳以上 | 20以上 | 19〜17 | 16〜14 | 13〜10 | 9以下 |
女性 | |||||
20〜29 | 35以上 | 34〜29 | 28〜23 | 22〜18 | 17以下 |
30〜39 | 34以上 | 33〜29 | 28〜24 | 23〜18 | 17以下 |
40〜49 | 34以上 | 33〜28 | 27〜23 | 22〜17 | 16以下 |
50〜59 | 30以上 | 29〜25 | 24〜20 | 19〜16 | 15以下 |
60〜64 | 29以上 | 28〜24 | 23〜19 | 18〜14 | 13以下 |
65〜69 | 27以上 | 26〜22 | 21〜17 | 16〜12 | 11以下 |
70〜74 | 24以上 | 23〜20 | 19〜15 | 14〜10 | 9以下 |
75〜79 | 22以上 | 21〜18 | 17〜13 | 12〜9 | 8以下 |
80歳以上 | 20以上 | 19〜17 | 16〜13 | 12〜9 | 8以下 |
CS-30テストと同様に, 10回の座り立ちを何秒でできるか というテストが紹介されています. 10回立ち上がれない人では評価ができない ことから, 時間内に何回できるかと いうテストが開発されました(1999年のJonesらの論文).10秒間の座り立ちテストでは評価できない方は高齢者に多くおられること,10回立ち上がる程度のテストでは下肢筋力に差が出にくく評価の問題が あります.我々はこのことを念頭においてCS-30テストを標準化しました .虚弱高齢者を同様のテストで評価するなら,たとえ0回や1回でもこのテストを利用したアセスメントができるということになります.テストを実施される方はそのことをよく検討していただく必要があります.
私の研究室では,このテスト以外に4種目(持久力,柔軟性,バランス,総合歩行)を評価するテスト(簡易体力テスト)を開発しています.20歳代と30歳代男性の人数が少ないですが,男女とも20歳代から体力を評価することができます.詳しくは,「じきんじゅば」運動のページをご覧ください.
CS-30テストを著書,論文,講演等で利用される場合は,出典を明らかにしていただければ使用いただいて結構です.